※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:夢小説とはいえ特に誰かと恋愛する予定は今のところないです※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第14章」


 ミーティングで資料を用意した翌日、火曜日のお昼休み、ナマエはいつも通り7組に向かった。もちろん、恒例の草刈りをするためなのだが、それ以外にもう一つ目的があった。
「阿部君」
自席で寝ている阿部にナマエは声を掛けた。
「んあ?」
阿部が起き上がって「ふああ」と大きな欠伸をした。
「寝てるところごめんねー。前に借りた本返しに来た。」
ナマエは投球理論の本と配給基礎の本と配給表の書き方の本の3冊を手に持っていた。
「ああ、そういや貸してたな」
「そう。5月に借りたんだよ。2ヶ月近く借りちゃった。長いこと借りてごめんね。ありがとね。」
「昨日の資料の配給表ってミョウジが作ったのか?」
「そうだよ。おかげさまでちゃんと作れるようになりました!」
「やったじゃん」
阿部はニィッっと笑った。それから言葉を続けた。
「昨日もらった資料、全部読んだぞ。あれ、スゲーな。大変だったろ?」
「そらもうすっごい大変だったよ。この働きに対するご褒美は桐青戦の勝利で頼んます。」
「おう、絶対勝ってやんよ!」
そう断言してくれた阿部の言葉が嬉しくてナマエは手を掲げてハイタッチを求めた。阿部はパシンッとナマエの手のひらを叩いた。
「じゃあ、私は草刈りに行ってくるね!」
「ああ、いつもあんがとな」
そう言って阿部は再び自席で眠り始めた。ナマエは篠岡の元へ向かった。
「千代ちゃん、お待たせ。行こっか。」
「うん」
篠岡とナマエが草刈りのために裏グラに向かっている途中、篠岡が口を開いた。
ナマエちゃんって阿部君とも仲良いんだね」
篠岡は先ほどの阿部とナマエのやりとりを見ていたらしい。
「へ?うーんと、悪くはないかな。けど仲良いって言うほどでもないような…?」
「え、でも阿部君笑ってたし、なんかハイタッチもしてたよね?阿部君、他の女子に対してあんな感じじゃないよ?」
「あー、基本愛想が悪いもんね、あいつ」
ナマエは女子に話しかけられた阿部が「は?」と返事をするところを想像したらなんだかおかしくなってププッと笑った。
「私さ、今はだいぶ慣れてきたけど、実は最初の頃阿部君のこと怖かったんだよね」
篠岡がそう言った。
「えー!そうなんだ。なんで?同じ中学出身だよね?」
ナマエは以前モモカンがみんなに書かせた西浦高校野球部員のプロフィール表をみたことがあるので阿部と栄口と篠岡が同じ中学出身だと知っていた。
「前にさ、防具の手入れしてる阿部君に"私がやろうか?"って声掛けたら"は?なんで?"って冷たく突き放されたことがあって。あと中学の時に西浦の情報集めたくて話しかけた時も"は?"って言われたし。」
「えー、そんなことがあったんだ。あいつ口悪いもんな。でも、悪いやつじゃないんだよ。」
この世界ではまだ阿部とそんなに接触は多くないけど、前の世界でアニメおお振りを観ていたナマエは阿部が実はものすごく情に篤いやつだと知っている。意外とすぐ泣くし。
「うん、悪気がないってことは私も最近わかってきたよ」
篠岡はそう言って笑った。

 翌日の昼休み、ナマエがいつもの9組野球部員+浜田と昼食を食べていると浜田が最近の野球部の練習量を見て「お前ら練習量なら県内でもかなり上位だろ」と言ってきた。泉は「やってみると案外やれちゃうぜ」と答える。
