※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:今回は泉君との夢小説っぽくなりました※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第41章」


 9月の第1土曜日、西浦高校文化祭1日目を迎えた。当然ながらナマエは田島・三橋・泉の3人と一緒に文化祭を回る約束をしている。
「とりあえず部員とこ全部回ろー!」
田島がそう言った。三橋・泉・ナマエは「おーっ!」と返事をした。
「まず7組行こうよ!グリーンティーカフェやってるんだってさ。午前中に行けば千代ちゃんに会えるってよ。」
ナマエはそう言った。篠岡が浴衣にエプロンを着ているという情報はあえて言わなかった。びっくりさせてやろうと思ったからだ。
「カフェか!なんか食えそうだな。」
泉がそう言うと食い意地の張っている三橋がピクッと反応した。
「しのーかだ!」
1年7組に到着すると田島がさっそく店の前で接客をしている篠岡を見つけた。田島はズンズンと突進するように歩いていく。
「わっ、あうっ」
篠岡は理由はよくわからないが動揺しているようだ。浴衣エプロンで和風メイド姿をしているところを見られて恥ずかしいからなのか、それともズンズンと音を立てて向かってくる田島の迫力に負けたのか。
「わースゲー!浴衣!エプロンも!かっけー!!」
田島は篠岡の周りをぐるぐると回って和風メイド姿の篠岡を眺めた。篠岡は「うへ」と言いながら困惑している。
「かっけーじゃねーよ。かわえーだろ。」
泉がそう言った。それを聞いた篠岡はボッと顔を真っ赤にした。
「あ、ありがとう…」
篠岡は褒めてくれた泉にお礼を言った。
「いーえ」
顔を真っ赤にしている篠岡を見て、つられて泉まで頬を赤く染めている。
「千代ちゃん、和風メイドさんマジでかわいい!超似合ってる!記念に写真撮ろうよ!」
ナマエが篠岡にそう言うと泉が「まー、まずは中に入ろうぜ」と提案した。
「入っていー?」
田島が篠岡に訊ねた。
「どーぞ、どーぞ!」
篠岡はナマエたちを中へと案内してくれた。
「花井たちいんの?」
田島がそう言うと篠岡は「花井君は午後当番で、阿部君は今お茶当番。水谷君はレジ係やってる。」と答えた。ナマエは篠岡の言葉を聞いてレジの方を見た。水谷が笑顔でこちらに手を振っていた。
「じゃあ、水谷の近くの席に座ろうぜ!いいか?」
田島が篠岡にそう訊ねた。篠岡は「うん、いいよ」と言った。ナマエたちが着席すると篠岡は改まって「ご注文はいかがなさいますか?」と訊ねてきた。
「はいはーい!オレはあんこ!」
田島が手を挙げながらそう言った。
「オレはやっぱみたらしだな」
次に泉が注文した。
「あ、私もみたらしだんごで!」
ナマエが泉に続いて答えた。そして最後は三橋の番だ。だが、三橋は篠岡を見てポケーッとしていた。顔が真っ赤だ。
「三橋君はどうする?」
篠岡が尋ねると三橋はハッと我に返ってあたふたし始めた。
「オ、オレ…オレ…、は、磯部だんご…に、します…」
三橋がそう答えた。篠岡は注文をメモに書いていく。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
続けて篠岡が尋ねた。
「だんごに合わせるなら緑茶じゃね?」
「そーだな」
泉と田島がそう言った。
「うん、私も緑茶にする。三橋君は?」
ナマエは三橋の方を見た。
「あ、オ、オレも…!」
三橋がそう言うと篠岡は「緑茶4つ承りました。」と言い、お辞儀をしてから去っていった。知り合いでも丁寧に接客してくれる篠岡を見てナマエは『さすが千代ちゃん』と思った。
「今日のしのーか、かわいいーな」
篠岡が去った後、田島がそう言った。
