「おお振りの世界に異世界トリップ 第55章」
中間試験前休み6日目の月曜日もナマエは田島家には行かずに図書館で勉学に励んだ。そして翌日の火曜日から4日間は中間試験期間となる。ナマエは前の世界で既に高校卒業済みである上、中間試験前休み4日目以降は毎日きちんと試験に備えて勉強をしたのでどの科目の試験も手ごたえバッチリだった。かなりの高得点を狙える自信がある。
そして迎えた中間試験最終日、本日の夜は田島家でバーベキューをすることになっている。参加者は野球部全員+浜田だ。午前中に試験を受け終えたナマエは一旦家に帰って昼食を食べた後、シャワーを浴び、身支度を整えてから田島家へと向かった。
「ちーっす!」
田島家に到着したナマエは今日も田島家の庭で自主練をしている阿部・三橋・田島・泉の姿を見つけて声を掛けた。
「おー、ナマエ!来たか!」
トスバッティングをやっていた田島はその手を止めてナマエにあいさつを返した。
「え、ナマエ、来るの早くね?」
泉がそう言って驚いた顔をしていた。そうなのだ。今日のバーベキューは17時から開始の予定になっている。でも今はまだ14時過ぎだ。
「私はバーベキューの準備を手伝おうと思って早く来たんだ。だって悠一郎の家族と野球部員とハマちゃん合わせたら合計24人でしょ?絶対準備大変じゃん?」
「ナマエ、ありがとな!お母さんにナマエが手伝いに来てくれるって言ったらスッゲー喜んでたよ。玄関の鍵開いてるから入っていーぞ。」
田島はそう言ってトスバッティングを再開した。ナマエは「お邪魔しまーす」と言いながら田島家の玄関を開けて家の中へと入った。
「ナマエちゃん、来てくれてありがとうね」
ナマエの姿を見つけた田島母がそう言った。田島の実姉の佳乃子と義姉のゆず香も「いらっしゃい」と言いながらナマエに笑顔を見せている。
「いえいえ、こちらこそ今日はよろしくお願いします。何からやりましょうか?」
ナマエは自分のかばんからエプロンを取り出しながらそう言った。
「まずは野菜を洗いましょう」
田島母はそう言った。
「ナマエちゃん、野菜は今朝取ったばかりのやつが食糧庫に置いてあるの。一緒に運んでくれる?」
佳乃子はそう言ってナマエを食糧庫に案内した。ナマエは段ボールに山積みになった野菜を佳乃子と手分けしてキッチンまで運んだ。続いて、野菜を流水で洗っていく。なんといっても24人分(※しかも、その内11人は食べ盛りの高校生男子)の野菜だ。2人で手分けして洗っても30分以上かかった。野菜を洗い終わったら、佳乃子・ゆず香・ナマエの3人で野菜をカットしていった。その間に田島母は肉をカットしてくれている。肉と野菜を切っていると炊飯器から音楽が流れた。ごはんが炊けたようだ。
「ごはんもう1回炊いた方が良いかな?高校生男子が11人もいるんだもんね?」
佳乃子が田島母にそう訊ねた。
「そうね、念のためもう1回炊きましょうか」
田島母はそう言った。
「じゃあ、まずは今炊きあがったご飯を取り分けないとですね。ラップでいいですか?」
ナマエがそう訊ねると佳乃子が「こっちにタッパーあるよ」と言って食器棚へと案内してくれた。佳乃子とナマエは手分けしてごはんをタッパーに詰めた。詰め終わったら空になった内窯を一旦洗剤で洗い、再度米研ぎから始める。
「さすが野球部のマネジ!手際がいいね。」
ゆず香はそう言ってナマエを褒めてくれた。
「えへへ、部活で毎日おにぎり作ってるんでもう慣れました!」
ナマエはそう言って照れ笑いをした。バーベキューの準備は着々と進んだ。
15時になると阿部・三橋・田島・泉は自主練をやめて片付けを始めた。片付けが終わったら阿部・三橋・田島・泉は裏グラに向かった。ロープ引きをやるためだ。ロープ引きの後は阿部・三橋・泉の3人は一旦家に帰るらしい、シャワーを浴び、着替えをしてからまた田島家へ戻ってくるそうだ。野球部4人の自主練が終わって庭が空いたので、ナマエは今度は田島祖父たちと一緒に鉄板やテーブルやベンチの設置を行った。そうしているうちにあっという間に時間は過ぎていった。17時が近づくと阿部・三橋・泉・栄口が田島家にやってきた。
「お、もうこんな時間か。オレ、みんなのこと迎えに行ってくる!」
