「おお振りの世界に異世界トリップ 第60章」
楽しかった鎌倉遠足が終わり、翌日の土曜日を迎えた。今日は午前授業のある土曜日だ。西浦高校野球部ではいつも通り朝練を実施した。そして午前中は授業を受け、その後は昼食を食べ、いよいよ午後から練習開始だ。10月の下旬は4市大会予選リーグが開催される。マネジの篠岡とナマエは当然対戦相手のデータ収集・分析を始しなければならない。鎌倉遠足前にFブロックの2校に関するデータ収集・分析と資料の作成は完了させておいた。今日は篠岡とナマエはお昼休憩中にその資料を14部印刷&コピーをかけた。そして午後になって練習が始まったらさっそくモモカンと選手たちに資料を手渡した。
「ナマエちゃん、千代ちゃん、資料ありがとう。じゃ、花井君と阿部君はさっそく作戦会議をしましょう!栄口君、いつも通り瞑想とサイキングアップから始めておいてね。副主将として他のみんなの指導よろしく!」
モモカンからご指名を受けた栄口は「はいっス!」と返事をした。選手たちの瞑想とサイキングアップ中にマネジの篠岡とナマエは手分けして水撒きとジャグのドリンク作成を行う。今日はナマエがドリンク作成担当の日なのでまずはジャグを持って数学準備室へ向かった。ついでに志賀先生にも作成した資料を手渡しておいた。
ドリンク作成を終えてベンチに戻ってきたら、篠岡とナマエは手分けして4市大会の対戦校候補のデータ収集・分析を開始した。Fブロックを勝ち上がったら次はEブロックの勝者と対戦することになっているため、次はEブロックの3校について調べる必要がある。ナマエはEブロックにいる崎玉高校についての調査の途中だったのでまずはそれを終わらせることにした。これまで収集してきた埼玉新聞の情報によると秋大では石浪という名前の選手がレギュラーとして出ているようだった。夏大の時には出ていなかった選手だ。
『打順は5番か。成績見るに結構いい打者っぽい…?』
今の時点では崎玉の夏大後のチームについては新聞・TV・ネット・選手名鑑の情報に頼るしかない。崎玉は名の知れた強豪校ではないので父母会も崎玉の試合はビデオ撮影をしていないからだ。
『石浪選手について今調べられるのはこのくらいしかないな』
ナマエは今の時点で出来る限りの調査は行ったが、まだ十分な情報を得られたとは言えない状態だ。でも、一旦はここまでにしておいた。
「千代ちゃん、崎玉の資料作成はとりあえず終わったよ。Fブロックの他の学校について調査始めるね。」
「うん。私は今こっちの高校について調べてるから、ナマエちゃんはもう片方をお願い。」
「了解!」
そうして篠岡とナマエは通常のマネジ業務をこなしながら、Eブロックの学校のデータ収集・分析を進めた。
「スマホがあるとデータ収集かなり楽だね~!」
篠岡はそう言って嬉しそうにしている。篠岡はつい一昨日スマホを購入したばかりだという。
「便利だよね!もっとスマホ活用してマネジ業務を効率化したいね。」
ナマエはそう言いながらジャグのドリンクの残量を確認した。そろそろなくなりそうだ。
「千代ちゃん、ドリンクあとちょっとだから2人で飲み干しちゃおう。そんで補充に行ってくる。」
ナマエはそう言いながらコップにドリンクを注いで篠岡に手渡した。
「ありがとう。マネジは運動しないとはいえ、うちらもちゃんと水分補給はしなきゃね。」
「うん。でも10月も下旬になったおかげか最近はだいぶ涼しくなってきたよね。このくらいの時期は過ごしやすくて私は好きだな。」
ナマエがそう言うと篠岡は「わかるよ」と言って微笑んだ。
「おし、じゃ、ドリンク補充行ってきまーす!」
ナマエはそう言って自転車を漕いで数学準備室へと向かった。その途中でフェンスの外から野球部を眺めている男子生徒を見かけた。
『野球部に興味があるのかな…?』
そう思ったナマエだったがいきなり話しかける勇気はなくて一旦スルーして自転車を漕いでいった。数学準備室でドリンク補充を行ったナマエが裏グラに戻るために自転車を漕いでいると先程見かけた男子生徒がまだ野球部を眺めていた。ナマエは声を掛けてみることにした。
「あの…野球部に興味がおありですか?」
ナマエがそう言うとその男子学生はくるりとナマエの方を振り返った。
「あ、はい!」
そう言った男子生徒はピシッとかしこまってみせた。
「野球部、部員募集中ですよ。よかったら中で見ていきます?」
「いえ、自分は中学3年生で学校見学のついでに寄っただけなんで今日はここで大丈夫です。」
男子生徒はそう言った。
「あ、中学生だったのね。てっきり西浦の生徒かと思っちゃいました。私は野球部のマネジをやってます。高校1年生のミョウジです。よかったらぜひ西浦に来てね。来年野球部に入ってきてくれたらすごく嬉しいです!」
ナマエはそう言ってニコッと笑った。
「はい、ありがとうございます!」
中学3年生の男の子はそう言ってナマエに頭を下げた。
「んじゃ、私はそろそろ行きます。受験勉強がんばってね!」
ナマエはそう言うと再び自転車を漕ぎ始めた。
裏グラのベンチにジャグを設置するとさっそく選手たちが群がってきた。
「おっと…これはまたすぐに補充しなきゃいけないパターンか?」
