※注意:阿部相手の夢小説です※
※阿部夢小説「番外編2 ~恋心を自覚した阿部の回想話~」の続編です※
※阿部夢小説「立派な嫉妬心」を阿部視点にした話です※

阿部夢小説「番外編3 ~阿部からの恋のアプローチ~」

 10月下旬の木曜日、朝練を終えた阿部隆也が花井&水谷と一緒に1年7組の教室に到着すると白石咲良はクラスの女子たち数人と談笑しているところだった。白石は教室に入ってきた阿部に気が付いてこちらを見た。阿部は白石に向かって「うす」と声をかけた。白石はニコッと笑って「おはよう、阿部君」と返事をしてくれた。こうして挨拶を交わすのが阿部と白石の毎朝の恒例となっている。
 
 数学の宿題がある日は、挨拶の後、阿部が白石の解答をチェックしてやる。でも今日は数学の授業はない。他に白石に話すべき用事も今日の阿部にはなかった。それは白石の方も同様のようで、挨拶を終えた後の白石は再びクラスの女子たちとの会話に混ざるために阿部に背を向けた。
 阿部は昨日の昼食時に白石への恋心を自覚したばかりだ。恋心を自覚した阿部は昨晩は白石との出会いからこうして仲良くなるまでの馴れ初めを思い返しながら過ごした。その過程で阿部は実は白石側も阿部に対して恋愛感情を抱いているのではないかという疑惑を胸に抱くようになった。これまでの白石の阿部への態度や発言を振り返ってみれば白石が阿部のことを好意的に思ってくれてるのは間違いないし、今週月曜日に一緒にファミレスで夕食を食べた時の会話から推察するに白石は阿部のことを単なる友達として見ているんだと仮定した時よりも恋愛感情を抱いていると仮定した時のほうが色々と辻褄が合っていると阿部は思ったのだ。
 阿部の母親は美しい容姿を持つ白石が阿部のことを恋愛感情で好きだなんて期待するのは”淡い幻想”だと思っているようだったが、そう言われても阿部としては白石のことを諦めるつもりは全くなかった。白石が阿部に対して既に恋愛感情を抱いてくれている可能性は十分あると阿部は思っているし、仮に今の時点で白石側にその気持ちがなかったとしてもこれから好きになってもらえばいい話だ。たしかに白石は美少女だが、だからといってそれが理由で阿部に全く為す術がないとは思わない。だから昨晩の阿部はこれから白石に対して恋のアプローチを仕掛けることを決意した。
 
