「おお振りの世界に異世界トリップ 第69章」
1月1日元旦、本日は野球部員にとっては珍しいお休みだ。ナマエは昨晩は年末のカウントダウンを見届けてから就寝したので普段より寝るのが遅くなった。それは両親も同じだ。というわけでミョウジ一家は今日は全員朝遅めの時間に起床した。起床したナマエは顔を洗った後、母親と一緒にお雑煮作りをすることになった。ナマエはお雑煮を作るのは今回が初めてなので母親に教わりながらゆっくり丁寧に料理していった。お雑煮が出来上がった後はお椀に盛り付けをし、それからテーブルにおせち料理を並べていった。
「お父さーん!準備できたよー!」
ナマエは父親の仕事部屋に向かって声を掛けた。そしてナマエと両親は食卓に着いた。
「では、改めまして、あけましておめでとう!」
父親がそう言った。
「おめでとうございます!」
ナマエはそう言って頭を下げた。
「ナマエは高校生になってから部活すごくがんばってるらしいな。偉いぞ。ホレ、これお年玉な。」
父親はそう言ってナマエにポチ袋を差し出した。
「ありがとうございます!」
ナマエは再び父親に頭を下げた。
『うわ、お年玉なんて貰うのいつぶりだろう?』
ナマエは前の世界ではもういい歳の大人だったのでお年玉を貰うということ自体がかなり久々なことでなんだか不思議な気分になった。
「それじゃ、いただきましょうか」
母親がそう言った。ナマエは恒例の"うまそう"の儀式をやってからおせち料理を食べ始めた。
食事を終えたナマエは午後から泉とさいたま新都心駅近くにあるショッピングモールに遊びに行く約束をしているので部屋着からオシャレ着に着替えをした。それからヘアアイロンで丁寧に髪型を整えた。自分のことを好きだと言っている男の子と2人で遊びに行くのだからやっぱりどうしても意識してしまう。それに幻滅されたくない。
「お母さん、これ変じゃないかな?」
ナマエは出かける前に母親に自分の姿を見てもらった。
「変じゃないよー。かわいいじゃない。」
母親はそう言って褒めてくれた
「よかった。じゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
ナマエは家を出ると自転車に乗って最寄り駅まで向かった。最寄り駅からさいたま新都心駅までは電車に乗った。さいたま新都心駅の改札を出るとすぐに泉の姿を見つけることができた。
「孝介ー!」
ナマエがそう言いながら駆け寄るとスマホを弄っていた泉は顔を上げた。
「お、ナマエ来たか。あけおめ!」
「あけましておめでとう。今年もよろしくね。」
ナマエはそう言ってニコッと笑った。
「じゃ、行くか」
「うん」
泉とナマエは東口にあるショッピングモールに向かって歩き出した。
「まずは映画館でチケット買うか」
「うん。事前に調べてみたんだけど14:50の回があるからそのチケット購入して、その後は映画館内の売店でグッズ見たりポップコーン買ったりして時間が来るまで待とう。」
ナマエがそう言うと泉は「さすがナマエだな」と言いながら可笑しそうに笑った。
「今日はオレがリードしてやろうと思ったんだけど、やっぱ敵わねえや」
「あ、出しゃばりすぎた?」
「いや、いいよ。オレはお前のそういうとこが好きだよ。」
泉はさらりとそう言った。ナマエはボッと顔が赤くなった。そしてそんな顔を泉に見られたくなくてパッと顔を背けた。
「隠しても無駄だぞー。耳まで赤いっつの。」
泉はそう言ってケケケッと笑った。
「心臓に悪いからそういうのやーめーてー!」
ナマエがそう言うと泉は「嫌だね」と答えた。
「オレはこの2年のうちにお前のこと落とそうっていう男だぜ?そりゃーこんくらいはするよ。しなきゃ落とせねえだろ?」
「あと2年もこんなの続くの!?だめだ、心臓が持たないっ!」
ナマエがそう言うと泉はククッと楽しそうに笑った。
映画館に到着した泉とナマエはまずはチケットカウンターで14:50の回のディズニー新作映画のチケットを購入した。その後は売店でグッズを眺めたりトイレを済ませたりして開場の時間が近づくのを待った。
「そろそろ開場時間になるな。ドリンクとポップコーン買うだろ?ダブルコンボでいいか?」
