「おお振りの世界に異世界トリップ 第8章」
GW最終日の夜、部活を終えて帰宅したナマエは母親に埼玉新聞を購読してほしいとお願いした。事情を説明すると母親は快く承諾してくれた。それから野球の試合観戦で使えるオペラグラスを買いたいと伝えたところ、倍率10倍の双眼鏡が家にあるらしく「それでいいなら使っていいよ」と言ってくれた。
「はい、これ。説明書も箱の中に入ってるからよく読んで使ってね。」
「うん!お母さん、ありがとう!」
その後はナマエは家のパソコンを使って沖と花井が代理で投手をする場合の各選手たちのポジションと田島が代理で捕手をやる場合の各選手たちのポジションをエクセルの一覧表にまとめた。以前作成した選手のプロフィール一覧表にもサブの守備ポジションも追記しておき、作成した資料を印刷した。また、今日の昼休みに篠岡から教わった埼玉県内の野球の強豪校のホームページをひとつひとつ確認し、それぞれの学校の制服を印刷した。それから、埼玉県高等学校野球連盟のホームページにアクセスして現在の加盟校一覧と過去3年分の各大会のやぐら表も印刷した。印刷した資料を頭に叩き込むべく、机に向かうナマエ。
『千代ちゃんにも負けないくらい有能なマネジになってやるんだ!』
ナマエにとって篠岡はマネジ仲間であり、仲のいい友達でもあるが、同時にライバルでもあった。
翌日、GW明けの初の登校日だ。ナマエはいつも通りに田島・泉・三橋に朝のあいさつをし、その後はスポーツ栄養学の本を読み進めた。篠岡が読み終わったら貸してほしいと言っていたから早く読み終えて渡してあげたいし、この本を読み終わったら次はRICE処置の本を読まなければいけない。昨日印刷した資料もまだ完全には頭に叩き込めていないし、阿部から投球理論や配給に関する本を借りる約束もしている。阿部が忘れてなければ今日持ってきてくれているはずだ。やらなきゃいけないことは山積みだった。ナマエは朝以外にも授業の合間の休み時間はひたすらスポーツ栄養学の本を読み進めた。ただし、お昼休みは例外だ。お昼休みは篠岡と一緒に草刈りの作業があるのだ。午後の授業の合間の休み時間もひたすら本を読み進め、ナマエはなんとか今日の部活の開始までにスポーツ栄養学の本を読み終えることができた。
さて、ようやく部活の時間だ。ナマエは篠岡と裏グラに向かいながらスポーツ栄養学の本を篠岡に渡した。
「これ、読み終わったから貸すよ。お待たせしてごめんね。」
「わあ、ありがとう!勉強させてもらいます!」
篠岡はナマエにペコッと頭を下げた。裏グラに到着したらいつも通り倉庫で着替えをする。そしてグラウンドに出るとベンチにいる阿部が「ミョウジ、こっちきて」とナマエを呼んだ。
「はいはーい」
ナマエはおそらく昨日頼んだ本を貸してくれるんだろうと思った。
「これ、昨日言ってた投球理論の本な。で、こっちが配給基礎の本。それからこれはオレが勝手に持ってきたんだけど配給表の書き方の本な。マネジが配給表付けてくれたらデータ収集が楽になるし対戦相手の攻略にかなり役に立つからできるようになってもらいたいんだ。」
阿部が3冊の本をナマエに渡しながら言った。
「うお、配給表か!うん、わかった、できるようになってみせるよ!」
ナマエは昨日マネジとして篠岡に負けていると気付いてから闘志を燃やしているのでやる気満々なのだ。
「おう、頼んだ」
「私、他にも読まなきゃいけない本があるしなんか3冊とも難しそうな本だから、しばらくの間借りることになっちゃいそうなんだけど平気?」
「ああ、特に急いで返してほしい理由はねェから急がなくていーよ。急がなくていーから、しっかり習得してほしい。」
「わかった!阿部君、ありがとね!」
「おう」
ナマエは今阿部から借りた3冊の本を自分のエナメルバッグにしまった。
部活が始まり、選手たちはアップを始めた。今日の水撒きは篠岡が担当だ。ナマエはジャグにドリンクを作成する役だ。だが、その前にナマエはモモカンに用があった。
「監督、これ昨日決まった代理投手または代理捕手を立てた時の他選手の守備ポジションをまとめた一覧表です。それから前に作成した選手のプロフィール一覧も更新してきました。これで問題ないかご確認いただけますか?」
「ありがとう。ちょっと待ってね。今確認するから。」
モモカンは資料に目を通した。
「うん、問題ないね!資料の作成ありがとう。これもファイリングしておいてちょうだい。」
「はい、わかりました!」
ナマエは全部員のプロフィール用紙を綴じてあるファイルに今回作成した資料を追加した。更新した選手のプロフィール一覧は差し替えた。そしてナマエはドリンク作成のためにジャグを持って数学準備室へと向かったのだった。ドリンク作成を終えて裏グラのベンチにジャグを設置したナマエは、先に草刈りを開始している篠岡を呼んだ。ベンチに戻ってくる篠岡。
「おかえり!もう買い出し行く?」
「あ、そうだね。それもあるけど、先にこれ渡しとく。選手のサブの守備ポジションを一覧表にしてみたよ。」