 という経緯があったからだろうか、阿部は自分に背を向けてクラスの女子との会話を再開した白石を見て『これじゃまだまだ話し足りない』と思った。阿部はズンズンと足音を立てて白石の方へ向かって歩き出した。白石はそんな阿部の様子にすぐに気が付いたようでパッとこちらを振り返った。
白石
「えっ、は、はい?」
白石は自分に向かってくる阿部の迫力に少し圧倒されたようで声が上擦っていた。
「話してーんだけど、今いい?」
阿部がそう言うと白石は一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに「うん、いいよ」と返事をしてくれた。それから白石は一緒にいる女子たちに「ごめん、私抜けるね」と声をかけてから阿部の方に身体を向けた。
「なんか……改まった話なのかな?どこで話す?」
「いや、別にそんなたいした話じゃねーからどこでもいい。でも2人でゆっくり話したい。」
「えと、じゃあ、阿部君の席のところでいい?」
白石はそう言った。今の阿部の席は最も窓側の1番前、つまり教室の隅っこなのだ。たしかにここは教室の中でも人が少なめの場所だ。
「おお、そうだな」
阿部はそう答えながら自席に向かった。白石はその後ろをついてきた。自席に到着した阿部は重たいエナメルバッグを床に下ろし席に座った。白石は阿部の向かい側に立った。
「何かあった?」
そう言って首を傾げる白石を阿部はジッと見つめた。
『こいつがオレが好きになった女の子か……』
改めて見ると本当にかわいい。阿部は白石の透き通るように白い肌やサラサラの髪、それから柔らかそうな唇を眺めた。恋心を自覚したからなのだろうか、阿部には白石の姿がこれまで以上に輝いて見えた。愛おしくてたまらない。今すぐにでも抱きしめたい。その肌に、髪に、唇に触れたい。――阿部はパチンッと右手で自分の右頬を叩いた。
『何いきなり欲情してんだ、バカ野郎』
阿部は心の中で自分を罵った。そんな阿部の姿を見ていた白石は「え、どうしたの?」と慌てた様子を見せた。
「なんでもねー。気にしないでくれ。」
「? わかった……。で、話って何?」
白石から改めてそう問われた阿部は戸惑った。白石に対して恋のアプローチを仕掛けることを決意した阿部だったが、阿部はこれまで恋をしたことがない。その上、これまで恋愛に微塵も興味がなかったので恋愛もののドラマや映画なんかも全然見たことがない。
『恋のアプローチって具体的には何すりゃいいんだ?』
阿部は白石のことを「話してーんだけど」なんて言って呼び出したくせに特に話題を用意していたわけではなかった。単に朝の挨拶だけで会話を終えたくなくて、もっと絡みたくて、咄嗟にそう声をかけてしまっただけだ。
『なんか恋のアプローチになるような話をしねーと』
そう考えた阿部が頭を絞って絞ってそうして出した話題は……――
「もっとお前のことを教えてくれよ」
阿部は自分でそう言っておきながら内心『なんつーバカみたいな話の振り方をしてんだ、オレは』と自分の恋愛経験値の低さを呪った。白石を見るとポカーンとした表情を浮かべていた。当然の反応だ。
「私のこと?別にいいけど、えっと、具体的には何が知りたいのかな?」
白石はそう言った。阿部は具体的にと言われても何も具体的なことは浮かんでこなくて焦った。阿部はただもっと白石と仲良くなりたくて、そのために白石に何かアプローチがしたくて、効果的なアプローチをするためにはもっと白石のことを知らなきゃいけないと思ったから「もっと教えてくれ」と口にしてみたのだ。でもどんなことを教えてもらったら恋のアプローチに使えるのか全くわからない。
「具体的に何か知りたいか、オレもわかんねー。だから、なんでもいいからオレがまだ知らない白石のことを何か話してくんねーか?っていうのは無茶振りすぎるか?」
阿部がそう言うと白石は「えー?」と言いながら眉尻を下げるようにして笑った。それから再度口を開いた。
「えっとね、埼玉県立西浦高校1年7組の白石咲良っていいます。」
「それはもう知ってっから!」
阿部がすかさずツッコミを入れると白石はアハハッと腹を抱えて笑い出した。どうやら白石なりのボケだったらしい。笑っている白石につられて阿部もクッと笑ってしまった。
「阿部君はちゃんとつっこんでくれるのがいいよね」
白石はそう言って微笑んだ。
「オレじゃなくてもつっこんでくれると思うぞ……。ったく、白石は突然ボケるよなぁ。」
「私はちゃんと私のボケをわかってくれそうな人の前でしかボケないよ」
「あー、お前、お堅い真面目ちゃんに見えるもんな。まさかこういうコミカルなやりとりができるようになるとは、9月の日直当番の時には思わなかったよ。」
「それを言ったら阿部君もこんなにノリのいい人だとはあの時は思わなかったよ?」
白石はそう言った後、エヘヘッと笑って「阿部君と仲良くなれて本当に嬉しい」とまたあのド直球な好意表現アタックを阿部に食らわせた。
『クソ、これじゃむしろオレの方がアプローチされてねェか?(白石はたぶんアプローチのつもりはないんだろうけどな)』
阿部は白石のデレデレの笑顔を見てると胸がキューッと締め付けられるような感覚がした。でもそれを表には出さないように努めて平静を装った。
「で、白石の話の続きを頼むよ」
阿部はそう言った。
「うーんと……部活は吹奏楽部でサックスをやってます」
「うおーい、それも知ってるよー⁉︎」
