※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:今回は泉夢になりました※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第67章」


 12月中旬の土曜日、期末試験を終えた西浦高校野球部は土曜日も朝から練習がある。朝、いつも通りに裏グラに到着したナマエは篠岡と一緒にベンチ横の倉庫で着替えをしてから外に出た。選手たちはまだ到着していない。おそらくプール下にある部室で着替えをしている最中なのだろう。篠岡とナマエはホワイトボードを見ながら今日のおにぎりの具の分配案を一緒に考えた。そうしているうちに着替えを終えた選手たちが続々と裏グラに入ってきた。そしてモモカンも裏グラに到着した。今日も寒いが選手たちは元気に練習を始めた。
 今日のナマエはドリンク作成担当だ。なのでナマエは練習が始まるとまずはジャグを持って数学準備室に向かった。1回目のドリンクはスポドリと決まっている。ナマエはスポドリの粉と氷と水をジャグに豪快にぶち込んでドリンクを作った。それから自転車にジャグを括り付けて急いで裏グラへと戻ってきた。裏グラに戻ってきたら午前中はサーキットのタイム計測を手伝ったり、ティーバッティングのボール渡しをして過ごした。

 午前の練習が終わり、ランチの時間になった。ナマエがお弁当を広げていると隣に泉が座ってきた。ナマエはギクッと身体が固くなった。西浦高校野球部では昨日の夜のミーティングで恋愛禁止条例が敷かれたわけだが、その時に泉がナマエに対して送ってきた意味深な視線の意図をナマエはまだ図りかねていた。
『いや、待てよ。恋愛禁止が決まったんだから、あの視線の意図が私の予想と合致していたとしても孝介はそれを私には言えないはずだ。私ももう気にしない方がいい。』
ナマエがそう考え直して泉に他愛もない雑談を振ろうとした時、泉の方から先に口を開いた。
ナマエは昨日の恋愛禁止の話、どう思った?」
「え」
ナマエはもう気にしないことにしようと思った矢先にその話題を振られて一瞬固まってしまった。
「お前、結構動揺してたろ?」
「そりゃ、いきなりそんな展開になるとは思ってなかったからさ…」
「そんだけ?」
泉はそう言ってナマエの顔をじっと見つめた。
「そんだけって他に何があるのよ?」
「実は好きなやついるんじゃねーの?んでホントは恋愛禁止嫌だったんじゃねーの?」
泉はそう言いながら尚もナマエの顔をじっと見つめている。
「いないよ。いないけど…、もし今後好きな人できても諦めなきゃいけないのかなって思ったらちょっと寂しいなって最初は思ったんだよ。」
「へー。じゃあ、なんで最終的に合意したんだよ。」
「千代ちゃんと話してて、そもそも恋愛禁止にしなくてもうちらは毎日練習三昧で誰かとお付き合いしてる余裕ないから何も変わらないよねって結論に至ったんだよ」
「ふーん」
そう言って泉はお弁当を口にかきこみ始めた。
「ちなみにオレはちょっと迷ったけどな」
「え、なんで」
ナマエは泉の言葉に咄嗟にそう返してしまったが、言った後で後悔した。泉は何も言わずに無言でナマエのことを見つめてきた。しばしの間、2人の間には沈黙が流れた。
ナマエさ、昨日のミーティング中にオレの顔見たよな?なんで?」
「………」
「最初はコメの顔見てたな。次にしのーかを見た。んで最後にオレの顔を見た。見て、オレと目が合ってすぐ逸らした。」
「………」
「コメの顔を見た理由はオレにもわかるよ。オレらあいつの気持ち知ってるもんな。しのーかを見るのも不自然じゃない。初耳で恋愛禁止を聞かされたしのーかがどう思ってたか気になるもんな。でもオレの顔を見たのはなんでだ?」
「…えっ…と…」
ナマエは返答に困った。まさか泉本人に"孝介は私のこと好きなんじゃないかという疑念を抱いている"なんて打ち明けられない。そう思っていたら泉が口を開いた。
「お前って……もう気付いてるんじゃないのか?」