田島はそう言って自転車に乗って出ていった。田島家に来たことのない人たちは一旦裏グラに集合してから田島の案内のもと田島家までやってくる手筈になっているのだ。
「じゃあ、そろそろ炭に火を付けとこう」
田島の上の兄の康太郎がそう言った。阿部・三橋・泉・栄口も着火の手伝いをした。ナマエはその間にキッチンから食材をどんどん外へと運び出し、テーブルに並べていった。
「おーい、みんな来たぞー!」
田島が他の野球部員たちと浜田を連れて家に帰ってきた。
「ちわっ!」
まず花井がそう言ってあいさつをした。すると他の部員たちと浜田も続けて「ちわーっ」とあいさつをした。
「みんな、いらっしゃい」
田島母がそう言って野球部員たちと浜田を出迎えた。
「みんな、荷物預かるよ!家の中に置いておこう!」
佳乃子はそう言って到着したみんなの荷物を受け取っていった。ナマエもそれを手伝うことにした。
「ナマエちゃんエプロンしてる!お手伝いしてたの?」
篠岡がナマエにカバンを渡しながらそう言った。
「うん、先に来て色々やってた」
「そうなんだ。1人でやらせてごめんね。」
「謝らなくていいよー。私は悠一郎の家で何度も晩ごはんをごちそうになってるから今日はその分を返そうと思ったんだ。」
ナマエはそう言って笑った。
全員分の荷物を田島家の中へ運び入れたらいよいよバーベキュー開始だ。野球部員たち&浜田は鉄板の周りに並んで立った。
「悠、始めていいぞ」
田島祖父がそう言うと田島はまず今回のバーベキューに参加するメンバーの紹介を始めた。
「えっと、この辺は知ってるだろ」
田島はそう言って泉・栄口・三橋・阿部・ナマエの5人の方を手で示した。
「ちわっ」
ナマエたちはそう言って再度あいさつをした。
「こっちが西広シンタロー、巣山ショウジ、しのーかちよ、…あと水谷コメ!」
田島がそう言うと水谷は「コメじゃないよっ!フミキ!」と訂正した。
「水谷文貴です。よろしくお願いします」
水谷がそう言って頭を下げると佳乃子とゆず香は「コメっていいあだ名じゃない」「覚えやすいよねー」と言って笑っていた。
「そんで、沖カズトシと浜田ハマダー」
田島がまたボケると浜田が「なんでだよっ。良郎です!よろしくお願いします!」と言った。
「浜田は応援団やってくれてんだ。練習もよく手伝ってくれる。」
田島は浜田について説明を加えた。
「おー、そりゃあ、ありがとうな。ごくろうさん。」
田島祖父はそう言った。
「そいで最後がキャプテンの花井――…」
ここで田島は言葉に詰まった。
「…………花井の名前ってなんだっけ?」
田島がそう言うと泉は「えーと……」と悩み、栄口は「……あれ?ド忘れしたぞ?」と冷や汗をかいている。
「梓だよ、ア・ズ・サ!」
ナマエは田島にそう言った。
「あー、あれアズサって読むのかあ!なんて読むんだって思った記憶があるぞ!」
「梓も読めないの?悠一郎はよく西浦合格できたな!?」
ナマエがそう言うと周囲から「はははっ」と笑いが起きた。
「花井アズサ、キャプテンだ!」
田島は改めて花井を紹介した。
「ちわっす!花井です!お世話になります!」
「おう、アズサ。同学年まとめんのは大変だろうけど、がんばれよ!」
「はいっ。本日はお招きいただきありがとうございます!何でも手伝うんで言いつけて下さい!よろしくお願いします!」
花井はそう言って頭を下げた。それに合わせて他のメンバーも「あーっす!」と言ってお辞儀をした。それを聞いた佳乃子とゆず香は「すっごい声~」と言いながら笑っている。
「じゃあ、さっそく焼こう!」
田島祖父がそう言いながら食材を鉄板に並べ始めた。佳乃子とゆず香はお茶碗にごはんをよそって持ってきてくれた。みんなにごはんが行きわたったところで泉が「花井頼む!」と言った。泉は恒例の"うまそう"の号令を待っているのだ。
「えっ」
花井は困惑した表情を見せた。そんな花井に対して田島は「はやくーっ」と言って急かした。
「う~~~っ、うまそう!」
花井は恥ずかしそうにしながらも要望通り号令をかけた。すると他の野球部員たちは「うまそう!いただきます!」と返した。そしてみんなで一斉に肉に手を出した。
