※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:夢小説とはいえ特に誰かと恋愛する予定は今のところないです※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第49章」


 9月下旬の水曜日、秋大県大会の抽選会の日がやってきた。花井と栄口は部活に一旦顔だけ出してから志賀先生と一緒に抽選会会場へと向かった。
「うー、緊張してきた」
抽選会会場へと向かう花井と栄口の背中を見送りながら、ナマエは篠岡にそう言った。
「リラックス、リラックス!結果が出るまであと2時間はあるよ。」
篠岡はそう言って笑った。

 今回は県大会の抽選会ということで、当然ながら対戦相手は地区予選を勝ち抜いてきた相手だ。それに県大会の抽選会ではシードは参加校の投票によって4校が選ばれる仕組みなので西浦はまず間違いなくシードは取れない。すなわち初っ端から強豪校に当たる可能性も十分にあるのだ。しかも花井は夏大の初戦では桐青高校を、秋大地区予選では初戦で武蔵野第一を引いてくる程のクジ運の悪さ(※田島的には"良い"らしい)を誇る男である。
「なんか嫌な予感がするんだよね。ARCとか引いてきそうじゃない?ARCは地区予選免除になってるから新チームの情報ほとんどないじゃん?そしたら困るよね。」
ナマエはそう言った。
「そうだね。ARCよりかは千朶の方がまだいいね。映像あるし、昨日のうちにスコア表と配給表は作り終わったし。」
篠岡もそう言って頷いた。

 そんなマネジ2人の会話のせいなのかもしれない。裏グラに帰ってきた花井は明らかにバツが悪そうな顔をしていた。そんな花井のもとに1番に駆け寄った泉が「どこんなったー!?」と訊ねると花井は渋い顔で「……千朶」と答えた。
「…千朶…!?」
泉はギョッとした顔になった。泉のその声を聞いて他のメンバーも集まってきた。
「え、今、千朶って言った?」
「うん…、言ったね」
泉を追いかけてきた水谷と西広も唖然としている。
「もうどーせならARC引いてこいよ」
泉はそう言って深いため息をついた。
「ARCは4市大会でもやれるけど、千朶は公式戦でないとなかなかできないよ」
巣山はそう言って花井をフォローした。
「おお!いいクジだ!花井、結構クジ運いいな!」
田島はそう言って嬉しそうにしている。篠岡とナマエは顔を見合わせた。
「昨日までに作った資料がさっそく役立ちそうでよかったって思おうネ」
ナマエは苦し紛れにそう言った。
「うん…、シード相手だから初戦までの日程に余裕があるっていうメリットもあるし…」
いつも明るい笑顔を見せてくれる篠岡もさすがに今回は苦笑いしながらそう言った。