泉は"何に"とは明言しなかったが、ナマエは言語能力は高い方だし、それに恋愛に鈍い方でもない。これまでの話の流れや行間を読み解けば泉の言いたいことはわかった。ナマエは自分の顔がカァァッと赤くなるのを感じた。
「やっぱりそうかよ」
泉はそう言って頬杖をついた。泉も頬が赤い。
「いつから気付いてた?」
「……いや、確信を持ったのは今だよ。前からそうなんじゃないかって疑念は抱いてたけど。」
「疑念を抱くようになったのはいつだ?」
「えっと…?たしか文化祭の後だったかな…?」
「なんだ、結構前からだな」
泉はそう言ってため息をついた。
「ちょ、ちょっと…、孝介、少しあっちで話そう?」
今、泉とナマエは他の選手たちとベンチにぎゅうぎゅうになって座って会話をしている。他の誰にこの会話を聞かれてもおかしくない状況だ。昨日、恋愛禁止が決まったばかりでこの会話はマズいんじゃないかとナマエは考えた。それでお弁当は一旦ベンチに置いて、泉を裏グラの外へと連れ出した。
「今、これってどういう状況!?昨日恋愛禁止が決まったばっかりだよね!?」
ナマエは泉にそう訊ねた。
「どうって…ナマエは別にオレのこと好きじゃねーだろ。オレの気持ちがバレてオレが失恋したってだけの話じゃねーの?結果的にバレただけで告ったわけでもないし、付き合うことになったわけでもねーし、何も問題なくね?」
「バレたっていうか…孝介がバラしたと言うべきでは…?」
「ま、そう言えなくもないか」
泉はそう言ってニシシッと笑った。
「意図的にバラしたらそれは告ったのと同じじゃないのかい?」
ナマエは呆れ顔でそう言った。
「"付き合ってください"とか言ったわけでもねーし、告白とは違くね?」
「そうかな~」
「ま、仮にあれが告白だったとしても、どっちにしろ失恋してんだから問題ねェだろ」
泉はそう言うと少し寂しげな顔をした。そんな泉の顔を見たらナマエは黙っていられなくなった。
「………もし恋愛禁止じゃなかったら、私が応えてたかもしれないとは思わないの?」
ナマエがそう言うと泉は大きな瞳をまん丸にしてナマエの顔を見つめてきた。
「え、好きでもないやつと付き合うのか?」
「付き合ううちに好きになることもあるじゃん?」
「えー、なんで今そんなこと言うんだよ…」
泉は困惑した表情を浮かべていた。
「私は…少なからず孝介に惹かれているところがあったよ。文化祭の時に言ってくれた言葉も嬉しかったし、9月の昼休みにゲリラ豪雨に遭って困っていたところに迎えに来てくれたのも嬉しかった。大切な人の命日が近づいて落ち込んでた私を励ましてくれたのも感謝してる。このままいけば好きになる可能性は十分にあった…と思う。」
ナマエがそう言うと泉はボッと顔が赤くなった。
「………」
「………」
しばしの間、2人の間には沈黙が流れた。
「………じゃあ、オレは諦めなくていいんだな?」
泉は頬を赤く染めたままそう言った。
「え?」
「オレ、引退までの間にナマエに好きになってもらえるように努力する!で、引退したらそん時にちゃんと告る。だからナマエはオレのことちゃんと見とけよ。」
泉はそう言ってピッと人差し指をナマエに向けた。
「な…っ!めちゃめちゃカッコイイこと言うじゃんよ…!」
ナマエはそう言って両手で頬を覆った。ナマエは胸がキューッとなるのを感じた。
「おーい、泉、何してんだ?オレらもう格技場に行くぞ。」
花井がそう言いながらフェンスをくぐって裏グラの外に出てきた。後ろには他の選手も続々と続いている。昼食を食べ終わった選手たちは13時までは格技場で昼寝をすることになっているのだ。
「ワリィ、オレまだ弁当食い終わってねーから先行っててくれ!すぐ追いかける!」
泉はそう言ってベンチに戻っていった。ナマエもそのあとを追ってベンチに戻って昼食を再開した。泉は勢いよくお弁当を口の中にかきこんで昼食を食べ終えたらナマエに向かって「じゃ!また後でな!」と声を掛けて格技場へ向かって去っていった。

