※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:夢小説とはいえ特に誰かと恋愛する予定は今のところないです※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第48章」


 9月下旬の月曜日を迎えた。西浦高校野球部は秋大地区予選3回戦を無事突破し、県大会へ出場することが決まった。抽選会は明後日の水曜日に行われる予定だ。秋大地区予選が終わって、県大会の相手はまだ未定。今は西浦高校にとってはちょっとしたインターバル期間だ。といってもマネジの篠岡とナマエに休んでいる暇はない。県大会を突破して関東大会へ進出したいならどうしたって県内の強豪とぶつかるのは免れないのだからまだ次の試合相手が決まる前の今のうちに強豪校のデータ収集・分析作業をしておくべきだろう。埼玉県内の強豪といえばまずはARC学園高校だ。次いで2位はやはり千朶高校だろう。それから夏大でベスト4になった日農大付属高校も要注意だし、夏大では武蔵野第一高校に破れてしまいベスト8となったがやはり春日部市立は地区予選を勝ち上ってきた。それから当然桐青高校も忘れてはいけない。
「まずは千朶の試合映像から確認していこっか」
篠岡がナマエにそう言った。今は毎週月曜日に実施しているミーティングが終わったところだ。ナマエは篠岡と一緒に18時まで教室に居残って埼玉県内の強豪校の試合映像を見ながらスコア表と配給表を作成することになっている。強豪校については父母会の方々が分担して地区予選の試合を撮影しておいてくれていたので試合映像があるのだ。ただし、ARCは去年の秋大県大会で優勝しているので地区予選は免除になっている。そのためARCの映像はない。ビデオが入手できている中で一番強いと思われるのが千朶だ。なので篠岡とナマエはまずは千朶の映像からチェックすることにした。今日はナマエがスコア表を作成し、篠岡が配給表を担当することになった。ナマエは自身が所有するノートパソコンにメモリーカードを差し込んで映像を流し始めた。千朶の地区予選1回戦は5回でコールド勝ちを決めていた。圧勝だった。1回戦を見終わったところで18時までまだ時間が残っていたのでナマエたちは続けて2回戦の映像をチェックし始めた。途中まで見たところで時刻は18時になったので作業を中断することにした。
「明日も空いてる時間は千朶の映像の確認作業を進めよう」
ナマエは篠岡にそう言った。
「そうだね。できれば明日のうちに千朶のスコア表・配給表作成は終わらせちゃいたいな。」
「うん、明後日の昼には次の試合相手が決まるから明後日からはそっちの対策を始めなきゃいけないもんね」
そんな話をしながら篠岡とナマエは荷物を片付けて自転車に乗って家に帰った。

 家に着いたナマエは急いでシャワーを浴びた。今日はまた田島家で夕食をごちそうになる約束をしているのだ。田島は19時頃には夕食ができあがる予定だと言っていた。時刻はもう18時半だ。ナマエの家から田島家までは自転車で約20分程かかる。
『やばい~!急がないと!』
ナマエは急いで髪を乾かし服を着替えて家を出た。田島家へ向かって自転車を必死に走らせる。ナマエが田島家に到着して腕時計を見ると19時をちょっと過ぎていた。ナマエが田島家の敷地内に自転車を停めていると誰かが「おー、ナマエ!来たか!」と声を掛けてきた。振り返ると縁側のところに田島祖父が立っていた。
「こんばんは!遅くなってすみません!」
ナマエは田島祖父にそう言って頭を下げた。
「大丈夫、大丈夫!悠、レン、ナマエが来たぞー!」
田島祖父がそう言うとタタタッという足音が聞こえて田島と三橋が縁側に登場した。
ナマエー!待ってたぞ!玄関の鍵開いてるからそのまま入ってきていいぞ!」
田島がナマエにそう言った。ナマエは田島に久々に名前呼びされてなんだが胸がむず痒い感覚がした。