 そんなわけで篠岡とナマエはさっそく秋大県大会初戦突破のために千朶高校のデータ解析と資料作りに着手し始めた。スコア表と配給表は夏大・新人戦・秋大地区予選の分はもう揃っている。続いてやることとしてはベンチ入りしている選手全20名分のプロフィールの調査だ。篠岡とナマエは選手名鑑やスコア表・配給表や実戦映像を確認しながら、手分けして20名分のプロフィール詳細を作成した。千朶は埼玉県のNo.2と称されるほどの強豪校なので露出も多いし、その分選手の情報もかなり集めやすかった。プロフィール詳細の作成が終わったら、ナマエはそのプロフィール詳細の情報をもとにノートパソコンのエクセル機能を使いながら主要な情報のみを抜き出したプロフィール一覧表を作成した。ナマエがその作業をしているうちに篠岡は千朶高校の概要説明資料を作成してくれた。これには文字通り千朶高校の概要説明と野球部の過去3年分の大会の成績のまとめが載せてある。それが終わったら千朶打者の打球情報の分析を開始した。ここでは千朶の各打者が打った球のコースと球種、打球の方向、打球の種類、ヒットor犠打orアウトを調べ、それを資料にまとめて表にしていった。その次は千朶バッテリーの分析を開始した。千朶は強豪校なので選手層はとても厚い。当然投手も複数人いる。それに今回は夏大ではないのでおそらく序盤からエースは出してこないだろう。投手が変わればリードも当然変わる。そんなわけでこの作業は篠岡とナマエにとってはなかなか苦しい作業となった。
「千朶はたぶん序盤から宮森は出してこないよね。誰が来ると思う?」
ナマエは篠岡にそう訊ねた。
「吉成選手…も、うち相手には出してこないかな。となるとまずは遠藤選手?」
「1年生投手だね。夏もベンチ入りしてたみたいだし、新チームになってからは先発投手として活躍中か。」
ナマエは作成したばかりのプロフィール詳細を見ながらそう言った。
「遠藤選手は球種はストレートとカーブしかないし、球速も130キロ台だよ。榛名さんよりも攻略しやすいんじゃないかな?」
篠岡はいつもポジティブだ。
「遠藤選手が投げてるうちにたくさん点取っちゃってそのまま逃げ切りたいねぇ」
「そうだね。でも交代した時のことを考慮して吉成選手と宮森選手のデータも作っておかないと。」
「投手3人分か。でも、まあ、捕手の方は谷嶋選手固定っぽくてよかったよ。3パターン分のバッテリー分析がんばろう!」
「うんっ」
そうして篠岡とナマエが四苦八苦しながら千朶バッテリー3組分の分析を終えたら、最後は千朶投手が打たれた時の打球情報を調査することになった。これは千朶の投手が過去に打たれた時の投球のコースと球種、打球の方向、打球の種類、ヒットor犠打orアウトを調べ、それを資料にまとめるというものだ。当然これも3投手分作成する必要がある。篠岡とナマエはこれらの作業を授業の合間や部活中の手の空いてる時間を利用して手分けして実施し、3日間で全資料の作成を完了させた。作成が終わったらさっそく資料をコピー&印刷して野球部全14名(モモカン&志賀先生&部員12名)分用意した。
「監督ー!千朶の資料の準備できました!」
パソコンルームから裏グラに戻ってきたナマエはモモカンに資料を手渡した。
「ありがとう!大変だったでしょう?今回もおつかれさま。」
モモカンはそう言ってニコッと笑った。
「花井君!阿部君!千朶のデータができたよ。さっそく作戦会議を行いましょう。」
モモカンはグラウンドにいる花井と阿部に声を掛けた。呼ばれた花井と阿部の2人はグラウンドから駆け足で戻ってくる。
「はい、これ、花井と阿部の資料ね」
ナマエは2人に資料を手渡した。2人は「サンキュ」と言いながらそれを受け取り、モモカンと3人で打ち合わせを始めた。