阿部は再び白石にツッコミを入れた。白石はクスクスと笑った。
「中学時代はトランペット担当で」
「うん、知ってるね」
「来年の夏は野球部の応援でトランペットを吹くつもりで」
「うん、知ってる知ってる」
「得意科目は国語系、苦手科目は数学」
「全部知ってる情報だなァ⁉︎」
阿部は椅子から立ち上がって両手で白石の両頬をムニッと掴んだ。
「オレの知らねー話をしてくれっつってんだろぉー?」
「ひゃー、ごめんなさいぃ」
白石が謝ったので阿部は両手をパッと放した。
「そろそろちゃんとオレの知らない白石のこと教えろよな」
「はーい!ごめんなさい、ふざけすぎましたぁ〜!」
白石はペロッと舌を出し、テヘッと笑った。それから白石は生年月日、住んでる場所、出身の小学校・中学校の名前、好きな食べ物・嫌いな食べ物、趣味や家にいる時の過ごし方、好きな映画・本・アーティストなんかを教えてくれた。
「――……こんなんでどうかな?他に知りたいことある?」
ひとしきり自己紹介を終えた白石がそう言った。
「……好きな男性のタイプは?」
阿部がそう言うと白石はカァァッと顔を赤くした。
「えー……?」
白石はそう言いながら頭をポリポリと掻いた。阿部は白石の顔をジッと見つめて圧をかけた。
「や、優しい人かな?」
「うわ、ありきたりな回答だな」
「今まで全然恋愛してこなかったから、タイプって言われても自分の好みの系統がわかんないんだもん」
白石はそう言って顔をむくれさせた。
「小学校・中学校時代には好きなやつとかできなかったのか?」
「できなかったねー」
白石はそう言って乾いた笑いをした。
「……で、今は?」
阿部がそう言うと白石はギクッと固まった。阿部はそんな白石の様子を窺った。白石は明らかに動揺していて、そして同時に困惑しているようだった。
「今もいねーの?」
阿部は追い討ちをかけた。白石が困ってることはわかっていたが、阿部は白石の自分への好意の正体が恋愛感情なのかどうか知りたかったし、この質問はそれを探るのにとても有用だからだ。
「……えと、いないです」
白石は俯いて小さな声でそう言った。阿部は『嘘っぽいな』と感じた。白石は、たぶん、クソ真面目ないい子ちゃんなので嘘をつくのは得意じゃないと思われる。俯いてるのも声が小さいのも嘘をつくことに罪悪感を抱いているからなんだろうなと阿部は推測した。というか本当にいなかったら白石はこんな風に動揺したり困惑したりせずにすぐに「今もいないよー」と笑って即答したと思う。
『オレのこの推測が間違ってないなら、白石には今好きな男がいるってことだ』
それでいて白石はあまり男子との交流がない。白石と1番仲がいい男子は阿部で間違いないだろう。
『これはやっぱオレ期待しちゃってもいいんじゃねーの?』
阿部はそう思った。つい顔がニヤけてしまった。
「阿部君、なんでニヤニヤしてるの」
白石はバツが悪そうな顔でそう言った。
「え、いや、別に?」
白石からニヤけていることを指摘された阿部は慌てて表情を取り繕った。
「……ちなみに阿部君の場合は?」
白石がおずおずとそう言った。
「は?」
「阿部君の好きなタイプの女の子はどんな子なの?」
阿部にそう訊ねる白石の目は泳いでいた。その様子を見てた阿部はますます白石は自分のことが好きなんじゃないかという疑念を募らせた。阿部はせっかく顔を取り繕ったばかりだと言うのにまたニヤけてしまいそうになった。阿部は白石の容姿をジッと眺めた。それから白石の容姿について言葉にしていった。
「そうねェ、容姿でいうなら、色白で肌がキレイで髪がサラサラで清楚な感じの子がいいかねェ」
阿部がそう言うと白石は「うわ、理想高いね」と答えた。阿部は内心『お前のことだぞ』とツッコミを入れた。白石は自覚がないようだが、白石の容姿を言語化した阿部のこの言葉に対して”理想が高い”と言った白石は自画自賛しているようなものだ。そう思ったら阿部はおかしくなってついプッと吹き出してしまった。
「え?なんで笑ってるの?」
白石はキョトンとしていた。
「いや、なんでもねー。……ちなみに内面は真面目でしっかりしてて、ちょっと気が弱くて、でも芯は強い子がいい。」
「え、なんか注文すごい多くない⁉︎」
白石はそう言って目を見開いた。それから白石は何かに気がついたようでハッと息を飲んだ。
「……もしかして具体的に頭に思い描いている子がいる?」
「さあ?どーだろな?」
阿部はそう言ってニィッと笑った。阿部としてはこれは白石に対して”お前のことが好きなんだ”と遠回しにアピールしたつもりだった。白石に阿部が話してるのは白石自身のことだと気付いてもらいたかったし、気付いた白石が顔を赤くしたりして恥ずかしがる姿をイメージしていた。しかし、白石は真顔で目を伏せて黙り込んでしまった。
「……おい?」
阿部が声をかけると白石は我に返ったようでピッと目の焦点が定まった。
「……あの、それって昔好きだった子の話?それとももしかして今好きな子がいるの?」
白石は阿部にそう訊ねてきた。この反応からして白石は阿部が想定している人物が自分のことだとは微塵も気が付いていないようだ。
「マジか……」
阿部がポロッとそう言葉にした時、朝のホームルームのために担任教師が教室に入ってきた。それを見た白石は「あ、席に戻らないと」と言って阿部のもとから離れていってしまった。本日1回目の阿部の恋のアピールは失敗に終わった。

