※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:夢小説とはいえ特に誰かと恋愛する予定は今のところないです※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第62章」


 11月上旬の土曜日、本日は4市大会決勝リーグの初戦の日だ。対戦相手は崎玉高校である。崎玉高校とは夏大3回戦で対戦したことがある。その際は西浦はコールド勝ちを決めた。本日の試合会場は市営浦和球場だ。市営浦和球場は西浦高校から自転車で15分程の距離にある。いつもなら篠岡とナマエはモモカンの車で球場へ向かうのだが、今日は試合後に野球部員全員で球場の近くのガストでランチを食べる約束をしてある。その際に自転車がないと困るので今回はマネジの篠岡とナマエを含めた野球部員全員で自転車に乗って球場へ行くことになった。球場に到着したら篠岡とナマエはモモカンの車から荷物を降ろしてベンチ内へと運んだ。選手たちはベンチの出入口前の開けた空間でユニフォームに着替えを行い、柔軟を済ませる。そして柔軟を終えた後は花井から他の選手たちへ本日の打順の発表があった。最後に選手たちはメンタルトレーナーの小松崎からのアドバイスを受けて新しく考えた上を向いて胸を張る形の円陣で気合を入れた。

 さて、いよいよ試合が始まる。西浦高校は本日も後攻を取ることができた。なので最初は崎玉高校の攻撃だ。今日も阿部と三橋はマウンド上で右手と右手を合わせている。それから阿部は三橋の顎を触って上を向かせていた。
『レンが何かネガティブなこと言ったのかな?』
ナマエは2人のその姿を見てそう思った。
 1回表、崎玉高校の攻撃は1番杉田がサード前ゴロでアウトになった。一死。2番上村はセカンドゴロでアウトになった。二死。3番沢村は三振。これで三死で攻守交代だ。
 1回裏、西浦高校の攻撃は1番泉が三振。一死。2番沖は2球見送った後、3球目でセーフティバントを狙うが失敗しファールになった。二死。
「沖君、今の3球目ってスクリュー…じゃないよね!?」
本日、配給表を担当しているナマエはさっそく沖に食いついた。
「カーブだったよ」
「市原選手、カーブ習得したのか!」
ナマエは配給表に記録を取った。
3番巣山は三振した。これで三死で攻守交代だ。
 2回表、崎玉高校の攻撃は4番佐倉が三橋のまっすぐをホームランにした。これで崎玉高校に1点が入った。
「マジ!?」
ナマエはそう言いながらベンチ前方にある柵に身を乗りだした。
「やられた…。クッソ~~!」
ナマエが悔しがっていると篠岡は「まあまあ、ナマエちゃん、落ち着いて」と言いながらナマエを宥めた。
「佐倉選手ってあれで野球始めたばっかりなんでしょう?今後が恐ろしいわ…。」
「そうだね、しかも崎玉は同じ南部地区。これからも対戦することありそうだよね。」
「意外と崎玉がうちらにとっての因縁の相手になったりしてね…」
ナマエはそう言いながら苦笑いをした。
5番石浪は外野の頭を越えるツーベースヒットを打った。無死二塁。
「なんつー飛距離!」
ナマエはそう言った。
「石浪選手はやっぱ要注意人物だね」
篠岡はそう言いながらスコア表を書いていた。
6番田中は送りバントを成功させた。一死三塁。7番市原はショート巣山の頭を超えるシングルヒットで出塁した。サードランナー石浪がホームに帰って崎玉高校に2点目が入った。一死一塁。8番原田もショート巣山の頭を超えるシングルヒットで出塁した。一死一・二塁。9番古沢はサード前ゴロで5ー4-3のダブルプレーで二死を稼いだ。これで三死で攻守交代だ。
 2回裏、西浦高校の攻撃は4番花井がファースト前ゴロでアウト。一死。5番田島はスクリューを華麗に打ってツーベースヒット。一死二塁。6番栄口の打席では1球目に田島が三塁盗塁を成功させた。一死三塁。そして5球目では栄口はスクイズを成功させ、田島がホームに帰還した。西浦高校に1点目が入った。二死。7番水谷は三振。三死で攻守交代となった。