 資料作成が完了した日の翌日の土曜日、西浦高校野球部では教室の1室を借りて千朶高校攻略のための臨時ミーティングが開催された。そのミーティングではまずは篠岡とナマエが作成した資料を部員全員で読み合わせをし、その次に父母会が撮影しておいてくれた過去の試合映像をみんなで観賞しながら千朶攻略のために意見を出し合った。臨時ミーティングは午前中で終了し、午後からは練習開始だ。
「今回の資料もすごかったな」
練習中、ベンチにドリンクを飲みに来た阿部がボール磨き中の篠岡とナマエにそう言った。
「資料、役に立てそうかな?」
篠岡が阿部にそう訊ねた。
「おう、もちろん。いつもあんがとな。」
阿部はそう言ってニッと笑った。それを聞いた篠岡は嬉しそうにはにかんでいる。
「相手は千朶…だけど、今回も勝ってくれるんだよね?」
ナマエは阿部にそう言った。
「当然そのつもりだ」
「それでよし!うちらマネジの努力の結晶を今回も存分に活用してよ!」
ナマエはそう言ってニカッと笑った。
「つか、あんだけの資料を部活中の通常業務をこなしながらたった2人で作るの大変だろ?正直、マネジもっと欲しいよな。」
「そうだね。通常業務をこなすだけでも2人は欲しいし、大会中はそれに加えてデータ収集・分析作業があるって考えるとできればあと2人くらいいてくれると余裕あるんだけどね。」
「今の時期から新しくマネジ2人入れるのは難しいだろうな。つーかマネジだけじゃなくて選手ももっと欲しいんだよ。」
「今は秋大期間中だし10月には4市大会があるからしばらく手が空かないけど、12月になったら部員募集中ってポスター作ってみようかな?生徒会に申請して学校中の掲示板に張らせてもらおうよ。」
ミョウジ、ポスターなんか描けんのか?」
阿部は目を見開きながらナマエにそう訊ねた。
「絵を描くのはあんまり…。みんなの写真撮らせてくれたら画像編集ソフトで加工するくらいならできると思う。」
ナマエがそう言うと阿部は「へー、すげーな」と言った。
「選手の方はさ、自分たちの後輩とかに声掛けたりしないの?もう9月も終わりじゃん?そろそろ志望校決めちゃう時期だよね。今のうちに"西浦に来てくれー!"ってアピールしとかないと来年新入生入部してくれないかもよ。」
「………夏大でそれなりの成績も残してるし、まさか1人も来ないなんてこたァねーと思うけど、でもやっぱ後輩だけで1チーム作れるくらいの人数は入ってきてくんねーとマジィよな。特に投手は公式戦で使い物になるやつが最低でも1人は欲しい。でないとまた来年も三橋だけで全試合乗り切らなきゃなんねェよ。三橋の負担がデカすぎる。」
「それを言ったら捕手もでしょ。田島君はよくやってるけど、やっぱ田島君は打者として西浦No.1の戦力なんだから他に捕手経験のある後輩に入ってきてほしいよ。」
「ああ、それもそうだな。オレはとりあえずシニアの後輩に一応連絡とってみるわ。他のやつらにも頼んでみる。」
阿部はそう言ってドリンクを飲み干して練習へと戻っていった。
「マネジはどうやったら集まるかな?」
ナマエは篠岡に相談してみた。
「うーん、部活に所属してない人たち探して声かけてみるとか?闇雲に声かけるんじゃなくて夏大で応援来てくれた人たちの中から帰宅部の子探してみるのがいいかも?」
「なるほどね。まずは浜田君に訊いてみようかな。あ、もちろん秋大と4市大会が終わって落ち着いたらね。」
そう言ったナマエは今度は傷んだボールの修理をしようと思い、裁縫道具を取り出した。
「そういえばナマエちゃんはさ…」
篠岡が口を開いた。
「ん?」
「どうして野球部のマネジになろうと思ったの?野球全くの未経験で、最初はルールも知らなかったよね?」
「あー…、それはね、うんとね、なりゆきです。入学式の日、たまたまグラウンドの近く歩いてたらモモカンに捕まって、なんとなく野球部の見学に行って、マネジやってみようかなって気分になったんだ。」
ナマエは以前田島家でマネジになった理由を説明した時に"レンのためにマネジになったの?"とか"レンとナマエってそういう関係なのか?"と言われて誤解されそうになった経験があるので、今回は三橋の支えになりたいと思ったという部分は伏せて話した。
「そうなんだ…。そういえばナマエちゃんは監督の鹿児島甘夏潰しにもビビってなかったもんね…。私はあれを見て、監督こわいと思って一旦マネジ諦めかけたんだよ。」
「え、そうなんだ!てか千代ちゃんはなんでマネジやりたかったの?」
「うーんと、私はね、お母さんの影響なんだ。お母さんが高校時代に野球部のマネジやっててね、当時すごく楽しかったって言う話を昔から聞かされてたの。だから私もやりたくなっちゃって高校生になったら野球部のマネジになるって決めてた。中学でソフトボール部に入ったのも野球のルールをわかるようになるためなの。」
「へー!高校で野球部のマネジやるために中学はソフトボール部を選んだのか!計画的だ。すごい!」
ナマエは驚いて目を見開いた。
「いやいや、全くの野球初心者でマネジやろうと思ったナマエちゃんの方がすごいよ。」
「あー…、普通はやっぱり小学生の頃に野球やってたとか、夏の甲子園を見るのが好きで憧れがあったとか、そういう子がやるもんなんだろうね?ってことは今の時点で入部してない時点で今の西浦にそういう子はもういないってことか。新しいマネジは来年新入生が入って来るまでは期待できないかねぇ。」
ナマエはそう言いながら遠い目をした。
「うーん…、ま、でも手が空いたらポスター作りくらいはやってみようよ!一度作っちゃえば来年の新歓の時にも使い回せるでしょ?」
「そうだね!4市大会が終わったらポスター作りやろう!」
ナマエはケータイのスケジュール帳を開いて12月の欄に"勧誘ポスター作り"と予定を書き込んだ。

