※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:夢小説とはいえ特に誰かと恋愛する予定は今のところないです※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第42章」


 文化祭開催中の賑やか学校から離れた田島・三橋・泉・阿部・ナマエの5人はまずコンビニに向かった。そこでは各自で今日の昼食を選んで購入した。ついでにナマエはノートパソコン内にある武蔵野第一に関するデータをUSBメモリにコピーし、マルチコピー機で5人分の資料を印刷した。
「阿部、マネジ共有ノート貸して。それも5人分コピー取っちゃおう。」
ナマエは阿部を呼んだ。
「おう」
阿部はナマエにノートを手渡した。コピーが終わったらナマエたちは三橋家へと向かって自転車を漕いだ。三橋家に到着したらまずは腹ごしらえをすることになった。
「牛乳あるー?飲んでいいー?」
田島が三橋に訊ねた。
「いいよっ!」
三橋がそう返事すると田島は三橋家の冷蔵後をガチャッと開けて牛乳を取り出した。三橋は食器棚からコップを取り出している。
「牛乳全員分ないよね。私はお水貰おうかな。」
ナマエがそう言うと三橋は「お水、冷蔵庫、に、あるよっ」と言った。三橋はお盆に5つのコップを載せて運んでいるところなので手が空いていないようだ。
「冷蔵庫開けて取り出していい?」
「うんっ」
ナマエは三橋家の冷蔵庫を開けて2Lの水のペットボトルを取り出してリビングルームに向かった。三橋は前回田島とナマエが三橋家で夕食をごちそうになった時に決めた田島用のコップとナマエ用のコップを覚えていたようだ。田島には田島用のコップ、ナマエにはナマエ用のコップを差し出してきた。そんな些細なことだけど、ナマエはなんだかとても嬉しくて胸がジワッと温かくなった。テーブルにコンビニで買ってきたお弁当やおにぎりを並べたナマエたちは阿部の方をジッとみた。
「は?」
阿部はナマエたちの視線の意図がわからないらしい。
「阿部は副主将だろ。今は花井がいないんだから阿部が"うまそう"の号令かけろよ。」
田島はそう言った。
「ああ、そっか。じゃー、行くぞ。…うまそう!」
阿部がそう言うと他4人は「うまそう!いっただきまーす!」と言って昼食に手を出した。いつものことだが野球部男子の食欲は凄まじい。バクバクと勢いよく食べ始めて、あっという間に食べ終わった。
ミョウジ、さっき印刷してきた資料くれ」
昼食を食べ終えた阿部はさっそくナマエに資料を要求した。
「はい、これ。ついでにみんなにも配っといてくれる?」
ナマエはまだ食事を食べ終わっていないので他のメンバーへの資料配布も阿部に任せることにした。
「おう」
阿部はそう言って田島たちに資料を渡していった。資料の配布が終わって阿部たち4人が一通り資料に目を通し終わったあたりでナマエは昼食を食べ終わった。空になったお弁当のプラスチック容器をゴミ箱に捨てたナマエは「で、なんか質問ある?解説した方がいい?」と他4人に訊ねた。
「いや、一旦へーきだよ。次は夏大のビデオを観ようぜ。うちのマネジが優秀なのは知ってっけど、選手のオレらが観ればまた違う気付きがあるかもしれねーだろ。」
阿部はそう言ってDVDを取り出した。ナマエたちはまずは武蔵野第一vsARC学園の試合を観戦し、次に武蔵野第一vs春日部市立の試合を観戦した。その2試合を見終わったところで、いざ意見交換会の始まりだ。
「ARC戦で出た2年生捕手どう思った?」
阿部がそう訊ねた。
「同中なんだよな」
田島が選手名鑑を見ながらそう言った。
「やっぱサイン出してねーように見えたぞ」
泉はそう言って阿部の方を見た。
「そう見えたな」
阿部も同じ意見のようだ。
