※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:今回は泉君の夢小説っぽくなりました※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第47章」


 9月中旬の水曜、前日に行われた秋大地区予選2回戦で戸田商業高校に勝利した西浦高校野球部は明後日の金曜日に3回戦を控えていた。3回戦を突破すれば秋大県大会へと進出できるし、県大会で5回or6回勝てれば次は関東大会が待っている。勝ち進めば勝ち進む程に試合間隔は短くなる。もちろん対戦相手の攻略のための練習は必要だが、同時に疲れを持ち越すことのないように気を付けなければならない。というわけで本日は西浦高校野球部は朝練・昼練はなしとモモカンから指導があった。
 とは言ってもそれは選手たちの話だ。マネジの篠岡とナマエは毎日昼休みには草刈りを行うことになっている。9月は雨が多い時期だし、裏グラは雨の日の翌日には草がボッと生えてくるのだ。草が生えた状態では練習に支障が出る。放課後の部活前に必ず草刈りをしてグラウンドを整えておくのもマネジの仕事の一環だ。

 そんなわけで昼食のお弁当を食べ終えた篠岡とナマエは今日も裏グラにやって来て草刈りを始めた。4月に野球部のマネジになってからもう半年が経ち、その間ほぼ毎日ずっと草刈りをして過ごしてきた篠岡とナマエの草刈りの腕前はそれはもう立派なものだった。10分程で草刈りを終えた篠岡とナマエはベンチ横の倉庫で運動着から制服(もどき)へと着替えを始めた。その時だった。ゴロゴロゴロ…という轟音が外から聞こえてきた。
「え?今の何の音?」
ナマエは篠岡にそう訊ねた。
「雷…かな?」
篠岡はそう答えた。
「え、雷?でも今日の天気予報は晴れだったよね?」
「うん、そうだったと思う」
ナマエはケータイを開いた。念のため天気予報を確認してみたが、やはり今日は雨の予報はない。
『近くを飛行機が飛んだとか、そんなんかな』
ナマエはそう思ってそのまま着替えを続行した。
 しかし、篠岡とナマエが着替え終わって外に出てみると明らかに景色が暗くなっていた。見上げるとどす黒い雲が空を完全に覆い隠している。
『あ、これはまずい』
ナマエがそう思ったと同時に雨が勢いよく降り出した。篠岡とナマエはベンチの中へと避難した。
「ゲリラ豪雨…かな?」
ナマエは篠岡にそう言った。
「だろうね。それにしてもすごい雨だね。」
篠岡はそう返事をした。実際、篠岡の言う通り、外はバケツをひっくり返したかのような土砂降りの雨だった。天気予報を信じていた篠岡とナマエは傘もレインコートも持ってきていない。自転車に乗れば校舎までは5分程で到着するが、この土砂降りの中で5分も外を走ったら間違いなくずぶ濡れになることは目に見えていた。
「どーしよっか?」
ナマエは篠岡に相談してみた。
「うーん、まだ午後の授業開始まで30分あるし、ゲリラ豪雨なら案外すぐ止むかもよ」
篠岡はそう答えた。
「ああ、たしかにそうかも!じゃ、授業開始10分前まではここで様子を見ようか。」
もし授業開始10分前になっても雨が止まなかったら、その時はしかたがないので腹をくくって雨の中自転車を走らせるしかない。篠岡とナマエはベンチに腰かけた。
「次の対戦相手の資料作成、そっちは順調?」
ナマエは篠岡にそう訊ねた。
「うん、こっちは順調だよ。ナマエちゃんは?」
「私もいい感じよ。予定通り今日中には作り終わると思う。」
「じゃ、明日の朝、お互いに資料見せ合いっこしようか」
「オッケー!」
ナマエはそう言ってニコッと笑った。
「あ、あと明日の資料説明は私にやらせて。私もナマエちゃんみたいに堂々と説明できるようになりたいもん。」
「うん、いいよ。でも私は千代ちゃんは十分堂々としてると思ってるよ。」
「いやー、もうちょっとリラックスして発表できるようになりたいから場数踏まないと!」
「そっか。私は場数踏んでる割にはまだまだ緊張しちゃうけどね。」
ナマエちゃんは緊張が表に出てない!ホントに出てない!」