 3回表、崎玉高校の攻撃は1番杉田・2番上村・3番沢村の三者凡退で攻守交代となった。
 3回裏、西浦高校の攻撃は8番阿部・9番三橋・1番泉の三者凡退で攻守交代となった。
 4回表、崎玉高校の攻撃は4番佐倉が三橋のカーブをツーベースヒットにした。無死二塁。5番石浪の打席では2球目で三橋の投球がワンバンとなり、阿部が捕り損ねた。その隙を見てセカンドランナー佐倉が三塁盗塁を成功させた。無死三塁。そして5球目で石浪はセンター前ヒットを打った。サードランナー佐倉がホームに帰って崎玉高校に3点目が入った。無死一塁。6番田中はバントをしたが石浪は足が遅いため二塁でアウトになった。一死一塁。7番市原は送りバントを成功させた。二死二塁。8番原田はセカンドフライでアウト。三死で攻守交代となった。
 4回裏、西浦高校の攻撃は2番沖がレフト前ヒットで出塁。無死一塁。3番巣山は送りバントを成功させた。一死二塁。ここで崎玉はポジションチェンジで石浪がキャッチャー、佐倉がピッチャーになった。
「ええ!そんなデータないぞ!?初披露!?」
ナマエはそう言って仰天した。隣の篠岡を見ると同じく驚いた顔をしている。
4番花井の打席では沖が牽制に引っかかりアウトになった。二死。花井は三振。三死で攻守交代だ。
 5回表、崎玉高校の攻撃は9番古沢・1番杉田・2番上村が三者凡退で攻守交代となった。
 5回裏、西浦高校の攻撃は5番田島が三振した。一死。ちなみに最後の球はストレートではなかった。
「悠一郎、最後の球なんだった!?」
ナマエはベンチに戻ってきた田島を即捕まえた。
「たぶんフォーク!」
「オッケ、ありがとう!」
ナマエは配給表に記録を書いた。
「なんか今回の崎玉、底知れない感じがして怖くない?」
ナマエは隣に座っている篠岡に話しかけた。
「うん、なんかデータにないことばかりでこっちは翻弄されてるよね」
「もしかして崎玉はうちらに勝つために色々温存してきたってことかな」
「かもしれないよね」
ナマエは「ぐぬぬ…っ」と言いながら渋い顔をした。
6番栄口は三振。二死。7番水谷はフォアボールで出塁した。二死一塁。8番阿部の打席ではファーストランナー水谷が牽制で刺された。三死で攻守交代だ。これは水谷だけが悪いのではない。最初の2球の牽制よりも最後の牽制は速かった。みんな油断していた。これは崎玉の戦略だ。
 6回表、崎玉高校の攻撃は6番沢村が内野の頭を越えるツーベースヒットを打った。無死二塁。4番佐倉は監督指示で敬遠した。無死一・二塁。ちなみに敬遠の投球中、崎玉のスタンドの男性からヤジが飛んできた。
「ム、ム、ムカつく~~!敬遠だって戦略のうちだっつーの!」
ナマエがそう言って憤慨していると篠岡は苦笑しながら「ナマエちゃん、落ち着いて」とナマエの背中を擦った。
5番石浪はホームランを打った。崎玉高校に6点目が入った。
「やられた……」
ベンチで見ていたナマエはガクッと項垂れた。
ナマエちゃん、プラス思考ビーム!」
篠岡がポーズを取りながらナマエにビームを送ってきた。ハッと我に返ったナマエはベンチでグルグルと回転してから「プラス!」と言ってポーズを取った。
「プラス思考ビーム、初めて食らったわ」
「私も初めてやったよー」
「結構おもしろいね!」
「ねー!暗い気分が吹っ飛んじゃうね!」
篠岡とナマエは顔を見合わせて「アハハッ」と笑い合った。
6番田中はサード前ゴロでアウトになった。一死。7番市原は三振。二死。8番原田はサード横を抜けるヒットで出塁。二死一塁。9番古沢はピッチャー前ゴロでアウトになった。三死で攻守交代だ。
 6回裏、西浦高校の攻撃…の前に崎玉はポジションチェンジをしてきた。市原が再度ピッチャーに戻る。
「またデータにないことをっ!」
