※注意:阿部相手の夢小説です※
※阿部夢小説「エフ・エフ」後~「立派な嫉妬心」の途中の期間の話です※
※今回は阿部視点の話です※

阿部夢小説「番外編1 ~阿部が恋心を自覚する話~」

 昨日の夜、阿部隆也はクラスメイトで友人の白石咲良と一緒にファミレスで夕食を食べた。そしてその会話の途中で白石は”野球をがんばってる阿部君をもっとちゃんと応援したいから野球のルールを勉強する”というようなこと言い出した。それを聞いた阿部は単純に疑問に思った。
『どうしてオレのためにそんなにがんばってくれるんだ?』

 最近の白石は休日にわざわざ学校にやってきては野球部の応援曲を吹けるようになるためにトランペットの自主練をしてくれている。それだけでも野球部としては非常にありがたいことなのだが、その上、白石は野球のルールまでちゃんと学ぶと言い出したのだ。その情熱はどこからくるのかとふと疑問に思った。
 たしかに、数日前に”下心”の話はした。下心といっても全くゲスな話ではなくて、阿部は白石に良く思われたいから白石に優しくしているし、白石白石で阿部に良く思われたいから野球部の応援でトランペットを吹くことに決めたんだという会話をして、だから”お互いに相手に良く思われたいという下心があるね”という結論に至ったという話だ。
『でも、そもそもなんで白石はオレに良く思われたいんだ?』
阿部はそもそもその下心が発生する理由が知りたくなった。それで率直に白石に訊ねてみたら、逆に白石から「……逆に阿部君はなんで私に良く思われたいんですか?」と質問を返されてしまった。訊き返されて、阿部は初めてそこで気付いた。自分の下心の理由すら自分でわかってないことに。

 そんな経緯があって、阿部は昨晩からずっと自分の下心の理由を探っていた。
『小さくて華奢で気の弱い白石が小動物みたいでかわいいから?』
否、小型犬や猫やうさぎを見てもその小動物から良く思われたいとは思わない。しいて言うなら懐かれたら嬉しいけども。(実際、オレって白石からは懐かれてるよな?)
『野球部の応援でトランペットを吹いてくれるから?』
これも違う。だって阿部は白石が野球部の応援で楽器演奏をしてくれると宣言する前から白石に対しては”優しくしてやりたい”という感情があった。
 あれこれ考えてみたが、結局、阿部1人では結論が導き出せなかった。阿部は『明日、花井にでも訊いてみっか』と考えてその日はもう寝ることにした。

 翌日、水曜日のランチタイム、いつも通り水谷の机の周辺に集まった7組野球部男子3人は机に弁当を広げて昼食を食べ始めた。腹を空かせた高校生男子はまずは夢中で弁当を貪った。そして弁当箱が空になったところで阿部は自分が今抱えている問題についてようやく思い出した。
「あ、そういや花井に訊きてェことあったんだ」
阿部がそう言うと花井は「お、どうした?」と阿部の方に顔を向けた。
「誰かに良く思われてぇっつー感情が生まれる理由って何?」
「は?なんだ、藪から棒に?」
花井はキョトンとした顔をしている。
「それってただの承認欲求じゃなくて?」
隣に座っている水谷がそう答えた。
「承認欲求ってSNSでイイネが沢山欲しいとかそういうののことだろ?そういうんじゃねーんだよな。」
阿部がそう言うと今度は花井が「どう違うのか説明できるか?」と阿部に訊ねてきた。
「えっとだな、SNSでイイネが沢山欲しいのは、特定の誰かじゃなくて色んな人間にチヤホヤされてーってやつだろ?別に不特定多数に良く思われたいんじゃなくてな、ある特定の人物に限った場合の話をしてんだよ、オレは。」
阿部がそう言うと花井と水谷は顔を見合わせた。
「それって阿部自身の話?」