 その日の午後練習はいつも通りに順調に終わった。翌日曜日もいつも通り朝9時に集合して選手たちは練習に励んだ。月曜日にはいよいよ秋大県大会初戦(vs千朶戦)が控えている。日曜日の夜は翌日の千朶戦に備えていつもより早めに練習を切り上げることになった。
「明日はいよいよ秋大県大会初戦!相手は県下No.2の千朶高校!なんで秋大県大会初戦から千朶なんだって思ってる人もいるかもしれないけど、あの千朶と戦えるなんてすっごく貴重なことだよ。きっと色々なことを学べるはず。夏大敗退以降、甲子園優勝を目指して厳しい練習をこなしてきたみんなの成果を見せる時が来たと思って前向きに挑戦していきましょう。明日に備えて今日はゆっくり休んでください。以上!解散!」
モモカンが練習終わりの締めのあいさつをすると選手たちは「あーっした!」と言って頭を下げた。解散後は選手たちはコンビニに寄ると言うので篠岡とナマエもそれに付き合うことにした。もう9月も終わるというのにまだまだ暑い日が続いている。ナマエは篠岡とパピコを半分コすることにした。
「この暑さ、いつまで続くんだろうね」
ナマエはそう言いながらパピコをすすった。
「10月の半ばくらいには落ち着く…と思いたいね」
篠岡はそういって笑った。
「あ、10月と言えばハロウィンじゃん。なんかする?お菓子配ったりとか仮装したりとか。」
「西浦は私服校だからやろうと思えば仮装とかもできるよね。やる人いるのかな?」
篠岡とナマエがそんな会話をしていると田島が「魔女の仮装したらいいじゃん!」と言って会話に割り込んできた。
「かわえーだろ、魔女!」
田島はそう言ってニカッと笑った。
「えー、じゃあ、田島君たちも何か仮装してよ」
「男って何の仮装するもんなんだ?」
「……え、わかんない。ドラキュラとか?死神とか?」
ナマエはそう言った。
「最近は普通にアニメキャラの格好する人もいるみたいだよね」
篠岡はそう言った。
「もはやただのコスプレだね」
ナマエはそう言ってクスッと笑った。
「さー、お前ら食い終わったらとっとと帰るぞー!明日は大事な試合だかんな!」
花井が部員たちにそう呼びかけた。ナマエは食べ終わったパピコのプラスチック容器をゴミ箱に捨てた。野球部はコンビニからは上り組と下り組に分かれる。ナマエは上り組なので三橋・阿部・花井・沖・泉・栄口・巣山たちと一緒の方面だ。下り組の西広・水谷・篠岡・田島とはコンビニ前で別れを告げた。
「ハロウィン、仮装すんのか?」
泉がナマエに話しかけてきた。
「えー、どうしよう。なんか百均で売ってるカチューシャくらいはするかも?あとクッキーでも作って配ろうかな。」
「お、手作りクッキー?食いたい!」
「ちゃんとトリックオアトリートって言ってくんなきゃあげないよ~」
ナマエはそう言ってケケケッと笑った。
「オレも手作りのお菓子作ろうと思ってるんだけど、いいかな?引かない?」
巣山がそう言った。
「引かないよ!巣山君めっちゃ料理上手だもんね!楽しみにしてるね。」
「巣山は何作るんだ?」
泉が訊ねた。
「まだ迷ってる。ミョウジがクッキーならそれ以外がいいよな。マフィンとかマドレーヌとかどう?」
「わー、おしゃれ!さすが巣山君!」
「いやいや、そんなことないって」
ナマエたちはそんな風に楽しく会話をしながら歩いて帰った。今日も野球部の1日が終わった。

明日はいよいよ千朶高校との試合だ!

<END>