ナマエが思わずそう叫ぶと田島は「まだなんかあんのかどうか」と言いながらニィッと笑っていた。
「まだって?」
花井が田島に訊ねた。
「佐倉のピッチャー、石浪のキャッチャー、そいから石浪の外打ちのバッティング、たぶん崎玉はこの試合まで封印してきたと思う」
田島がそう説明すると花井は「ええ?まさか!…え…マジで?」と言って動揺していた。
「マジだよ。絶対そう。だって全部データにないもん。」
ナマエはそう言った。
「崎玉はうちに焦点合わせてたってことか?」
泉が訊ねた。
「あるな。夏のメンバー主将の人以外全員いるし。」
巣山がそう返答した。
「夏大で恨み買ってるからなァ」
栄口がそう言うとみんな気まずそうな顔になった。どよーんとした重い空気が漂っている。
「そんな風に言ったら崎玉にわりーよ!朝、佐倉と話したけど楽しそうだったよ。なっ、レン!」
田島はそう言って三橋を見た。三橋は「う?うっ、う~~~~。」と言いながら頭を抱えている。朝の風景を思い出しているらしい。
「あっ、うん!ニコニコだった!」
三橋は顔を上げてそう言った。
「そうなん?」
「ならよかった~」
栄口と沖はそう言って安心していた。
「喜んでる場合じゃねーぞ」
阿部はそう言ってみんなに釘を刺した。
「おお、市原さんに戻ったことだし、打ってこーぜ!出ろよ先頭!」
花井はそう言ってチームの士気を高めた。
8番キャッチャー阿部はピッチャー前ゴロでアウトになった。一死。9番三橋は三振。二死。1番泉は三振。これで三死で攻守交代だ。
 7回表、崎玉高校の攻撃は1番杉田がバントするが打ち上げてしまいピッチャーフライでアウト。一死。2番上村はセーフティバントを成功させた。一死一塁。3番沢村はショートの頭を超えるシングルヒットを打った。一死一・二塁。4番佐倉はいい打球だったが沖がジャンピングキャッチで捕球し、アウトにした。そしてすかさず一塁ベースにタッチし、ファーストランナー沢村もアウト。これで二死を稼いだ。トータル三死で攻守交代だ。
 7回裏、西浦高校の攻撃は2番沖が三振した。一死。3番巣山はデッドボールで出塁。一死一塁。4番花井はフォアボールで出塁。一死一・二塁。5番田島もデッドボールで出塁した。一死満塁。6番栄口はショート横を抜けるヒットを打った。サードランナー巣山がホームに帰って西浦高校に2点目が入った。これで終わりかと思いきや捕球したセンター上村が足を滑らせ悪送球となる。この隙にセカンドランナー花井も塁を蹴ってホームに帰った。西浦高校に3点目が入った。一死一・三塁。7番水谷はセンター前ヒットを打った。一死満塁。8番阿部の打球はレフト・センター間に落ちた。サードランナー田島とセカンドランナー栄口がホームに帰って西浦高校に4・5点目が入った。一死一・三塁。9番三橋はスクイズを成功させた。サードランナー水谷がホームに帰って西浦高校に6点目が入った。同点だ。二死二塁。ここで投手が市原から佐倉に交代になった。1番泉は三振。三死で攻守交代となった。
 8回表、崎玉高校の攻撃は5番石浪がファーストゴロだったが沖がグラブで球を弾いてしまった。栄口がカバーに入り、沖に送球するが一塁で打者石浪と接触してしまう。審判の判定はセーフ。無死一塁。石浪は少し足をひねったようで治療のために沢村が臨時代走になった。6番田中は送りバントを成功させた。一死二塁。7番市原はセンター前ヒットを打った。セカンドランナー沢村がホームに帰って崎玉高校に7点目が入った。逆転された。一死一塁。8番原田はレフトの頭を越えるヒットを打った。打球の飛距離的にはスリーベースヒットではなかったのだが西浦チーム内で送球先の塁の指示出しが錯綜した結果、送球が遅れ、ファーストランナー市原がホームに帰って崎玉高校に8点目が入った。そして打者原田も三塁まで到達した。一死三塁。9番古沢はサード前ゴロでアウトになった。二死三塁。1番杉田は三振。三死で攻守交代となった。
