※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:夢小説とはいえ特に誰かと恋愛する予定は今のところないです※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第39章」


 8月下旬の月曜日、ナマエは野球部のミーティングに参加するために学校の空き教室にやってきた。西浦高校野球部は数日前に新人戦2回戦を迎え、無事勝利を収めたところだった。次の3回戦に勝利すれば秋大のシードを獲得できる。マネジの篠岡とナマエは次の対戦校候補となっている2校のデータ収集・分析を終えたので今日のミーティングではその結果をみんなの前で発表することになっている。席に着いたナマエは篠岡と2人で作成したデータ表を読み返すことにした。
『データ収集・分析結果の発表なんてもう何度もやってるけど毎回緊張するんだよね』
ナマエがそんなことを考えながら頭の中で今日の発表のシミュレーションをしていると「おーい、ミョウジ~!」と呼ばれた。顔を上げると田島と三橋が立っていた。
「な、今日の晩メシ、三橋の家で食おうぜ!」
田島がそう言った。
「え?私はいいけど、三橋君はいいの?」
ナマエがそう言って三橋を見ると三橋はコクッと頷いた。
「いいのか。ちなみに理由は?急にどうしたの?」
元の予定では今日は先週に引き続いて田島家で夕食をごちそうになることになっていた。ナマエはなぜそれが急に三橋家になったのか理由が知りたかった。
「今日の夜は三橋のおばさん家にいるんだってよ。いつもは夜遅くまで帰ってこないことが多いから三橋は夜遅くまであの広い家に1人ぼっちでいるんだよ。教育上良くないだろ~?だからいつもオレんちに呼んでんだ。でも今日はいるらしいから逆にオレらが三橋んち行こうぜ!」
「そーいうことか。わかった。じゃあ、今日は三橋君の家に集合だね。何時に行けばいい?」
ナマエは三橋に訊ねた。
「えっと…たぶん、19時…くらい…?」
「了解」
ナマエはそう返事をした。
ミョウジは今日も残って他校のデータ分析するんだろ?オレはミーティング終わったら三橋と遊びに行ってそのまま先に三橋の家に向かうから三橋の家で待ってるぞ。」
田島がナマエに向かってそう言った。
「あら、そうなんだ。じゃ、私もデータ収集作業が終わったらなるはやで向かうわ。」
ナマエはそう言った。その時、スーツ姿のモモカンが教室に入ってきた。もうミーティングが始まる時間だ。田島は「じゃ、また後でな!」と言い、田島と三橋は自分の席に戻っていった。ナマエは作成した資料をみんなに配布するために立ち上がった。

 ミーティングが終わった後、ナマエは先週と同様に篠岡と一緒に教室に残って他校のデータ収集・解析作業を進めた。新人戦も中盤に差し掛かり色々な情報が入ってきた影響で解析作業は複雑化していった。でも情報がなかった序盤と比べるとやることが明確になったという意味でマネジとしてはやりやすい。作業の進捗が目に見えてわかるというのはモチベに繋がるものだ。
「今日はここまでにしようか」
篠岡がナマエにそう言った。時計を見るともう17時になろうとしていた。
「もうこんな時間か。集中してたらあっという間だね。」
「作業捗った?」
「うん、順調だよ。千代ちゃんは?」
「私もだよ」
篠岡はそう言ってニコッと笑った。篠岡とナマエは机の上の荷物をエナメルバッグにしまい、教室を出た。そしていつも通り校門のところで別れを告げて帰途に就いた。

