「おお振りの世界に異世界トリップ 第6章」
GW合宿が終わったばかりだが、今日も朝から練習だ。8時に集合なので7時半前には家を出た。ナマエは7時45分頃に裏グラに到着した。グラウンドにはもうすでに数名の選手が到着していた。
「おはよーございまーす!」
ナマエがグランドに向かって挨拶しながらフェンスをくぐって中に入ると阿部や花井が「うっす」と返事をしてくれた。ナマエはベンチ横にある大きな倉庫の中に入って着替えを始めた。途中でノックの音が聞こえる。ナマエは今トップスを着替え終わったところだ。
「千代ちゃん?今なら開けてもいいよー!」
「はーい、開けまーす!」
篠岡が入ってきた。
「おはよう、千代ちゃん」
「ナマエちゃん、おはよう。着くの早いね。」
「私は身支度が遅いもんで…ちょっと早めに来てみたよ」
ナマエは今はボトムスを運動着に着替えていた。それから靴はローファーからスニーカーへ、靴下は通学用ハイソックスから運動用のくるぶし丈のソックスへと履き替えた。それからブラシで髪を梳かしてヘアピンを使って髪が邪魔にならないように整える。これなら帽子も被れる。
「準備オッケー!」
「私もあと髪を結うだけだよ。ちょっと待ってね。」
「はいよー」
ナマエはこの隙にスポーツ栄養学の本を読み進めた。もうすぐで読み終わりそうだ。
「そういえば監督から借りたRICE処置の本、私は一通り読み終わったからナマエちゃんに渡すね」
「お、ありがとう。この本もうすぐ読み終わるところだから、ちょうどいいタイミングだよ」
「そのスポーツ栄養学の本、私も読んでみたいんだけど、あとで貸してくれない?」
「全然いいよ!」
篠岡とナマエは着替えが終わって倉庫から外に出た。ベンチでは選手たちが着替えをしていた。
『これからは男子の上半身裸くらいで恥ずかしがってちゃだめだな』
ナマエは気にせず男子が着替えているベンチに入っていった。
「ナマエちゃんって勇気あるね…」
篠岡はナマエのあとを追ってベンチに入ったけど着替え中の男子がいるのが気恥ずかしいらしい。
「まー、実は私もちょっと緊張してるけど野球部のマネジやるならこのくらいは慣れなきゃだめかなって」
「そっか、そうだね」
篠岡は監督から借りたRICE処置の本をナマエに渡してくれた。ナマエはそれをかばんにしまった。そして栄養学の本を早く読み終えようと練習開始時間ぎりぎりまで読み進めた。
「さあ今日から練習前に瞑想するよ!」
志賀先生が野球部員を呼んだのでナマエは慌てて本をかばんにしまった。
志賀先生は部員全員にα波の説明をする。ナマエは前の世界てみたアニメおお振りの記憶があるので話半分に聞き流していた。
「篠岡!足元にヘビ!」
「キャアアア」
大きな悲鳴をあげる篠岡。
「今篠岡はすっごいα波出てる。」
「せ、先生っ、ヘビはっ」
「あ、ウソウソ」
「いないんですか!?」
ペタンとしゃがみ込む篠岡。
「もう出てない」
「なにそれ!」
珍しく篠岡が怒っていた。今さっきの篠岡の反応を例に挙げながら、志賀先生はリラックスとは集中している状態のことだと説明をした。そしてすごくレベルの高い集中というのは何も考えずに体だけで反応するものだと言う。2時間かかる野球の試合中ずっとそんな状態でいるのは無理だ。だからそのくらいの高いレベルの集中力を発揮してほしいのは打席に立った時、投手が球を投げてから捕手に届くまでの0.4秒だ。それから志賀先生はピンチやチャンスの時にリラックスして打席に立つということが訓練すれば反射でできるようになると説明した。ただし、それにはリラックスと何らかのモノとの条件付けが必要になる。それは今日や明日ですぐできるような簡単なものじゃない。それで、今日はまずα波が出ている感じを覚えてもらうために瞑想をするということだった。さらにシガポはリラックスできてるかどうかは手の温度で分かると言った。手の平は緊張すると冷えて、リラックスすると温まる。その差は2度もあって触れてわかる温度差だ。
「丸くなって座っちゃおうか。隣の人と手を繋いで」
志賀先生がそう言うと野球部員はみんなで円を描くようにして集まり隣の人の手を握った。ナマエは篠岡とモモカンと手を握った。モモカンの手は温かい。篠岡はさっきのアレのせいか少し冷たくなっている感じがした。