「できなくはないかもよ?速球来るって思って待ってれば、あの変化球なら捕れるかも。球種は投げた瞬間わかるし。」
田島がそう言った。それに対して泉は「おめーは特殊だっつんだよ」とツッコミを入れる。
「秋丸選手についてちょっと調べてみたんだけど、どうやら榛名さんとは小学校も同じみたいなんだよね。いわゆる幼馴染っていうやつなんじゃないかな。付き合いが長いおかげでサインなしでも捕れる…とかっていう可能性はない?」
ナマエがそう言った。
「サインが出てるかどーかはどうでもいーちゃいーけど、3年生捕手ん時よか球速いように感じんだよ」
阿部はそう言った。
「ああ、速いだろ。球場で見た時そう思ったよ。ミョウジとしのーかの資料にも書いてあったけどキャッチングに特化した人なんだろ。春大で3年生捕手が速球弾いてたし。」
田島がそう分析した。阿部はそれを聞いて「そういやそんなことあったな」と言った。
「その秋丸って人の方が思いっきり投げやすいんじゃないの。ミョウジの調査では榛名とは幼馴染の可能性が高いんだろ。投げやすさの理由がわかったじゃん。でもバッティングは全然だし、クロスプレーは下手だし、スローイングは遅いんだから、そりゃ夏大では3年生捕手がスタメンになるよな。」
田島が続けて意見を述べた。
「つーと、秋は投手は球速増してて、捕手は捕球以外は悪くなってるってことだな」
泉がそう言った。
「あとオレが気になってんのはARC戦で見せた変化球…マネジ調査ではツーシームって推測なんだっけか、アレも秋丸相手だとよく投げてんだろ」
阿部がそう言うと田島が「あの球、みんな打ち上げてたなー」と言った。
「新人戦は3回戦で負けたんだっけ。えっと、資料だと…大宮寿相手に四死球絡みで点取られたのか。自滅か。」
泉は篠岡とナマエが作った資料を再確認しながらそう言った。
「でもエラーはなかったよな?スタメンごっそり抜けてるのにもう野手の連携は上手くいってるってことか。」
田島がそう言うと阿部が「ああ。3-2でヒット6本、ノーエラーだったな。」と説明した。つまり打力もそこそこある上に、守備(野手)も手堅いチームということだ。穴があるのはキャッチング以外は三流だと思われる秋丸と榛名の失投くらいだ。
「四死球待つか」
泉が提案した。阿部は「それもありだ」と言う。
「プレッシャーかけて四死球でもエラーでも塁に出る。そうすりゃあの捕手なら走り回れるだろ。」
阿部はそう言った。
「時速144キロの左利き投手にプレッシャーかけんのか。今のままじゃ無理だな。あのさ、調べてみたら久喜に150キロ打てるバッセンあるんだ。しかも夜24時まで営業してんの。目慣れてりゃ速球はバット当てられるようになるだろうからみんなで行こうぜ!」
田島がそう提案した。
「久喜なら電車で30分くらいか?」
「部活のあとに行けるな」
泉と阿部がそう言った。
「んじゃコヅカイもらってみんなでゴーだ!」
田島がそう言うと他の男子3人は「よっしゃ!」とやる気を出した。ナマエは選手たちの会話を聞きながら感心していた。阿部も先程言っていたが、やはり選手たちに試合映像を見てもらえると篠岡とナマエでは気付けなかった新しい視点での意見が出てくる。それにこうして選手たちと一緒に解析作業を行ってみると自分たちが作成したデータがしっかりと選手たちの助けになっているということが目に見えてわかる。それはマネジとしてはとても嬉しいことだった。
ミョウジはさすがにバッセンは行かないよな?」
田島がナマエに訊ねた。
「うん、行かないよ。私は千代ちゃんと後夜祭参加しようかな。」
「おー、いいじゃん。あとでどんなだったか話聞かせてくれ。」
泉がそう言った。
「うん、写真とか撮ってくるね!」
ナマエはニコッと笑った。