 8回裏、西浦高校の攻撃は2番沖が打ち上げてしまいフライキャッチでアウト。一死。3番巣山はセカンドゴロでアウト。二死。4番花井はレフトフライでアウトになった。三死で攻守交代だ。
 9回表、崎玉高校の攻撃…の前の投球練習で三橋はなぜかボロボロ泣き出した。泣きながらマウンドに立つ三橋を見て田島と巣山は動揺している。もちろんベンチから三橋を見守るナマエもだ。
『なになに~!?どうしたのよ、レン!』
ナマエがハラハラしながらその様子を見守っていると三橋は両腕で目をゴシゴシと擦ってから深呼吸をし、普段の顔に戻った。
『お、立て直した!よかった…。』
2番上村はファーストゴロでアウト。一死。3番沢村はレフト前ヒットで出塁した。一死一塁。4番佐倉の打席では2球目で沢村が二塁盗塁を成功させた。一死二塁。続いて佐倉は3球目をレフト前ヒットでにした。一死一・二塁。5番石浪はセカンドゴロになった。セカンドのカバーに入っていた巣山に送球し、ファーストランナー佐倉をアウトにした。そしてファーストにも送球するがこれはセーフ。続けてバックホームでセカンドランナー沢村を刺した。これで三死で攻守交代だ。
ベンチに帰ってきた三橋はなぜかドバドバ泣いていた。
「うぜえ!結果0点なんだからいんだよ!!」
阿部は泣いている三橋に向かってそう怒鳴った。
「なになに?」
水谷は事情がわからず眉をひそめている。ちなみにナマエにもよくわからない。
「隆也、どーしたの?」
ナマエは阿部に訊ねた。
「こいつ、首振った後で打たれた上に、最後の投球ちょっと失投だったから泣いてんだよ」
そう言いながら阿部は三橋の方を振り返った。
「明後日、ミーティングの日だかんな。どういうつもりだったのか、そん時キッチリ聞かしてもらう。」
阿部は不敵な笑みを浮かべていた。三橋はカキンと凍り付いてしまった。田島が「溶けろ!試合中だぞ!」と言って三橋を揺さぶっている。ここで西広から佐倉はストレートの時は「ふんっ」と声を出しているとの指摘が入った。
「西広君よく見てたね!この情報は使っていこう!」
モモカンはそう言った。
 9回裏、西浦高校の攻撃は5番田島の打席で佐倉は「ふんっ」と言ったのにフォークだった。慌てる西広。
「どーいうこと?これも罠だったってこと!?」
ナマエは思わずベンチから立ち上がってしまった。
しかし、さすが田島はそんな小細工には引っかからずにレフト前ツーベースヒットで二塁まで到達した。無死二塁。
「さすが悠一郎!最高だぞー!」
ナマエはベンチから声援を送った。
6番栄口は三振したが最後の球を石浪は捕逸した。その隙に塁に出ようとした栄口だが結局タッグアウトになる。一死二塁。7番水谷は3ボールになったところで崎玉は敬遠策を取ることにしたらしくフォアボールで出塁した。一死一・二塁。8番阿部はデッドボールで出塁した。一死満塁。9番三橋の打席では3球目で田島がホームスチールを成功させた。西浦高校に7点目が入った。そして他のランナーの2人もこの隙に進塁した。一死二・三塁。
ベンチに帰ってきた田島を選手たちは「ナイラン!」「なんなの!?スターなの!?」と言いながらもてはやしていた。
「悠一郎~!!」
ナマエも感激のあまり田島に抱き着こうとした。が、田島に阻止された。
ナマエ、次また抱き着いてきたら今度はチューするからな」
田島はそう言った。
「え、なんでよ!?」
ナマエはギシッと固まった。
「オレが男だってわからせるためだ。女子が高校生男子に軽率にくっつくなって前も言ったろ~!」
「ぐ…、スミマセン!もうやりません!」
ナマエはそう言いながら後ずさった、
三橋の打席の4球目では三橋がバントした。しかし、サードランナー水谷は惜しくもホームでアウトになり、得点ならず。二死一・三塁。1番泉の打席では2球目で三橋が二塁盗塁を成功させた。二死二・三塁。そして崎玉はここで満塁策を取ることに決めたらしい。泉はフォアボールで出塁した。二死満塁。ここで崎玉は投手を佐倉から市原に交代させた。2番沖は三振になった。これで三死。西浦高校は7-8で崎玉高校に敗北した。