『モモカンから貰って、篠岡に分けるイメージを持とう』
ナマエは深呼吸をした。篠岡の手もだんだん温かくなってきた。
「はい、終わりー!」
志賀先生の掛け声で瞑想は終わった。瞑想後は選手たちはアップの時間だ。その間にマネジは水撒きをする。もう水撒きもジャグへのドリンク作成も篠岡とナマエはバッチリできるようになったのでこれからは分担してやることにした。今朝は篠岡が水撒きで、その間にナマエが数学準備室にドリンク作成に行った。ベンチに帰ってきてジャグを設置した後は昨日の三星学園との練習試合の際に篠岡とナマエがそれぞれ作ったスコア表を見比べて間違いがないか確認した。
「ナマエちゃん、完璧だよ!2週間の特訓の成果があったね~!」
「よかったぁ~!」
ナマエは無事にスコア表を書けるようになったので、今日からは空いてる時間は草刈りを再開する。ロングティーをやっている選手たちの傍らで篠岡とナマエは黙々と草刈り作業を続けた。
ロングティーが終わったら春大の試合観戦に行くのだが、野球場へは選手たちは声出しをしながらランニングで向かうことになった。篠岡とナマエは自転車に乗って選手の後を追った。そうして、ようやく野球場に着いた。
「ナマエちゃんと千代ちゃんは入場券買ってきて」
「「はい」」
入場券を買ったマネジ2人は選手と監督に分担してチケットを配っていった。
「おおー!ちゃんとした野球場だー!」
ナマエは初めてやってきた野球場に感激した。
「ナマエちゃんは野球場に実際に来るの初めて?」
「そうなの!今日は生で試合が見れるんだね!てか浦和総合の応援の人たちめっちゃいるー!盛り上がってるねー!」
ナマエは何もかもが初めてでワクワクしっぱなしだ。
「三塁側に行こう!」
モモカンについていく西浦野球部員たち。篠岡とナマエはさっそくジャグにドリンクを作成した。といっても今日は買ってきた氷とペットボトルのスポドリをぶち込むだけの簡単な作業だ。それが終わった頃、武蔵野第一の制服を着た背の高い男性が近くの金網までやってきて「タカヤ!」と呼んでいた。
『あっ、あれは榛名だ!』
ナマエは前の世界のアニメの記憶を辿った。
「阿部君、榛名さんが呼んでるよ」
ナマエは阿部に声を掛けた。阿部は嫌そうな顔をしながら金網に近づいていった。
「ホントだ、榛名さんだ!」
栄口がそう言った。
「へ」
三橋は"誰?"という顔をしている。
「朝言ってた人だ。シニアで阿部が組んでたスゴイ投手!」
栄口は三橋に説明した。
「てかミョウジはよく榛名さんのこと知ってたね?」
ナマエはギクッとなった。
「い、いやぁ~なんか武蔵野第一が野球強くなった要員とか呼ばれて注目されてる選手だからネ」
ナマエは前の世界のアニメおお振りの知識だとは言えるはずがなくて、そう嘘をついた。
「へーよく調べてるんだな」
栄口は無邪気に感心してみせた。ナマエは栄口を騙したことを心の中で謝罪をした。そうしているうちに金網の近くで榛名と話をしていた阿部が戻ってくる。
「朝、三橋に言ったんだけどさ、オレ阿部は榛名さんと同じ学校行くと思ってたよ」
栄口が阿部に話しかける。
「ぜってえヤだよ。あいつは最低の投手だよ。」
阿部はそうハッキリと言い切った。
ここでモモカンがマネジの2人を呼んだ。クリップボードにとスコア表をえんぴつを渡してきた。
「これあとで選手に配ってもらうからセットしておいて」
「「はい」」
ナマエは篠岡と手分けしてクリップボードに紙と鉛筆をセットしていった。それが終わったところでモモカンが選手たちに「ちょっと集合ー!試合中にやること言うよ!」と呼びかけた。
「ナマエちゃん、千代ちゃん、例のものを配ってちょうだい」
「「はいっ」」
ナマエと篠岡は分担して選手たちにクリップボードを配った。配り終わるとモモカンは今日は試合展開予想ゲームをやると言い出す。3回まではじっくり試合を眺めて4回以降の試合展開を予想するというものだ。そして予想の成績のいい人から順番においしい高級プロテイン・ふつうのプロテイン・まずい高級プロテインをプレゼントするという。まずい高級プロテインをみた巣山が「ふげえっ」とすごい声を出して取り乱した。どうやら相当まずいらしい。モモカンはプレゼントしたプロテインは部活中に必ず食べてもらうと言ってニヤリと笑った。