「それはジャージよか浴衣のがかわいーってこと?」
篠岡に片思い中の水谷はすかさず食ってかかる。
「何つっかかってんだ。中身コミに決まってんだろ。」
泉がそんな水谷を制した。
「ジャージの時はなんかお母さんぽいんだよなー」
田島がそう言うと泉は「わからなくもない」と言って同意した。
「ええ!?あんなかわいい子がお母さんに見えるってキミたちちょっと贅沢すぎない?」
ナマエは田島と泉にそう言った。すると水谷も「だよな。お母さんてこたねーだろ。」とナマエに同意した。
「え、てか私もお母さんぽいと思われてたりする?」
ナマエは田島と泉に訊ねてみた。
「「いや、それはない」」
田島と泉がキッパリ否定した。
「なに!?なんで私は違うの?私は何なの?千代ちゃんと何が違うの?」
ナマエは内心『千代ちゃんと違ってかわいくないからとかいう理由だったらどうしよう!?』と思った。ドキドキしながら田島と泉の回答を待っていると田島が口を開いた。
ミョウジは…姉貴って感じ!」
それを聞いた水谷が「いやー、姉貴というより姉御って感じじゃねー?」と言った。
「おお、それいいな!よっ、姉御!」
そう言って田島がナマエをひやかした。
「なんで千代ちゃんはお母さんで、私は姉御なのさ?」
「うーんとだな、しのーかは優しく包むように世話してくれる感じなんだよ。だからお母さん。ミョウジはオレらのシリを叩くようにして導いてくれる感じだからお母さんじゃなくて姉御。」
田島がそう説明した。ナマエはその説明を聞いてホッとして胸を撫でおろした。
「ん?どしたよ?」
泉はそんなナマエの様子を見て疑問を抱いたらしくナマエの顔を覗き込んできた。
「いやー、もし"しーのかと違ってミョウジはかわいくないから"とか言われたらどうしようかと思ってたんだよね。さすがにそんなこと直接言われたら私でも傷付くもん。」
「んなこと言うわけないだろ!」
泉は大きな声でそう言った。
「オレは絶対言わねえし、もしそんなこと言うヤツがいたら絶対にオレが許さねえよ。ミョウジは篠岡のことかわいいって言うけど、ミョウジだってかわいいだろ!」
泉の声のデカさと迫力にナマエを含めたみんなが驚いていると泉はハッと我に返ったようで次第にカァァっと顔が赤くなった。
「わりぃ、つい声がデカくなった」
今や泉は耳まで真っ赤になって俯いて小さくなっている。
「アハハッ、泉君、ありがとうね!泉君は本当に男前だなー!女子のことちゃんと褒めてくれる高校生男子ってなかなかいないよ。みんな恥ずかしがったり、逆にブスとか言ってきたりするもん。」
ナマエはそう言ってニコッと笑った。泉が篠岡と比較してナマエのことを貶すヤツがいたら泉は黙っていないと宣言してくれたことが心底嬉しかったし、泉はナマエのことを本心でかわいいと思ってくれていることが伝わってきてそれもとても嬉しかった。そして顔を真っ赤にして照れている泉がかわいらしくてとても愛おしくなった。
「…ブスはさすがに小学生の言うことだろ」
泉はナマエにツッコミを入れた。真っ赤になっていた顔も少しずつ落ち着いてきたようだ。
「おー、だんごとお茶ー」
後ろから声がして振り返ると阿部が立っていた。阿部が持っているお盆には5人分のだんごとお茶が載っている。
『あ、こいつ、一緒に食べる気だ』
9組野球部の4人全員がそう思った。
「お茶係はいいのか?」
すかさず泉がツッコミを入れる。
「雑だからやんなくていーってさ」
阿部はそう言いながらナマエたちのテーブルに着席した。
「お前らのクラスは当番ねーの?」
阿部がナマエたちに訊ねた。
「ない」
「展示だからな」
田島と泉が答えた。
「んじゃ一緒に榛名の投球解析やんね?」