 試合後、モモカンの前に野球部員たちは輪になって整列した。
「今回は崎玉の絶対に勝ちたいという思いが彼らを勝たせたんだと思う。勝つことへの執念・こだわり、これはうちに欠けているものだと思う!今日を最後に春まで試合はないからね!冬の間、勝つことについて考えていこう!」
モモカンはそう言って選手たちを鼓舞した。
「花井君、お昼食べて、午後は1時半からね!」
モモカンはそう言って去っていった。当然ながらモモカンは選手たちと一緒に昼食は食べない。
「な、今日ステーキガストだろ?」
田島が花井にそう話しかけた。
「何?財布忘れた?」
「あのさー、崎玉も誘ってもいい?」
田島がそう言うと花井は「はあ?」と素っ頓狂な声をあげた。ちなみにそれを聞いている三橋は白目を向いている。
「えー、なんで?私は今日崎玉に負けたの悔しすぎて会いたくない…。」
ナマエはそう言った。
「えー、でもさあ、石浪って158cmだぞ?それであのバッティングだぞ。話聞いてみたくねえ?タメになると思わねえ?」
「う…、それはたしかにそうかもしれないけど」
ナマエはそう言いながらも負けた悔しさとの折り合いがつかなくて歯切れが悪くなった。
「いや、そういうのは教えてくれっかな?弁当だって持ってきてるかもしんねーし。」
花井はそう言ったが、田島は「弁当はオヤツに食べればいいじゃん」と言った。
「聞くだけ聞いてくる!」
そう言ってピュッと飛び出しそうになった田島を花井はガシッと捕まえた。しかしここで暗い顔をした沖が「オレも、一緒に、た、た、食べたいな」と言い出した。
「沖まで!?なんで!?」
花井は驚きながらそう言った。聞いてるナマエもあんぐりとしてしまった。
「花井はちょっと人見知りなところあるぞ。2回も試合してんだからもうメシくらい行こうぜ!」
田島はそう言って花井の腕を振りほどくためにターンしてみせた。
「そうだな、聞くだけ聞いてくるわ」
阿部がそう言ってスタスタと歩き出した。そんな阿部を見た花井は「あっ、1人で行かすなっ。オレも行く!」と言って阿部を追いかけた。
「えー、マジで…」
ナマエはそう言いながらガクッと項垂れた。そんなナマエの背中を篠岡が擦ってくれた。

 帰ってきた花井は「オッケーだって!すぐ着替えて出発!」と言い出した。それを聞いた篠岡はすぐにスマホでガストに23人の予約を入れてくれた。ちなみに以前阿部に"みんな早くスマホにしてくんね?"と言われた影響で今や西浦高校野球部員は全員スマホに機種変済みなのだった。
「わ、待ち時間0分だって!ナマエちゃん、私たちだけでも先にガスト行って席取りしておこう!」
「わかった。みんなウィンブレ貸してー!」
ナマエはそう言って選手たちから席取りのためのウィンブレを回収した。その間に篠岡はガストに電話をかけてくれた。
「じゃ、花井君!私たち先に行って席確保しておくから着替えたらすぐ来て!」
篠岡は花井にそう声を掛けた。花井は「頼むーっ!」と返事をした。篠岡とナマエは自転車に乗って急いでガストへと駆けつけた。
「すみません、先程お電話した23名で予約の篠岡です!」
篠岡は店に入るなり店員にそう言った。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。お好きな席へどうぞ。」
店員はそう言ってにこやかに出迎えてくれた。
「えーっと、23名がなるべく近くに座れる席は…あの辺かな!」
ナマエはそう言ってソファ席に向かって歩き出した。そして席確保のために選手たちから借りたウィンブレを椅子に引っかけていく。
「ソファー席だけだと足りないね。こっちのボックス席も確保しよう。」
篠岡はそう言ってボックス席のテーブルにウィンブレを置いていった。