 2試合分の映像を観終わったら時刻は17時を過ぎていた。今更学校に戻ってももう文化祭1日目は終わる時間だし、今日は野球部は週1で設けてる休養日なので今からバッセンという選択肢も不可だ。
「明日から朝練再開だろ?早く帰って明日に備えようぜ。」
泉がそう言った。阿部が「そうだな」とそれに同意した。
「三橋のおばさんは今日は何時に帰ってくんの?」
田島が三橋に訊ねた。
「た、たぶん、もうすぐ…。今日、親2人で、文化祭…行ってる、から。」
三橋が答えた。
「じゃー、今日は家で家族団らんだな」
田島はニッと笑った。おそらく三橋の両親の帰りが今日も遅いならまた田島家へ招待しようとしていたのだろうとナマエにはわかった。ナマエたちは使用したコップを食器用洗剤で洗ってきちんと片付けをしてから三橋家を出て、それぞれ帰途に就いた。家に着いたナマエは今日は久々に母親の夕食作りを手伝うことにした。料理の腕前を磨くのもマネジの仕事のうちの一つだ。それからナマエは日課になっている埼玉新聞スポーツ欄のチェックと地元TV局の高校野球ニュースの視聴をしてデータ収集に勤しんだ。

 翌日、文化祭2日目、西浦高校野球部は今日から朝練を再開した。篠岡とナマエは朝7時半に裏グラに顔を出し、まずは選手たちの家からの差し入れをチェックする。それからベンチの壁に吊り下げられているホワイトボードを見て前回のトレーニングの順位を確認した。誰に何のおにぎりの具を出すか篠岡と話し合って決めたら、差し入れを持って数学実験室へと向かう。数学実験室に到着したらまずは選手たちの家からいただいた差し入れの具材を冷蔵庫に入れ、それから選手たちのお弁当を冷暗所へ置いておいた。次に製氷皿に水を入れて氷の仕込みを行う。それが終わったらマネジの朝の仕事は終了だ。
 今日は文化祭2日目なので生徒たちは朝のホームルームを受けた後は自由時間となる。野球部のメンバーはホームルームが終わり次第、練習に参加するため裏グラに再集合した。本日の午後は他校での練習試合が組まれているため、午前の練習は疲労を溜めないように比較的軽めなメニューが組まれた。そして10時には午前練習を終えて、選手たちはダウンに入る。その後は部員全員で各道具を専用のカバンに収納し、モモカンの車に積み込んだ。それが終わる頃には11時になっていた。13時から相手校との練習開始なので12時には裏グラを出発する必要がある。というわけで今日はいつもより早いが11時に昼休憩を迎えた。
「みんな、親からバッセン行く金は忘れずに貰ってきたか?」
花井が選手たちに問いかけた。選手たちは「はーい」と元気良く返事をした。
「オレ、バッセン行くの初めてなんだ。ちょっとワクワクしてる。」
西広がそう言った。
「バッセンデビューだね」
沖がそう言った。
「バッセンは楽しいぞー!」
栄口はニカッと笑った。
「オレ、150キロの球なんか打てるかなぁ」
水谷は弱音を吐いた。
「バッセンの球打てねーようじゃ榛名の球なんかもっと無理だろ。今日から毎日行ってちゃんと打てるようにしろよ。でなきゃ話になんねーぞ。」
花井が水谷を窘めた。水谷は「はぁい…」と返事をした。

 午後の練習試合を終えたらマネジの篠岡とナマエはモモカンの運転する車に乗せてもらい裏グラへと帰ってきた。時刻は15時半だ。ナマエは練習道具の片付けは篠岡に任せて急いで炊飯作業に着手した。以前はおにぎり休憩の時間は19時だったが9月になって日没の時間が早まったのでそれに合わせておにぎり休憩の時間も早めることになったのだ。裏グラには照明がないので日没後はグラウンドはとても暗い。暗いグラウンドではノック練習やバントシフト練習などは厳しい。できる練習に限りが出てくるのでそろそろ練習のスケジュールを調整するとモモカンは言っていた。