「バカゆーな。オレなんかランナー付き合っただけでヘトヘトだっつーの。」
そう言う浜田は早弁してもうお弁当を食べ終わったらしく、横断幕作りに勤しんでいる。ちなみに三橋ももう早弁して食べ終わったので角材ワインドアップの練習をしている。
「ヘトヘトはヘトヘトだよ。毎日オナニー1回しかできねーもん!」
田島がそう言った。泉が田島の頭をポカッと叩いた。
「おい、テメ、ミョウジいんだからやめろよ!」
「あー、泉君、もーいーよ。大丈夫、なんかもう慣れてきた。」
ナマエは呆れながらそう答えた。
「あ、ワリィ、ミョウジ。なんかもう一緒にいすぎてミョウジが女子って感じしねーんだもん。」
田島はそう答えた。
「え!ちょっと待って。それはいや!ちゃんと女子扱いされたい~!」
ナマエはそう答えた。浜田が「大丈夫だって、ミョウジはちゃんと女子だよ!」と励ましてくれる。
「女子扱いって何されたいんだ?」
田島が訊いてきた。
「えっとねー、可愛い女子マネって言われた~い!」
ナマエは冗談でそう言ってみた。田島は一瞬キョトンとした後、真面目な顔をして口を開いた。
ミョウジはかわいいぞ」
それから田島は「な?」と言いながら泉に同意を求めた。
「おー、そーだな」
泉は若干照れくさそうにしたながらそう答えた。
「オレ、ミョウジと篠岡が作ったおにぎり食えるの、超ラッキーと思ってるもん!」
ナマエは真剣に"かわいい"と返されて照れてしまった。でも田島はそんなの構わずナマエに「そういや今日のオレのおにぎりの具、何ー?」と無邪気に訊いてきた。ナマエは「昨日は田島君1位だからエビ天だよ」と答えた。
「………おにぎり食った後は何やってんの?」
浜田が尋ねる。
「イロイロだよ。スケボとか大縄跳びとか氷オニとかな!」
田島がそう答えた。
「へー、そんなことやってたんだ」
ナマエはおにぎりを配った後は帰宅するので毎日何のトレーニングで順位付けしてるのか知らなかった。田島と泉は氷オニが好きらしい。
「子どもは無邪気でいいね」
「ちっげえよ、毎日勝負なんだ!」
泉は浜田に食ってかかった。田島も「おにぎりの中味かかってんだぞ!」と真剣だ。選手たちがこんなにもおにぎりを楽しみにしてくれていて、作ってるマネジ側としてはとても嬉しい。
「おし、完成!」
浜田がそう言った。横断幕がついに出来上がったらしい。
「広げてみよーぜ!」
そこには"挑め! 埼玉県立西浦高等学校硬式野球部"と書かれていた。
「うわあ、浜田スゲエ!!」
「すごーい!」
他のクラスメイト達も出来上がった横断幕を見て感嘆の声をあげていた。
ミョウジが食い終わったらみんなで7組行こうぜ!花井たちにも見せよーぜ!」
田島がそう言った。
「もうちょっとで食べ終わるから待ってて!」
ナマエが食べ終わるのを今か今かと待っている田島たち。ナマエは急いで昼食を口に運んだ。
「食べ終わった!おし、行こう!」
お弁当箱をしまいながらナマエは言った。浜田・泉・三橋が横断幕を持って7組まで歩いていく。
「花井ー!できたぞー!」
「うおっスゲー!」
花井が横断幕を見て驚いている。阿部も水谷も篠岡も、その他の7組の人たちも横断幕に注目している。
「3組と1組にも行こうぜ!」
田島がそう言った。他の野球部員にも見せたいらしい。ナマエは恒例の草刈りのために篠岡と裏グラへ向かった。

 その日の放課後、午後練が始まった。視覚トレーニングとアップとキャッチボールが終わった後、モモカンは花井と阿部を呼んだ。
「花井君!阿部君!マネジ2人が作ったデータは全部読んできたね!?今日は3人でより詳細なデータ解析をするよ!田島君、今日はブルペンね!」