「よし、これで23名分の座席確保だね!」
ナマエはそう言った。
「花井君からもうすぐ着くって連絡来たよ」
篠岡がスマホを見ながら言った
「ねー、私は崎玉とは離れて座りたい…。端っこの席確保してもいい?」
ナマエちゃん、今日負けたの相当悔しいんだね…」
篠岡はそう言いながら苦笑した。篠岡とナマエは先にメニューを見ながら選手たちがやって来るのを待った。ほどなくして西浦と崎玉の選手たちがぞろぞろと到着した。
「こっちだよー」
篠岡は席から立ち上がって花井に手を振った。
「こっち側全部とそっちのボックス席2つで全員座れるよね」
篠岡がそう言うと花井は「おおっ、サンキュ」と返事をした。しかし選手たちはみんなもじもじしたままなかなか座らない。
「迷惑になるから座ろ」
篠岡が花井にそう言った。その言葉を皮切りにみんな着席し出した。
「レンはこっちにおいで」
ナマエはそう言って三橋を自分の横に来るよう誘った。三橋もナマエと同じで崎玉とのランチを嫌がっていたからなるべく崎玉から離れた場所に座らせてあげようと思ったのだ。ちなみに水谷はちゃっかり篠岡の隣を確保していた。
「注文決めてください。はい、1分スタート!」
篠岡がそう言ってスマホでタイムを計りだした。西浦高校野球では状況把握能力・決断力・集中力を高めるためのトレーニングで飲食店での注文は1分以内に決めることになっているのだ。西浦のその様子を見ていた崎玉の現主将の沢村は驚いた顔をしていた。
「よかったら崎玉のみなさんの分もまとめますか?」
篠岡がそう提案すると沢村は「は、はい!」と答えた。
1分が経過した。
「私は西浦の分の注文をメモるから、千代ちゃんは崎玉さんの分お願いしていい?」
ナマエがそう言うと篠岡は「うん、いいよ」と言って席から立ち上がり崎玉の注文を聞いて回り始めた。
「はい、西浦のメンバーの注文は私が聞くよー。端からどうぞ!」
ナマエがそういうと西浦の選手たちは順番に注文を読み上げていった。
「はい、オッケ。んでサラダバー以外の人はいる?…いないね。」
篠岡とナマエは手分けして選手たちの注文を聞き終わったので、店員を呼び出して注文を伝えた。注文を終えたところで崎玉3年生の小山が到着した。小山は花井の前の席に座った。そして小山はこの試合の最後の球はストライクゾーンには入っていなかったと言い出した。それを聞いた選手たちはシーン…となった。
『なにそれ、誤審ってこと?』
ナマエがそう思っていると小山が説明を始めた。小山曰く、あの球は基本の考えでいくとホームベースをかすっていないからボール球になるのだが、2ストライクからの決め球の時にはストライクゾーンを広げてジャッジすると野球の公式ルールブックで定められているとのことだった。理由は投手対打者のバランスを取らないとゲームとして野球がおもしろくなくなるからだそうだ。そしてこの試合の最後の球は9回裏・二死・フルカウントでさらに得点圏にランナーがいた。それはストライクゾーンを広げてジャッジする傾向が最も強くなる場面だった。なのであの球はストライクという判定になったということだそうだ。つまり、あれがもし8回だったらストライク判定にならずにボール判定になっていた可能性が高いという。
「それは…」
花井は狼狽えた。
「納得…できないすか?」
小山はそう訊ねた。それに対して阿部が口を開いた。
「納得しますよ。審判がストライクっつってんですからあれはストライクです。そもそもストライクゾーンは原書では"オーバーホームプレート"でそれを訳した公認野球規則では"本塁上の空間"ですからルール上は"ベースの上あたり"くらいの決まりしかないんすよ。そこまでの流れだってあるし、最後の1球で崎玉の勝利にケチがつくことはないですよ。今日はウチの完全な負けです。」
「そう言ってもらえると助かります…っていうのも変ですけど」