『18時におにぎり出すなら、17時半には炊きあがってないと困る。炊飯は約1時間かかるから16時半には炊飯器をセットしておかないと。吸水のために30分は時間を置くから16時までに米研ぎを終わらせる!』
ナマエは10.5合のお米をはかり、水でガシガシと米を研ぎ始めた。そうして米研ぎを終えたナマエが炊飯器の内窯を持って裏グラに帰ってくると選手たちが到着して着替えをしているところだった。
「ごめん、ちょっと通してねー」
ナマエはそう言って着替え中の選手たちの間をすり抜けて炊飯器に内窯をセットした。それからケータイのアラームを30分後に設定する。
「千代ちゃん、米研ぎ完了!」
ナマエは篠岡にそう言った。情報連携は大事だ。
ナマエちゃん、ありがとう。こっちも荷下ろし完了したよ。」
「ありがと!1人でやらせてごめんね!」
「んーん!18時までにおにぎり作成終えなきゃいけないんだもん。役割分担は大事だよね。」
篠岡はそう言ってニコッと笑った。
「ね、男子たちは今日部活の後バッセン行くみたいだけど、うちらは行かないよね?よかったら一緒に後夜祭参加しない?」
「あ!それ、私も言おうと思ってたよ!行こう行こう!」
「よかった…!千代ちゃんは7組の女子と参加するかもなと思ってたんだよね。」
「ん-とね、もしナマエちゃんが参加しないなら7組の子たちと合流しようと思ってたとこ」
ナマエがそうして篠岡と話をしていると着替え終わった選手たちがグラウンドに出てきた。
「おし、まずは練習試合の反省会から始めっぞ!」
花井が声を掛けると選手たちは輪になって座り始めた。篠岡とナマエも話を聞くためその輪に近づいた。練習試合の後は毎回こうして反省会の時間を設け、マネジはその内容をメモして議事録を作成することになっている。反省会が終わったら選手たちはアップに入る。ナマエはその隙に水撒きをし、篠岡はジャグにドリンク作成をするため数学準備室へと向かった。ナマエが水撒きを終えたところでちょうどケータイのアラームが鳴ったのでナマエは炊飯器のスイッチを押した。約1時間後にはごはんが炊きあがる予定だ。次はナマエはベンチに座ってノートパソコンを開いた。先程の反省会の議事録を書き起こすためだ。ナマエがカタカタとタイピングをしていると篠岡が数学準備室から帰ってきた。
「おかえり、千代ちゃん。1時間後にはご飯が炊きあがるよ。」
ナマエがそう言うと篠岡は「了解」と言ってナマエの隣に座った。
「議事録作成中?」
篠岡はナマエのノートパソコンの画面を覗き込んでそう言った。
「そう。書き終わったらチェックお願いします。」
「オッケー」
篠岡とナマエがそうして会話しているとモモカンがやってきた。篠岡とナマエはバッと席から立ち上がった。
ナマエちゃん、千代ちゃん、武蔵野第一のデータ収集・分析ってもう終わってるのよね?」
「はい、終わっています。それから昨日は阿部・田島君・三橋君・泉君の4人と一緒に夏大の映像を見返して榛名選手の投球解析をやりました。」
ナマエはモモカンにそう言った。
「うん、その件は阿部君から報告受けてるよ。それでね、次の月曜はミーティングがないじゃない?でも武蔵野第一との試合の前にやっぱり全員で資料の読み合わせはしておきたいのよ。明日の練習中に時間を設けるから明日までに全員分の資料を用意してもらえる?」
「「わかりました!」」
篠岡とナマエは声を揃えてモモカンに返事をした。モモカンは「じゃあ、よろしくね」と言って去っていった。
「後夜祭に参加する前に購買に寄ろうか。今私が印刷済みの資料1部もってるからそれをコピーするだけだしすぐ終わるよ。」
ナマエがそう言った。篠岡は「うん、そうしよう」と返事をした。
