「おお振りの世界に異世界トリップ 第29章」
夏合宿が終わって8月になった。昨日夏の合宿を終えたばかりだが、甲子園優勝を目標とする野球部に休みなどない。合宿明けの今日も朝9時から20時半まで練習だ。ナマエは8時40分に裏グラに到着した。まずはベンチの隣にある倉庫で運動着に着替えをする。ナマエが着替えている途中で篠岡も入ってきた。2人で着替えを終えてベンチに戻ると選手たちが続々と裏グラに到着していた。篠岡とナマエはベンチで着替えをしている男子たちに「おはよー」とあいさつをしながらホワイトボードの方へを向かった。4月頃は男子たちの生着替えに狼狽えていたナマエだったが、野球部のマネジになってもう4ヶ月も経ったのだ、さすがにもう慣れた。篠岡とナマエはホワイトボードで前日のトレーニングの順位を確認した。夏合宿中は父母会メンバーが食事や洗濯などの手伝いに来てくれていたので17時のおにぎり作りは必要なかったが、今日からはまたおにぎり作り再開だ。順位の確認が終わったら次は差し入れの確認をするため篠岡とナマエは保冷バッグの方へと向かった。
「今日も色んな具材の差し入れがあるね!」
篠岡がそう言ってニコッと笑った。
「これだけあれば今日も買い出しに行かなくてもよさそうだね。はー、すっごい助かる~!」
ナマエは篠岡にそう返事をした。甲子園優勝が野球部の目標になってから野球部の練習は以前よりもハードになった。その分マネジの仕事も増えたし、この忙しさと暑さの中で自転車を漕いでスーパーに買い出しに出かけるのは結構負担なのだ。だから選手たちの各家からこうして差し入れを貰えるのは非常にありがたいことだった。篠岡とナマエが誰に何の具のおにぎりを出すか相談し合っているとモモカンが裏グラに到着した。時刻はもう9時になろうとしている。
「みんな、おはよう」
モモカンが野球部員にあいさつをした。野球部員たちは全員で「ちわっす!」と言いながら脱帽して頭を下げた。モモカンはベンチにある2個目のホワイトボードに今日の練習スケジュールを書き込んていった。そして9時になると野球部員全員がモモカン前に集まった。モモカンから今日の練習メニューの説明を受けたらさっそく本日の練習がスタートだ。ナマエは今日はドリンク作成担当なのでジャグとおにぎりの具材を持って数学準備室へ向かおうとした。
「ミョウジ、オレも途中まで一緒に行く」
阿部がナマエを呼び止めた。
「ああ、そっか。阿部は今日もトレーニングルームで筋トレだもんね。」
「そー。午後はまたブルペン入らせてもらえるけどな。」
「あ、ちょうどよかった!スポーツ栄養学の本持ってきたから渡そうと思ってたんだ。」
ナマエはベンチに置いてある自分のエナメルバッグのところへと戻って本を一冊取り出した。
「はい、これ」
ナマエは阿部に本を差し出した。
「おう、サンキュ!」
「早く返そうとか思わなくていいよ。満足いくまで好きなだけ読んで。」
「おー、わかった。さっそく筋トレの休憩の合間に読み進めるわ。」
阿部は自転車の前かごにタオルや着替え用のアンダーや本を置いた。一方、ナマエはジャグを自転車の荷台に紐で括りつけた。
「んじゃ、行こうか」
阿部とナマエは校舎へと向かって自転車を漕ぎ始めた。片足でしか自転車を漕げない阿部に合わせてスピードはいつもよりややゆっくりだ。
「もう8月だねー」
自転車を漕ぎながらナマエは阿部に言った。
「朝っぱらからクソあちーよなァ」
「んね。もー、すごい日焼けしちゃったよ。野球部に入部する時点で覚悟はしてたけどさー。」
ナマエは自分の左腕を阿部に向かって掲げて見せた。
「いや、ミョウジはもともとがすげー色白だし、それでもまだ白い方だろ。」
「んー、まあ、たしかに日焼けしても赤くなって終わるタイプではある…かな。でも今のこの腕の色は私史上1番焼けてるの!」