小山はそう言って安心した素振りを見せた。崎玉の他の選手たちは少しシュンとしていた。
『そんなルールがあるなんて知らなかったな。もっと野球のこと勉強しないとダメだな。』
ナマエはそんなことを考えながら選手たちの"ストライクゾーンはどこ?"なんていう会話をぼんやりと聞いていた。

 そこに続々と注文していた料理が届いた。選手たちはバーカウンターに並んでいるごはんやカレーやサラダを取りに行った。その間にマネジの篠岡とナマエは店員にどの料理をどのテーブルに置くか指示を出していく。指示を出し終わったら篠岡とナマエもバーにごはんとサラダを取りに行った。そして恒例の"うまそう"の儀式をやってから食事を始めた。田島たちは食事の間もストライクゾーンの話の続きをしているようだった。
「な!兄ちゃんに頼んで審判講習会やってもらおうか!審判のやってること、絶対タメになるスよ!」
田島が大きな声でそう言った。
「いや、それぜひやりたいです!」
崎玉の沢村も乗り気だ。それから沢村は続けて口を開いた。
「あの、西浦さんはバイトOKですか?」
「禁止とかないよな?」
花井が栄口に訊ねた。
「ないっしょ。浜田さんやってるし。」
「したら郵便局のバイトやりますか?」
沢村がそう提案した。
「…へ?」
花井は面食らっている。どうやら沢村曰く、崎玉では冬休みから年末年始の間は年賀状の仕分けのアルバイトをやるのが毎年の恒例になっているらしい。郵便局では野球部やソフトボール部などの部員を一括で雇ってくれるそうだ。崎玉では稼いだお金を部費や遠征費の足しにしているという。
「それ、いいすね!」
花井はクワッと食いついた。沢村は空きがあるかどうか監督に確認してみると言ってくれた。ちなみに1人約2万円くらい稼げるらしい。つまり西浦ではマネジ含めた12名の部員がいるので24万円稼げるということになる。
「郵便局のアルバイトか!ちょっと興味あるな。楽しそうだよね。」
ナマエは篠岡に話しかけた。
「だよね!年賀状の仕分けってどうやってやるんだろうね?」
篠岡もワクワクしている様子だ。ここで肉を食べ終わった三橋がおかわりのために立ち上がると他の選手たちもそれに続いた。肉を食べ終わって追加でカレーを食べている人もいればコーヒーゼリーやアイスなどのデザートに手を出している人もいる。篠岡とナマエは選手たちのように早くは食べられないので2人でゆっくり味わって食べた。篠岡とナマエが食べ終わる頃には選手たちは満腹で眠そうにしていた。ナマエは腕時計で時間を確認した。
「そろそろ出た方が良さそうだね」
ナマエは篠岡にそう言った。
「そうだね。…花井君!そろそろ出よう!みんな食べ終わったみたいだし。」
篠岡が花井に声を掛けた。
「おお!おし、出るぞ。皿ある程度かたせー!」
花井がそう言うと西浦高校野球部員は食べ終わった皿をまとめ始めた。
「別会計できるから1人ずつ払うよー!自分の頼んだものわからない人いないよね?」
ナマエは西浦の選手たちに声を掛けた。その間に篠岡は沢村に伝票が一緒になってしまった部分だけ先に払ってもらいたい旨を伝えに行った。
「あ、うちも一緒に出ますよ」
沢村はそう言った。その言葉を聞いた崎玉の選手たちも席から立ち上がってレジへと向かった。

 店から出た後、沢村は花井に対して「西浦さんには夏の大会のあの気迫は今回は感じませんでした。チャンスはあと3回ですよ。高校野球ってホントに短いっすよ。もっとがんばんないと!」と叱咤激励を言った。花井は「今日は崎玉さんの本気さに負けたんだと思ってて…うちには勝ちに対する執念みたいなものがなかった」と反省の色を見せた。
「あの…今日はありがとうございました。明日がんばってください!」
花井が崎玉の選手たちにそう言った。
「西浦もがんばってください!ありがとうございました!」
沢村が崎玉を代表してあいさつをした。そうして西浦高校野球部と崎玉高校野球部はガストの前で別れを告げた。

<END>