阿部は野球部マネジ共有ノートを取り出しながらそう言った。篠岡から借りたのだろう。田島と三橋は即座に「やるっ」と食いついた。一方で泉はクラスの当番中であるにもかかわらずそれを平然とサボろうとしている阿部に疑問を呈した。
「いーのか?」
泉は水谷に訊ねた。
「阿部ってクラスではこんなんよ」
「…そーなんだ……」
それから泉はナマエの方を見た。
「どー思う?」
「やべーヤツだと思う」
ナマエはそう即答した。泉は「だよなァ」と言った。
「でもさー、部員のとこくらい回ってからでいんじゃない?」
水谷は盛り上がっている田島・三橋・阿部に向かってそう言った。それに対して阿部は「は?」と返事をした。
「そーだった!そいから榛名だ!おし、スグ!」
田島はそう言って急いでだんごを口に放り込んだ。
「えー、いらねーだろ。積極的になんかやってるやついねーだろ?」
阿部は文化祭には全く興味がないらしく、すぐに榛名の投球解析をやりたいらしい。
「でも、い、行きたい」
三橋がそんな阿部に対してモノ申した。
「なんで」
一方で阿部はそう冷たく言い放った。阿部がどんな人間か知っているナマエはその"なんで"は単に理由が知りたいだけだとわかるのだが、一般的にはその物言いでは否定や拒絶をしていると誤解を生みそうだ。
『三橋はわかってる側…だよね?』
ナマエはチラッと三橋の顔を見た。
「い、行きた…――」
三橋は再度そう言った。
「なんでだーっつってんだろ!!」
阿部は理由を訊ねてるにもかかわらず"行きたい"しか言わない三橋にしびれを切らして怒鳴った。
『ありゃ、こりゃマズいか?』
ナマエはそろそろ阿部と三橋の仲裁に入ろうかと口を開きかけた。だがナマエが口を出すより先に三橋が口を開いた。
「みんなんとこ、文化祭、見たいんだ!」
三橋は目をキラキラと輝かせてそう言った。
『おお…!三橋、ちゃんと阿部に気持ち伝えられたじゃん!2人の関係性もだいぶ変わったな!』
三橋はGW合宿の頃は阿部に嫌われるのが怖くて何も言えないで泣いていた。そんな三橋の姿を見てきたからこそ、こうして三橋が阿部にモノ申すことができるようになったことにナマエは深い感慨を覚えた。
「じゃ、回ってからでいーや」
阿部はそう言った。阿部は他人の情緒に鈍感なところがあって言い方が冷たく感じられる時もあるが決して悪いヤツではないのだ(狡猾な面はあるけどネ)。
「よかったー。私も少しくらい文化祭気分楽しみたいと思ってたんだよね。三橋君、阿部にモノ申してくれてありがとね。」
ナマエは三橋にお礼を言った。三橋は「おお!ミョウジさんもかっ!」と言いながら頬を赤く染めて嬉しそうにしていた。一方、阿部はナマエたちと一緒に部員のクラス巡りをするために立ち上がって腰に着けているエプロンを外そうとした。
「あ!阿部、ちょっと待って!」
ナマエはそんな阿部に声を掛けた。
「は?なに?」
「写真撮ろう!みんなで!阿部はエプロンをしたままで!」
「なんで?」
「文化祭の思い出を記録に残すためです!もう2度と阿部のエプロン姿は見れないかもしれないじゃん!貴重なエプロン姿を写真に収めておきたい!」
阿部は目的や理由がわからないと応じてくれない人なのでナマエはちゃんと説明をした。
「はー?オレは普通のエプロンを着けてるだけだぞ?女子みたいに手の込んだ衣装を着てるわけでもないのに写真なんか欲しいのか?」
「欲しいですね。手が込んでるかどうかなんて関係ないのです。大事なのは文化祭でしか見られない服装なのかどうかという点なのです。」
「ふーん。じゃあ、早く撮ろーぜ。」
どうやら阿部はナマエの説明で納得したようだ。
「ねぇ、みんな、写真撮ろー!千代ちゃんも!水谷もね!」
ナマエは大声でその場にいる野球部員全員に呼びかけた。それからナマエは7組のクラスの女の子に依頼してケータイで写真を撮ってもらった。