「味見していい?」
田島が試しに1箱開けて口に含んでみた。
「ぶっえーっ」
吹き出そうとする田島の口を押えて無理やり飲み込ませるモモカン。田島は飲み込んだ後、それまで暴れていたのがウソのようにおとなしくなった。選手たちは青ざめている。当然ナマエもドン引きしていた。
『こ、こんなシーンアニメになかったよ!?』
幸いプロテインは10人分しかないらしいので、マネジのナマエはこのゲームには参加しなくていいらしかった。ナマエと篠岡は普通に試合観戦して、スコア表を書き起こすのが仕事だ。ナマエは全体が見まわしやすい一番後ろに座ることにした。阿部・三橋・栄口もその辺にいた。ナマエは前の世界でこの後3人が会話をするシーンをアニメで観た記憶がある。とても興味深い会話をしていた。ナマエはその会話に加わりたいのでその近くに腰かけた。
いざ、試合開始だ。1回表、浦和総合の攻撃は初回からヒットが出た。スコア表に書き起こしていくナマエ。結局1回表は3ヒットで浦和総合に1点入った。1回裏になるとナマエたちがいる三塁側の観客席の近くに榛名がやってきた。肩慣らしのための投球練習をするのだ。まだキャッチボールなのにシュゴーっというすごい音を立ててミットに収まる球。阿部は三橋に「あれがストレートだよ」と言った。ナマエは聞き耳を立てる。
「ストレートがありがたがられるのは落下の少ない球が打ちにくいと思われているからだ。だけど回転の多い球は当たれば飛ぶ軽い球だぜ。」
阿部は三橋にそう説明する。三橋はよくわからなかったみたいだ。ナマエも阿部の言ってることがよくわからない。阿部は三橋に「球持ってるだろ。ちょっと貸してみ。」と言った。何かを実践して見せてくれるらしい。
「私にも教えて」
ナマエも阿部の方に駆け寄った。
「見てな」
阿部はボールに回転を加えた時とそうでない時で壁にぶつかった時のボールの飛び方の違いを見せてくれた。
「へー!おもしろい!」
ナマエは感心してそう言葉に出した。
「阿部君さ、そういう知識はどうやって習得したの」
「あ?うーんと、投球理論の本とか配給関連の本とか」
「本!貸してくれませんか!?」
ナマエは胸の前に両手を握ってお願いしてみた。
「別にいいけどマネジってそんな知識まで必要かァ?」
「えー、別に知ってて損することはないっしょ」
阿部は「……それもそうか」と言った。
「わかった、明日にでも持ってくるわ」
「阿部君、ありがと!」
2回表、浦和総合の攻撃はまたヒットが出て、結局この回で2点目が浦和総合に入った。2回裏の武蔵野第一の攻撃中は榛名はブルペンに入る。
『たしかに三橋のまっすぐとは全然違う球だな』
ナマエはこれまで野球とは無縁の人生を送ってきたので時速140キロ台のストレートの球を直に見るのはこれが初めてだった。そうこうしているうちに試合は3回裏まであっという間に終わった。マネジの篠岡とナマエはみんなのクリップボードを回収していった。篠岡とナマエがみんなからクリップボードを回収してモモカンに渡した頃には、栄口と三橋は榛名が最低の投手と呼ばれる理由を阿部に訊ねているところだった。ナマエもその会話に加わりたくて、3人の側に近づいた。
「私も、最低の理由聞きたいな」
「チッ」
阿部は渋々説明を始めた。もちろん、その説明を聞きながらもナマエはちゃんと試合の状況は見ててスコア表を書き起こしていた。
「――…榛名はオレたちとは全然違う次元で野球やってんだよ。そういうのもありなんだろうし、スゲエとも思う。けど、オレはあいつをチームのエースとして最低だと思うし、オレは二度と組みたくないね」
一通り説明を終えた阿部。三橋はふるふると震えて泣き出した。その理由がわからなくて動揺する阿部と栄口。ナマエは前の世界でアニメおお振りでこのシーンを見たので、三橋が今何を思っているか知っている。なのでナマエは特に動揺はしない。
「お前さァ、もうちょっと泣いたりキョドったりすんの、ガマンできた方がいいぞ。マウンドでの話だぜ。そんな顔に出てたら守っててバックが困っちゃうからな。マウンドでは……そうねえ、無表情もいいけど……やっぱ笑顔がいいね」