モモカンがそう言った。田島は元気よく「はーい」と返事するが、三橋はキョドキョドしている。ナマエはその様子をベンチ付近から見守っていた。
「試合じゃねんだから田島でもいいだろ?」
阿部はそう答えた。
「ち、ち、ち、違くて、今日は見てもらおーと」
「見るよ?なんだよ」
ナマエはここで三橋が何をやろうとしているかを思い出した。
『角材ワインドアップだ!』
GW合宿明けから三橋は休み時間にいつも角材ワインドアップの練習をしていた。同じクラスメイトのナマエはその姿をずっと見てきた。角材の上でピタリとワインドアップができるようになった姿を見せつける三橋。阿部は嬉しいのに「てめえはホントによ~~!!」といいながら三橋にウメボシを食らわせていた。ナマエはそんな阿部と三橋のやり取りがおもしろくてクスクスと笑った。
「あれって阿部君喜んでるんだよね?」
阿部と三橋の様子を見守るナマエにつられて、同じくその様子を見ていた篠岡がナマエにそう尋ねた。
「めっちゃ感激してたね!三橋君は怒られたって勘違いしてたけどね!」
ナマエはまだ笑いが収まらない。
「あれは勘違いするよねえ!」
篠岡もアハハッと笑った。
「ね?阿部君って感情表現が下手なだけで結構情に篤いやつでしょ?」
ナマエは篠岡にそう言った。
「うん、そうかも!」
篠岡はニコッと笑った。

 桐青のデータ収集・分析について追加の要望がくるかと思い心の準備をしていたナマエだったが、モモカン・阿部・花井の3人でデータ解析を行った後もそういった依頼は来なかった。なのでナマエは日々のマネジの仕事はこなしつつも、桐青戦の次の対戦校のデータ収集を始めた。とはいえ、やぐらを確認すると次の対戦校の候補は3校ある上にどこも桐青高校のような強豪校ではないのでそもそも過去の試合のビデオがなかった。しかたがないのでナマエは選手名鑑から選手の主要なデータを取得し、パソコンで一覧表を作った。あとはインターネットで学校名で検索をかけて各学校の概要や過去の成績を調べるくらいしかできなかった。時間があれば図書館に行って過去の埼玉新聞のスポーツ欄を確認してみたかったが、打倒桐青に向けてほぼ毎日部活がある上にミーティングのみの月曜日もみんなで桐青高校の試合のビデオを観戦したので普段より終わる時間が遅くなってしまい図書館には間に合わなかった。また、来たる7月7~9日は期末試験の期間だ。今は夏大の真っ最中なので試験期間中も野球部は部活がある。そんな中で試験勉強の時間を確保しなければいけない。というわけで桐青戦の次の試合に備えたデータ収集作業は一旦中止することにした。

 7月7~9日の期末試験を無事に乗り越えたナマエは、翌日は夏大県大会の開会式のため県営大宮公園野球場へとやってきた。篠岡が中学時代の先輩と一緒に座りたいと言う。夏大抽選会の時にナマエも会ってあいさつをした先輩だ。
「私も一緒に座っていいの?2人の邪魔じゃない?」
ナマエは篠岡に訊ねた。
「全然邪魔じゃないよ!先輩いい人だから安心してね!」
篠岡はそう答えた。
「あ!せんぱーい!」
先輩を見つけた篠岡が手を振る。
「しのーか!久しぶり!あ、あと、ナマエちゃん…っていうんだよね?しのーかから話聞いてるよー。今日はよろしくね!」
篠岡の先輩がナマエに声を掛けた。
「こちらこそよろしくお願いします!」
ナマエはバッと頭を下げた。そして篠岡の隣に座った。篠岡と先輩は日焼けの話や帽子の話をして盛り上がっている。ナマエはおとなしく話を聞いていた。
「――で、そろそろ本命決まる時期だよね!?」
篠岡の先輩が篠岡に訊ねた。
「なっなんすか」
篠岡は照れている。