ナマエがそう言うと阿部は自転車を漕ぐ足を止めた。阿部に合わせてナマエも立ち止まる。
「阿部、どした?」
「ミョウジ、ちょい腕こっちに出して」
阿部に言われるがまま左腕を阿部に向けて差し出すと、阿部は自分の右手をナマエの横に並べるようにして差し出した。ナマエの腕と比べると阿部の腕の黒さが際立つ。
「わー、阿部の腕、すごい焼けてる!」
「だろ?だからお前なんかまだまだだってこと。」
阿部はニッと笑った。そして阿部はまた自転車を漕ぎ始めた。
「あ、阿部、熱中症には気を付けるんだよ!筋トレやるんだから室内でも気を抜いちゃダメだよ!」
「わーってるよ。オレは小学生の頃から野球やってんだぞ。」
「そかそか。…そうだ、ジャグのドリンク作成終わったら、空のペットボトルにスポドリ入れて持っていくね。」
「おーマジ?あんがとな。」
校舎についたら2人は一旦別れを告げて、阿部はトレーニングルームへ、ナマエは数学準備室へと向かった。ナマエは数学準備室にいる志賀先生にあいさつをした後、おにぎりの具材を冷蔵庫にしまった。それからいつも通りジャグにスポドリの作成をする。ついでに空の2Lペットボトルにもスポドリを作成した。これは筋トレメニューをこなしている阿部の分だ。そして氷の仕込みを終えたら作業完了だ。
「では、志賀先生、私は裏グラに戻りますねー」
「うん、気を付けて。先生も仕事片付けたら行くよ。」
ナマエはジャグと2Lペットボトルを持って数学準備実を後にした。まずは自転車置き場に向かい、自転車の荷台にジャグを設置する。それを終えたら裏グラに向かう前に2Lペットボトルを持ってトレーニングルームに寄った。トレーニングルームの扉を開けると阿部がラットプルダウンで背中を鍛えていた。
「阿部!あ、そのまま続けていいよ。スポドリここに置いとくからね!」
「おう、サンキュ!」
「がんばれよー!じゃ!」
「おう、また後でな」
阿部に再び別れを告げた後、ナマエはジャグを載せた自転車を裏グラへ向かって走らせた。
裏グラに到着すると篠岡は既に水撒きを終えて選手たちのサーキット練習のタイム測定を行っていた。ベンチの蚊取り線香も新しくなっている。今、練習のお手伝いは篠岡1人で足りていそうなのでナマエは備品の棚卸しをしたり、ベンチや倉庫や備品棚を掃除したり、バットやボールの手入れをしたりして過ごした。サーキット練習が終わると選手たちがドリンクを飲みにベンチに押し寄せてきた。選手たちと一緒に篠岡もベンチに戻ってくる。
「千代ちゃん、おつかれー!」
「ナマエちゃん、今日も暑いねー!タイム計測してるだけで汗だくだよ。」
「千代ちゃんもスポドリ飲みなー。熱中症には気を付けないと!」
「うん、そうする!」
サーキット練習が終わったら次はティーバッティングだ。選手たちはまたグラウンドに向かって走って出ていった。ジャグのドリンクはもう既になくなりそうだ。
「じゃあ、私は2回目のドリンク作成行ってきまーす」
ナマエはまたジャグを自転車に載せて数学準備室に向かった。2回目のドリンクは麦茶だ。今回も阿部のために空の2Lペットボトルに麦茶を作ってトレーニングルームに向かった。ついでに氷嚢も用意した。
「やあやあ、阿部君、がんばっているかね~?」
ナマエがトレーニングルームの扉を開けると阿部は休憩中だった。ゼェハァと呼吸が荒いし、汗だくだ。
「あー?ああ、ミョウジか。」
「まだ早いかなって思ったけど、ジャグのドリンク作成ついでに阿部の分の麦茶も持ってきたよー」
「あー、サンキュ。そこ、置いといて。」
「うん。あと氷嚢持ってきた!」
ナマエは阿部に近づいて氷嚢を手渡した。
「おう、助かるわ。オメーはホントに気が利くな。」
阿部は受け取った氷嚢を怪我している膝に当てながらそう言った。