ナマエはそう言いながらフフッと笑った。
「ね、ミョウジ!オレ、ワールドトリガー読んだよ。」
西広がそう言ってナマエに話しかけてきた。
「どうだった!?」
「めっちゃおもしろかった!いい漫画を教えてもらった。ホントにありがとう!」
「いえいえ、気に入ってくれて嬉しいよ!ちなみに誰が好き?」
「オレは迅さんが好きだな。でも諏訪さんも結構好き。」
「あー、迅さん人気だよね!諏訪さんは私も好き。でも私はやっぱ修が1番好きだな。」
「修、公式の人気投票1位だもんね」
西広とナマエがワートリ談義に花を咲かせていると花井が近づいてきた。
「実はオレもミョウジが前に言ってたセリフ聞いてちょっと興味湧いてんだよ。そんなにおもしれーの?」
「「おもしろいよ!」」
西広とナマエは声を揃えてそう返答した。
「よかったら漫画貸そうか?」
西広がそう言った。
「マジ?いいの?」
「全然いいよ」
「じゃあ、頼む!」
「オッケ、明日持ってくるね」
西広はそう言って微笑んだ。
「ワートリは娯楽として読むのもおもしろいけど、人生の役に立つこともたくさん学べるからね!」
ナマエはそう言ってニシシッと笑った。意図せずワートリの布教ができて嬉しくなった。
Eブロックのデータ収集・分析をやっている途中で篠岡は米研ぎ作業のために席を外した。ナマエもフリーバッティング練習を開始した選手たちのお手伝いでピッチングマシンへの球入れ作業を行った。米研ぎを終えた篠岡も途中から練習のお手伝いに参加した。フリーバッティングが終わる頃にはごはんが炊きあがる時間になっていたのでナマエはジャグのドリンク補充ついでに数学準備室からおにぎりの具を回収してきた。ナマエが裏グラに帰ってきたら篠岡はベンチで先にまん丸のおにぎりをせっせと作っているところだった。ナマエは篠岡の作ったまん丸おにぎりに具を詰める作業をすることにした。
「さっきフェンスの外から中学生の男の子が野球部の見学してたよ」
ナマエは篠岡に話題を振った。
「え、そうなの?入学希望の子?」
「たぶん、そう。来年、何人の後輩が入ってきてくれるかな?多ければ多いほどうれしいけど、その分おにぎり作りもドリンク作成も大変になるよね。」
「うん、そうだね。仮に9人とか入ってくれたとしたら炊飯器もう1つ必要になるし、あとジャグも1個じゃ足りない。」
「バットもボールも足りないかも?モモカンの懐事情を心配してしまうわ…。」
ナマエはそう言って苦笑した。
「金銭面の心配もあるけど、私はマネジが来てくれるかどうかがすっごく心配!最低でも1人は絶対確保しなくちゃ!」
篠岡はメラメラと闘志を燃やしていた。
「4市大会終わったらポスター作りするんだったよね」
「うん。選手募集のやつだけじゃなくて、マネジ募集のやつも作ろうね!」
「選手募集のやつは野球やってる選手の写真加工すればいいけど、マネジ募集はどんな写真撮ればいいんだー?」
「おにぎりの写真とか撮る?」
「おにぎりでマネジに興味持ってくれる人いなくない?」
ナマエがそう言うと篠岡はアハハッと笑った。ナマエもつられて笑い出す。
「じゃあ、ノック中のボール渡しの写真?」
「それもなんかビミョーだ!」
「マネジの仕事の魅力ってなんだろう?私はナマエちゃんと一緒で毎日楽しいけどそれってどうやったら伝えられるかな?」
篠岡がそう言うと「そうやって2人で笑い合ってる写真を撮ったらいんじゃね?」という声が聞こえてきた。振り返ると泉が立っていた。
「おにぎり作りながら笑い合ってる女子マネの絵面、なかなかよかったぞ」
泉はそう言いながらジャグからコップにドリンクを注いだ。
「え、ホント?その写真でマネジ入ってくれるかな?」
ナマエは泉に訊ねた。
「少なくとも"興味があるけどちょっと勇気が出ない"みたいな人にとっては仲良さそうな先輩の姿はプラスの方向に働く…と思う」
「そっか!じゃ、孝介、4市大会終わったら私たちの写真撮って!」
「…今撮ってやろうか?」
「いや、撮られてると気付くと自然に笑えなくなるから私たちに気付かれないように隠し撮りしといて!」
「そりゃ難しいだろ」
泉はそう言いながらハハッと笑った。
「でも、じゃあ、隠し撮りはオッケーなわけか」
「…言っとくけどポスター作成用の写真に限った話だよ?」
「はいはい、わーってますよ」
泉はそう言いながらドリンクを飲み干して練習に戻っていった。
おにぎりを作り終え、選手たちに配った後はマネジ2人は再びデータ収集・分析と資料作りを進めた。その日のうちにEブロックの対戦相手候補3校の情報を作り終えた。明日からはARCのデータ収集・分析を開始する予定だ。ARCは父母会の方々が秋大の試合を撮影しておいてくれたのでまずはビデオを観ながらスコア表と配給表を作ることになる。ビデオがあるということはそれだけ情報が多いということだ。そして当然その分だけデータ分析作業も複雑になる。
「おっし、気合入れてこう!」
ナマエがそう言うと篠岡は「おー!」と言いながらケラケラと笑った。
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