※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:夢小説とはいえ特に誰かと恋愛する予定は今のところないです※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第34章」


 8月10日、甲子園観戦旅行3日目の朝、篠岡とナマエは4時半に目を覚まして身支度を整えた。今日は5時にホテルの1階のロビーに集合することになっているのだ。部員全員が集まったらホテルをチェックアウトしてから桃李高校へと向かった。桃李高校のグラウンドへは6時ちょっと前に到着することができた。
「花井、なんか、アレこっち向いて並んでない?」
栄口が花井に話しかける。その言葉を聞いたナマエが栄口の目線の先を見ると桃李高校の野球部員と思われる人々がずらっとグラウンドに並んでいた。
「ひとつ!」
「道具を大切にする!」
「ひとつ!」
「掃除をきちんとする!」
「ひとつ!」
「応援してくれる人と両親に感謝の心を持つ!」
「ひとつ!」
「気になることをそのままにしない!」
「ひとつ」
「昨日より何か1つでも上手くなる!そうすれば勝てる!絶対勝てる!オレたちは強い!誰よりも!」
「今日も1日全力で行くぞ!」
「おーっ!」
桃李高校の部員は信条にしている五か条を部員全員で大声で読み上げていた。ナマエを含めた西浦高校野球部の面々はその熱意と気合に圧倒された。
「ちわ!」
そうして呆然としている西浦高校野球部員に後ろから声を掛けてきた人がいた。振り返ると桃李高校のユニフォームを着た男の子が立っている。
「西浦高校さん、こっちどうぞ」
「はい!」
キャプテンの花井が代表で返事をし、西浦高校野球部員はその男の子の案内に従って更衣室となる建物へと連れてこられた。
「着替えは波里と一緒なんスけどこの上でお願いします」
「はい!」
花井はそう返事をして建物の2階の部屋へと入っていった。
「あ、監督さんとマネさんは別です」
モモカンと篠岡とナマエが選手たちに続いて建物に入ろうとすると桃李高校の案内人の男の子が3人を引き止めた。女性用の更衣室はここではないらしい。その建物を離れ、桃李高校の男の子についていくと別の建物に到着した。
「女性の方はこちらで着替えをお願いします。中から鍵かけられますんで閉めてくださいな、念のため。」
「はい、ありがとうございます」
モモカンはニコッと笑った。
「着替え終わったらグラウンドに集合ということで。僕らは先に行ってますね。」
「わかりました。すぐに向かいますね。」
「はいっ。では失礼します!」
案内人の男の子はモモカンに頭を下げてから去っていった。
「さあ、ナマエちゃん、千代ちゃん、ちゃっちゃっと着替えてグラウンドに行くよ!」
「「はいっ」」
ナマエは急いで運動着に着替えをした。

着替えを終えたモモカン・篠岡・ナマエの3人がグラウンドに向かうともう3校の選手たちが集まっていた。ガタイのいい野球部の選手がこれだけの人数集まっているとかなり迫力がある。全員が集まったところで桃李高校の福田監督が口を開いた。
「えー、毎年桃李・波里・泰然でやっとった合同練習な、今年は埼玉から西浦高校さんが参加しとってから4校ですんでー。」
「はいっ」
それから福田監督は今日の合同練習のスケジュールについて大まかな説明をした。
「甲子園と同じテンポで試合こなすで!全員がちゃっちゃと動きや!」
「はいっ」
「ほしたら班分け!」
福田監督は桃李・波里・西浦のキャプテンの名前を呼んだ。
「あと、任したで」
桃李と波里のキャプテンは勝手知ったるといった様子で「はい!」と元気に返事をした。花井は一体どういう状況なのか掴めずに頭に疑問符が浮かんでいる。そんな花井を見て波里のキャプテンが班分けの説明をしてくれた。班はポジションごとに分けられるらしい。基本的に今日1日はその班で行動するのだそうだ。
「今、桃李の2年がポジションいいよるけん。呼ばれたら行って。」
説明を受けた花井は「あっしたー!」とお礼を言った。
「マネジ班もあるのかな?私たちは合同練習中は何をすればいいんだろうね?」
篠岡がナマエに話しかけた。