篠岡にそう言われたナマエは『うーん、それは年の功のおかげだな~』と思ったがそれは口にしないでおいた。ナマエが別の世界からやってきた人間で、外見は高校生だけど中身はもっと歳上だなんてことを篠岡に伝えるわけにいかない。そう思ったナマエが黙っていると今度は篠岡の方から話題を振ってきた。
ナマエちゃん、あ、あのさ…、この間の話の続きをしてもいい?」
「えっと…、この間の話ってどれのこと?」
「この間、ネットの補修作業しながら話した恋愛の話」
「ああ、あれか。いいよー。どうしたの?」
そう言いながらナマエは心臓がバクバクしていた。篠岡は"実は私の好きな人は阿部君なんだ"とナマエに打ち明ける気なんじゃないだろうか。そうしたらナマエは篠岡を応援できるのか?応援できないとしたらなんて返せばいいんだ?というかなぜナマエは篠岡の恋愛を応援してあげられないのか?ナマエはそんなことを考えながら固唾を飲んで篠岡の話を待った。
ナマエちゃんは勘が鋭いから、もう私が選手の内の誰かに片思いしてるってこと気付いちゃったよね?」
「あ、はい…。すみません…。」
ナマエがそう言うと篠岡は「謝らなくていいんだよ」と言って笑った。
「でもね、私、誰に恋してるかはナマエちゃんには言わないよ」
篠岡はキッパリとそう言った。ナマエにとってはそれは予想外の言葉だった。
「えっと…、なんで?」
ナマエちゃんに遠慮してほしくないから」
「え、遠慮?」
ナマエちゃんは今は好きな人がいないって言ってたけど、私たちはまだ高校1年生でしょ。これから誰かを好きになるかもしれない。もしかしたらナマエちゃんも私の好きな人に惹かれたりするかもしれない。その時に私がその人を好きだからって理由でナマエちゃんが無理に気持ちをセーブしようとしたり諦めたりしてほしくないの。それからもし私の好きな人がナマエちゃんのことを好きになったとして、その時に私がその人を好きだからって理由でナマエちゃんがその人を遠ざけたり私のためにその人を振ったりするのも嫌なんだ。私がその人を好きであることがナマエちゃんの恋愛の足枷になってほしくないの。ナマエちゃんは自由に誰のことを好きになってもいいし、誰に好意を寄せられたとしても自由に選択していいんだよ。」
篠岡はそう言ってニコッと笑った。篠岡のその言葉はナマエがこれまで不安に思っていたこと全てを解決する言葉だった。ナマエは篠岡の懐の深さを感じて感激して胸が熱くなった。
「千代ちゃんって…聖母マリア様みたい!」
ナマエは篠岡に向かって両手を合わせて拝むポーズをとった。
「アハハッ、大袈裟だよ~」
篠岡はそう言って笑った。
「ちなみに…ナマエちゃんはもうわかってたりするのかな?私の好きな人。」
「………確証はありませんが、なんとなくこの人じゃないかなって推測している人はいます」
ナマエがそう答えると篠岡は「そっか」と言いながら恥ずかしそうに笑った。
ナマエちゃんは察しがいいから、たぶん当たってるんだろうなって思う。でもさっきも言ったけどナマエちゃんは私に遠慮しないで自由に恋愛して!その人のことをナマエちゃんも好きになっていいし、もしその人から好かれて告白されて応えたいと思ったら私に遠慮しないでお付き合いしていいからね!それから…その人と仲が良いことを私に隠そうとしなくていいよ。私は大丈夫だから。」
篠岡のその言葉を聞いたナマエは『やっぱ千代ちゃんの好きな人は阿部だろうな』と思った。先日篠岡と恋バナをした時、ナマエは選手からされて嬉しかったことを篠岡に共有したのだが、その際に阿部関連の出来事は敢えて言わなかったのだ。篠岡が阿部のことを好きならナマエが阿部からされて嬉しかったことを聞いたら篠岡はいい気がしないのではないかと危惧したからだ。でも、今の発言を聞くにおそらく篠岡はそのことに気付いていたんだろう。
「わかった。じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。私は千代ちゃんがその人を好きかどうかはもう気にしない。千代ちゃんの応援もしないし、もちろん邪魔もしない。自然に、フラットに、なるがままに任せる。」
ナマエがそう言うと篠岡は「うん、ありがとう」と言って朗らかに笑った。
「じゃ、千代ちゃんも同じようにしてね。私にいつか好きな人ができて、千代ちゃんがそれに気付いたとする。その時、千代ちゃんは私に遠慮しないでね。千代ちゃんもその人を好きになっていいし、もしその人から告られて応じたくなったら私に遠慮しないで付き合っていい。」