水谷が訊ねた。
「あー、まあ、一応オレの話でもある。オレだけの話じゃないけど。」
「なんだそりゃ」
水谷は眉尻を下げながら笑った。
「阿部は誰に良く思われてーの?三橋か?」
花井がそう言った。
「あ?レン?たしかにレンも……そうか?」
「なんだよ、その曖昧な回答は」
花井は呆れた顔をした。
「三橋じゃないなら、その質問はもともとは誰を想定して言った質問なのさ?」
そう言う水谷は4本足の椅子の後ろ側2本に体重をかけながらバランスを取っていた。(そのまま転んでしまえ)
「……白石
阿部がそう言うと水谷はガタンッと音を立てて立ち上がった。
「ええー!?」
大きな声をあげた水谷は目を見開いて阿部の顔を凝視した。
「水谷、声がデケェ!迷惑だろ!」
花井が水谷を嗜めた。注意された水谷は声をひそめて阿部に話かけてきた。
「つまり、阿部が白石さんに良く思われたいって思ってて、その理由が何かわからないってことで合ってる?」
「そういうことだな」
阿部がそう答えると花井と水谷は顔を見合わせた。そして水谷はデヘッとした気味の悪い笑みを浮かべた。
「は?何?」
水谷の変な笑みを見た阿部は怪訝な顔をしながらそう言った。
「いやいや、阿部君にもついにこんな日が来るとはねえ?」
水谷はそう言って阿部の肩をポンッと叩いた。花井は頬を赤らめながらコホンッと咳払いをしている。
「何なんだよ、その反応はっ」
阿部には水谷の笑みや花井の赤面の理由がてんでわからないが、なんとなく自分が笑われているような感覚がして苛立った。
「いや、水谷、まだわかんねーぞ?だってコイツはあの阿部だぞ?さっき三橋も同じ対象だとか言ってたし、別モンかもしんねー。」
花井がそう言った。
「あ、そっか。じゃ、1個ずつ確かめよう!」
水谷はそう言うと阿部に向き直った。
「阿部ってさ、白石さんのことどう思ってるわけ?」
「どうって……白石は友達だけど?」
阿部がそう言うと水谷は「うん、まあそう言うと思ったよ」と言いながら頷いていた。
「友達ってことは当然好きって感情はあるよね?」
「そら、あるだろ。好きじゃねーやつと友達なんかやれねェだろ。」
「じゃあさ、その好きって本当に友達としての好き?」
「は?」
「恋愛感情の好きとは違うの?」
「恋愛ィ?」
阿部は全く予想してなかった質問にギョッとした。
「なんでそういう話になんだ?」
阿部が怪訝な顔をすると水谷は「普通はそういう結論になるんだよぉ」と反論した。
「高校生男子が同じクラスの仲のいい女の子から良く思われたいって言い出したら、普通はその子に恋したんだなって思うよ、普通はね!」
「でも阿部だから違うかもしんねーってオレらは思って今確かめようとしてんだよ」
水谷と花井は順番にそう説明をしてきた。
「……どーやって確かめるんだよ、そんなの」
阿部がそう言うと水谷が「具体例を挙げて話そっか」と言い出した。
「例えば、今阿部の隣の席の女の子いるじゃん?あの子のこと好き?」
「好きなわけねーだろ」
「じゃ、しのーかは好き?」
「好き……っつーとなんか変な気がするけど、まあ、一応好きな部類に入るんじゃね?」
「で、白石さんは?」
「だから好きだっつってんだろ」
阿部は少し苛立ち始めた。
「まー、そうイライラしないで。今確かめてるところなんだから。……じゃーさ、隣の席の女の子が花井のこと恋愛感情で好きだって言い出したり実際に花井と付き合い始めたら、阿部はどう思う?」
水谷がそう言うと花井は「オレを例えに使うのかよっ」と困惑していた。
「は?好きにすればいんじゃね。オレに何のカンケーもねェよ。しいて言うなら女と喧嘩したとかくだんねー理由で野球に影響出すなよって花井に忠告するくらいだな。」
