※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:夢小説とはいえ特に誰かと恋愛する予定は今のところないです※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第17章」


 桐青高校との試合に勝利した翌々日の午後、西浦高校は他校の試合観戦のために野球場に来ていた。これは岩槻西高校vs崎玉高校の試合で、この試合に勝った方が西浦高校の次の対戦相手となる。つまり西浦高校にとっては大事な試合なのだ。
「バックネット裏はいっぱいだね。三塁側の内野席で見ましょうか!」
モモカンの指示に従って西浦高校野球部員たちは三塁側へと向かった。選手たちが席に着いたらマネジはジャグにドリンクを作りにいく必要がある。
「じゃあ、行ってくるね」
篠岡がそう言った。今日は篠岡がドリンク作成の担当なのだ。
「行ってらっしゃい!」
ナマエは篠岡を見送った。モモカンは選手たちに田島は怪我しているため次の試合ではポジションも打順も変えると宣言し、次の試合のスタメンの発表をした。その発表が終わるとナマエは今日対戦する2校について事前に収集した情報を選手たちに伝えた。
「先攻の岩槻西高校は県立高校です。部員数は毎年60名超えとなかなかの数がいる中でレギュラーを取得した9名が出場しています。春大は県大会1回戦に出場、昨年の夏大では3回線まで進出しました。ここ10年で力をつけてきた学校です。対する崎玉高校は部員数11名で、そのうち3年生は1人だけ。1・2年生が中心のチームです。春は部員が揃わず不参加だったようです。昨年の夏大は1回戦敗退です。」
ここで篠岡がドリンクを入れたジャグを持って帰ってきた。水谷が「ごめん、重かった?」と声を掛けている。
「これだけ聞けば岩槻西が上っぽいけど、岩槻西はこの試合が夏の初戦なのよね」
モモカンがそう言うと田島が「あ!知ってる!」と言い、崎玉の1回戦の試合のスコアをスラスラと言ってのけた。篠岡とナマエは各々のノートを確認する。
「合ってます!」
モモカンに篠岡が伝えた。
「ま、そういうこと。崎玉には前の試合の勢いが残ってる。どっちが勝つと思う?」
モモカンがみんなに質問した。
「ちなみに、ネットで調べた情報なんですが、今年の崎玉にはなんだかスゴイ1年生が入ったらしいです。5番の佐倉選手。」
ナマエはここで補足情報を選手たちに伝える。すると田島が「それも知ってる!」と言い出した。
「あいつ1回戦10割だよ!」
田島が立ち上がって言った。
「10割って何打席で?」
栄口が質問する。
「6-6。決勝打もあいつ。」
ナマエは自分のノートをチェックする。合ってる。
『田島君って本当にすごい子っ!』
ナマエは目をキラキラと輝かせた。

 そこに花井母と阿部母が登場した。モモカンはこの2人に説明することがあるらしく、しばらく離席すると言った。ナマエは事前にモモカンから父母会がビデオ撮影を手伝ってくれることになったと聞いていたのでその件だろうと察しがついた。ちなみにナマエの母親も父母会メンバーの一員として今日は同じブロックの他校の試合のビデオ撮影に行ってくれている。しかし選手たちはそういったことを知らないようで花井が「なんで知らねーの?」と呆れていた。

