「おお振りの世界に異世界トリップ 第57章」
10月中旬、3連休明けの火曜日、その日の4限目にはロングホームルームの時間が設けられている。そのロングホームルームでは今週の金曜日に予定されている鎌倉遠足の班決めを行うことになっている。これはナマエにとっては一大事だ。なぜか?それはナマエはクラスにあまり親しい女友達がいないからだ。ナマエはいつも9組の野球部男子3人(田島・三橋・泉)と一緒に行動しているのでクラスの女子との交流が少ないのだ。そして、これは先日の田島家でのバーベキューで水谷から聞いた話なのだが、7組では鎌倉遠足の班決めは女子同士or男子同士は自由に好きな人と組むことができるが、その後の男女のペアはクジ引きで決めるそうだ。もし9組も同じ方式でやるならナマエはいつも一緒に過ごしている田島・三橋・泉とは一緒に組めない可能性が高い。しかも、クラスの女子ともあまり交流がないので女子同士は自由に組んでいいと言われても誰と組めばいいのかわからない。
『せっかくの遠足なんだからいつものメンバーと楽しみたいもん!クジ引き方式は絶対に回避しなくては…!!』
ナマエは頭の中で必死に策略を練った。
そして迎えた4限目、ホームルーム委員が教壇に立った。
「みなさんご存じの通り、今週金曜日は鎌倉遠足です。今日はその鎌倉遠足での班決めを行います。鎌倉遠足の班は男子3名と女子3名の合計6名で1つの班を組み、その日は1日中その班で行動をすることになります。で、まずはその班の決め方について話し合いをします。私たちホームルーム委員が考えた案はこちらです。」
ホームルーム委員の女子はそう言って黒板に板書をしていった。
案①男女問わず自由に好きなもの同士で組む
案②男子3名/女子3名は自由に好きなもの同士で組み、男女の組み合わせはクジ引きで決める
案③全てクジ引きで決める
「この3つの案の中でどれがいいか、みなさんの意見を聞かせてください。また、この他にいい案があると言う方がいたらそれも教えてください。ではどなたか意見のある方ー?」
ホームルーム委員の女子がそう言った。
「はいっ!」
ナマエは真っ先に手を上げた。
「ミョウジさん、どうぞ」
ホームルーム委員の女子がナマエを指名した。
「私は案①がいいです。理由はせっかくの遠足なので普段から仲良い友達と一緒に回って楽しい思い出を作りたいからです。クジ引きにするメリットがよくわかりません。」
ナマエがそう言うと担任の教師が口を開いた。
「クジ引きは普段あまり関わり合いのないクラスメイトとの交流を生むのもいいんじゃないかと思って先生が提案したんだよ。とは言っても完全にクジにしちゃって知らない者同士で班になって遠足が楽しくなくなるのも避けたいから、男子同士・女子同士は自由に組んで男女ペアはクジ引きにするのがバランスがいいんじゃないかって意見が先生たちの中では多いよ。それにこれまでの傾向からして案①の場合だとなかなか男女の組み合わせが決まらなくて話し合いが長引くことが多いんだ。」
担任の教師がそう言うとクラスからは「ほー、そっか」「たしかにそうかも」という声があがった。マズい。担任教師が意見したことで案②が優勢になってきている気がする。
「先生!おっしゃることは一理あるかと思いますが、それは男子と女子があまり仲良くないという前提で考えられてますよね。でも同性の友達よりも異性の友達の方が多いっていう人もいるんですよ。そういう人にとっては案②で班決めしちゃうと先生が恐れている"遠足が楽しくなくなる"という事態が起こります。…ソースは私です!」
ナマエがそう言うとクラス中からドワッと笑いが起きた。
「オレも案①がいいんじゃないかと思います。」
そんな声が聞こえてきてナマエが振り返ると浜田が席から立ち上がっていた。浜田は続けて口を開いた。
「うちのクラスは男女問わず結構仲良いと思うんですよ。ミョウジ以外にも男子運動部のマネジやってる女子って何人かいるし。そしたらやっぱ普段から仲良くしてる異性と班組みたいじゃないっすか。なかなか男女の組み合わせが決まらないのが心配なら時間制限設けてその時間内に決まらなかったところだけクジ引きにするっていうのはどうっすか?」