 30分後、議事録を書き終わったナマエは篠岡に内容のチェックを依頼した。篠岡はチェックしながら必要に応じて加筆修正を行う。篠岡がその作業している間にナマエはおにぎり作成の事前準備を始めることにした。といっても備品棚からトレー、ラップ、しゃもじ、海苔、お椀4つを取り出して机の上に並べるだけだ。
ナマエちゃん、議事録チェックしたよ。少しだけ加筆させてもらいました。見てくれる?」
篠岡はナマエにノートパソコンを差し出した。ナマエは再度頭から議事録に目を通した。
「うん、いいと思う。ありがとね。これも後で印刷かけてファイリングしちゃおう。」
ナマエはそう言った。
「そうしよー!じゃ、私はそろそろドリンクの補充とおにぎりの具材の回収に行ってくるよ。」
本日のドリンク担当の篠岡はそう言ってジャグを持ち上げ、数学準備室へと向かった。ボールの修理をしながら篠岡の帰りを待っているとごはんが炊きあがった。ナマエは先におにぎり作りを始めることにした。お椀2つを使ってごはんをコロコロしてまん丸のおにぎりを作り、トレーに並べていく。数学準備室からジャグとおにぎりの具を持ち帰ってきた篠岡も途中から合流した。まん丸のおにぎりを21個作り終わったら次はおにぎりに具を詰めていく。それから形を三角形に整えて最後に海苔を巻いたらおにぎり完成だ!時計を見ると時刻は17時50分を示していた。なんとか18時までにおにぎりを作り終えることができた。
「あとはプロテインも用意しないとね」
ナマエは備品棚に向かった。一方で篠岡は「私は使い終わった食器類洗うね」と言って蛇口の方へと向かった。

 18時、練習に励んでいる選手たちに向かって「おにぎりの時間だよー!」とナマエが声を掛けると選手たちがワッと群がってきた。
「田島君はえび天とツナマヨね。次、泉君・三橋君・巣山君は…―――」
ナマエはそうやって選手たちにおにぎりを配っていった。篠岡はおにぎりを受け取った選手たちにプロテインと牛乳を配布してくれた。選手たちがおにぎりを食べている間に篠岡とナマエは手分けして蚊取り線香を取り替えたり、トレーを洗ったりといったあと片付けを始めた。
ミョウジと篠岡は打ち上げ行くのか?」
もうおにぎりを食べ終わって牛乳を飲んでいた花井がベンチにいるマネジ2人に声を掛けた。
「打ち上げ?クラスの?」
篠岡がそう言った。花井は「おう、それ」と返す。
「んー行かない。お祭り気分だとハメはずれちゃうコトあるかもだからさ。自分はお酒飲んでなくても飲んでる人の中にいたら言い訳難しいでしょ。」
篠岡はそう言った。
「おう、周りから見たらいっしょくただからな。ミョウジはどーすんの?」
「え、私も行かない。私は単に普段から仲良くしている田島君たちが行かないし他に親しい子クラスにいないから行ってもつまんなそうだなって思って。千代ちゃんと違ってお酒云々のことは全く考えてなかったや。高校生なのにお酒飲む人なんているんだね。」
ナマエはそう返事した。
「9組のヤツらが酒飲むかはわかんねーけど行かねえならオレとしては安心だわ」
花井はそう言った。ここで花井はモモカンから呼ばれて裏グラの外へと向かった。
「浜田は打ち上げ行かねーって?」
田島がナマエに訊ねた。
「うん、行かないって。バイトがあるらしい。」
「もし浜田が行くなら打ち上げ参加する気だったか?」
今度は泉が訊ねてきた。
「そうだねー…、浜田君がいるなら行こうとしてたかも。でも今の花井の話聞いてたら行かなくて正解っぽいね。」
「まー、うちのクラスは酒なんて飲まなそうな気もすっけどな。原とかアイツ見た目はイカついけど根は真面目だし。」
泉はおにぎりを頬張りながらそう言った。
「9組はバスケ部とかサッカー部とか運動部所属の人多いもんね」
「でも、一応行かねえ方が無難だな。強制するつもりはないけどさ。」
「大丈夫だよ、行かないから」