泉がナマエに訊ねた。ダブルコンボはポップコーンLサイズとドリンク2名分のセットのことだ。
「うん、いいと思う。ポップコーンの味はどうする?」
「塩とキャラメルのハーフ&ハーフで良くね?」
「賛成!」
ナマエはそう言ってニコッと笑った。無事にポップコーンとドリンクを手に入れた泉とナマエはシアター入口でチケットを見せ、席に着席した。
「映画館で映画観るのめっちゃ久しぶり!」
「オレも」
「野球部、基本休みないもんね」
「観たい映画あってもオンデマンド配信が来るまで待つしかねーんだよな」
「わかる」
そんな会話をしているとシアター内が暗くなり、スクリーンに近々公開予定の映画のトレーラーが流れ始めた。泉とナマエは会話を止めてスクリーンに集中した。
約2時間にわたる映画を見終えた泉とナマエはシアターを出ながら「いい映画だったー!」「そうだな」と会話を交わした。
「この後はどーする?晩ごはん…にはまだ早いよね。ポップコーンも食べたし。」
「テキトーにぶらぶらすっか。まずスポーツ用品見に行ってもいいか?」
「うん、いいよ」
それから泉とナマエはスポーツ用品店やら洋服屋やら雑貨店やらを見て回った。泉はスポーツ用品店で野球用のアンダーシャツを新調していた。ナマエは雑貨店でかわいいペンケースを見つけ、それが気に入ったので購入しようと手に取った。
「それ買うのか?」
「うん!今使ってるやつ、だいぶくたびれてきちゃったから。」
ナマエがそう言うと泉はナマエの手からそのペンケースを取り上げた。
「オレが買う」
泉はそう言った。
「え?」
「プレゼントする。今日のお礼な。」
泉はそう言ってニッと笑った。
「ええ、お礼なんていいよ!だって私が観たかったディズニー映画を観させてもらったんだもん。」
「いや、もともとオレが誘ったんだし。それにオレにもメリットあるから。」
「メリット…?」
「このペンケース見る度にナマエは今日のオレとのデートのこと思い出すだろ?」
泉はそう言ってニヤッと笑った。
「デ、デート…!」
最初に誘われた時からデートだという認識はナマエにもあったがこうして直接デートと言われるとなんだか気恥ずかしい。ナマエは自分の顔がジワジワと熱くなってくるのを感じた。
「だからオレにプレゼントさして?な?」
泉はそう言ってナマエの顔を覗き込んだ。
「……はい。ありがとうございます。」
ナマエは泉の厚意(…というより戦略?)に甘えることにした。
ショッピングを楽しんだ後は泉とナマエは定食屋に入って夕食を食べることにした。注文を終えた後、ナマエは前から訊きたかったことを訊いてみることにした。
「あのさ、孝介はいつから私のこと好きだったの?」
「んー、具体的にいつっていうのはわかんねえや。気付いたらもう好きだった。」
「……いつ気付いたので?」
ナマエは泉の顔を覗き込んだ。
「えっと…あれは夏合宿だな」
「へー!夏合宿!あの時、私たちの間になんかあったっけ?」
ナマエには夏合宿中に泉との間に何か印象的な出来事があった記憶はない。
「オレたちの間に直接何かあったわけじゃなくてな。アレだよアレ。嫉妬ってやつ。」
「嫉妬?」
「まず1つ目、夏合宿中にコメにタカヤとの仲の良さを揶揄われてただろ?あれ聞いててなんか胸がモヤッとしたんだよ。」
「あー…」
ナマエは水谷に揶揄われた出来事のことはよく覚えている。ナマエは思わず苦笑が漏れた。
「それから2つ目はコメの好きなやつがしのーかだって発覚した時。あの時、オレは"ナマエじゃなくて良かった"ってホッとしちまったんだよ。で、"なんでホッとしたんだろ"って考えてたら……すぐ結論出た。」
「そっかぁ」
そのタイミングで店員が注文した料理を運んできた。泉とナマエは恒例の"うまそう"の儀式をやってから食事を食べ始めた。泉はいつも通りもりもりとご飯を口に運び、ナマエよりも圧倒的に早く食事を食べ終わった。そして泉はナマエに向かって口を開いた。
「他に訊きてぇことは?」
「えっ、他って?」
ナマエがそう言うと泉はちょっとムスッとした顔になった。
「オレがナマエのどういうところが好きか知りたくねーの?」
「え…っと」
ナマエはまた自分の顔がジワジワと熱くなってくるのを感じた。