「じゃ、もししのーかが花井と付き合い出したら、阿部はどう思う?」
「……喧嘩したり別れたりしても野球部内に痴情のもつれを持ち込むなよって2人に忠告する」
阿部がそう言うと水谷は「じゃ、別に2人が付き合うこと自体については何とも思わないわけだ?」と確かめた。阿部はコクリと頷いた。
「じゃ、白石さんだったら?」
「は?」
白石さんが花井のこと恋愛感情で好きになって、花井と付き合い始めたら、阿部はどう思う?」
白石が花井を好き?ありえねェだろ。」
阿部はそう吐き捨てた。阿部としては努めて平静を装ってるつもりだが、阿部の心臓はバクバクしていた。今、自分たちは開けてはいけないパンドラの箱に手をつけようとしていないだろうかと阿部は思った。
「もしもの話だよ。もしもそうなったらどう思うのって訊いてるの。」
水谷がそう言った。
「あまりにもありえない話すぎて想像できない」
阿部はそう言い放って黙り込んだ。そんな阿部の姿を見て水谷と花井は目配せをした。
「阿部、実はありえない話じゃなくて、これは現実の話なんだ」
水谷は神妙な面持ちで語り始めた。
白石さん、この間の4市大会の予選リーグ、観にきてくれてただろ?そこで4番バッターとして活躍してる花井のこと見てカッコイイってときめいちゃったらしいんだよ。本当は花井がいるこの場で言っちゃいけないんだけど、オレ、こっそり相談されたんだ。花井にカノジョや好きな人っているのか?とか花井の好きなものって何かな?とかさ。あと、白石さんは阿部に悪いなって思ってるらしかった。白石さんは阿部とずっと仲良くしてて応援してたのに、急に花井に心奪われちゃって申し訳ないって思ってるらしいんだ。でも、阿部なら白石さんのことは友達としてしか見てないだろうから大丈夫だよってオレは答えちゃったんだけど、もしかしてマズかった?」
水谷がそう言うと阿部は目を見開いて驚いた。動揺が隠しきれない。そして花井も初耳だったらしく「な……っ!」と言いながら顔を赤らめている。
「だから、阿部、もし白石さんのこと友達以上に思ってるなら、今伝えないと後悔するかも。今ならもしかしたらまだ取り戻せるかも?ちゃんと素直になった方がいいよ。」
水谷がそう言うと阿部は頭をガツンと殴られたような感覚を覚えた。
「あ、でも、阿部が恋なんかするわけないよね。白石さんのこともあくまで友達としての好きだろ?白石さんに良く思われたいってあくまでいい友達だと思われたいって意味だよな?まさか男として好かれたいとか、ましてや白石さんと付き合いたいなんてそんな感情を阿部が持ってるわけないよな?……だったら白石さんの恋を応援してやるのが白石さんに友達として良く思ってもらう1番の方法だとオレは思うな。」
水谷はそう言ってヘラッと笑った。阿部は呆然とした。
白石が花井を好きになったていうのがただの例え話じゃなくて現実だと……?そんで白石はオレのことをただの友達としか思ってなくて、オレが白石から良く思われたかったのはいい友達だと思われたいって意味だったのか?』
阿部の頭の中ではこれまで白石が阿部に見せた沢山の笑顔が走馬灯のように駆け巡っていた。「阿部君が仲良くしてくれて嬉しい」と言いながらデレデレと笑うあの無邪気な笑顔、「阿部君と話すの楽しいよ」と言いながらニコッと笑った顔、「ありがとう」と言いながらクシャッとはにかんだ顔、白石が裏グラ外周ランニング中に時折目が合うと嬉しそうに微笑む顔、「私は阿部君の下心嬉しいよ!」と言いながら見せた満面の笑顔……
―――ああいうのが全部オレへの特別なんかじゃなくて、これからは花井にも向けられるってことだ。
『それは嫌だ』
阿部はハッキリとそう思った。