 1限目の授業後、休み時間になると阿部はすぐに白石のもとへと向かった。
白石、あのさ、さっきの話の続きなんだけど……――」
阿部が話し始めると白石が「待って!」と言って阿部の話を遮った。
「え、なに?」
阿部は困惑した。
「あの質問は忘れて!答えなくていい!」
白石はキッパリとそう言った。
「は?」
「阿部君が過去に好きだった子がどんな子かとか、今好きな子がいるのかどうかとか、いるとしてそれがどんな子かとか、そういうの別に私は知る必要ないなって気が付いた!だから答えなくていいよ!」
そう言う白石の顔は強張っているように見えた。
「いや、でもよ……」
阿部は白石に恋のアピールをするつもりであの話をしたわけで、でも白石の様子からして明らかにそれは伝わっていないわけで、阿部としては弁明の必要があると感じていた。なので食い下がろうとした。が、そんな阿部の言葉は再び遮られた。
「聞きたくない!」
白石はピシャリとそう言った。普段温厚で気の弱い性格の白石がそんな風に強めの口調でモノを言うことは珍しい。阿部は驚いて言葉を失った。
「……私、お手洗い行ってくるね」
阿部が固まっている間に白石はそう言って席から立ち上がって姿を消してしまった。しかたがないので阿部は自席に戻った。