 帰宅したナマエは軽くシャワーを浴びて汗を流した。それから先週と同様に清楚めのお洋服をピックアップし、ヘアアイロンで髪を整えていく。三橋家には前に一度行ったことがあるし三橋母には試合の時に何度も会っている。なのでナマエが今更見た目を繕っても無駄なのかもしれないが、夕食をごちそうになるのだから礼儀としてちゃんとした姿で行こうとナマエは思った。身支度を整えたナマエは母親に今日は三橋の家に行くことになった旨を伝えてから家を出た。自転車をサーッと走らせたら10分程で三橋家に到着した。時刻は18時半過ぎだ。予定の時刻より少し早い。しかし田島と三橋はもう家に着いているようだった。というもの三橋家の敷地内に既に田島と三橋の自転車が置いてあることにナマエは気付いたのだ。ナマエはその隣に自分の自転車を停めた。そして三橋家の玄関へと向かい、インターフォンを鳴らす。
「はーい」
インターフォンから三橋の母親の声がした。
「こんばんは。西浦高校野球部マネジのミョウジです。」
ナマエはインターフォンに向かって話しかけた。
ミョウジさん、いらっしゃい」
そう言った三橋母のインターフォン越しの声が切れるより先にダダダッという足音が聞こえてきて玄関の扉がガラッと開いた。田島が立っている。その後ろを三橋が追いかけてきた。
ナマエーっ!待ってたぞー!」
田島がそう言った。ナマエは田島に下の名前で呼ばれてびっくりした。てっきり下の名前で呼び合うのは田島家にいる時だけだと思っていたが、三橋家にいる時もそうなのか。
「い、いらっしゃい、ナマエちゃん!もう…、ごはん、できる、よっ!」
三橋はそう言ってナマエにスリッパを出してくれた。
「ありがとう。お邪魔します。」
ナマエはそう言って三橋の家にあがった。ダイニングルームに入ると三橋母がキッチンで料理をしていた。
ミョウジさん、来てくれてありがとうね」
三橋母はナマエの姿を見つけてそう言った。
「今日はお世話になります。よろしくお願いします。」
そう言ってナマエはペコリと頭を下げた。
「あの、夕食作り手伝います!」
ナマエは三橋母にそう声を掛けたが三橋母はニコッと笑って「ありがとう。でも、もうすぐ作り終わるから大丈夫よ。」と言った。
「じゃあ、テーブル拭いて食器並べておきますね。ふきん借りてもいいですか?」
「あら、ありがとう。そこにあるの使って。」
「はいっ」
ナマエはふきんを水で濡らし、ダイニングテーブルを拭き始めた。それを見ていた田島は「オレも手伝う!」と言って、三橋家の冷蔵庫を開けて牛乳と麦茶を取り出したり、食器棚から箸を取り出したりし始めた。
『なんかすごい手慣れてると言うか、三橋家に馴染んでるな』
ナマエは田島の行動を見ていてそんな風に感じた。
「たじ…悠一郎ってもしかしてレンの家によく来てるの?」
ナマエは田島に訊ねた。
「おー、そうだな。基本、月曜の夜はオレんちかこっちくるかのどっちかだし、それ以外でも部活終わりにレンの家寄ったりするしな。月曜はレンがオレんち来ることの方が多いけど。」
「それ、いつからやってんの?」
「えっと?たしか…桐青戦の後くらい…?」
桐青戦があったのは7月11日で、今は8月の最終週だ。つまり約2ヶ月近くの間2人はこうして互いの家を行き来して過ごしていたということになる。
『そりゃ道理で仲良くなるわけだわ』
ナマエはそんなことを考えながら今度はランチョンマットをテーブルに敷いていった。
「なぁ、レンのコップってこれだっけ?オレとナマエはどれ使えばいい?」
田島が三橋を呼んでそう訊ねた。。
「オレの、は、コレ…!こっち、は…お母さんの。そいで、こっち、は、…お、お父さん。」
三橋はそう言ってコップを指さしている。ランチョンマットを並べ終わったナマエも食器棚に近づいた。
「あ…っと、この辺のやつなら、ど、どれでも使って、いーよ」
三橋がそういうと田島は「じゃ、オレはこれ使う」と言ってコップを選んだ。
「じゃあ…今度から、それ、が、ゆうくんのコップ、だ…!」
三橋は顔を赤らめてモジモジしながらそう言った。
「マジ!?オレ用にしちゃっていいの?」
「いい、よっ!」
三橋は三橋母の方を振り返って「いいでしょー?」と言った。三橋母はクスッと笑いながら「いーよ」と返す。
「あ、の…、ナマエ…ちゃん、も、コップ…選んで、いいよっ!」
三橋はナマエの方を向いてそう言った。
「え!わ…、ありがとう。じゃあ…これにする。」
ナマエは三橋に促されるがまま一つコップを選んだ。
『他人の家に自分用のコップが用意されてるってなんか変な感じがするな』
ナマエはそんなこと考えて思わずクスリと笑った。
「さあ、ごはんできたよー!みんな運んでくれるー?」
三橋母が田島・三橋・ナマエの3人に呼びかけた。ナマエたちは「はーい」と返事をして三橋母の立つキッチンへと向かった。