「千代ちゃんとはツーショットが撮りたいな」
「うん、いいよ!撮ろう!」
篠岡はニコッと笑った。
「水谷撮って~!」
ナマエがそういうと水谷は「はいはい」と言いながら、ナマエからケータイを受け取って2人のツーショット写真を撮ってくれた。
「ありがとう。水谷は千代ちゃんと写真撮らなくていいの?」
「えっ、いや、その…」
水谷は頬を赤くしながら狼狽えた。
「せっかくの文化祭なんだから思い出残そうよ!はい、水谷のケータイ貸して。」
「う、じゃ、じゃあ…」
水谷はそう言ってナマエにケータイを差し出した。
「千代ちゃん、水谷も一緒に写真撮りたいって!いいよね?」
「うん、もちろんだよ」
篠岡はいつもの屈託のない笑顔で笑った。それを見た水谷は嬉しそうに顔を赤らめた。そしてナマエは篠岡と水谷のツーショット写真を撮ってやった。
「他に千代ちゃんとツーショット写真撮りたい人いる?」
「オレはいいや。みんなで撮った写真あるし。あとでメールで送ってくれよ。」
田島がそう言った。泉は「オレも」と言って田島に同意した。阿部は写真なんか興味もないようでもはや話を訊かずにエプロンをさっさか外して荷物をまとめていた。
「三橋君は?」
ナマエがそういうと三橋は顔を真っ赤にしながら首をブンブンッと横に振った。
『今日の三橋は千代ちゃんの姿を見ると顔が真っ赤になるな。和風メイド姿がそんなに好みだったんかな?それなら本当は写真撮りたいんじゃないの?』
「今日の千代ちゃんかわいいよね。いや、いつもかわいいけど、いつもより格段にかわいいよね。せっかくだから写真撮ったら?」
ナマエが念押しでそう訊ねてみたが、三橋はやぱり首をブンブンッと横に振った。
「いいのか。そっか。」
三橋があまりにも激しく首を横に振って断るものだから、とうとうナマエは諦めた。

 それから9組野球部4人+阿部で1年3組に向かった。3組はミニゲーム会場になっていた。輪投げや射的やヨーヨー釣りや簡易ダーツが楽しめるようになっている。西広と沖は輪投げの接客係をしていた。
「やあやあ、繁盛してるー?」
ナマエが西広と沖に声を掛けた。
「おおっ、みんな来てくれたんだ」
西広はそう言って柔らかな笑顔を見せた。
「輪投げやってく?」
沖がそう言うと田島が「やるやる!」といって腕まくりし始めた。輪投げは場所ごとに得点が決まっていて、3回投げた結果の総得点数に応じてお菓子がもらえるというものだった。田島は見事に3回とも高得点の場所に輪を投げ入れてプリッツを手に入れていた。そして続いて三橋も3回とも高得点の場所に輪を投げ入れた。これは正直ナマエは意外に思った。
「ピッチャーやってると輪投げまで上手くなんの!?」
泉も驚いているようだ。続く泉と阿部はそこそこの結果に終わった。ちなみにナマエは下手くそでこの5人の中で得点は最下位だった。貰えたお菓子はうまい棒だ。それからナマエたち5人は他のミニゲームも楽しんでから西広と沖に別れを告げた。

 最後にナマエたちは1組に向かった。1組は段ボールで作られた脱出迷路会場となっていた。教室の入り口で受付を済ませると受付係の生徒から「参加可能人数は最大3名なので、3人グループと2人グループに分かれてください」と言われた。ナマエたち5人はグーパーじゃんけんをした。結果、田島&三橋&阿部グループと泉&ナマエグループに分かれることになった。最初に田島たちが迷路に挑戦した。田島たちは3分程で迷路から出てきた。
「スゲー楽しかった!」
田島はニコニコの笑顔でそう言った。
「これ案外凝ってるぞ」
阿部もそういって口角を吊り上げて僅かに笑っている。楽しめたようだ。
「じゃあ、次は私たちの番だね」
ナマエは泉にそう言った。