「はーい。じゃあ、お邪魔しまーす!」
ナマエはそう言って田島家の玄関を開け、中に入った。
ナマエちゃん、久しぶりね」
ナマエが田島家の玄関で靴を脱いでいると田島の下の姉の佳乃子が迎えてくれた。
「また来ちゃいました。今日もよろしくお願いします。」
ナマエはそう言って頭を下げた。
「来てくれてうれしいよ。さ、もう夕食できてるからこっちにおいで。」
ナマエは佳乃子のあとをついてダイニングルームに入った。田島家の人たちは口々にナマエを歓迎する言葉を投げかけてくれた。
ナマエはレンの隣な!」
田島がそう言って空いている席を指さした。ナマエは言われた通りに三橋の隣に着席した。
「はい、じゃあ、いただきましょう」
着席した田島母がそう言った。
「よーし、いくぞ!うまそう!」
田島が恒例の"うまそう"の儀式を始めた。
「「うまそう!いただきます!」」
そして三橋とナマエはそれに続いて声を出した。
「野球部はいつも元気ね」
田島の義姉のゆず香がクスッと笑いながらそう言った。
ナマエは今日のミーティングの後は何やってたんだ?」
田島がナマエにそう訊ねた。
「千朶の秋大地区予選の試合映像チェックしてたよ。県大会勝ち進んだらARCか千朶との対戦はどうしたって避けられないでしょ。次の対戦相手はまだ決まってないけど、だからこそ今のうちに強豪校のデータ分析を進めておかないと。」
「そーだな!それにもしかしたら花井が初っ端からARCとか千朶引いてくるかもしんねーしな!」
「うわ、でも花井ならやりかねない!なんてったって夏大では桐青を、秋大では武蔵野第一を引いてくる男だからね!」
ナマエはそう言ってククッと笑った。
「あ、ナマエの家って門限とかある?」
田島の下の兄の航がそう訊ねてきた。
「いえ、特に門限とか言われたことはないですね。でも22時を過ぎるなら連絡しないと母親が心配するかも…です。」
ナマエの家ってうちから近いんだっけ?」
「自転車で20分くらいですね」
「じゃあ、21時半には出ないとまずいか」
航がそう言うと田島母が「そんなに遅くなるなら車で送ってあげなきゃ。ナマエちゃんはまだ高校生の女の子なんだから。」と言った。
「あ、あの~…?」
ナマエはこの2人が何のためにナマエの門限を気にしているのか全然ピンと来なかった。夕食だけなら20時半くらいには食べ終わるはずだし、食後に片付けを手伝ったとしても21時過ぎには家に帰れるだろう。
「あ!悠、まだナマエちゃんには話してないよね、花火のこと!」
佳乃子が田島に向かってそう言った。
「おお!そーだった!」
田島は口いっぱいに含んだごはんをゴクンッと飲み込んだ。
「花火?…をやるの?」
ナマエは田島に向かってそう訊ねた。
「そー!晩メシの後!兄ちゃんがこの間うちに大学の仲間を呼んで花火やったんだよ。その時に大量に用意しすぎて使い切れなかった分が余ってるから今日使い切っちゃおうぜって話してたんだ。」
「へえ、そうなんだ!いいね、花火やりたい!」
ナマエは花火と聞いてテンションが上がった。西浦高校野球部は夏休みの間も練習に明け暮れてほとんど夏らしいイベントはできてない。一度、新人戦の試合後で早く練習が終わった日に部員全員で近くの夏祭りに参加したことがあるが…たぶん今年やった夏らしいイベントなんてそのくらいだ。
「浴衣着て花火大会とか行きたかったな」
ナマエがポロッとそう言うと佳乃子が「浴衣あるよ!着ようよ!」と言い出した。
「えっ!?」
「うちに浴衣たくさんあるよ!貸してあげるからみんなで着ようよ!」
「え、でも…いいんですか?」
「いいよー!やっぱ花火には浴衣だよね!」
佳乃子はノリノリでそう言った。
「うん、いいじゃん。私も着ようかな。」
田島の上の姉もそう言った。
「いいじゃん、浴衣姿の女子がいたら華やかになるよな」
田島の上の兄の康太郎も賛成のようだ。