阿部がニッと笑った。栄口と三橋はそんな阿部を見て面食らっている。
「バックは安心するし相手はムカつくし、やってみな。ホラこうニイッと。」
栄口は笑いを必死に堪えているが、ナマエは遠慮なく笑った。
「アハハッ、阿部君ってそんな笑顔できるんだね!いいじゃん!」
三橋は真似しようとして自分の頬を引っ張って「に…にい」と笑顔を作ってみせた。
その顔を見て阿部も栄口もナマエも大爆笑だ。
「いーぞ、なんか頼もしいぞ!しかも打者的にはスゲームカツク!」
「いやー、私はもっと爽やかに笑ってほしいかな!その方がカッコイイしね!」
「三橋の爽やかな笑顔ってどんなんよ!」
栄口は体を震わせながら笑った。
「はーー……ところで今の話、オレからみんなにしてやってもいい?」
栄口がそう阿部に訊ねた。聞き耳を立てていた他の人たちがビックウッとなるのがナマエの目には映ったが何も言わないでおいた。その後はナマエは篠岡の隣に座ってひたすら試合観戦してスコア表を書き起こしていった。篠岡はオペラグラスを使って試合観戦していた。
「オペラグラスってやっぱ試合観戦の役に立つ?」
ナマエは篠岡に訊ねてみた。
「うん!すっごい便利だよ!」
「いーな、私も買ってもらおうかな。倍率は何倍くらいのがいいの?」
「野球観戦なら8~12倍がいいって言われてるよ。私は持ち歩きやすいのがいいなと思って折り畳み式のやつにしたけど、その代わりこれはそんなに倍率ないんだ。色んなタイプがあるから自分の好みのやつ見つけるといいよ。」
「へー!お母さんにあとでお願いしてみよっと。」
「あ、監督、春日部市立が移動します!」
篠岡はモモカンに話しかけた。続けて篠岡は春日部市立が去年の秋大で武蔵野第一に負けたことや今回は決勝まで当たらないことなどを説明した。
「篠岡って対戦表暗記してんの?」
花井が驚いて訊ねる。
「ううん、これ見て調べたの」
篠岡は過去3年分の大会のやぐら表を見せた。
「え、うわ、すご!」
ナマエは驚いた。沖・栄口・巣山・花井も感心している。
「今日は結構色んな学校が来てるんだよー。だいたいは近場の学校なんだけど、なんと桐青がいたんですよ!」
「え、千代ちゃんって他校の制服まで覚えてるの!?」
ナマエは感心すると同時に悔しかった。マネジとして篠岡に負けてると感じたからだ。
『野球部のマネジなんだから、誰かから言われなくたって他校のことを調べてくるくらいのことはしなきゃダメなんだ!』
「千代ちゃん、今度私に埼玉の野球の強豪校とその制服教えてくれない?それからどうやって他校の情報収集してるかとかも教えてほしい!マネジとして千代ちゃんに負けないくらい役に立てるようになりたい!」
「うん、もちろんいいよ!2人で手分けしてやれば楽になるしね。」
篠岡は快く承諾してくれた。
試合は9回表、浦和総合の攻撃。二死でランナーなし。ボールカウント2-1という場面で榛名が阿部の方を振り向いた。ボールを持ったグラブでピシッとこちらを指さす。そして榛名は本気の剛速球を投げた。キャッチャーは後逸した。それにより打者が出塁。
「うわー、すっごい速いな」
ナマエはこの2週間散々他校の試合をビデオで観戦してきたので野球のこともかなり覚えてきた。今のレベルの球がいわゆる"速球派"の投手であることくらいはわかるようになっていた。武蔵野第一は次の打者で三死目を取った、試合終了だ。結果、4-3で武蔵野第一の勝利だ。ナマエは今回もしっかりスコア表に試合展開を書き起こせた。
モモカンは1試合目が終わったところで「さて、帰ろっか」と言い出した。もう一部の選手たちは試合観戦に飽きて氷オニをして遊んでいるから2試合目は観ないのだという。帰りも選手たちはランニングをしながら学校に戻る。篠岡とナマエは自転車で後ろから選手たちを追いかけた。
学校に着いたら選手たちは水道の水で顔を洗う。その後は昼食の時間だ。篠岡とナマエは家から作ってきたお弁当を取りに数学準備室に向かった。そして学食のテーブルにお弁当を広げて食事をする。
「千代ちゃんのスコア表見せて。自分のが間違ってないか確認したい。」
「いいよー。はい、これ。」
「ありがと」
ナマエはお弁当を食べながら自分の作ったスコア表と篠岡の作ったスコア表を見比べた。