『そういえば千代ちゃんって今好きな人いるのかな?前の世界で観たアニメおお振りでは特にそういうシーンはなかったよなぁ?GW合宿の時もまだ選手の誰とも仲良くないからいないって答えてたけど…。』
ナマエは篠岡が顔を赤くしているのが実は好きな人がいるからなのか、単にそういう色恋の話の最中だから赤いだけなのか判断がつかなかった。
ナマエちゃんは本命決まった?」
篠岡の先輩が尋ねてきた。
「いやー、恋愛的な意味で好きな子はいないですね。でも推しなら何人かいますよ!」
ナマエは答えた。
「推しって何?」
先輩は"推し"という言葉がわからないらしい。そういえばアニメおお振りがやっていた頃には"推し"は一般的な言葉じゃなかった。
「えっと強く推している人物のことですね。平たく言うとその人のファンってことです。でも恋愛感情は持ってないです。」
「へー、そんな言葉があるんだ。誰が"推し"なの?」
「三橋君と阿部君と田島君です!」
「3人もいるの!?ナマエちゃんって浮気者だね」
篠岡の先輩は「アッハッハ」と笑った。
「へー!ナマエちゃんが三橋君を気にかけてるのは知ってたけど、阿部君と田島君のことを気に入ってるのは知らなかった!」
篠岡は驚いていた。
「ね、その3人のどういうところがいいの?」
篠岡の先輩が尋ねてきた。ナマエが答えようとしたところに音楽が鳴り響き、ついに開会式が始まった。選手入場の時間だ。ナマエは西浦高校野球部の入場を今か今かと待ちわびた。
「西浦高校」
アナウンスと同時に西浦高校野球部の選手たちが入場してきた。
「千代ちゃんっ!きたっ!」
「……みんなっ歩いてるっ」
篠岡は感激のあまり涙目になっていた。逆にナマエは大興奮でハイテンションだ。選手の入場が終わった後は大会歌を合唱した。開会式が終わった後は野球場の外で選手たちと合流した。
「みんな、おつかれー!かっこよかったよー!」
ナマエは西浦高校野球部選手たちに声を掛けた。
「おー!ミョウジー!しのーか!」
田島が手を大きく振って篠岡とナマエを迎えた。
「千代ちゃん、みんなの入場見ながら泣いてたよ」
「ちょっ、ナマエちゃんっ!言わないでよっ!」
篠岡がナマエの腕を引っ張った、
「えー、しのーか泣いたのかーっ!?」
「田島君、声が大きいよっ!」
「え、なに、篠岡泣いたの?なんで?」
田島の声を聞いた水谷が寄ってきた。
「なんでもないよーっ」
篠岡は必死で誤魔化した。

 開会式の後は学校に戻って練習だ。ちなみに明日はついに桐青との試合なので今日は21時までの練習はせずに早めに練習を終える。そのため今日はおにぎりはなしだ。おにぎり作りがない分、今日は少し時間に余裕がある。篠岡とナマエは仕事が一段落したところで明日に備えてメットやバットなどの道具のお手入れを始めた。
「ね、さっき言ってた"推し"の理由訊いていい?三橋君の話は前に訊いたけど、阿部君と田島君を気に入ってる理由。」
作業をしながら篠岡が話しかけてきた。
「あー、えっとね、阿部君は実は情に篤いところと三橋君のことを大事に思ってるのに何かとすれ違っちゃう不器用なところが応援したくなる。田島君は溢れる野球センスとムードメーカーな性格がいい。スターって感じ。」
「へー。それって本当に恋愛感情じゃないんだ?」
「うん、少なくとも今のところは違うね。千代ちゃんは?ホントに本命とかいないの?」
「えー…、うーん…?」
篠岡の反応は何だか煮え切らない感じだった。恋心を隠そうとしているわけではなさそうだ。ただハッキリと否定もしない。
「気になる人はいるけど、それが恋なのかどうかわからないって感じ?」