「うん、わかった!」
ナマエは篠岡に右手を差し出した。篠岡はその手を握り返した。篠岡とナマエは固い握手を交わした。
「千代ちゃんって本当に竹を割ったような性格してるよねぇ。私、千代ちゃんと友達になれてよかったよ。」
ナマエちゃんだって陰湿なところが全くなくて誠実で聡明で、私はすごく尊敬してるんだよ」
「あはは、それはどうも。なんか照れるね。」

 篠岡とナマエがそうして雑談しているともう午後の授業開始10分前になっていた。雨脚は少し弱まったものの、依然として大粒の雨が振り注いでいる。
「もうこれは濡れるの覚悟で行くしかないね。でないと授業に遅れちゃう。」
ナマエは篠岡にそう言った。篠岡は「うん、仕方ないね」と言った。そして篠岡とナマエがいざベンチから出ようとしたその時だった。
ミョウジ!篠岡!いるかーー?」
グラウンドの外から誰かの声がした。ナマエが声のした方を見ると泉と水谷が傘を差しながらこちらに向かって走ってきていた。
「泉君と水谷だ!迎えに来てくれたんだ!」
ナマエは「おーい」と言いながら2人に向かって大きく手を振った。
「やっぱここにいたか!」
ベンチに到着した泉が篠岡とナマエを見てそう言った。
「迎えに来たよぉ~」
水谷もいつものフニャリとした笑顔を浮かべている。
「2人とも傘持ってたんだ?今日の天気予報は晴れだったのに。」
ナマエがそう言うと泉が「田島と三橋に借りた。アイツら年中傘置きっぱなしだから。」と答えた。
「なるほどね」
「さ、もう午後の授業始まっちまうから行くぞ。ワリィけど傘2本しかねーんだ。ミョウジはオレの傘に入れ。コメは篠岡を頼む。」
そうしてナマエは泉の持っている傘に入れてもらって校舎へと向かって歩き出した。泉はナマエが濡れないようにと思ったのだろう、ナマエの肩に腕を回して泉の方へと引き寄せた。
『ち、近い…!』
ナマエは思わず顔が赤くなるのを感じた。そんな顔を見られたくなくてナマエはなるべく顔を上げないように俯きながら歩いた。校舎に到着すると傘を畳んだ泉は今度はエナメルバッグを漁り始めた。そしてナマエに向かって何かを投げてよこした。ナマエがそれをキャッチして広げてみるとそれはフェイスタオルだった。
「未使用だから安心しな」
「ありがとう。でも私がこれ使っちゃったら泉君はどうするの?」
「オレは男だからいんだよ。ほっときゃすぐ乾く。」
「ええ!だめだよ!明後日は試合なんだよ?マネジはいなくても試合はできるけど泉君は西浦の大事な選手なんだから。」
ナマエはそう言って泉にタオルを返した。だが泉は返されたタオルでナマエの濡れた肩や腕を拭き始めた。
「え、ええ…!」
ナマエが動揺していると泉はナマエを拭いたそのタオルで今度は自分の身体を拭き始めた。
「これでいいだろ?オレはミョウジが使ったタオルでも全然嫌じゃねーもん。」
泉はそう言ってニッと笑った。ナマエは自分の顔がボッと赤くなるのを感じた。泉は赤くなったナマエを見てニヤッと笑ってナマエの頭をポンッと軽く叩いた。
「教室戻ろうぜ。もう授業の時間だ。」
泉はそう言って教室に向かって歩き出した。ナマエが腕時計を確認するともう授業開始時刻まで2分を切っていた。
「うわ、やばい!走ろう!」
「おう」
泉を先頭に水谷・篠岡・ナマエは教室に向かって走り出した。なんとか授業が始まる前に教室に到着できた。
「間に合ったな」
「う、うん」
俊足の泉のあとを必死に追いかけたナマエはゼェゼェと息を切らしていた。
「泉君…本当に、ありがとう…。この借りは、必ず、返す…!」
「借り?いいよ。もう返してもらったし。」
「え、まだ、何も…返してない…よ?」
ナマエはキョトンとした顔で泉を見た。
「いーや、これで十分」
泉はそう言って首から下げているタオルを掴んだ。それは先程泉がナマエと自分の身体を拭く時に使ったタオルだ。
「それがお返しって…ど、どういう…??」
「ま、わかんねーんなら、それでいいや」
そう言って泉はニシシッといたずらっぽく笑ったのだった。

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