「ドリンク補充とかボール拾いとかかな。…あ、あとは食事の手伝い!」
ナマエはそう答えた。するとちょうど「マネジ班!」と桃李高校のマネジから声がかかった。篠岡とナマエはサッとマネジ班のところへ向かった。集まったのは桃李の男子マネジ1人と篠岡&ナマエの計3人だけだった。
「あれ、波里高校にはマネジはいないんですか?」
ナマエは桃李の男子マネジ(寿浩さんというらしい)に質問をした。
「いや、波里は女子マネが何人かおるけどこの合同練習には来てへんのや」
「ええっ!じゃあ、今日はたった3人であの大人数の選手たちのサポートを…?なかなかハードですね。」
「そやな、3人や人手が足りんけん、うちのBチームの選手にも手伝ってもらうわ。それで何とかなるやろ。」
「ありがとうございます!……あの、私たちこの合同練習初めてで勝手がわからないので寿浩さんにリーダーやってもらえませんか?」
ナマエはおずおずと寿浩に申し出た。
「おう、かまへんよ。というかハナからそのつもりや。わかんないことがあったら何でも訊いてな。」
「「ありがとうございます」」
篠岡とナマエは寿浩に向かって頭を下げた。
「ほな、さっそく朝食作りから始めんで。1時間後には朝食や。大勢の選手に朝メシを配らんといけん。モタモタしてられんで!」
「「はいっ」」
寿浩とナマエと篠岡はさっそく手分けして朝食作りを始めた。炊飯は寿浩が既に仕込んでおいてくれていたので炊きあがるのを待つだけだ。他にはみそ汁を作ったり、仕入れたお弁当を運んで並べたり、食器を人数分用意したりといった作業がある。篠岡とナマエはみそ汁作りを担当することになった。他は寿浩と桃李のお手伝い選手2人(長田と岸川)が担当してくれるらしい。篠岡とナマエは大量の具材を洗い、食べやすい大きさにカットし、それから具材に火が通るまで煮込んだらみそをお湯に溶かした。
「おお、2人とも手慣れてんな」
寿浩は篠岡のナマエの手際の良さを褒めてくれた。篠岡とナマエは「いえ、とんでもないです」と謙遜した。その時、「ミョウジ。篠岡。」と誰かが2人のことを呼んだ。振り返ると阿部が立っていた。
「オレ、今まだティーは参加できねえからマネジの手伝いして来いって言われたんだけど、なんかやることあるか?」
「ああ、そっか。寿浩さん、こちらはうちの正捕手の阿部です。膝を怪我していてティーバッティングには参加できないので朝食作りを手伝ってくれるそうです。」
ナマエは寿浩に阿部のことを紹介した。
「おお、そうか。人手が増えるのはいいこっちゃな。あんたは料理できるんか?」
寿浩は阿部に訊ねた。
「いや、料理は最近始めたばかりの素人ッス」
「ほーか。ほな、キミはみそ汁をお椀に注いでってくれや。3校の部員分やけん、相当な数やで。しっかり頼むで。」
「うっす!」
ナマエはみそ汁が入った鍋を建物の外の長テーブルまで運んだ。
「じゃ、阿部、みそ汁は頼んだ」
「おう」
ナマエはキッチンへと戻っていった。ごはんが炊きあがったので篠岡とナマエは次はどんぶりにご飯をよそっていくことになった。
「どんぶりには山盛りにごはんをよそって上にふりかけを乗せるんじゃ。まずオレが見本を見せるから見とってな。」
寿浩はどんぶりにこれでもかというほどごはんをよそった。おそらく普通のお茶碗の3~4倍の量があるんじゃなかろうか。ナマエはそれを見てギョッとした。
「あの…お弁当もあるのにどんぶりもこんなに食べるんですか?」
「おー。朝から晩までキツイ練習こなしてる選手たちにはこのくらいは必要じゃ。それにようけ食って身体デカなってもらわんと。」
「わ、わかりました…」
ナマエは寿浩の盛り付けだどんぶりを見本にしながら、篠岡と手分けしてどんどんごはんをよそっていった。寿浩と長田と岸川の3人は篠岡とナマエのところに空のどんぶりの容器を運んできてくれたり、ナマエたちがごはんを山盛りによそったどんぶりを外の長テーブルの方へを運んだりしてくれた。そうして朝食の準備を進めているとティーバッティングを終えた選手たちが「さーメシじゃメシ」「腹ペコじゃー」と言いながら長テーブルのところに並び始めた。キッチンで作業していた篠岡とナマエは朝食の配布作業を手伝うために外に出た。篠岡がお弁当を配布する担当、ナマエはどんぶりを配布する担当、寿浩がみそ汁を配布する担当といった形で分担することになった。次々とやってくる選手たちの対応に追われていると三橋の番になった。ナマエは三橋にどんぶりを手渡そうとしたが、そこで三橋の後ろに立っていた阿部が口を開いた。