「え、男性陣は着ないの?うち男物の浴衣もあるじゃない。」
佳乃子がそう言った。
「いや、オレはいいよ。おっさんの浴衣姿なんで需要ないだろ。」
康太郎はそう言って断った。
「えー!悠とレンは着るよね?」
佳乃子がそう訊ねた。
「オレもいーや。めんどくさい。」
田島はそう言ったが、ナマエはそれに対して「ダメ!」と強く言った。
「悠一郎とレンの浴衣姿見たい!一緒に写真撮りたい!」
「ええー」
「お願い!今度なんか奢るから!」
ナマエがそう言うと田島は「マジで!?じゃー着る!」と言ってニカッと笑った。
「レンもだよ!」
ナマエが三橋に強くそう言うと三橋はナマエに圧倒された様子でコクコクッと何度も頷いた。

 20時を過ぎた頃、お腹いっぱいになった田島の姉2人とナマエは浴衣に着替えるために先に食卓を離れた。佳乃子はナマエを自分の部屋に案内した後、「浴衣取ってくるから待ってて」と言って部屋を出ていった。ナマエが佳乃子の部屋のクッションに腰かけて待っていると佳乃子が浴衣と帯を何着も持って戻ってきた。
「わあ、ホントにいっぱい浴衣あるんですね」
「でしょ?ナマエちゃんはどれにする?」
佳乃子はそう言いながらベッドの上に何着もの浴衣を並べていった。紺地に黄色い花模様の浴衣、白地に青い花模様の浴衣、黒地にストライプ柄のシックな浴衣、深緑色に打ち上げ花火の模様が入った浴衣、薄紫地に金魚の柄が入った浴衣…実に様々な浴衣がある。
「どうしよう。こんなにいっぱいあると悩みますね。」
ナマエはそう言って頭を抱えた。
「佳乃子、あんたが選んであげたら?」
そんな声が聞こえて振り返ると田島の上の姉が浴衣用肌着や腰紐や髪飾りなどの着付け道具を持って佳乃子の部屋に入ってきたところだった。
「私が選んでもいいの?」
佳乃子は目をキラキラと輝かせてナマエに訊ねた。
「選んでくれるんですか?お願いします。」
ナマエがそう言うと佳乃子はベッドに並べた浴衣を眺め始めた。
「うーん、黒地の浴衣はかっこいいけど高校生の女の子にはもっと爽やかでかわいいやつの方が似合うかな!」
佳乃子がそう言うと田島の上の姉も「私もそう思う。その黒地のやつは私が着るわ。」と言った。
「じゃ、これはお姉ちゃんに渡すね」
「はーい。じゃあ私は帯はこれにするわ。自分の部屋で着替えてくる。」
田島の上の姉はそう言ってえんじ色の単衣帯を選んで佳乃子の部屋から出ていった。
「やっぱり定番の紺色がいいかな。でもナマエちゃんは肌が白くて楚々とした雰囲気だからこっちの白地の浴衣も似合いそう!」
佳乃子は紺色と白色の浴衣で迷っているようだった。
「よし、最後はナマエちゃんが決めよう!どっちがいい?」
「えっと…」
ナマエは2つの浴衣を見比べた。どちらもかわいいが、ナマエには白地に青いアサガオの模様が入った浴衣が清楚で涼しげで魅力的に見えた。
「こっちにします」
ナマエが白地に青い花模様の浴衣を指さすと佳乃子は「うんうん、絶対似合うよ!」と言ってくれた。
「帯はどうしようか?紺色でおとなしめにしてもいいし、ピンクでかわいらしさを増すのもいいよね。あと黄色も結構合うんだよー。」
ナマエは浴衣に帯を重ねてどれが好きか考えてみた。
「決めました。ピンクの兵児帯にします!」
「オッケー!じゃあ、さっそく着付けしよう!」
佳乃子はそう言うとテキパキとナマエに浴衣を着付けてくれた。ナマエが浴衣に着替え終わるともう浴衣に着替え終わった田島の上の姉が再び佳乃子の部屋に現れて、ナマエの髪にヘアアレンジを施してくれた。ナマエがヘアセットをしてもらっている間に佳乃子は深緑色の浴衣に着替えをした。

 田島の姉2人とナマエが浴衣に着替え終わって1階に降りていくと男性陣は庭で花火の準備をしていた。田島と三橋は浴衣を着ている。
「じゃじゃーん!ナマエちゃんの着付け完了しました!」
佳乃子はそう言って縁側にナマエを立たせた。