「マネジになるにあたって色々勉強したからね!それにモモカンも高校時代にマネジやってたらしくてさ、色々教えてくれるんだー。すごい教えるの上手いんだよ。さすがモモカンだよね。」
「あの人はホントに指導者の器だよなァ」
阿部はナマエに「スポドリのペットボトル取ってくれ」と言った。ナマエは言われた通りペットボトルを持って阿部に手渡す。
「じゃあ、私は裏グラ戻るね!阿部もあと1時間筋トレがんばれよ!」
「おー。あ、オレ昼はそっち行かずに食堂で食うわ。12時半の昼寝の時に格技場で合流するってあいつらに伝えといて。」
「了解!」
ナマエはジャグを設置した自転車を漕いで裏グラに向かった。阿部からの伝言はキャプテンの花井に伝えた。11時20分からのロングティーバッティングでは篠岡と交代してナマエがモモカンへのボール渡しを行うことになった。午前の間ほぼずっと陽の下で選手たちの練習を手伝っていた篠岡には屋根のあるベンチでしばしの休憩を取ってもらおうと思ったのだ。なんていったってこのカンカン照りの日差しだ、ただタイム計測やボール渡しをするだけでも汗だくになるし疲れるのだ。ロングティーバッティングを30分やったら午前の練習はこれで終了となる。選手たちはダウンに入る。ナマエは3回目のドリンク作成のために数学準備室に向かった。ついでに数学準備室に保管してあるみんなのお弁当を持ってくるのもナマエの仕事だ。
「ただいまー!ジャグとお弁当持ってきたよー!」
「やったー!メシだー!」
ダウンを終えた選手たちがナマエの周りに群がった。
「はい、これ巣山君ね。こっちが三橋君。これは田島君で…―――」
ナマエはもうどれが誰のお弁当箱なのか把握していた。ナマエがみんなにお弁当を配っている間にお弁当がないメンバーは近くのコンビニにランチを買いに行く。といっても全員で行くわけではなく、じゃんけんで負けた人が代表で買い出しに出かけるのだ。今日は栄口がじゃんけんに負けて買い出しに行っていた。その栄口が帰ってきたらみんなで恒例の"うまそう"の儀式をやった後に昼食を食べ始めた。
「そういや新人戦の抽選会っていつ?そろそろだろ?」
巣山が口を開いた。
「明後日だよ。10時からな。オレは9時前にまずここに寄るけどすぐ抽選会に向かうから。たぶん昼前には帰ってこれると思う。」
花井がそう言った。
「今回は花井だけで行くの?」
沖が尋ねた。
「おう。新人戦は地区ごとに分かれてるから抽選会会場があんま広くねーんだよ。」
花井の言葉を聞いてナマエは『へーそうなんだ』と心の中で思った。この世界にやって来るまで野球とは縁のなかったナマエにとっては抽選会なんて未知の世界なのだ。
「花井またすげー強いところ引いたりしてなー」
泉がニヤッと笑った。
「オイ、そういうこと言うなよ…」
花井は青ざめて苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「いーじゃん!強いところ!オレ、すごいピッチャーいるところとやりてェ!」
田島はいつも通りの勝ち気っぷりだ。
「私たちはどこが相手でもデータ収集と解析がんばらなくっちゃね」
ナマエは隣に座っている篠岡に話しかけた。
「うん!やれることをしっかりやろう!」
篠岡はニコッと笑顔を見せた。
篠岡とナマエよりも早く昼食を食べ終えた選手たちはいつも通り昼寝のために格技場へと向かった。篠岡とナマエもお弁当を食べ終わったらさっさと食堂へ移動することにした。夏のグラウンドはただ立っているだけでも暑くて汗だくになるから早く涼しい場所へと移りたかったのだ。スケジュール上は勉強会は13時からだが、篠岡とナマエは一足先に勉強を始めることにした。13時になると昼寝を終えた選手たちが食堂にやってきた。
「おーい!ミョウジー!しのーかー!」