「……そう、なのかな?どうなんだろう?自分でもまだよく分からないや。」
篠岡はへへッと苦笑交じりに言った。ナマエは今の段階では変にイジったりしないほうが良さそうだなと思ったのでこれ以上はつつかないことにした。
「あ、のさ、ナマエちゃん」
篠岡がおずおずとナマエを呼んだ。
「ん?どした?」
「もし、万が一、同じ人を好きになることがあっても、仲良くしてくれる?」
篠岡はチラッとナマエの顔を見た。
『もし千代ちゃんと同じ人を好きになったら…―――』
ナマエは想像してみた。2人しかいないマネジが恋愛沙汰で喧嘩したり気まずくなったりしたら最悪だ。というかそれじゃマネジとしての職務に支障がでる。
「もしそうなった時は正々堂々勝負しよう。陰湿なことは一切なしで。そんで、絶対に喧嘩したり気まずい空気にしたりはしない。マネジの仕事に絶対に支障は出さない。約束する。」
ナマエはそう言い切った。それから続けてこう言った。
「もしそれができないんだったら、その人を好きでいるのをやめるよ、私は。野球部のマネジとしての職務を全うする道を選ぶね。」
今のナマエにとっては野球部のマネジとして監督や選手たちの役に立てているということが何よりも嬉しいことで、これを高校3年間やり切りたいと強く思っていた。3年間やり切れたら絶対に自分は変われる、良い方向に進めるという確信があった。ナマエは今から3年後の自分が楽しみだった。自分の将来に希望が持てるって素晴らしいことだ。
ナマエちゃん、カッコイイね!」
篠岡は目をキラキラと輝かせながらナマエのことを見つめていた。
「わかった!私ももしそうなった時は正々堂々と勝負するよ!で、マネジとしての仕事に絶対影響出さない!約束ね!」
篠岡はそう言いながら右手の小指をナマエに差し出してきた。
「うん、約束ね!」
ナマエは篠岡の右手の小指に自分の右手の小指を絡ませて指切りをした。

 その日の夕方、浜田が一緒に応援団をやってくれるという2年生の男子生徒2名を連れてきた。野球部員たちは脱帽して「ちわっ」と挨拶をした。ナマエもそれに倣って挨拶をした。おにぎりの配布がない分今日はマネジたちも練習後のあと片付けと明日の準備を手伝う。明日の試合に向けて、あらかじめ持っていく道具をバッグにしまってモモカンの車に積み込んでおく必要があるのだ。明日の試合中に使うスポドリは日中に作って空の2Lペットボトル数本分に入れておいた。氷は朝、球場の近くのスーパーで買っていく。いざという時のためにRICE処置の本や救急箱、サポーターなども必要だ。そうやって色々準備をしているとベンチからガッシャーンという大きな物音がした。
「はーい、起きてくださーい」
阿部の声が聞こえてきた。
『うわ、そういやこんなシーンアニメにあったな』
ナマエは前の世界の記憶を思い出した。当時はこのシーンを見て笑ってたけど、実際にベンチ蹴っ飛ばした阿部を見てると正直笑えない。
『阿部!?ふつーに怖いよぉ』
一瞬仲裁に入ろうかとも思ったが、このシーンは西浦バッテリーの関係性がまた一歩進展する大事なシーンの一つだったことをナマエは思い出したので見守ることにした。篠岡は青ざめていた。
「あれって大丈夫なのかな…?」
篠岡は疑問を呈した
「うーん…。今のはちょっと怖かったね。けど、まあ、あれも2人なりのコミュニケーションだと思って見守ろうか。栄口君と巣山君も様子見てくれてるし。」
「わ、わかった…」
そうして篠岡とナマエは、西浦バッテリーの様子を窺いつつ、明日の準備を進めた。それが終わったらマネジ2人は今日は久々に選手たちと同時に上がる。選手たちはいつも部活の後はコンビニに寄って何か食べ物を食べてから帰途につくらしい。篠岡とナマエもそれに付き合うことにした。ナマエはアイスを買おうと思ってアイス売り場に行った。