 さて、ナマエは今日も試合を観ながらスコア表を書き起こしていく。篠岡は打者の立ち位置やスタンスや打球の方向・種類などをチェックしてくれるらしい。配給表は試合が終わってから父母会メンバーに撮ってもらったビデオの録画を見て書き起こす予定だ。
「なー、ミョウジ、5番のあいつって前の試合何打点?」
泉が訊いてきた。
「えっとね…―――」
ナマエはノートを開いて前の試合の詳細を確認し、泉に回答した。ついでに4番の小山の打点も伝える。
「4番もそこそこ打つんだな」
「4番の小山選手が唯一の3年生で主将だよ」
「そうなのか。サンキュ。」
泉は自分の席に戻っていった。そんな折、阿部が三橋に何か怒鳴ってる声が聞こえてきた。
『またやってる…』
三橋がピューッと逃げていくのが見えた。ナマエが阿部に一言言ってやろうかと思って立ち上がると沖が阿部をやんわりと注意しているのが聞こえてきた。
『おお?沖、えらいじゃん!』
ナマエはここは沖に任せることにした。ナマエが再度座ると篠岡が話しかけてきた。
「どうしたの?」
「いや、阿部が三橋君に怒鳴ってたから止めに行こうと思ったんだけど、沖君が仲裁してくれた」
「あー、なんか大きな声出してたね」
篠岡はいつも通りオペラグラスを使って試合を観戦している。
「私も親から双眼鏡借りてきたよ」
「おっ、いいね!」
「ねー、千代ちゃん、今度からマネジ共有の情報ノート作らない?今ってお互いに別々にノートにデータ取ってるじゃん。今でも適宜情報交換はしてるけどそもそも最初から共有ノートあった方がよくない?」
ナマエは篠岡に提案した。
「いいアイディアだね!毎日昼に草刈りで会うし、その時に共有ノート更新するのを日課にしようか」
「そうしよう!」
その後はナマエは黙々とスコア表を書き起こしていった。篠岡も順調にデータを取れているようだ。
 延長となった10回裏で5番佐倉がサヨナラホームランを打った。
「まだ1年生なのにやってくれるねえ。次の対戦相手は崎玉で決定だね。」
ナマエは隣の篠岡に話しかけた。
「今日のビデオ受け取ったら配給表作らなくちゃね。今回は私がやるね。」
篠岡が答えた。
「うん、よろしく!配給表できたらまた打球の詳細情報まとめたり、各打者の得意コース・苦手コース分析しよう。」
今回は桐青戦の時ほど時間がないのであそこまで詳細なデータ分析はできないだろうが、ナマエは当然マネジとして最大限力を尽くすつもりだ。

 試合観戦の後、選手たちはいつも通りランニングしながら裏グラへと帰った。マネジ2人は自転車で追いかける。裏グラに戻ったらモモカンから阿部母と花井母からの差し入れのバナナでプロテインジュースを作るようにと指示があった。ナマエは備品棚からミキサーとプロテインパウダーを取り出した。そしてバナナの皮を剥いていく。篠岡はテニスコートの傍の蛇口まで水を汲みに行った。バナナとプロテインパウダーと水をミキサーに入れて、スイッチオン!これだけでバナナプロテインジュースの完成だ!
「阿部君ちと花井君ちからの差し入れで、バナナプロテインジュースだよー!」
篠岡が選手たちに呼びかけるとわあっと人が集まった。水谷は上半身裸だし、田島に至ってはパンイチだ。マネジの2人はもう選手たちの着替えはさんざん見てきたのでもう慣れた…とはいえさすがにパンイチで歩き回るのはいかがなものかとナマエは思った。
「田島君、せめてズボンくらいは穿いてくれ」
「おお、ワリー、ワリー!」
 バナナプロテインジュースを飲み終えたらミーティング開始だ。今回はナマエがミキサーやカップを洗うので、篠岡にはミーティングの書記をやってもらった。ちなみに蛇口の側でミーティングしてくれてるので、洗い物をしながらでもナマエも声は聞こえる。花井が司会進行をしながらミーティングは進み、メンバーから様々な意見が出た。ナマエが洗いものが終わって篠岡の隣に立ったところで今度は阿部が口を開いた。
「次はコールドにしてほしい」
ナマエを含めた全員が「…へ?」という反応をした。
「このまんま行くと早けりゃ次の試合でうちは三橋から崩れるよ」
三橋がギクっとして青ざめているのが見えた。それに三橋は何かを言いた気な様子だ。
「……、オ、オ」
「"オレ投げれる、よ"だろ!」
阿部が三橋が言わんとしていることを代弁する。それを聞いた選手たちは「三橋言いそう」とか「阿部似てねえ」と言いながら笑っている。
『三橋はホントにそれを言いたかったのかな?』
ナマエはまだもじもじしている三橋を見て、三橋の言いたいことはそれじゃないんじゃないかと思った。でもここで三橋に話を促しても、きっとうまく言葉にできないだろう。ナマエはもうちょっと様子を見守ってみることにした。
「……え、あのさ、狙ってやれんならやりてェよ。だってふつーにそのーが楽だしな?」
花井はコールドを狙ってやれるもんなのか疑わしく思っているらしい。
「うん!いいかもね!」
モモカンは阿部の提案に乗り気だ。崎玉は失点が多いからこっちが点をやらなきゃ難しくないと言う。
「5番はどうすんの?」
花井が問う。
「5番は敬遠する」
阿部が断言した。みんなが「うおっ」と面食らった。ナマエも同様だ。
「ハッキリ敬遠するのは相手のやる気を削ぐためか?」
「おー。崎玉は5番が精神的支えになってんだろうからな。そいつが勝負さしてもらえねーとなりゃベンチが腐んだろ。そうしたら5番以外の動きはスゲー鈍るぜ。」
その阿部の戦略を聞いて、ナマエは素直に『スゲー!』と思った。
『阿部は西浦の参謀だな』
ナマエは前の世界でアニメおお振りを観たがそれは桐青戦までだったのでこの後の展開はもう一切知らない。阿部がコールド狙おうと提案するのも、敬遠をすると宣言するのも、初耳だ。まあ、今までが特別だっただけでこれが普通なのだ。
『今後は私にはもうアドバンテージはないんだ。アドバンテージがなくなっても、野球部のマネジとして全力で勝ちに貢献しなくちゃ!』
「おし、あと4日、そういう気持ちで練習すっからな!コールドやんぞ!」
「おおお!」
西浦高校は次の3回戦でコールド勝ちを狙いに行く!