ナマエがそう言った時、モモカンと話をしていた花井が帰ってきた。
「おーい、お前ら!今日の予定変更だ。今日はもう練習終わりにして全員でファイヤーストームの点火式見に行くぞ!バッセンはその後だ。」
花井が大きな声でそう言った。
「え?マジ?」
「ファイヤーストーム見ていくの?」
「急にどーした?」
選手たちが花井に詰め寄った。
「監督からの指示だ。たまには息抜きも大事だってな。オレら10人しかいねーんだから脱落者出すわけにかねーし。」
花井がそう言うと巣山は沖に「よかったな」と言っていた。どうやら沖はファイヤーストームに興味があったようだ。
「っつーことだから食い終わったらすぐにダウンしてグラ整すんぞーっ」
花井の掛け声に選手たちは「おーっ」と返事をした。
「じゃあ、私たちは先に着替えて資料の印刷・コピーを済ませちゃおうか」
篠岡がナマエにそう言った。
「そうだね。私はさっき作成した議事録を印刷するためにパソコンルームに行ってくるから千代ちゃんはコピー機の方に行ってくれる?んで食堂で待ち合わせよう。」
「了解!」
そうして篠岡とナマエはベンチ横の倉庫で制服に着替えてから各々の目的地へと向かった。
 ナマエがパソコンルームでの議事録印刷を終えて食堂に到着すると篠岡はコピーした資料のホチキス止めをしていた。
「お待たせ。私もやるよ。」
ナマエはそう言って自分の筆箱からホチキスを取り出した。ナマエたちがそうして作業をしていると野球部の男子たちも食堂にやってきた。
「ああ、明日の資料作りか」
篠岡とナマエの作業姿を見つけた花井がそう言った。
「うん、あとちょっとで終わるから、これだけやらせて!」
ナマエはそう言った。
「おう、後夜祭19時からだろ。まだ時間あるから急がなくていいぞ。」
「うん!…ってか田島君たちは昨日渡した資料ちゃんと持ってるよね?明日の部活中に読み合わせするから忘れずに持ってきてね!」
ナマエがそう言うと田島はニアッと笑って「エナメルに入れっぱなしにしてるから大丈夫!」と言った。三橋もその横で頷いていた。篠岡とナマエの作業が終わったら野球部全員でぞろぞろとファイヤーストーム会場となっている第一グラウンドに向かって歩き出した。グラウンドの中央に木材で組まれたたき火がある。花井はキョロキョロを周りを見渡して野球部員12人が並べるスペースを探した。
「あそこらへんでよくね?」
田島が比較的空いている場所を見つけて指さした。
「おう、そうだな」
花井はそう言って田島の指さした場所に向かって歩き出した。その後ろを他の部員がついていく。野球部員が横一列になって並んだところでついに後夜祭イベントの1つ目ファイヤーストームへの点火式が始まった。司会の文化祭実行委員のアナウンスによると今年は化学部が風力で点火ロボを動かしてたき火に火をつけるらしい。たき火の横には扇風機が置いてあった。てっきり扇風機の電源を点けてその風で点火ロボを動かすのかと思いきや、化学部員は扇風機に向かってうちわをハタハタと扇ぎ始めた。扇風機を回すところから人力でやる気らしい。司会者がツッコミを入れると見学している生徒たちから「はははっ」と笑いが起きた。
「えーっと、実はみんなに報告がある…。ファイヤストームを見ながらでいいから聞いてくれ。」
化学部の滑稽な姿とは裏腹に花井は神妙な面持ちで口を開いた。
「報告って言うのはモモカンの話なんだ。モモカンは西浦の卒業生で野球部のマネジをやってた。ここまではみんな知ってるだろ。でな、その頃モモカンの他にもう1人部員がいたんだ…というか1人しかいなかったんだ。選手1人とマネジのモモカン1人の合計2人だけで野球部をやってた。」
花井がそう言うと水谷が「へー、そうなんだ」と言った。