「んー!おいしい~!」
肉を一口食べたナマエは思わず口から感想が漏れた。
「ほんとにおいしいね」
篠岡はそう言ってニコッと笑った。
「野菜も食べなさーい」
田島母がみんなにサラダを配ってくれている。
「あ、手伝います!」
篠岡がそう言って田島母のもとへ近づいた。
「私は飲み物配るの手伝いますね」
ナマエはそう言って麦茶を配ってくれている田島祖母に近づいた。田島祖母から麦茶の入った紙コップを受け取ったナマエは鉄板の周りにいる選手たちに配っていった。
「はーい、麦茶持ってきたよ。」
ナマエが泉や三橋や栄口に紙コップを手渡していると田島がやってきた。
「あのさー!花井のことはアズサじゃなくて花井って呼んでくれ!」
「親御さんと区別がつかないからアズサでいいだろう」
田島祖父がそう言った。
「自分の名前が好きじゃないんだって!すごくイヤみたいだからな!」
田島のその言葉を聞いたナマエが花井の方を見ると顔を真っ赤にして恥ずかしそうに顔を両手で覆っていた。
『あー、そういやそんな設定あったな』
前の世界でアニメおお振りを観たことのあるナマエは夏大の開会式で花井母が"人前で梓って呼ぶと怒るのよ"と言っていたシーンがあったことを思い出した。
「名前、みんなに教えたの余計なことしちゃったかな?」
ナマエは花井に麦茶を渡しながらそう訊ねた。
「いや、あの場面では名乗らないわけにいかなかったろ。ミョウジは悪くねーって。」
「そっか。よかった。」
「ミョウジ、ちゃんと食ってるか?手伝いばっかしてねーでお前も食え。ホラ、肉焼けたぞ。」
花井はそう言って鉄板の上の肉を指さした。
「あははっ、ありがとう!じゃあこれ貰うね!」
ナマエはそう言って肉を摘まんで口に運んだ。
「あれ、なんかこれデジャブだ。そういえば桃李でのバーベキューの時も花井は気遣ってくれたよね。」
「あー、そんなことあったな」
花井はそう言って肉とごはんを口の中にかきこんだ。
「花井は優しいよねぇ。見た目は怖いけど!」
「え、オレ、怖いか?」
「一見ね、一見!背は高いし、ガタイいいし、坊主だし、野球部のマネジをやってなかったら絶対話しかけられなかったな。」
ナマエはそう言ってハハッと笑った。
「そういやミョウジはなんで野球部のマネジやろうって思ったんだ?」
花井がナマエにそう訊ねると田島が話に割り込んできた。
「レンのためだってさ!な!」
田島はニシシッといたずらっぽく笑っている。それを聞いた花井は「は!?」と驚いた顔をしている。
「悠一郎!その言い方やめてよ~!また誤解を生むじゃん!」
「でもホントのことだろ?花井はナマエがレンのことかわいがってることも、それが恋愛感情じゃないことも知ってるし、正直に言えばいいじゃん。」
田島にそう言われたナマエは「うう…」と狼狽えた。
「マジで三橋のためなの?」
花井はそう言った。
「いや、その言い方はちょっと…。でも当たらずとも遠からずって感じかな。」
「どういうことだ…?」
「いやさ、レンが中学時代にチームメイトに嫌われていたこととか、その三星の連中と練習試合で対戦しなきゃいけないこととか知ったら、可哀想って言うか…放っておけないなって思ったんだよね…」
ナマエがそう言うと花井は目を見開いていた。
「へー、そうなのか。ミョウジの三橋へのその熱意って一体どこから来てるわけ?」
「どこから…?って言われてもな。ねえ、隆也はどこから来てる?」
ナマエは肉を取りに来た阿部に話しかけた。
「は?何が?」
「うちらレンのこと大好きじゃん?この熱意はどこから湧いてくるのかって花井が訊いてきた。」
ナマエがそう言うと阿部は一瞬顔が赤くなった。
「お前、大好きとか言うのやめろよ。ナマエはともかく、オレがレンを大好きはキショいだろ。」
「私はキショいとは思わないけど…、まあ、表現が良くなかったわ。ごめん。で、このレンへの熱い感情の源はなんだと思う?」
「………オレはあいつの努力を生かしてやりてぇってだけだよ」
「ああ、それだ!」
ナマエは指をパッチンと鳴らした。そして花井の方を振り返った。
「そういや私、花井に言いたいことあったわ」
「お、何だ?」