白石がオレのことを友達としか思ってないっていうのも嫌だし、オレが白石にとってただの良い友達だと思われて終わるのも嫌だ。――白石はオレにとって特別だし、オレは白石の特別でありたい。白石に良く思われたいっていうのはそういう意味だ。決して良い友達の1人になりたいわけじゃない。』
そこまで思考して阿部はようやく気が付いた。
白石にとっての特別なたった1人になりたいって思うこの気持ちが恋愛感情ってことなのか』
阿部は白石咲良の姿を頭に思い浮かべた。胸がジワリと温かくなるのを感じた。かわいい、愛しい、優しくしてやりたい、大事にしてやりたい、笑っていてほしい、あわよくば自分のものにしたい、手を繋いでみたい、あの柔らかそうな唇に触れてみたい、できることならそれ以上も……。
そこまで考えて阿部は自分の顔がカァァと熱を帯びていくのを感じた。阿部は思わず俯いて右手で顔を覆った。
「水谷」
阿部は静かにチームメイトの名前を呼んだ。
「……はい」
俯いて真剣な声色で話しかけてくる阿部に水谷は慄いたのか小声で返事をした。阿部は俯いているので水谷の顔は見えないが声色だけでわかる、水谷は阿部に少しビビってるようだ。
「お前の作り話だよな、それ」
阿部がそう言うと水谷は生唾をゴクリを飲み込んだ。
「……やっぱわかっちゃった?」
水谷はそう言った。安心した阿部が顔を上げると水谷はヘラッとした顔で笑っていた。花井は「……なんだ、嘘かよ!びっくりしたじゃねーか!」と顔を赤らめていた。
「阿部の白石さんへの気持ちが恋か友情か確かめさせるにはこうするしかないって思ったんだけど、失敗だったかぁ?」
水谷はそう言って両腕を頭の後ろで組んだ。阿部は立ち上がって水谷の頭を両手で撫で回してくしゃくしゃにした。
「うお、何?怒ってんの?ごめんってば!」
水谷はそう言って謝ったが、阿部はニッと口角を釣り上げて笑ってみせた。
「怒ってねーよ!感謝してんの。水谷、お前、お手柄だぞ。」
「え?」
水谷はポカンという顔をした。
「それってつまり……恋か友情か判明したってことか?」
花井はそう言いながら身を乗り出した。
「おー」
阿部がそう答えると花井と水谷は声を揃えて「「どっち!?」」と迫ってきた。
「花井に白石は渡せねェな。白石はオレにとって特別なんだ。オレは白石にとってただの良い友達のままじゃ満足いかねェよ。」
阿部がそう言うと花井と水谷は「「うおお!」」と言いながら顔を赤らめた。そして花井は阿部の肩をガシッと掴んで「初恋おめでとう!がんばれよな!」と阿部を励ました。水谷はパチパチと拍手をしながら「おめでとー!」と言い、いつものヘラヘラした笑顔を浮かべていた。
「おー」
阿部はそう返事をしながら顔を赤らめた。
「じゃ、次はどうやって白石さんを落とすか恋愛作戦会議する?」
水谷はそう言いながらニヤニヤと笑っていた。
「それはイラネー。オレが自分で何とかすんよ。そんなところまで人に頼ってられっか。」
阿部はそう言いながら空になったお弁当を片付けて、水谷の机にくっつけていたクラスメイトの机を元の位置に戻した。
「そーだな。まずは自分でやってみた方がいいだろ。せっかくの初恋なんだし。」
花井もそう言いながら弁当箱と机を片付け始めた。
「あ、そーお?オレはもっと阿部の恋バナ聞きたかったけどなー。ま、進展あったら都度聞かせてよねー♪」
水谷はそう言いながら口笛を吹き始めた。阿部の恋バナを聞けたのがそんなに嬉しかったのか、ご機嫌な様子だった。
「うお、もうこんな時間じゃねーか。とっとと昼練行くぞ!」
花井が時計を見ながらそう言った。阿部と水谷は「「うす!」」と返事をしながら教室を駆け出して裏グラへと向かった。

<END>