浜田がそう言うとクラス中から「それいいじゃん!」「案①と②の折衷案だな」と言う声があがった。
『ハマちゃん、ナイス!!』
ナマエはそう思いながらこっそりガッツポーズをした。
「ではそれは案④と言うことにしましょう。」
ホームルーム委員の女子はそう言いながら黒板に板書を付け加えた。
案①男女問わず自由に好きなもの同士で組む
案②男子3名/女子3名は自由に好きなもの同士で組み、男女の組み合わせはクジ引きで決める
案③全てクジ引きで決める
案④基本は男女問わず自由に好きなもの同士で組み、時間内に決められなかったグループだけクジ引き
「他に意見のある方いますか?」
ホームルーム委員の女子はクラスのみんなにそう訊ねた。誰も手を上げない。
「ではこの4つの案の中から多数決で決めたいと思います。案①がいいと思う方ー?案②がいいと思う方ー?では次は…――――」
こうして多数決を取った結果、案④が最多となった。
「それでは今から10分間時間を設けるのでまずは自由に班を決めてください。男子3名と女子3名の合計6名が揃った人たちは黒板に名前を書いていってください。それではスタート!」
ホームルーム委員の女子はそう言ってストップウォッチで時間を計り始めた。ナマエはすぐに田島・三橋・泉の3人のところに駆け寄った。
「イエーイ」
ナマエはそう言いながら泉とハイタッチをした。
「おーい、浜田はどうすんのー?」
田島は浜田に声を掛けた。
「オレはバスケ部男子2人のところに入れてもらうから、お前らは野球部で組みなよ」
浜田はそう言って笑った。
「了解!じゃあ、他の女子2人はどーする?」
田島がナマエたちに向かってそう訊ねた。
「女子2人組で空いてる子たちがいたらいいんだけど…」
ナマエはそう言いながら周囲を見渡した。するとコソコソッと話をしながらこちらを見ている女子2人の姿が目に入った。この2人はソフトボール部の子たちだ。野球部とソフトボール部は同じ裏グラで譲り合って部活をしているのでクラスの女子とあまり親しくないナマエもこの2人のことはよく覚えていた。
『もしかしてちょうどこの2人空いてる感じ…?』
ナマエがそう思いながらその2人の様子を窺っていると、その女子たちと目が合った。その女子たちは一瞬ギクッとなったが、その後ナマエたちの方に駆け寄ってきた。
「あの…よかったら同じ班に入れてもらってもいい?」
片方の女子がナマエたちにそう言った。田島はニカッと笑いながら「おー、いいぜ!」と即答した。
「ミョウジさんも、私たちと一緒でもいい?」
「もちろんいいよ!大歓迎!むしろありがとうございます。」
ナマエはそう言ってバッと頭を下げた。
「よかったー!あのね、私たち夏大の試合観に行ったんだよ!」
「私、桐青高校に勝った時は感動して泣いちゃった!」
女子2人はそう言ってキャッキャッとはしゃいでいた。どうやら野球部のことを好意的に思ってくれているらしい。
「試合見に来てくれてたんだ。嬉しい!」
ナマエはそう言った。
「あの…私たちソフトボール部なんだけどね…」
「うん、知ってるよ。裏グラで姿見かけるもん。」
「あ、知っててくれたんだね!私たちもミョウジさんが裏グラで色々マネジのお仕事やってるの見てたよ!」
「お、見られてたか!改めて言われるとなんかちょっと恥ずかしいね。」
ナマエはそう言って「えへへ」と笑った。
「裏グラでのミョウジさんの姿見てて、いつかちゃんとお話してみたいなって思ってたんだ」
「そうなの?そんなこと言われたら嬉しくて泣いちゃいそう!」
ナマエが女子たちとそんな会話で盛り上がってると泉は「オレ、黒板に名前書いてくるわ」と言ってスタスタと歩いていった。結局、9組では制限時間の10分以内に全ての班が決定した。
「では、この後は班のメンバー同士で当日どこ観光するか話し合いをしてください」
ホームルーム委員の女子がそう言った。ナマエたちは3班になった。3班のみんなで教室の一角に机を寄せ合い、話し合いを開始した。