 全ての料理をテーブルに並べ終わったらいよいよ夕食の時間だ。三橋とナマエは田島の方を見た。
「うまそう!」
田島がそう言うと三橋とナマエはそれに続いて「うまそう!いただきまーす!」と声を揃えてそう答えた。それから田島と三橋はすごい勢いで夕食を食べ始めた。
「あらあら、野球部って本当に元気ねえ」
三橋母はそう言って笑っていた。
「やっぱり高校生男子がいると食費すごいかかりますか?」
ナマエは三橋母にそう訊ねた。
「うん!!レンってほんとにすっごい食べるんだよ。10代の男の子ってすごいね。あ、ミョウジさんも遠慮しないでたくさん食べてね。」
「ありがとうございます」
そういってナマエはテーブルの大皿から自分の取り皿へと料理を取り分けた。
「あ、ナマエ…ちゃん、も、こっち、食べる…?」
三橋はナマエの席から遠くに置いてある料理皿を持ち上げてナマエへと差し出した。
「おー、食べる!ありがとう。」
ナマエは三橋にお礼を言った。
「レンはミョウジさんのことも下の名前で呼んでるの?」
2人の会話を聞いていた三橋母が三橋に向かって訊ねた。三橋は一瞬ギクッとなった。それから顔を赤らめつつ「う、うんっ」と返事をして頷いた。
「あら、そうなの!へぇ~、レンに女の子のお友達がいるってだけでも意外なのに、もう下の名前で呼ぶくらい仲良しなのね!」
三橋母はそう言った。とても嬉しそうにしている。
ミョウジさん、この子ね、ミョウジさんから誕生日に貰ったポテチの袋を大事にとっておいてるんだよ」
三橋母はナマエにそう言った。
「お、お母さん!い、言わないで!!」
三橋は顔を真っ赤にして慌ててそう言った。
「え!そうなんですか!?そんなに大事にしてくれるならポテチじゃなくてもっとちゃんとしたものを用意しておけばよかったです。」
ナマエがそう言うと三橋母は「そんな高価な物とか貰ったら申し訳ないわ」と返した。
「でも…じゃあ、次回からちゃんと便箋にお手紙書きます!」
「て、手紙!?」
三橋は顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。反応がわかりずらいが、おそらくこれは喜んでくれているんだろうとナマエは思った。
「てか、また来年もレンの家で誕生日パーティしたいね」
ナマエがそう言うと田島が口いっぱいにごはんを詰め込みながら「賛成!」と言った。三橋は顔を真っ赤にしてモジモジしていた。
「あ!ナマエ!オレ、10月誕生日な!オレにもなんかくれよー。」
田島がそう言った。
「知ってるよ。10月16日でしょ。言われなくても悠一郎にもポテチあげるってば。」
「よっしゃ!オレ、堅あげポテトのブラックペッパー味がいい!!」
「すっごい具体的な注文きたな~!はいはい、わかりましたよ。メモっとくわ。」
そう言ってナマエはケータイを取り出してカレンダーに田島の誕生日を登録した。そこのメモ欄に"堅あげポテト・ブラックペッパー味"と書いておいた。そしてその画面を田島に向かって見せつける。
「ほれ、ちゃんと書いておいたよ」
「おっ、サンキュ」
田島はそう言ってニカッと笑った。

 夕食を終えた後、田島とナマエは三橋母に食器洗いは自分らがやる旨を申し出た。ナマエがキッチンシンクに立って食器を洗い、その隣で田島がふきんで食器を拭いていく。三橋は洗い終わったお皿を食器棚に戻す係だ。
「ありがとうね。とっても助かるわ。」
三橋母は田島とナマエにお礼を言った。
「いえいえ、ごはんとってもおいしかったのでこのくらいはさせてください」
ナマエはそう言った。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね。私は持ち帰ってきた仕事があるから一旦部屋に戻って作業するけど、みんな帰る時は声掛けて。ちゃんとお見送りしたいから。」
三橋母はそう言って自分の仕事部屋に入っていった。