「私は本気で千朶に勝てると思ってた!」
ナマエがそう言うと花井はピタッと固まった。そして真剣な顔でナマエを見つめてきた。
「私はレンの飽くなき向上心と地道にコツコツ努力ができる誠実さをすっごい尊敬してるし、そんな投手がエースをやっているこのチームにいられることを心底嬉しく思っているし、このチームは甲子園優勝するにふさわしいと本気で思ってる!」
「………」
「だから花井が千朶に勝てる気がしなかったと言った時はちょっとショックだった」
「………オレ、あの時、田島と三橋は千朶に入っても見劣りしないって言ったの覚えてるか?」
「うん、もちろん。それを聞けたのは嬉しかった。」
「訂正するよ。あの2人だけじゃなくてミョウジも千朶に入っても見劣りしねぇよ。」
花井はそう言ってクッと笑った。
「え、私?私はレンを信じてるだけだよ。」
「理由は何にせよ、ミョウジにはあの千朶相手に本気で勝ちを信じられるメンタルがもうあるわけだろ。あーあ、オレも負けてらんねえよなァ。」
花井はそう言いながら麦茶をゴクゴクと飲み干した。
「それから三橋には感謝しねぇとな」
「そうだね、うちの立派なエースだからね」
「それもあるけど、三橋がいたからミョウジは野球部のマネジになってくれたってことだろ?この優秀なマネジが確保できたのは三橋のおかげってわけだ。」
「あら、お褒めに預かり光栄ですわ」
ナマエはそう言ってへへッと笑った。
ここで栄口がアマチュア審判をやっている田島の上の兄の康太郎にラインアウトのルールについて質問をし始めた。野球のルールの解説を始めた康太郎のもとに他の選手たちも興味津々で集まっていった。ナマエも康太郎の話を聞きながらメモ帳に説明を書き起こした。康太郎の説明を聞き終わったら佳乃子が再びごはんのおかわりを用意して運んできてくれた。選手たちは佳乃子に群がり、そしてまた鉄板を囲って肉を頬張り始めた。ナマエはここらで箸休めをしようと思い、田島母からサラダを受け取った。立っているのも疲れてきたのでベンチに座ると水谷が隣に座ってきた。
「あれ、コメだ」
ナマエがそう言うと水谷は「コメはやめてよー!」と顔を赤くしながら言った。
「ミョウジはちゃんと食えてる?昼から手伝ってたって聞いたよ。疲れたっしょ?」
「うん、ちゃんと食べてるよ。でもそうだね、ちょっと疲れてきたからそろそろ休もうと思ったんだ。」
ナマエがそう言うと水谷は「そうだよ。ちょっとはゆっくりしな~。」といって柔らかに笑った。
「さっきチラッと見かけたけど、千代ちゃんと2人で話してたよね?よかったじゃん!」
「うん!結構話せた!」
そう言った水谷は嬉しそうにはにかんでいる。
「どんな話したのー?」
「えーっと、鎌倉遠足の話とか、阿部が女子に怖がられてるって話とか」
「ああ、鎌倉遠足もうすぐだね!やっぱ水谷たちは千代ちゃんと組むの?」
「そうしたかったんだけど、男女の組み合わせはクジ引きで決めるんだってさ」
水谷のその言葉を聞いたナマエはピシッと固まった。
「え…それって全クラスそうなの?7組だけ?」
「え、わかんない。オレもその話さっき知ったばっかだからさ。」
「ヤバい!私、いつも野球部男子と一緒にいるからクラスに仲良い女友達あんまりいないんだよね…。鎌倉遠足もレンたちと組もうと思ってたのに~!」
ナマエがそう言って嘆いていると浜田が寄ってきた。
「鎌倉の班決めはクラスによってやり方違うと思うよ。オレが去年行った時は男女自由に班決めたし。たぶん来週のホームルームの時間に鎌倉遠足の班決めするからその時に"好きなように組ませてください!"ってアピールしたら?オレもホームルーム委員のやつらに根回ししとくよ。」
「ハマちゃん…!ありがとう!」
ナマエはキラキラした目で浜田を見つめた。
「よかったな、ミョウジ!」
水谷はそう言ってニカーッと笑った。
「んで、隆也が女子に怖がられてるっていうのはどーいうこと?」
「阿部ってさ、話しかけた時の第一声が基本「は?」でしょ。ソフト部の子は阿部に嫌われてるって思ってるらしいよ。」
「あーね。あいつ野球の事しか頭にないし、部活外の人には不愛想だもんな。」