一番乗りなのはいつも田島だ。そんな田島を追いかけてやってきたのが三橋。この2人は自由行動の時は一緒にいることが多い。その三橋の少し後ろを歩いて常に三橋を気にかけているが阿部だ。そして花井は勝手にずんずん進んでいく田島を見張りにやってくる。
「もう勉強始めてたのか?」
田島が教科書とノートを食堂のテーブルに広げている篠岡とナマエの姿を見てそう訊ねた。
「うん、私たちは昼寝は必要ないし、グラウンドは暑いしね」
篠岡が答えた。
「うへえ、自ら率先して勉強するなんてお前らエライなー」
田島がそう言うと花井が「田島は成績ヤバいんだからもっと率先して勉強しろよ!」とツッコんだ。
「まあまあ、田島君も13時の勉強会の時間は西広君からみっちり勉強教わってるし、十分エライと私は思うよ」
篠岡がそう言って田島と花井の間に入った。
「そうだろぉ!」
篠岡からフォローしてもらえた田島はとっても得意気だ。
「よう」
泉がナマエの隣の席にやってきた。
「お、泉君、今日は何やる?夏休みの課題出てる教科からやろっか?」
いつからだったか忘れたが毎日の勉強会の時間はナマエは泉に勉強を教えてあげるのがもう日課になっている。
「そうだな。数学も英語も1日3ページずつこなしていけば夏休み中には終わんだろ。毎日コツコツやっていかねーと。」
「うんうん。じゃ、数学から始めますか。わかんないところあったら声かけて。」
「うす!」
泉とナマエは夏休みの課題の数学のプリント集を開いて問題を解き始めた。時折泉から「ここわかんねえ」と声を掛けられてナマエが教えたり、ナマエにもわからないところが出てきて阿部を呼んだりしながら勉強会の時間は過ぎていった。
14時からは午後練習開始だ。選手がまたアップを始めたらマネジはまた水撒きを行う。それが終わったら夕方の休憩時間に配るおにぎりを用意するためお米を研ぐ。今日はナマエがドリンク作成の担当なので炊飯は篠岡の仕事だ。それから午前中に備品棚の掃除をしていて気が付いたのだがプロテインや蚊取り線香などの備品の在庫がかなり少なくなっていた。今朝、"今日は買い出しに行かなくていいね"なんて会話を篠岡としたところだが、今は手が空いてるし、しかたがないのでナマエは少なくなった備品の買い出しに出かけることにした。篠岡が炊飯をしている間にナマエは自転車に乗って近くのショッピングモールまで足を運んだ。
『マネジ2人で分担してやってる今ですらかなり大変なのに、原作では千代ちゃんが1人でこのマネジの仕事をこなしてたんだよなぁ…』
ナマエはもしマネジが自分1人しかいなかったら…と想像してゾッとした。
ナマエがショッピングモールから帰ってくると選手たちは内野と外野に分かれてノック練習をしていた。篠岡は外野ノックをしているモモカンにボール渡しをしている。ベンチにある炊飯器には付箋が貼ってあって"15時になったらスイッチオン"と篠岡の字でメモが書いてあった。もうまもなく15時になるが篠岡はケータイにタイマーを設置しているはずなので時間になったら自分で気付くだろう。ナマエは買ってきた備品やプロテインを棚にしまい始めた。するとグラウンドからピピピピーッというアラーム音が聞こえてきた。篠岡のケータイのアラームだ。篠岡はモモカンに「すみません、一瞬抜けます!」と言ってからベンチに戻ってきた。
「あ、ナマエちゃん!おかえり!」
「ただいま~。すっごい暑かったよー。」
この猛暑の中、ショッピングモールまで自転車を片道15分も走らせたナマエは汗だくになっていた。
「そうだよねぇ、おつかれさま!」
そう言いながら篠岡は炊飯器のスイッチを押した。ピッという音が鳴る。一方、備品をしまい終わったナマエはジャグからコップにスポドリを注ぎ込んでゴクゴクと飲み干した。
「うー!スポドリ超うまい!」
「あははっ、わかるよ!ついでも私も飲もっかな~。」
「お、私がいれるよ」
ナマエは篠岡の分のドリンクをジャグからコップに注ぎ、篠岡にコップを手渡した。篠岡は「ありがと」と言ってからそれを受け取った。