 2限目と3限目の授業後の休み時間も阿部は白石に話しかけようと思って席から立ち上がった。しかし、白石は阿部が席から立ち上がって白石の方を振り向いた途端にガタンッと音を立てて席から立ち上がって教室の外へと出て行ってしまった。そのまま休み時間が終わるギリギリまで帰ってこなかった。明らかに避けられている。なぜだ。
『恋愛ってクソ難しくねーか⁉︎』
阿部は両手で頭をガシガシッと掻きむしった。

 4限目が終わり、昼休みの時間になった。7組野球部男子3人はいつもお弁当を持参して水谷の机の周辺に集まって昼食を食べる。阿部は水谷の隣の席のクラスメイトの机を水谷の机にくっつけてその上に自分の弁当箱を広げた。腹を空かせた高校生男子3人は今日も夢中で弁当を貪り始めた。
 弁当を食べ終わったところで水谷が「で、阿部君の恋路はいかがですかー?」とニヤニヤしながら訊ねてきた。
「うるせーな。昨日の今日でそんな変わるわけねーだろ。」
水谷のニヤけた顔が癪に触った阿部は苛立ちながらそう答えた。
「えー、でもさ、朝なんか楽しそうに話してたじゃん」
「…………」
阿部は思わず黙り込んだ。そう、朝は楽しく会話してた。なのに1限目の授業後の休み時間のあの会話以降、白石は阿部を避けてる。
『なんでこうなった⁉︎』
阿部としては白石に対して”お前のことが好きなんだ”と恋のアピールしたつもりだったのになんでそれがこんなマイナスな結果になってしまうのか、阿部にとってはこれはあまりに予想外の展開すぎた。
 仮に勉学に関してわからないことがあった時は教科書・参考書を読むなり教師に教えを乞うなりできる。でも恋愛の場合はわからないことがあっても教科書も参考書もないし、教えてくれる教師もいない。
『じゃあ、恋愛に困った時はどうやって解決したらいいんだよッ』
阿部は思わずチッと舌打ちをしてしまった。それを聞いた水谷がギョッとした。
「え、なんで舌打ち?オレに対して?」
「あ、いや、ちげー。……いや、違くもないか。オメーのニヤついた顔はムカつくしな。」
阿部がそう言うと水谷は涙目になって「ヒドいぃ〜」と言っていた。
「……で、実際のところは何に対する舌打ちなわけ?」
花井が阿部に訊ねてきた。阿部はなんて答えるべきか迷った。白石が自分を避け始めたことをこいつらに正直に話すべきなのだろうか。自分が恋愛でこんな失態をかましていることを他人に暴露するのは正直プライドに障るような感覚がした。かといって阿部1人で考えてても解決できる気がしない。もし阿部が誰かに恋愛相談するとしたら……――
『レン・巣山・沖は恋愛未経験なわけだからナイだろ。ユーイチローも口が軽そうだからナシ。ユウトは普段はしっかりしてるやつだけど、恋愛のことについてはあんまり頼りにならなさそー……っていうかオレが恋愛してるって知ったらおもしろがってきそうだからやっぱナシだ。コースケの恋愛経験はよく知らねーけど、カノジョいたこともねーみてぇだし女兄弟もいないし一旦外すか。西広は妹がいたと思うけど、まだすごい幼かったはず……。じゃあ、女心がわかるわけないよな。……となると残るは結局ここにいる2人か。』
正直、水谷もかなり阿部の恋愛をおもしろがってる様子が見受けられるのでできることなら相談相手から外したいが、水谷にはもう既に阿部の白石への恋心を知られてしまってるわけだし、そもそも阿部が白石への恋心を自覚できたのは水谷のおかげだし、水谷は姉がいる影響なのか元々の性格によるものなのか女子への対応はかなり上手い。
『おもしろがってるところは若干ムカつくけど、一応こいつにも居てもらった方がいいか』
阿部はそう考えた。
「……ちょっと相談があんだけど」
阿部がそう言うと花井が「白石のことか?」と訊ねてきた。阿部は静かに頷いた。それを見た水谷は嬉々として「何?何?」と身を乗り出した。
「オレ、なんか避けられてるみてーなんだけど、どーしたらいいと思う?」
「え、なんで?朝は楽しそうだったよね?」
水谷は目を丸くしている。
「朝は良かったんだよ。でも、1限目の終わりから避けられてる。」
「なんかやらかした覚えはねーの?」
花井がそう言った。
「えっと、朝、好きな女子のタイプを訊ねられたから答えたんだよ。そしたらそれって過去に好きだった子か今の好きな子の特徴を話してるんじゃないかって言われたんだ。」
「へー、ちなみに好きな女子のタイプってどんな風に説明したわけ?」
「オレは白石にアピールしたくて白石の特徴を挙げていったんだ」
阿部がそう言うと水谷がヒュー♪と口笛を吹いて冷やかしてきた。阿部は内心イラッとしたが一旦無視して話を続けた。
「……でも白石にはオレのアピールは伝わらなかったみたいだ。朝はそこでホームルームの時間になったから一旦会話が途切れた。」
阿部がそう言うと花井が「ほう、それで?」と続きを促した。
「で、1限目の終わりに再アピールしようと思って話しかけにいったら”さっきの話の続きならもう聞きたくない”みたいなことを言われた。んで、その後からずっと避けられてる。」
説明を終えた阿部は花井と水谷の顔を見た。果たしてこの2人はこの問題を解決できるのだろうか。恥を忍んで恋愛相談をした阿部の判断は正しかっただろうか。
「えっと……白石さんは阿部の今好きな子または過去好きだった子がどんな子なのかっていう話を聞きたくないって言ったって理解で合ってる?」
水谷が阿部に訊ねてきた。
「お……?うん?たぶん、そう……?なんか”私はそんなの知る必要ない”って言ってた。」
阿部がそう答えると水谷は目をキラッと輝かせた。花井は顔を赤らめていた。
「阿部は白石さんが話を聞いてくれるとしたら何を話す気だったの?」
「あー?今好きな子がいるって話をして、もっかいその特徴……ってつまり白石の特徴なわけだけど、それを伝えて、オレの好きな子は白石なんだって遠回しにわからせようかな、と。」
「おお〜。ちなみに2限目以降もその話をするために話しかけようとしてた?」
「おう」
阿部は頷いた。水谷は「なるほどねェ」と言いながらニヤニヤと笑っていた。一方、花井は呆れた顔をしている。
「何笑ってんだよ。オレは恥を忍んでここまで話したんだぞ。ふざけてねーで真面目に対応してくれ。」
阿部は眉間に皺を寄せながら水谷に文句を言った。
「あー、ごめんごめん。別にふざけてるわけじゃないんだよ。2人の仲が順調そうで良かったなって思ったらちょっと笑みが溢れちゃっただけ。」
水谷はそう言ってカラッと笑った。
「は?どこが順調なんだよ。お前ちゃんと話聞いてた?」
阿部は目に角を立てながらそう言った。
「聞いてたよ。だからさ、結論、白石さんが聞きたくないことを阿部が話そうとしてるから、白石さんはそれを察して逃げてるんじゃん。阿部がその話をするのを諦めればいい話でしょ。」
水谷はサラリとそう言った。横で花井が「あー、そうだな」と頷いている。
「え、でもよ、オレとしては、オレの好きなやつが白石以外のやつだって誤解されたままでいるのは嫌なんだけど……」
「そんなに伝えたいなら、もうハッキリと告白すればいいんじゃない?」
水谷に“告白”と言われた阿部はギョッとした。
「まあまあ、昨日恋心を自覚したばかりでいきなり告白はさすがの阿部でも難しいだろ。な?」
花井が会話に割って入ってきて阿部のフォローをしてくれた。
「でも、少なくとも阿部のその遠回しのアピールは白石さんには伝わらないし、逆効果だよ。実際、避けられちゃってるわけだし。アピールしたいなら別の方法を考えようよ。」
水谷の言葉に花井は「それはそうだな」と同意した。
「……わかったよ」
水谷と花井の助言を受けて、阿部は渋々この方法での恋のアピールは諦めることにした。