 食器洗いが終わると20時を過ぎたところだった。明日も9時から練習があるのでもう帰ろうかと思ったナマエだったが、ふとあることを思い出した。
「レンの部屋行ってもいい?」
ナマエは三橋にそう言った。
「いいよっ」
三橋はそう言って2階への階段を上り始めた。田島とナマエがその後ろを追いかける。三橋の部屋に入ると相変わらず散らかっていた。三橋の机の上は以前誕生日パーティーで来た時と同様に学校のプリントでいっぱいだった。ナマエは部屋をキョロキョロと見まわした。
「私があげたポテチの袋はどこにしまってあるの?」
ナマエはそう言った。それこそがナマエが三橋の部屋に来た目的なのだ。大事にしてくれていると言われたら、それを見てみたくなった。
「あ、そ、それは…こ、こっちに…」
三橋はベッドに近づいて掛け布団をばっと剥がした。三橋のベッドの上は野球のボールやら飲みかけのペットボトル飲料やら脱ぎっぱなしの服やらが置いてあってごちゃっとしている。そして…ナマエのあげたポテチの袋は三橋の枕元に置いてあった。
『枕元!?』
ナマエはてっきり机の引き出しにでもしまってあるもんだと思っていたのでまさかベッドの枕元置いているとは予想外だった。
『これは、つまり、毎晩一緒に寝ているということ?』
ナマエは三橋が毎晩ナマエのあげたポテチの袋を眺めてそのまま眠る姿を思わず想像してしまった。これは嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。ナマエが思わず顔を赤くすると、三橋もそんなナマエを見てボッと赤くなった。
「あ、あの…あの…」
三橋は目をぐるぐるさせながら何か言おうとしていたが言葉にならないみたいだった。
「"寝る前に嬉しかったことを思い出すのはいい習慣だ!"」
突然田島がそう言った。三橋とナマエは驚いて田島の方に顔を向けた。
「ってシガポが言ってた。オレも寝る前ベッドの上ではリラックスするようにしてる。その日にあった良かったこと思い出したりとかな。」
田島はそう言って三橋の部屋に散らばっていた野球のボールを人差し指でくるくると回した。
「ああ、そういうの聞いたことあるわ。逆にベッドで悩み事とか仕事とかするのは良くないんだってね。」
「そーそー。ベッドがリラックスできない場所って脳に刷り込まれちまうからな。…で、レンにとってはそのポテチの袋が良かった出来事を思い出すアイテムなんだろ?」
田島がそう言うと三橋は頬を赤く染めながらコクンッと頷いた。それを聞いたナマエは胸がホカッとした。
「私のあげたポテチの袋がメントレに役立ってるなら、それはすごく嬉しい!」
ナマエはそう言ってニコッと笑った。
「う、うんっ!すごく、役立ってる、よ!」
それから三橋は「ナマエちゃんっ、あ、ありがとう…っ」と言ってニカッと笑った。いつもの不器用な笑い方とは違う、三橋の本物の笑顔だ。
『三橋からこんな笑顔を向けてもらえるなんて…ポテチあげといてよかった!』
ナマエは心の中で三橋の誕生日にポテチを買うことをひらめいた自分自身のことを褒めてやった。

「じゃあ、私はそろそろ帰るよ」
ナマエはそう言った、時刻はもう20時半になっている。ポテチの袋が三橋の部屋のどこにあるのか確認できたことだし、ナマエはもう帰ることにした。
「じゃー、オレも!明日も朝から練習だしな。」
田島がそう言った。三橋・田島・ナマエの3人は三橋の部屋から出て玄関へと向かった。
「お母さん呼んでくるっ!」
三橋はそう言って三橋母の仕事部屋へと向かった。その間に田島とナマエは靴を履く。
「田島君もミョウジさんも今日は来てくれてありがとうね。もう暗いから気を付けて帰って。」
三橋に連れられて仕事部屋から出てきた三橋母が田島とナマエに声を掛けた。
「「晩ごはん、ごちそうさまでした」」
田島とナマエは声を揃えてそう言ってから三橋母に頭を下げた。
「いいのよ。よかったらまた来てね。」
三橋母はそう言ってニコッと笑った。
「ゆうくんっ、ナマエちゃんっ、ま、また明日!」
三橋が田島とナマエに向かってそう言った。
「おう、またな」
「明日も練習がんばろーね」
そう言って田島とナマエは三橋家の玄関を開けて外に出た。田島とナマエは三橋の家からだと家の方向が逆なので、ナマエは三橋家の門のところで田島に別れを告げた。それから自分の家に向かって自転車を漕いでいく。もう8月も終盤に差し掛かっているというのにまだまだ暑い日が続いている。そして夜になってもその夏の暑さは収まる様子がない。ナマエはムシムシと暑苦しい空気の中を自転車で駆け抜けながら今日三橋がナマエに向かって見せた本物の笑顔を思い出した。
『三橋のあの笑顔は今までも何度か見たことはあるけど、それは全部私ではない別の誰かに向けられたものだった。でも今日は私に向かって本物の笑顔を見せてくれた。』
ナマエは喜びで胸がキューッとなるのを感じた。
『あの笑顔、一生忘れない。私もこれからは毎晩ベッドの上で今日のことを思い出しながら寝ることにしよっと!』
ナマエは今日の三橋の笑顔を頭の中で何度も反芻しながら帰途に就いたのだった。

<END>