「千代ちゃんがモモカンにボール渡しするなら、私は内野ノックをやってる巣山君の方にボール渡しするね」
巣山はボール渡しをしてくれる人がいないため都度自分でボールを拾っていた。
「ありがと。1時間後にはご飯が炊けるからそしたらおにぎり作り始めよう。」
「うん!夏合宿中はおにぎり作りやってなかったからなんだか久しぶりな感じがするね!たった1週間しか経ってないのに。」
「毎日すごい濃密な日々を過ごしてるからたった1週間がすごく長く感じるよね」
「それな!!」
篠岡とナマエは顔を見合わせてアハハッと笑い合った。
ノック練習が終わったらちょうど16時だった。ナマエはジャグのドリンク作成ついでに理科準備室の冷蔵庫からおにぎりの具を持って帰ってきた。ベンチでは篠岡が先にお椀を使って丸いおにぎりをどんどん作り始めていた。ナマエも急いで篠岡に合流した。丸いおにぎりを作り終わったら具を詰めて形を三角形に整えていく。
「私はまずシャケやるね」
ナマエは篠岡に声を掛けた。
「うん、じゃあ私はタラコから作ろうかな」
篠岡とナマエは互いに声を掛け合いながら分担しておにぎりを作っていった。おにぎりを作り終わったらマネジの1日の仕事は山場を超えたといえる。あとはおにぎり作りに使った食器を洗ったりベーランのタイム計測をしたりしているとすぐに17時のおにぎり休憩タイムがやってきた。今日は篠岡がおにぎりを選手たちに配り、ナマエはプロテインと牛乳を配布した。選手たちがおにぎりを食べている間にマネジの2人はトレーを水で洗い、ふきんで水気を取って備品棚にしまった。
「おし、休憩終わりだ!素振りやんぞ!」
キャプテンの花井が他の選手たちに声を掛けると選手たちは「おー!」といってバットを手に持ってグラウンドに駆け出していった。「じゃ、私は休憩の間に飲みつくされた麦茶を補充してくるね」
ドリンク作成担当のナマエは空っぽになったジャグを持ち上げた。
「いってらっしゃい。気を付けてね。」
そう言う篠岡は選手たちが牛乳を飲んだコップを水で洗っているところだ。その後はドリンクの補充やタイム計測やその他諸々の雑務をこなし、19時になると蚊取り線香を取り替え、それを最後にマネジは選手たちより少し早く上がらせてもらう。
「ふー、今日も1日終わったー!疲れたー!」
裏グラの倉庫で着替えをしながらナマエはググッと伸びをした。
「アハハッ、夏合宿中は父母会のお母さんたちが手伝ってくれたからちょっと楽できてたもんね」
篠岡はそんなナマエを見ていつもの軽快な笑顔を見せている。
「そーそー。1週間ぶりの通常練習だからかな、今日はいつもよりもちょっと疲れちゃった。」
「わかるよー。それに今日は特に暑かったし。今日の最高気温37度だったんだって。」
「え、やば、殺人的猛暑じゃん」
「だね」
そんな会話をしながら着替えを終えた篠岡とナマエは倉庫を出た。そしてまだみんなが練習をしているグラウンドに向かって「お先に失礼します!」と言ってお辞儀をする。
「はい、2人ともおつかれさま。また明日もよろしくね。」
モモカンが篠岡とナマエにあいさつを返してくれた。練習中の選手たちからも「おー!おつかれー!」「また明日なー!」という声が返ってきた。篠岡とナマエはフェンスをくぐって裏グラの外に出た。校門へ向かって自転車を漕ぐ。
「うお、もう日も暮れたのに空気がまだもわもわしてるわ」
「うん、蒸し暑くて自転車乗ってても全然涼しくないねえ」
「埼玉は暑いって話は聞いたことあったけど、マジで暑いんだね~」
ナマエがそう言うと篠岡は「アハハ、そうだよ、本当に暑いんだよー!」と言って笑った。そして校門まで着いた2人は帰り道が別方向なのでそこで別れを告げてそれぞれ帰途に就いたのだった。
夏合宿明けの初日、無事終了。
<END>