 水谷・花井への恋愛相談を終えた阿部はいつも通り裏グラで昼練を行った。その後、昼練を終え、着替えをして教室に戻ってきた阿部は白石の席に座って白石の帰りを待った。白石は5限目の授業が始まるギリギリに教室に戻ってきた。そして白石の席に座っている阿部の姿を見つけるとギクッと固まった。顔は青ざめている。阿部は白石の席から立ち上がって教室の扉のところで立ち止まっている白石のもとへ向かって歩き出した。白石は阿部が近づく度に1歩、2歩…と後退りをした。
「どこ行くんだ?もう授業始まんぞ?」
阿部は白石に声を掛けた。白石は「ううっ」と唸りながら立ち止まった。
「あんなァ、もうわかったから。お前が聞きたくねー話はもうしねーから、だから逃げんのやめてくんねェか?」
阿部がそう言うと白石の顔色が見るからに明るくなった。
「……ホントにしないの?」
「しない、絶対に」
阿部はそう言いながら白石に近づいた。白石はもう逃げなかった。阿部は右手で白石の左手を掴んだ。
「オレ、白石に避けられるの、すげー悲しい」
阿部がそう言うと白石は頬を赤らめた。
「ごめんね!もう逃げたりしない。でも阿部君の好きな女の子の話だけはどうしても聞けないから、それだけは勘弁してください。」
「わーったよ。でも、一応言っておくけどさ、オレが今1番仲良い女子は間違いなく白石だぜ?それくらいはわかるよな?」
阿部がそう言うと白石は目をキラキラと輝かせた。
「うん、わかった!少なくとも今の時点では私が阿部君にとっての1番仲良しの女子なんだね。……いつか私が1番じゃいられなくなる日がくるんだろうけど、でも今1番を貰えたってことを私は一生忘れないし一生誇りに思うよ。」
阿部は『白石が1番じゃなくなる日なんてくるかねぇ?』と内心思った。しかし、阿部たちはまだ高校1年生だ。たしかに心変わりする可能性も皆無じゃない……というか高校生カップルは1年以内に7割が破局するらしいので十分ありうる話なんだろう。
『でも、仮にこの先心変わりすることがあったとしても、オレが今白石に抱いているこの想いは間違いなく本物の恋心だ』
阿部はそう思いながら白石の左手をギュッと握った。

「お2人さん、仲良きことは美しきかな……と言いますが、もう授業始めますよ」
いつの間にか5限目の授業の担当教員が教室に到着していた。ハッと我に返った阿部と白石は慌てて自席に着席して教科書とノートを開いた。クラスメイトからはクスクスと笑われて、阿部は少し恥ずかしくなった。でも白石と仲直りできたのだからこのくらいの恥は受け入れてやる。

 阿部は明日はもうちょっと違う恋のアプローチの仕方を考えようと決意した。どんなアプローチにするかはこれから考える!

<END>