「おお、ナマエ、かわいいな!」
康太郎はそう言って褒めてくれた。航も「やっぱ浴衣姿の女の子はいいね」と言いながらニカッと笑っている。田島と三橋はナマエの姿を見て顔を赤くしていた。
「悠とレンは?ナマエちゃんがこんなかわいい恰好してくれてるんだから言うことあるでしょ?」
佳乃子がそう言うとハッと我に返った田島は「スッゲーかわええ!」と言ってくれた。三橋は顔を真っ赤にして口をパクパクしている。とりあえず三橋のその反応で三橋もナマエの浴衣姿をかわいいと思ってくれてるだろうということは理解した。
「悠一郎とレンも浴衣似合ってるね!一緒に写真撮ろうよ!」
ナマエがそう言うと佳乃子がナマエに下駄を渡してくれた。ナマエは縁側の窓を開け、そこから庭へと降りた。
「オレが撮るよ」
航がそう言ってくれたのでナマエはケータイを航に手渡した。
ナマエが真ん中な!」
田島がそう言った。ナマエの両隣りに田島と三橋が立った。
「よーし、撮るぞ!ハイ、チーズ!」
航はそう言ってナマエのケータイで写真を撮った。
「ありがとうございます」
ナマエはそう言って航からケータイを受け取った。
「じゃー、花火始めようぜ!」
田島がそう言ってさっそくロケット花火を地面に設置して火を点けた。
「いきなりそれから始めるのかよっ」
航がそう言った。
「ははは、いいじゃないか。花火開始だな!」
田島祖父はそう言って笑っている。
「よし、オレらもやろう!」
康太郎はそう言ってみんなに手持ち花火を配り始めた。ナマエも手持ち花火を1本受け取り、ろうそくの火で花火に点火をした。鮮やかな色の火花がぶわっと吹き出した。
「わー、きれい!」
ナマエー!オレに火分けてー!」
田島がそう言いながら手に持った花火をナマエに近づけた。
「はい、あげるー!レンもおいで!」
ナマエは今度は三橋を呼んだ。三橋の持ってる花火にナマエの花火から火を分けてあげた。
「うおおおっ」
三橋は火が付いた花火を見ながら感激の声をあげた。
「あはは、レンってば驚きすぎ!」
ナマエはそんな三橋を見て笑った。ナマエの持っていた花火が燃え尽きると田島祖父が「ホレ」といって2本目の花火を差し出してくれた。ナマエは再びろうそくの火で花火に火を点けた。
「オレも2本目欲しい!」
田島はそう言って花火を取りに行った。…が、田島は2本目どころか両手に3本ずつ合計6本の花火を持って戻ってきた。
「どうだ!すげーだろ!」
「豪快すぎるでしょ!」
ナマエはそう言って笑った。
「ねー、そろそろ2本目のロケット花火やろうよ!」
佳乃子がそう言った。
「おお、そうしよう!」
「おーい、レン、ロケット花火に点火してみるか?」
「レン、気を付けろよ」
「火を点けたらすぐ離れるんだよ!」
そんな風にワーキャー言いながら花火を楽しんでいたらあっという間に時間は過ぎていった。

 全ての花火を使い切る頃には21時半になっていた。ナマエはケータイを操作して母親にこれから帰るので帰宅時間が遅くなる旨をメールで伝えた。
ナマエちゃんもレンも車で家まで送ってあげるから着替えておいで」
田島母が三橋とナマエにそう言った。
「はいっ!」
ナマエの着替えは佳乃子の部屋に置いてある。ナマエは佳乃子と一緒に部屋へと向かい、浴衣を脱いで私服に着替えた。
「お借りした浴衣はクリーニングしてから返します!」
ナマエは佳乃子にそう言った。しかし、佳乃子には「そんなのいいよ!私が浴衣着ようって提案したんだしさ。ナマエちゃん、付き合ってくれてありがとね。」と断られた。
「さ、もう時間も遅いし帰ろう。下でお母さんとレンが待ってるよ。」
「はいっ!」
ナマエはかばんを持って1階へと降りていった。玄関で田島家のみんなに別れを告げた後、三橋とナマエは田島家の車に自分たちの自転車を積み込んだ。それから田島母の運転する車に乗って家まで送ってもらい、22時過ぎに無事に帰宅したのだった。

<END>