「おし、行くか!」
泉もやる気満々だ。まず教室の入り口から道なりに沿って進むと四角形の部屋へを出た。一見行き止まりに見える。でも教室の入り口からこの部屋まではまっすぐの一本道だったはずだからこの部屋のどこかに抜け道があるはずだ。泉とナマエは段ボールでできた壁を触って扉になっている箇所がないか調べた。
「扉はないね」
ナマエはそう言った。
「危ないから上に登らせるっつーのはないだろ。となると下だな。」
泉はそう言って段ボールの下側を調べ始めた。
「おっ、あったぞ!ここ潜れるわ。」
「泉君ナイス!」
泉とナマエは段ボールの下をくぐって別の通路に出た。通路を進んでいくと道が二手に分かれていた。試しに右に行ってみたら行き止まりでナマエと泉は道を引き返して今度は左に進んだ。しばらく進んでいくと小さな部屋に出た。そこには黒衣を着た人物が立っている。黒衣の人物は扉の前に立ち塞がっていた。
「これからなぞなぞを出します。3回正解するまで次の部屋には進めません。」
黒衣の人物はそう言った。
「では1問目です。1日には2回あるのに1年には1回しかないものはなんでしょう?」
ナマエは勉強はそこそこできる方だが頭が固いためなぞなぞ問題は苦手だ。さっぱり思いつかない。
ミョウジわかったか?」
泉がナマエに訊いた。
「ごめん、全然わからない」
「オレ、わかった。答えてもいい?」
「マジか、頼んます!」
泉は黒衣の人物に向かって「平仮名の"ち"!」と答えた。
「正解です。1日(いちにち)には"ち"が2つありますが、1年(いちねん)には"ち"が1つしかありませんね。」
黒衣の人物がそう解説をした。ナマエは『ほう、なるほどね』と感心したのだった。
「では2問目です!"ら"が添えられた料理はなんでしょう?」
これはナマエもすぐにピンときた。泉もわかったようだ。
「"せーのっ"で言うか」
「うん!」
「「せーのっ、天ぷら!」」
泉とナマエは声を揃えてそう回答した。
「正解です。"添える"は言い換えると"添付(てんぷ)"ですよね。それに"ら"を付けたら天ぷらの完成です!では次、3問目。ひっくり返すと1.5倍の大きさになるものはなんでしょう?」
これはナマエには難しすぎる。さっぱり思いつかなかった。
「泉君、わかる?」
「ん-、わかんねーな」
泉とナマエはしばらく考えたがアイディアが出なかった。
「パスしますか?」
黒衣の人物がそう訊ねた。
「うん、パスで」
ナマエはそう答えた。
「では次は4問目、88歳の誕生日を迎えた人が着る服の色はなんでしょう?」
ナマエは少し考えた後、答えがひらめいた。そしてチラッと泉を見る。
「泉君はわかった?」
「いや、全然わかんねー」
「私わかったから答えていい?」
「マジか!いいぜ。」
ナマエは黒衣の人物に向かって「答えはベージュ!」と答えた。
「はい、正解です。88歳のことを米寿(べいじゅ)と言いますよね。なのでベージュです。」
黒衣の人物の説明を聞いた泉は「へー、60歳が還暦で赤いちゃんちゃんこ着るっつーことしか思いつかなかったわ」と言った。
「では無事に3回正解したので次のお部屋へどうぞ」
黒衣の人物はそう言って段ボールで出来た扉の前から退いてくれた。泉とナマエが扉を開けて通り抜けると次も小さな部屋があった。ここでも扉の前に黒衣の人物が立っている。
「この扉を通るには鍵が必要です。部屋の中に隠されています。探してください。」
黒衣の人物がそう言うと泉とナマエは手分けして部屋を探し始めた。ナマエが机の中を漁ったり、机の横のフックに引っかけられているかばんを開けてみたり、椅子の裏を見てみたりしていると泉が「あった!」と言った。壁に掛けられている額縁の裏側に貼り付けられていたらしい。黒衣の人物に鍵を手渡すと「ではこの先へどうぞ」と言って段ボールで出来た扉を開けてくれた。