ミョウジ、三橋の分のどんぶりはおにぎりにしてもらえっか。こいつ朝食後すぐ試合に先発で出るんだよ。こんな量食った直後じゃ動けなくなるだろ?」
「ああ、そっか。わかった。じゃあ一旦三橋君の分のどんぶりは私が預かるね。あとでおにぎりにして練習試合の時に渡すよ。」
「おー、頼むわ」
阿部はナマエにお礼を言った。
ミョウジさんっ、あり、がとうっ!」
続けて三橋もナマエに感謝の意を述べた。
「どういたしまして。じゃ、次は寿浩さんからみそ汁を受け取って。」
「うんっ」
三橋はお弁当とみそ汁を受け取ったら投手班のメンバーと合流して朝食を食べに行った。
「さて、阿部は普通にどんぶり食べるんだよね?」
「おう、オレは試合はまだ出れねえからな。食えるだけ食って栄養取って早く怪我治さねェとな。」
「オッケ、じゃあこれちゃんと完食できるようがんばってね」
「おう、あんがとな」
阿部はそう言って捕手班のメンバーに合流していった。

 選手全員に朝食の配布を終えたらようやくマネジ班(+長田と岸川)は自分たちの朝食の用意を始めた。ちなみに篠岡とナマエにとってはお弁当とみそ汁だけでも十分な量なのでどんぶりのごはんは不要だと断らせてもらった。
「ほーか、女子にはこのどんぶりは多すぎるか。でもなー、そしたらごはん中途半端に余ってまうし、おにぎりにして持ち帰ってくれへん?自分らが食わんでも西浦の他の誰かが間食として食うてくれるかもしれんやろ。」
寿浩はそう言った。
「あー、たしかにそうですね!」
ナマエはそう答えた。どんぶりは1杯で普通のお茶碗の3~4倍の量があるので普通の大きさのおにぎり6~8個分に相当する。西浦の選手の数は10人だ。練習試合を2つもこなせば途中で小腹を空かせる選手はいるだろう。というわけで篠岡とナマエは2人の分のどんぶりごはんをおにぎりにする作業を始めた。それからナマエは阿部から依頼された三橋の分のおにぎり作成も忘れずに行った。三橋の分のおにぎりはラップで包んだ後、他と区別ができるようにナマエのハンカチに包んでおくことにした。
「ほな、マネジ班も朝メシにしよか。こっちやで。」
先頭を歩く寿浩の後をついていくと2階の広い和室の部屋に案内された。各班ごとにまとまって朝食を食べている。もう食べ終わって雑談している班も多い。
「あそこのスペースが空いてんな」
寿浩はマネジ班が座れるスペースを見つけて畳に腰かけた。篠岡とナマエもそれに続いて座った。
「ほな、いただきます~」
寿浩は両手を合わせて食前のあいさつをしてお弁当を食べ始めた。篠岡はナマエの方を振り向いた。
「アレ、やる?」
ナマエは篠岡が言う"アレ"が"うまそう"の儀式のことだとすぐにわかった。
「うん、"せーのっ"で一緒にやろう」
「わかった」
篠岡とナマエはまず朝食をじっと見つめた。
「せーのっ」
ナマエが号令をかける。
「「うまそう!いただきまーす!」」
篠岡とナマエはきれいに声を揃えて"うまそう"の儀式をやってから朝食に手を出した。寿浩と長田と岸川の3人は驚いた顔をしている。
「な、なんや今の?」
寿浩がそう訊ねてきた。
「うちの野球部でやってる食前の儀式なんです。メントレの一種なんですよ。」
「メントレ?今のが?」
「はい。あのですね…―――」
ナマエは寿浩に以前志賀先生から教わった3つのホルモンの説明をした。
「ほーん、そんなことがあるんやね。ほな、せっかくやし、真似させてもらうわ。…うまそう!」
寿浩はそう言って朝食を再開した。長田と岸川も同じく「うまそう!」と言ってから朝食を食べ始める。
「ところで西浦のマネのお2人さんは彼氏とかおらんのですか?」
岸川がおずおずと口を開いた。
「いないですよー」
ナマエは首を横に振った。篠岡も「私もです」と言って笑っている。
「男子運動部員とその女子マネって言ったらやっぱ恋人同士になるのが定番ちゃいますの?もしかして西浦さんとこも部内恋愛禁止だったり?」