「スクリューの練習したいんだけど、ナマエちゃんか千代ちゃん付き合ってくれる?」
モモカンがマネジの2人に声を掛けた。ナマエは配給表を書けるようになるために猛特訓したのでだいぶ動体視力も鍛えられてきた。しかし、それでも中学自体にソフトボール部で選手をやっていた篠岡にはまだ敵わないだろう。
「千代ちゃんの方が適任だと思うんだけど、お願いしていい?」
「うん、いいよ」
ナマエは篠岡がモモカンの投球練習に付き合っている間に水撒きを開始した。すると栄口と三橋と阿部が3人でなにやら会話し始めたのが見えた。ナマエは『これは何か大事なことを話している気がする』と思い、その3人に近づいてこっそり聞き耳をたてた。
「……ああ、次マウンド降りろって言われてもマウンド降りないかもってこと?」
栄口がそう言った。
「……あ、阿部君、が、ダメって言ったら、そん時、は、もうオレ、ダメなんだ。だから、だけど……、……でも、…オレが…っ、ゆうこと聞かなかったら……オレの球、もう捕らないでほしい。そうすればオレ、目、覚める、はずだ。オレが、一人で、投げても、イミないんだから……!」
三橋はそう言って俯いた。ナマエはその三橋の言葉を聞いて、三橋が桐青戦の最後にマウンド降りるように言われても降りなかったことでそこまで思いつめていたことを初めて認識した。球技大会の日のカレーの時に阿部が言っていた通り、あれは三橋を鼓舞するための演技でホントに三橋に降りてほしかったわけじゃないし、というか今の西浦に三橋に替わって投手をやれる実力のある選手はいないのでむしろ三橋に降りられたら困るのだが、中学時代に自分がマウンド譲らなかったせいで負けたと思ってる三橋にとってはマウンド降りられなかったというのは強烈に自分のトラウマを刺激する出来事だったのだろう。
『三橋の支えになりたいなら、もっと三橋のことよく見てあげなきゃダメだ』
今までは前の世界で観たアニメおお振りの知識を使って適宜三橋をサポートしてきたナマエだったが、今後はそうはいかない。選手たちのサポートのために常にアンテナを張り続けて、自分の力でどうしたら選手たちの力になれるか考えていかなきゃいけないのだとナマエは再認識した。