「そんでな、オレはずっとその選手の人はなんでモモカンが今こうしてオレらの監督やってんのに顔出しにこねーのかなって疑問に思ってたんだけど、……その人、山で遭難して亡くなったらしいんだ。」
花井から"亡くなった"と聞いてナマエはハッと息を呑んだ。他のメンバーも目を見開いたり、口をポカンと開けたりして驚いた顔をしている。
「オレと栄口はこの話をシガポから聞いたんだけど、さっきモモカンと話をして別に秘密にしてたわけじゃないしオレの口からみんなにも伝えといてくれと頼まれたからお前らにも伝えておく。ちなみにこれは補足だけど、モモカンが亡くなった選手と2人で野球部やってた当時は甲子園は目指してなかったらしい。最初は軟式だったし、高3になって硬式に登録し直しても部員が集まらなくて大会に出ることすらできなかったんだと。だからモモカンも今始めて甲子園優勝目指してるそうだ。……オレからの報告は以上だ。」
花井はそう言った。花井が話し終わっても他の野球部員は誰も何も言わなかった。みんな黙り込んで静かにファイヤーストームの点火式の様子を眺めていた。
 ナマエはモモカンにとってたった1人のチームメイトだった選手が亡くなっていると知ったその瞬間から心臓がバクバクし始めた。そしてナマエの頭にはモモカンの姿が自然に思い浮かんできた。鋭い眼光、凛とした顔付き、ピシッと背筋の伸びた立ち姿……モモカンはいつも強そうで、ハキハキとしていて、明るくポジティブで、とてもカッコいい女性だ。
『なのに実は高校時代の親しい友人を遭難事故で亡くしていた…?』
たった1人のチームメイトを失ってツラくないわけがない。しかもモモカンはまだ23歳という若さだ。その若さで大事な人を失う経験をしていて、それでもなおあんなに強く前向きに生きているというのか…。そしてナマエは自分がこの世界に来る前のことを思い出した。ナマエはこの世界に異世界トリップしてくる前、実の兄を自殺で亡くしている。そしてそのことがきっかけでナマエは精神を病んでしまった。
『私が兄を失った時は……苦しくて悲しくてツラくてもうこの世を生きたくないとすら思っていた。私は絶望に打ちひしがれて、生きること諦めた。でも、モモカンはあんな絶望を味わって尚も強く生きているんだ…!モモカンはなんて美しい人なんだろうか。』
そう思った途端、ナマエの目からボロボロと大粒の涙が零れ落ちた。この涙は決して同情なんかじゃない。なんと言ったらいいのかわからないが、モモカンに対してすごく熱い気持ちが込み上げてきたのだ。もともとモモカンのことはずっと尊敬してきたが、その気持ちがさらに強くなったし、私もモモカンのように強い人になりたいという憧れの気持ちも芽生えた。それからそんなツラい経験を乗り越えて今こうして野球部の監督をやってくれているモモカンのために何かしてやりたいとも思った。
『私がモモカンにしてあげられること……そんなの甲子園優勝しかないだろ!』
ナマエは頬を流れ落ちる涙をグイっと手で拭った。
「…おい、大丈夫か?」
隣に立っている泉がナマエにコソッと声を掛けた。
「うん、もう大丈夫!むしろ燃えてきた!」
ナマエはニッと笑った。
「泣いたり笑ったり忙しいヤツだな」
そう言いながら泉もニッと笑った。
「あっ、やっと火が点いた!」
ナマエはそう言ってボワッ燃え上がったファイヤーストームを指さした。
「うおお、すげえ!もう無理だろと思ってたぜ!」
「ファイヤーストーム、結構キレイじゃん!」
「だな!」
燃え上がるファイヤーストームをしばらく眺めた後、野球部男子たちは久喜のバッティングセンターに向かった。篠岡とナマエは2人で残って後夜祭イベントの2つ目の打ち上げ花火を見たり、体育館に移動して軽音楽部やダンス部の公演を鑑賞したりして楽しく過ごした。こうして2日間にわたる西浦高校の文化祭は幕を閉じたのだった。

<END>