「オレもたまにこえー時あるよ。試合中にオレがミスった時とか、あとこの間の武蔵野第一戦の翌日に三橋に怒鳴ってた時とか。」
「あれはヤバかった!ガチで怒鳴ってたもんね!」
ナマエはそう言ってケラケラと笑った。
「でもしのーかは阿部は三橋に優しいって言うんだよ。オレはそれは違うと思うって言っちゃったけど。」
「優しい…か。うん、私も優しくはないと思う。でも大事に思ってるのは伝わってくるよ。あいつは不器用だからそれが素直に優しさにならないんだよね。でもそんな不器用なところが隆也の魅力なんじゃん?…と思うよ。」
「へー、そう思ってんのか。ミョウジは阿部と仲良いもんな。」
「そうだね、水谷に冷やかされたこともあるしね」
ナマエはそう言って水谷の顔をジトッと見た。水谷は「ヒィ~、すみませんでした!!」と言って青ざめている。
「でも実際のところ恋愛感情はないん?ってかミョウジは好きな人とかいないの?」
「いないっスね~」
「そっかー。…ちなみにしのーかって好きな人いるか知ってたりする?」
「んー、どうなんだろね?」
ナマエは篠岡は選手の内の誰かに恋心を抱いていることは知っているのだが、それを勝手に水谷にバラす訳にはいかないので知らないふりをした。
「女子同士で恋バナとかしないの?」
「もし同じ人を好きになってもお互いに遠慮はしないで正々堂々勝負しようねって話ならしたことあるよ。あとそうなっても絶対にマネジ業務に支障は出さないって約束もした。」
「あー。2人しかいないマネジが恋愛沙汰でギスギスし始めたら困るもんね。」
「逆に男同士では恋バナとかしないの?」
「しないな。いつも部活でヘトヘトだから基本そんな余裕ないし、そういう話題になりそうになると泉が話逸らしてくれるんだよね。」
「わっ、さすが孝介!優しい~!男前~!」
ナマエはそう言って笑った。
バーベキューも後半に差し掛かるとナマエはもう十分食べてお腹いっぱいになった。でも高校生男子たちはまだガツガツ食べている。ナマエはそろそろ裏方に回ることにした。空いた食器を回収し、田島家のキッチンへと運び、食器用洗剤で洗っていく。
「あれ、ナマエちゃん食器洗いしてくれてるの?」
食欲旺盛な高校生男子たちにごはんのおかわりを用意しようとキッチンにやってきたゆず香がナマエを見つけてそう言った。
「はい、私はもうお腹いっぱいなんで!ゆず香さんたちはちゃんと食べれてますか?ごはん運ぶの私がやりましょうか?」
「大丈夫、私も佳乃子さんと交代しながらもう十分食べたよ。気を遣ってくれてありがとうね。ナマエちゃんはお客さんなんだからゆっくりみんなとお喋りしてていいんだよ?うち食洗器あるからよっぽどひどい汚れだとか急いでる時以外は手洗いしないからさ。」
「あ、そうなんですね!食洗器ってどれですか?」
「これだよー」
ゆず香はそう言ってキッチンの引き出しの一つを開けた。
「わ、こんなところに!」
「うちは大家族だから食洗器は必需品なのよ」
ゆず香はそう言って笑った。
「じゃあ、使い終わった食器はこの中に並べておきますね。それが終わったら庭に戻ります。」
ナマエがそう言うとゆず香は「ありがとう」といってお茶碗にごはんをよそいはじめた。ナマエは食洗器にどんどん食器を詰めていった。それが終わったらナマエは庭に戻ってお茶出しを手伝ったり、食材を鉄板に並べたり、また空になった食器を回収して食洗器に入れたりして過ごした。そうしているうちに食材はすっかり空になった。
「ごちそうさまでした!」
花井がそう言って頭を下げるとそれに続いて他の部員たちと浜田も「っしたー!」と言ってお辞儀をした。
「オラ、みんなで片付けすっぞ!」
花井は他の選手たちと浜田にそう言った。手分けして炭を消火したり、ベンチとテーブルをふきんで拭いてから倉庫に運んだり、ゴミの回収・分別をしたり、みんなテキパキと動いた。あっという間に片付けは終わった。
「今日はありがとうございました!これからもよろしくお願いします!」
最後に花井がそう言って頭を下げた。それに続いて他の部員たちと浜田も「あーっした!」と言ってお辞儀をした。これをもって楽しい田島家でのバーベキューは終了となった。
明日からはまた練習再開だ!
<END>