 13時から1時間は勉強会の時間だ。ナマエはいつもこの時間は泉の勉強の面倒を見て過ごす。今までずっとやってきたことなのにナマエは先程泉から言われた言葉が頭から離れなくてついドギマギとしてしまった。泉はそんなナマエを見てプッと吹き出した。
「意識しすぎだろ。もうちょっと隠せよ。そんなんじゃ他のやつらから怪しまれるだろ?」
「う…っ、ごめん!でも今日は無理ー!」
ナマエはそう言ってピュッと泉の隣から離れて志賀先生のところに向かった。
「先生、数学の問題教えてください!」
「いいよ、どこがわからないの?」
「えっと…、ここをイチから教えてください!」
ナマエは本当はわからない問題はないのだが、適当に問題を指さして志賀先生に解説をしてもらった。
『先生、利用してごめんなさい!!』
ナマエは心の中で志賀先生に謝罪をしながら解説に耳を傾けた。

 14時からは午後練習を開始した。午後は選手の練習のお手伝いに加えて炊飯とおにぎり作りがあるのでマネジ2人は忙しくなる。今のナマエにとって忙しいのは大歓迎だ。泉のことを考えなくて済む。…と思ったのだが、ナマエはフリーバッティングでのピッチングマシンへの球入れ作業中やノックのボール渡し中も何かと泉の姿が目についてしまって結局胸中穏やかではいられなかったのだった。
『マネジ業務に集中よ、集中…!』
そう思えば思うほどに逆に集中できなくなっていった。

ナマエちゃん、何かあった?」
お椀を使って炊きあがったご飯をコロコロしながらおにぎりを作っていると篠岡がナマエに話しかけてきた。
「えっと…何かあったように見える?」
「うん。なんかずっとソワソワしてない?」
「う…っ」
ナマエは眉間に皺を寄せて渋い顔をした。
「悩んでる…って感じじゃなさそうだよね」
「千代ちゃんは鋭いなぁ」
ナマエはそう言って苦笑いした。でも実は泉がナマエのことを好きだったなんてことを勝手に篠岡にバラすのは泉に悪いし、恋愛禁止が決まったばっかりの今そんな恋愛沙汰の話を暴露してしまうのもマズいような気がする。だから篠岡に詳細を話すことはできない。
「明日までにどうにか心静めてくるから今日だけはどうかご勘弁ください」
ナマエはそう言って篠岡に頭を下げた。
「別に全然いいんだよ。マネジ業務に支障は出てないんだし。ただ単にどうしたのかなって思っただけ。でもその言い方から察するに事情は話せないってことだよね。」
「うん、ごめん」
「謝らなくていーよぉ」
篠岡はそう言って笑った。

 その日の部活終わり、家に向かって自転車を漕ぎながらナマエは今日のお昼に泉から言われた言葉を頭の中で反芻していた。

――…オレ、引退までの間にナマエに好きになってもらえるように努力する!で、引退したらそん時にちゃんと告る。だからナマエはオレのことちゃんと見とけよ。

『あの泉孝介が私のことを好きだった…!しかも、引退後に告ると宣言された!』
ナマエは胸がキューッとなるのを感じた。今のナマエにはまだ恋愛感情で好きな人はいない。けれど泉のことは少なくとも好意的に思っているし、魅力的な人物だと思っている。そんな人から好きになってもらえたというのは、やっぱり嬉しかった。引退まであと約2年、その間にナマエの気持ちがどう変化していくのかはまだわからない。泉のことを好きになるかもしれないし、別の誰かに恋をするかもしれない。あるいは誰のことも好きにならないかもしれない。それに泉の方が心変わりする可能性だってある。
『でも、少なくとも今は孝介は私のことを好きでいてくれてるんだ』
そう思ったらナマエはついニヤニヤしてしまった。
「あ、そういえば…」
ナマエは自転車を漕ぐ足を止めた。そしてスマホと取り出してLINEを開いた。
"言い忘れてたけど、好きになってくれてありがとう。この2年の間、私はちゃんと孝介のことを見とくから。"
ナマエは泉にメッセージを送った。すぐに既読マークがついた。そして泉から返信があった。
"おー、よろしく!"
たったそれだけのメッセージだ。それを読んだナマエはフッと笑った。それから再び自転車を漕ぎ出して、帰宅した。

<END>