「うん、大丈夫そう!」
「もうすっかりスコア表は書けるようになったね」
篠岡は「野球初心者なのに1ヶ月でここまでできるようになったのはすごいことだよ!」と褒めてくれた。昼食を食べ終わった後は篠岡から他校の情報収集方法についてアドバイスを受けた。埼玉新聞に埼玉県内の高校野球のニュースが載っていることや県営球場で行われる試合は埼玉の地元のテレビ局が中継をしてくれることを教えてくれた。また、過去の大会のやぐらは埼玉県高等学校野球連盟のウェブサイトで確認できるらしい。それから篠岡は埼玉県内の野球の強豪校の名前をつらつらと語った。ナマエは必死でメモを取る。各校の制服は今日家に帰ったらパソコンで調べてみることにした。
「うー!やることいっぱいあるなァ!」
大変ではある。でもナマエは同時にすごくやりがいを感じていた。前の世界でうつ病になってなにもできなかったナマエにとっては、今の自分に何かがんばれるものがあること自体が嬉しかった。
午後は練習の開始前にモモカンが部員全員を呼んだ。モモカンの前に集まる野球部員たち。そのミーティングで阿部がもう1人投手が欲しいと言い出した。ショックを受ける三橋。でも田島が持ち前の明るさで三橋の練習着に"1"を書いて「1番はお前のだからよ、いつもしょっとけ!」と励まし、三橋も納得したのだった。そうしてモモカンは花井と沖を投手の控えとして選出した。また捕手も控えが欲しいという話になり、田島がやることになった。
「花井君、沖君、田島君が動くなら他のポジションも動くからね。今日から1人2つ以上のポジションで練習していくよ!」
モモカンが言った。そうして午後の練習が開始となった。
「監督、選手たちのサブポジション把握しときたいので教えてもらえますか」
ナマエはモモカンに訊きに行った。
「そうね、まず三橋君が投手ができなくて沖君が投げる場合は…――――」
ナマエは必死にメモを取った。
「これもあとで資料作っておきます!」
ナマエはモモカンに宣言した。
「ありがとう。よろしくね!」
午後の水撒きはナマエが担当して、篠岡がジャグにドリンクを作成しに行った。それが終わったら今日は篠岡とナマエの2人で近くのスーパーに牛乳を買いに行った。今日から練習終わりにプロテインタイムを設けるのだが、その際に選手たちに牛乳を振る舞うのだ。そして買い出しが終わったら恒例の草刈りタイムだ。4月後半の2週間はずっとスコア表作成をしていて部活中は草刈りはしていなかったのでまだまだ外野には草が生えているところが多い。せっかく草を刈ったところも雨が降ると翌日には草が生えてきてしまったりもする。まだまだしばらくは草刈りとは縁を切れなさそうだ。
午後の練習が終わったところで、モモカンからプロテイン争奪試合予想ゲームの結果発表があった。篠岡はその発表に従って選手たちにプロテインを配っていく。ナマエは選手たちに牛乳を配って回った。ゲームで下位になりまずいプロテインが当たった阿部・三橋・田島はプロテインを食べるのを躊躇している。そこに花井がプロテインを紙に包んでバットで砕いて粉状にして飲んでしまえばいいと提案した。しかし、それでもあまりのまずさに吹き出す田島と三橋。
「あーっ、てめーらっっ、もったいねェだろ!!」
花井がそんな2人を叱った。
「明日はドラッグストアで服薬補助用のゼリーとかオブラートとか買ってきてみるよ。粉状にしてゼリーかオブラート使えば飲み込めるんじゃない?」
ナマエは阿部・三橋・田島にそう提案した。
「ミョウジって天才か!?」
「す、す、すごい…よ!ミョウジ、さん…!」
田島と三橋は目をキラキラと輝かせながらナマエを見つめた。
「ゼリーは何味がいいかな?」
「何味があんのー?」
田島と三橋とナマエがそんな風に会話しているとモモカンが「さて!ここらで主将を決めましょう!」と提案した。満場一致で花井が主将に決まる。副主将は花井の指名で阿部と栄口になった。そして今日の練習の最後は花井が締めの声出しをして終わることになった。
「夏大までがんばるぞ!!!にしうらー ぜっっ」
「おおおっ」
ナマエも選手たちと一緒に「おおー!」と声出しをした。ナマエは選手じゃないけど、同じ野球部の一員だ!一緒に勝利を掴んでいくんだ!
<END>