 篠岡がモモカンと投球練習をやっている間、ナマエは一人で他のマネジの仕事をこなした。ジャグにドリンクを用意して、炊飯して、それから今日試合観戦しながら作成したスコア表を元に崎玉に関するデータ分析を行った。炊飯が終わった辺りで篠岡が帰ってきた。一緒におにぎり作りをして19時の休憩時間にはいつも通り選手たちにおにぎりを配布した。その後はマネジ2人は先に上がらせてもらう。
「じゃあ、私は今日の夜のうちにビデオ見ながら家で配給表作ってくるね!」
校門のところでの別れ際に篠岡がナマエに言った。
「よろしくね!明日の朝、配給表のコピー取らせて。午後の部活までに私も目を通しちゃいたい。」
「わかった。じゃ、また明日!」
「うん、またねー!」
篠岡とナマエは別れを告げた。翌日、篠岡が作ってきた配給表のコピーを貰ったナマエは一通り目を通した後、休み時間の度に7組を訪れて篠岡と2人でデータ分析に勤しんだ。
「なんか、ミョウジってもう7組にいるのが当たり前になってきたな」
水谷がナマエに話しかけてきた。
「私ももう7組に入るのに全く躊躇しなくなってきたよ」
ナマエは笑いながら答えた。
「逆に最近は阿部がしょっちゅう9組に行ってるよな」
花井も会話に参加してきた。
「あ、そうなんだ。じゃあ、私と阿部はすれ違ってるわけだ。阿部は三橋君に話しかけに行ってるの?」
「そーみたいよ。あ、帰ってきた。」
水谷の言葉を聞いてナマエが扉の方を見ると阿部が教室に入ってくるところだった。
「あ?何?」
「今ちょうど阿部がよく9組に行ってるって話をしてたんだよ」
水谷が答えた。
「んで、逆に毎日私が7組に来てんの。うちら、すれ違ってるね。」
「ああ、データ分析してんのか」
スコア表と配給表を見ながらノートにデータを書き出している篠岡とナマエを見ながら阿部はそう言った。
「配給表作り終わってんの?ちょっと見して。」
「はいよ」
ナマエは阿部に配給表を渡した。
「午後の部活開始までにはデータ分析完了させるから」
「ん、あんがとな」
阿部は配給表をナマエに返してきた。ナマエはそれを受け取る。もう休み時間が終わるのでナマエは9組に帰ることにした。
『ノートパソコンが欲しいな』
9組の教室に帰りながらナマエはそう思った。今はマネジ共有ノートを作ってそこに手書きで打者の手を出した球・見送った球や打球の詳細情報を書き出しているが手書きはなかなか大変だ。この時代はまだスマホはないし、ナマエは前の世界にいた頃は仕事でパソコンを使っていたのでパソコン操作には慣れている。
『ちょっと高い買い物だけど、お母さんにお願いしてみようかな』
ワードやエクセルさえ使えればいいからそこまで高スペックなパソコンである必要はないはずだ。ナマエは一人っ子だし、この世界のミョウジ家は住んでいる家の様子などからして比較的裕福な家庭に見える。言うだけ言ってみても損することはないはずだ。

 その日の放課後、なんとかデータを作り上げた篠岡とナマエは作成したデータ表をモモカンに渡した。モモカンはさっそく花井と阿部を呼んでデータ解析を始めた。そしてその日はいつも通りにマネジの仕事をこなしていつも通り19時半前には上がった。家に帰ったナマエはさっそく母親にノートパソコンを買ってほしいとおねだりをしてみた。
「そんなハイスペックのパソコンじゃなくていいの。ある程度データ容量があって、オフィスソフトが搭載されてればいいから!買ってくれるなら、今年は誕生日もクリスマスもプレゼント要らないし、来年のお年玉も要らないから!」
「そうねえ、マネジのお仕事で必要なんだもんね。今日の夜にお父さんに相談してみるね。ナマエちゃん、今年から毎朝自分でお弁当作ったり月曜日は晩ごはん作りもやってくれてお母さんもすごく助かってるから、そのご褒美って言ったらお父さんも納得してくれるんじゃないかな。」
「お母さん、ありがとう~っ!お願いします!」
ナマエは母親に頭を下げた。

 翌朝、起床したナマエが自分のお弁当作りのためにキッチンに立っていると母親が起きてきた。最初の頃は母親と一緒にお弁当を作っていたナマエだったが、毎日お弁当作りを4ヶ月続けた結果、ナマエの料理の腕はかなり上達した。今はお弁当作りくらいならもう1人で作成できるようになったのだ。だから最近は母親よりもナマエの方が早起きだ。
「おはよう、お母さん」
ナマエちゃん、おはよう。ノートパソコンの件ね、お父さんから許可貰ったよ。クリスマスプレゼントの前借り&毎日お料理作りがんばってくれてるご褒美ってことで。誕生日プレゼントとお年玉は別でちゃんとあげるよ。」
「ホントに!?ありがとう!」
「次の試合の前日って練習早めに終わるんだよね?車で迎えに行くから家電量販店に買いに行こっか。」
「うん!」
こうしてナマエは崎玉戦の前日の夜に自分用のノートパソコンを手に入れたのだった。ついでにパソコン持ち運び用のケースやモバイルバッテリーも買ってもらった。
『これでデータ分析が捗るぞ~!』
今までは家にある父親のデスクトップパソコンを借りていたため、家でしかパソコン関連の作業はできなかった。しかし、これからは学校の休み時間や部活中、試合中なんかもノートパソコンで作業ができる。ナマエはマネジとしてもっと活躍してみせると心に誓った。

さあ、明日はいよいよ夏大3回戦。崎玉高校と対戦だ!

<END>