今度は長田が口を開いた。
「いや、特にそういうルールはないですね。桃李では部内恋愛禁止なんですか?」
「いや、うちには女子マネおらんからそんなルール設ける以前の問題やわ」
そう言って長田は笑った。岸川も「ははははっ」と笑っている。
「もし女子マネ入ってきたら好きになっちゃいそうです?」
ナマエは追加で質問をしてみた。
「どーやろな。実際に付き合うまで行くかどうかはおいといても、やっぱ多少は意識してまうんやないかな。お2人さんは自分らのとこの選手から想いを寄せられたりとか、逆に自分が選手の誰かに想いを寄せてたりとか、そういうのは全くないん?」
岸川にそう尋ねられたナマエは篠岡に片思いをしている水谷の顔が脳裏をよぎった。それからナマエは篠岡の方をチラッと見た。ナマエは篠岡が実は阿部に片思いをしているんじゃないかという疑念を抱いていた。そして…ナマエは夏合宿の3日目の筋トレルーム前での阿部との出来事も思い出してしまった。
『いやいや、あれはあの場限りの出来事だから!あれ以降は阿部のこと異性として意識してないし!』
ナマエは頭の中で必死に筋トレルーム前での出来事を打ち消した。そして、そういう動揺を顔に出さないようにナマエは努めてポーカーフェイスを作った。
「いやー、少なくとも私は誰にも想いは寄せてないですね。それに自分が想いを寄せられてるかどうかなんて告白もされてないのにわからないですよー。」
ナマエがそう言うと隣に座っている篠岡も「私もわかりません」と続けて答えた。
「ほーか、案外そういうもんなんやなぁ。でもお2人ともめっちゃかわいいやん。モテるやろ?絶対選手の誰かから片思いされてると思うで!」
「いや、どーでしょうねぇ」
ナマエはハハハ…と乾いた笑いをした。ナマエには自分に片思いをしてそうな選手なんて1人も思い浮かばなかった。そうやって雑談をしながら朝食を食べ終わると、マネジ班にはお片付けの仕事が待っている。選手たちが食べ終わった空のお弁当を回収して食べ残しは燃えるゴミへ、お弁当内に敷いてあるプラスチック製の容器は軽く洗ってからプラスチックゴミへ、紙製の箱は解体して資源ごみへと分別をする必要があるのだ。それからどんぶりやお椀などの食器を洗剤で洗わなくてはいけない。食器洗いは寿浩が担当してくれた。キッチンシンクには1人分のスペースしかないので手伝えない。それならば…と篠岡とナマエは食器拭きをやろうとした。
「あ、拭かなくてええですよ。うちはいつも洗ったら自然乾燥なんで。」
岸川がそう言った。
「そうなんですか」
「せやで。やから西浦マネのお2人さんはもうグラウンドに行ってええですよ。練習試合の開始前に色々準備とかあるやろ?西浦さんとこは部員少ないし、マネ2人がおらんと選手たちが困るやろ。」
「あー、そうですね。ではお言葉に甘えさせてもらいますね。」
ナマエはそう答えた。そして篠岡と一緒にグラウンドへ向かおうとした。
「あ、昼になったらまた弁当配布があんねん。せやから第2試合まで終わったらまたここに戻ってきてな。」
食器洗い中の寿浩が振り返って篠岡とナマエにそう言った。
「「はいっ」」
篠岡とナマエは元気よく返事をし、そしてグラウンドへと向かった。グラウンドに到着すると選手たちがトンボでグラ整を行っているところだった。そしてベンチでは怪我をしている阿部がヘルメットやバット等の各種道具を棚へ収納する作業をしてくれていた。
「阿部、やってくれてたの。ごめん、ありがと!代わるよ!」
「お、来たか。こんくらいはオレでもできるから、ドリンク作成やってくんね?オレはやり方よくわかんねーから触らないでおいた。」
「オッケ!」
ナマエはスポドリの粉を取り出し、ジャグを持ち上げて近くに水道の蛇口がないか探した。
「私はメンバー表作成して提出してくるね」
そう言った篠岡はクリップボード・紙・ペンを自分のエナメルバッグから取り出している。
「千代ちゃん、ありがとう。よろしく!」
そうして阿部・篠岡・ナマエの3人で慌しく練習試合前の準備作業をしているとあっという間に8時30分になった。

いよいよ第1試合(西浦高校vs桃李高校)が始まる!

<END>