「お、教えてくれるんですか…?」
ナマエがそう言うと泉はニッと笑った。
「まずはガッツがあるところだな。野球全く知らなかったのに野球部のマネジになった。んで、ルールもスコア表・配給表の書き方もスッゲーがんばって覚えてたよな。それから毎回作ってくる対戦相手のデータ資料のクオリティもスゲェし、何するにしてもちゃんと下調べしてきて、ホントしっかりしてるよな。で、そんなしっかり者のくせに情に篤くて感動屋ですぐ泣くのな。今日の映画でも泣いてたし。」
「孝介は私が泣くとすぐ気付いてくれるよね」
ナマエはそう言って照れ笑いをした。
「そりゃ好きだからな」
「く…っ」
ナマエは泉からのどストレートな告白を食らって心臓に深刻なダメージを受けた。
「オレ、絶対にお前を落とすからな。覚悟しとけよ。」
泉はそう言ってニシシッといたずらっぽく笑った。
食事を終えた後はショッピングモール内の広場にあるイルミネーションを見に行くことにした。
「わー、すっごいキレイだ!」
「スゲーな!!」
ナマエと泉は2人して目をキラキラと輝かせてイルミネーションを眺めた。
「ナマエ、写真撮ってやるよ」
泉はそう言ってナマエに広場の中心にあるモニュメントのそばへ行くよう促した。
「わーい」
ナマエはモニュメントの近くに立ってポーズを決めた。泉はスマホのカメラをこちらに向けた。スマホからカシャッという音がした。
「ありがとう!あとでLINEで送ってくれる?」
「おう」
「孝介の写真も撮ってあげるよ」
ナマエがそう言うと泉はナマエの腕を持ってそばに引き寄せた。
「オレはナマエとのツーショが欲しい」
「え、自撮り?ツーショなら誰かに頼んで撮ってもらえば?」
「人探すのめんどくせえし、自撮りでいいだろ」
そう言って泉は右手にスマホを持ち、左手ではナマエの肩を抱いた。
『うー、距離が近い…!』
ナマエは動揺を必死に隠してスマホのカメラに向かって笑顔を見せた。
「よし、撮るぞー」
泉がそう言ってすぐにスマホからカシャッという音がした。
「よし、撮れた!」
泉はそう言ってスマホ画面をナマエに見せた。くっついて自撮りしているその写真は…なんだか恋人同士みたいに見えて恥ずかしい。
「孝介…、その写真は他の誰にも見せちゃダメだからね」
ナマエは泉に釘を刺した。こんな写真を他の野球部員に見られたら誤解されかねない。
「へーへー、わかってますよ」
泉はそう答えた。それからナマエたちはしばらくの間イルミネーションを眺めながら広場を散策した。
「さて、そろそろ帰るか」
泉がそう言った。
「そうだね、もう19時半だ」
泉とナマエはさいたま新都心駅に向かって歩き出した。帰り道、泉とナマエは同じ方面の電車に乗る。そしてナマエの最寄り駅で2人は降りた。泉はここからは別の路線に乗り換えをする必要がある。
「じゃ、ここでお別れだね」
「おう、また明日な。気を付けて帰れよ。」
「孝介も!あ、ペンケースありがとうね!また明日ね!」
そうして改札口を出たナマエは駅の駐輪場から自転車を取り出して家に向かって走り始めた。
家に帰ったナマエがお風呂に入り終わって髪を乾かしているとスマホからヒュポッというLINEの通知音が鳴った。あとで確認しようと思って一旦無視してドライヤーを続けたナマエだったがあまりにも何度も通知音が連続で鳴るので気になってスマホの画面を確認した。野球部のグループLINEに"明日はみんなで初詣に行こう"という連絡が来ていた。そしてどこに初詣に行くかみんなで話し合っている。今は巣山が学校の隣のお寺はどうかと提案をしてきたところだ。
"あけましておめでとう。正樹院のことだよね。いいんじゃない?学校からすぐ行けるし。"
ナマエはそう返信をした。すると沖が"初詣ってお寺でもいいの?"と訊ねてきた。それに対して篠岡が"お寺でもOKだよ"と回答している。最終的に明日は学校の隣の正樹院というお寺に初詣に行くことに決まった。
『んじゃ、明日も朝早いし、もー寝ますかね』
髪を乾かし終わったナマエはリビングでくつろいている両親に「もう寝る!おやすみ!」と声を掛けてから自分の部屋に戻りベッドに入って就寝をした。
<END>