「わ、すごい。ありがとう!」
篠岡は資料に目を通した後、「一覧表になってるとわかりやすいね!」と言って笑った。
「じゃあ、先に買い出し済ませちゃおうか。今日はドラッグストアにも寄りたいんだよね。」
ナマエは篠岡にまずいプロテインを食べなきゃいけない阿部・三橋・田島のためにオブラートと服薬補助用のゼリーを購入したい旨を伝えた。
「そっか!それはいい考えだね!」
篠岡はニコッと笑った
「あ、ゼリー食べるようにスプーンと何か容器も買わなきゃ」
「使い捨ての紙コップとスプーンでいいかな」
「それならスーパーで買えるね」
ナマエはモモカンのところに行ってこれから買い出しに行くことを伝えた。ついでに阿部・三橋・田島のためにオブラートと服薬補助用のゼリーを購入したい旨も伝えて許可を貰った。買い出しのお金は事前にモモカンから貰ってある。
「じゃ、千代ちゃん、出発しよう!」
「はーい」
篠岡とナマエは自転車を走らせた。買い出しから戻ったら今日は草刈りはせずにボール磨き・ボール修理をすることにした。部活が始まってから1ヶ月が経ち、ボールがだいぶ汚れてきたし糸がほつれ始めているからだ。ボール磨きは選手たちもやってくれたりするが、さすがに修理まではやらない。
「4月後半はずっとビデオで試合観戦していたからだいぶ溜まってるね」
修理が必要なボールをピックアップしながら篠岡が言った。
「2週間サボったツケはデカいねぇ~…」
ナマエは裁縫道具を取り出した。そして篠岡とナマエは今日は延々とボール磨き・ボール修理の作業に没頭した。
選手たちはダウンが終わったら今日もプロテインタイムだ。篠岡は牛乳をみんなに配って回った。ナマエは阿部・三橋・田島に買ってきたオブラートと服薬補助用ゼリーのチョコ味・いちご味・ぶどう味を見せた。
「どれ使ってみる?」
ナマエは3人に訊ねた。
「オレ、甘いの苦手だからオブラート使ってみるわ」
阿部がそう言った。
「じゃあ、オブラートは水に浸ける必要があるから紙コップとこのミネラルウォーター渡しとくね」
「サンキュ」
阿部がナマエの手からオブラートと紙コップとペットボトルのミネラルウォーターを受け取った。
「オレはいちごのゼリー!」
これは田島だ。
「はい、じゃあ紙コップとこのプラスチックスプーン使ってね」
ナマエは田島にいちご味のゼリーと紙コップとプラスチックスプーンを渡した。
「三橋君はどうする?オブラートもいちご味ゼリーもまだ余りあるからどれでも好きなの選んでいいんだよ。」
「オ…オレ…オレ……、チョ、チョコ……」
三橋はどもりながらもチョコを選んだ。
「チョコね。じゃあ、はい、これ。」
ナマエはチョコ味のゼリーと紙コップとプラスチックスプーンを渡した。それからナマエは3人がまずいプロテインを粉状にするのを手伝った。牛乳を配り終わった篠岡も手伝ってくれた。そして粉状になったプロテインを田島がゼリーに包んで食べてみる。
「おお、ミョウジ!これならいけるぞ!スゲーぞ!」
田島が感激して目をキラキラさせている。
「オレもオブラート使えばいけるわ」
阿部も問題ないらしい。
「三橋君は大丈夫そう?」
ナマエは三橋に訊ねた。三橋は首をブンブンと縦に振った。
「う、う、うまい…っ!」
三橋は口をひし形にして嬉しそうにしている。
「わー、よかったねー!」
そんな三橋がかわいくてナマエも嬉しくなった。
「ミョウジ、さん、…あ、あ、あり、がと…う!」
「いいんだよー。三橋君はかわいいねえ。」
「…え…オ、オレ…、かわ…!?」
「あ、高校生男子はかわいいとか言われたくないか。ごめんごめん。」
「…え、っと…だ、だ、いじょう、ぶ…」
三橋はモジモジしながらそう言った。阿部・三橋・田島の3人がプロテインを食べ終わったら今日の練習は終了だ。
「ミョウジ、ゼリーありがとな!マジ助かった!」
帰り際、田島がナマエに声を掛けた。
「ああ、オレもオブラートよかった。サンキューな。」
阿部も田島に続いてナマエにお礼を言った。
「いえいえー。じゃ、気を付けて帰ってね。また明日ね!」
そう言ってナマエは阿部と田島と別れて家へと自転車を走らせた。
帰宅したナマエは夕食を食べてお風呂に入った。
「ナマエちゃん、埼玉新聞の購読手続きしといたよ」
お風呂上がりのナマエに母親がそう言った。
「おお、お母さん、ありがとう!」
「多分明後日の朝から届くと思うよ」
「はーい」
風呂から上がったナマエはRICE処置のやり方やテーピングのやり方について書かれた本を読み始めた。この本は、一度口頭でモモカンから説明を受けてるおかげなのか、とても読みやすかった。
『でも油断しちゃダメだ。選手が万が一怪我した時にマネジの私が冷静に対処できるくらいまでにならなきゃいけない!』
ナマエは『この本の内容全部丸暗記してやる!』という気持ちで本を読み進め、必死に怪我時の対処方法を頭に叩き込んだ。
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