「鶴岡八幡宮は絶対行くでしょ?あと小町通りも。」
ナマエはそう言った。泉も「そこは外せねえよな」と言って頷いている。
「はいはーい!鎌倉って海あるんだろ?オレ泳ぎたい!」
田島が手を上げてそう言った。
「いやいや、10月に海水浴は無理があるでしょ。風邪引くよ?すぐ4市大会があるんだからダメダメ!」
ナマエは田島の案を却下した。
「海水浴はさすがに無理だけど、海は見に行きてーな」
泉がそう言った。隣にいる三橋も目をキラキラさせながらブンブンッと頷いている。
「じゃあ海岸散策ってことね」
ナマエはノートにメモを取った。
「お2人は行きたいところある?」
ナマエは女子2人に訊ねた。
「私は鎌倉高校前駅に行きたい!私、スラムダンクが大好きなんだ。ずっと聖地巡礼してみたかったの。」
片方の女子がそう言った。
「いいね!私もスラムダンク好きだよ!鎌倉高校前駅のすぐ近くには七里ヶ浜海岸あるから孝介たちの希望も叶えられる!」
ナマエはそう言いながら"鎌倉高校前駅"とメモに書き起こした。
「私は鎌倉の大仏が見たいな」
もう1人の女子がそう言うと田島が「大仏!オレも見たい!」と言って身を乗りだした。
「そうだね、そこも鎌倉観光の定番だよね!」
ナマエはそう言ってメモに"鎌倉大仏"と書き起こした。
「とりあえず今挙げた場所でルート考えて時間計算しようぜ。んでまだ時間余りそうだったら他にも行くとこ追加しよう。」
泉がそう提案してきた。
「そうだね。まずはどういうルートにする?絶対外せないのは鶴岡八幡宮だけど、朝一でそこ行く?」
ナマエはみんなにそう訊ねた。
「鶴岡八幡宮って鎌倉駅の近くだろ?んで遠足の最後は鎌倉駅に集合することになってるんだから一番最後で良くね?遠いところから鎌倉駅に戻ってくるのが効率よくないか?」
泉がそう言った。
「じゃあ、まずは鎌倉高校前駅だ。そこでスラダンの聖地を見てから近くの七里ヶ浜海岸散策しよう。鎌倉高校前駅から1つ隣の七里ヶ浜駅まで徒歩10分くらいみたいだからそんくらい海岸散策できたら十分だよね?で、次が鎌倉大仏。最寄り駅は長谷駅だよ。七里ヶ浜駅からだと電車と徒歩で約20分で着くみたい。たぶん鎌倉大仏見終わったくらいにお昼の時間になるんじゃないかな?長谷駅周辺でランチにしよう。で、長谷駅から鶴岡八幡宮は電車と徒歩で約20分。鶴岡八幡宮の観光にどのくらい時間かかるのかイマイチよくわからないんだけど仮に1時間だとして、帰りに小町通りで同じく1時間過ごすとしたら…もしかしたら1時間以上時間余るかも?」
ナマエはスマホでルートや時間をサクサク調べながらそう言った。
「ミョウジさんってすっごいね~!」
「こういうマネジ、うちにも欲しいね!」
ソフトボール部の女子2人は目をキラキラを輝かせながらナマエを見つめた。
「あはは、調べ物するのは得意な方なんだ」
ナマエはそう言って照れ笑いをした。
「もし時間余ったら鎌倉駅近くの観光スポット追加で行こうぜ!鎌倉駅の周りってそういうのいっぱいあるんだろ?」
田島がそう言いながらニカッと笑った。
「うん、そうだね。色々ありそう。鶴岡八幡宮に行く時間が無くなっちゃったなんていう事態だけは避けたいからあくまで鶴岡八幡宮の後に余裕があったら…にしようね。」
「じゃ、ルートは一応決まったな!」
泉がそう言った。
「あとはレンと悠一郎!当日の朝は東京駅に集合だよ!キミたちは放っておくと遅刻しそうだから朝どっかで待ち合わせしてから3人で一緒に行こう!」
ナマエは田島と三橋にそう提案した。田島は「オッケー」と言いながらニッと笑った。三橋もコクッと頷いている。
「今回は東京方面に行くから私の家が一番近いよね?うちに7時半に集合ってことでいい?」
「いいぜ!」
「わ、わかった!」
田島と三橋がそう返事をした。こうして鎌倉遠足の班決めと観光ルートの策定は無事に終わったのだった。
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