ミョウジもアイス買うの?」
水谷が話しかけてきた。
「そー。どれにしようかな?」
「オレは今日はガリガリ君ソーダ味にしよっと」
「あー、それもいいね」
「あー!ミョウジ!アイス!?」
田島が近づいてきた。
「なー、オレ、パピコ食いたい!2人で半分こしようぜ!」
「パピコか!いいよ、久々に食べたい。」
ナマエはパピコを購入して半額分の金額を田島から貰い、パピコを半分こした。
「やっぱ夏の練習の後のアイスはサイコーだな!」
田島がパピコを食べながらそう言った。
「うん、久々のパピコ、超うまいわ」
ナマエはそう返事をした。高い気温の中、まだ梅雨明けしない7月の蒸し蒸しした空気の中で味わうアイスの冷たさはとても気持ちよかった。コンビニで各々購入した食べ物を食べ終わった西浦高校野球部員たちはそれぞれ上り組と下り組に分かれた。ナマエは上り組なので三橋・阿部・花井・沖・泉と一緒に帰る。ナマエは三橋に駆け寄った。
「三橋君、さっきベンチで阿部君が椅子蹴っ飛ばしてたの見えたけど、大丈夫だった?」
ナマエが三橋に話しかけた。
「は?何?」
自分の名前が聞こえてきた阿部が割り込んできた
「いや、阿部君さっきベンチの椅子蹴っ飛ばしてたでしょ?私はちょっと怖かったよ。」
ナマエはハッキリ物申した。
「あー…それは悪かった。こいつが桐青打者の特徴覚えねーで居眠りすっからさ。」
「資料わかりずらかったかな?三橋君」
三橋はビクッとなってから首をブンブン左右に振って否定した。
「資料は悪くねーよ。こいつの問題。」
阿部がそう言った。
「結局覚えられたの?」
「名前と関連づけて覚えさせた」
阿部が答えた。
「なるほど。次回からはそういう覚え方の工夫みたいなのも資料に載せとくよ。化学の"すいへーりーべぼくのふね"みたいなのを考えればいいってことでしょ?」
「そうだな。あったら助かる。」
「おう、任せろ!」
ナマエは右手をサムズアップしてみせた。上り組は、まず花井と別れ、次に沖と別れ、次に阿部と別れた。そうしてナマエは三橋と二人きりになった。ナマエと三橋は家が近いのだ。
「今日はゆっくり休んでね」
「う、うん」
三橋はコクッと頷いた。
「明日、絶対勝とうね」
「か、勝ち、たい…!」
「勝てるよ!だって三橋君はすごくがんばってるもん!」
「うおおお」
三橋は目をキラキラさせて、口をひし形に尖らせて、いつものちょっと変わった笑顔で嬉しそうにした。
ミョウジ、さん…、い、いつも、あ、あり、がとう…!いつも、気に、かけて…く、れてる!」
「私は三橋君のファンだからね」
「フ、ファン!?オ、オレの…!?」
三橋は自分にファンがいると言われて驚いていた。
「そうだよ。それに私は野球部のマネジ!困ったことがあったら遠慮しないで言ってね!」
「う、うん…!」
三橋はまたいつもの変な顔で笑った。そして分かれ道でナマエは三橋と別れた。自転車に乗り家へと向かう。
『いよいよ、明日が夏大の初戦、桐青高校との試合だ…!こっちの世界でも絶対に勝つぞ!私はマネジとして全力サポートだ!』
初の公式戦前日だというのに、ナマエは緊張よりもワクワクした気持ちの方が勝っていた。家に着いたナマエは夕食を食べて、ゆっくりお風呂に入ってリラックスした。その後、就寝の前に明日の試合に必要な荷物をエナメルバッグに詰め込んだ。準備万端だ。ケータイの目覚まし時計をしっかりセットして、その日は早々に眠りに就いた。

<END>