部屋を出たら今度はまた通路になっていた。何度か道に迷いながら進んで行くと教室の扉が見えてきた。"出口"と書いてある。
「お、ようやく脱出じゃん!」
ナマエがそう言って教室の扉の方へ駆け出そうとすると「ちょっと待て」と言って泉がナマエの左手首を掴んだ。
「え、どうしたの?」
「ちょっと、今のうちに言っておきたいことがあんだけど」
そう言う泉は少し頬が赤いし、なんだか緊張しているように見えた。
「え?な、なんスか…。」
ナマエは神妙な面持ちをしている泉を見て、思わず身構えてしまった。
「あのさ、田島と水谷がさっきミョウジのこと姉貴だの姉御だの言ってただろ?」
「うん、言ってたね」
「オレはそんな風には思ってないから」
「へ?そうなんだ。じゃあ泉君的には何なの?」
ナマエがそう言うと泉はスゥ…と深呼吸をした。
「オレはミョウジのことはお母さんでも姉貴でも姉御でもなくて、普通に同い年かわいい女の子だと思ってる」
泉は「言いたいことはそんだけだ。行くぞ。」と言ってサッと出口へと向かってしまった。一方、ナマエは驚きでその場から動き出すことができなくなった。ナマエが棒立ちしたまま泉から言われた言葉を頭の中で反芻していると出口の扉が開いた。1組の係の人が泉に「グループの方と一緒に出てきてください」と注意している。
ミョウジ、早く来いよ」
泉に呼ばれてナマエはようやく我に返った。慌てて外に出ると1組の係の人は「ご利用いただきありがとうございました」と言ってナマエたちにお辞儀をした。
「お前ら結構時間かかったな」
阿部が泉とナマエにそう言った。
「なぞなぞ、案外難くねー?お前ら何問でクリアした?」
「オレらは3問でクリアしたぞ。オレ、なぞなぞ得意なんだぜっ!」
田島が得意気にそう言った。
「マジか。鍵はどんくらいで見つけた?」
「開始3秒で阿部が見つけた」
「は?」
泉がそう言うと阿部は「いや、段ボールの部屋に壁掛けの額縁がある時点で怪しいだろ」と言ってのけた。
「で、ミョウジはどしたん?なんか顔赤くね?迷路の中暑かったか?」
田島がナマエを見てそう言った。ナマエの顔が赤いのは迷路の最後で言われた泉のドストレートな誉め言葉のせいなのだがその会話の内容は他のみんなには話したくない。なのでナマエは「うん、色々考えたり、道迷ったりして歩いたから…どっかで飲み物買いたいな」と言って誤魔化した。野球部のクラスの出し物は全て見終わったのでナマエたちはこの後は三橋の家で榛名の投球解析をやる予定だ。ナマエたちが三橋家に向かうために校門へ向かっている途中でタピオカミルクティーを販売しているクラスがあった。ナマエは先程飲み物が欲しいと言った手前、何か買わないわけにはいかないのでそれを購入することにした。
「女子ってタピオカ好きだよなー」
泉がそう言った。
「そだね、女子の飲み物ってイメージあるよね」
ナマエはそう答えた。
「てか、昼メシどーするよ?そろそろ腹減ってきた。だんごだけじゃ足んねー。」
田島がそう言うと泉が「三橋んち行く前に学食でなんか食ってくか?」と言った。
「いや、今は一般公開中だから学食は混んでるだろ。つかもう駐輪場まで来てるのに戻るのだるい。コンビニでよくねーか。」
阿部がそう提案した。
「私もちょうどコンビニ寄りたいと思ってた。ノートパソコンに武蔵野第一のデータが入ってるからコンビニのマルチコピー機で印刷したい。」
ナマエはそう言った。
「おっし、じゃあまずはコンビニにレッツゴー!」
駐輪場から自転車を取り出した田島は真っ先に駆け出した。そんな田島を追いかけるようにして他のメンバーも自転車を漕ぎ始めたのだった。

<END>