※注意:おお振りの原作沿いの名前変換小説(夢小説)です※
※注意:夢小説とはいえ特に誰かと恋愛する予定はな…かったのですが徐々に恋愛要素出てきてます※

「おお振りの世界に異世界トリップ 第77章」


 バレンタインが終わると期末試験前休暇がやってきた。今のナマエにはまだ将来の夢と呼べるほどはっきりしたものはないが、だからこそいずれ叶えたい夢ができた時に道を閉ざされることのないように勉学でもいい結果を残しておきたかった。なのでナマエは野球部のマネジ業務で忙しくしつつも勉学も決して怠らないと決意していた。試験前休暇期間中も選手たちは交代で田島家での自主練を行っていたようだが、ナマエはそれには参加せずに約1週間みっちり勉強して過ごした。その甲斐あってか3学期期末試験では全教科手ごたえばっちりだ。かなりの好成績を狙える自信がある。

 3学期期末試験を終えると今度は入試休み期間に突入する。この入試休み期間は西浦高校を受験する中学3年生の対応で学校側は忙しい。また入試における不正防止の観点からも教員や受験生といった入試関係者以外は一切学校への立ち入りが禁止される。それは西浦高校野球部も例外ではなく、この期間中は裏グラも利用できないので部活動はナシだ。モモカンからは入試休暇中は自由に過ごしていいと言われている。野球部員全員でどうやって過ごすか検討した結果、阿部から神奈川県内の高校4校の野球部へ見学に行こうと提案があった。そしてマネジの篠岡とナマエは阿部の作成した神奈川高校リストに従ってアポを取った。各学校の野球部は快く見学を承諾してくれた。

 そして今日がいよいよ神奈川県内の高校の野球部見学の日だ!

 ナマエは神奈川県立逗子萬翠高等学校を見学することになっている。メンバーは栄口・水谷・篠岡・ナマエの4名だ。逗子萬翠高校は偏差値70を誇る超進学校だ。毎日8時間の授業がある上に19時半下校が必須という厳しい条件下にも関わらず、逗子萬翠の野球部はこの夏は神奈川県ベスト8にまで勝ち上がった。西浦高校野球部の目標は甲子園優勝なわけだが、マネジのナマエは当然そのための厳しい練習に付き合う必要がある。それでもマネジは選手たちとは違っていくら野球部で成績を残してものスカウトやスポーツ推薦は受けられないのだから勉学も疎かにはできない。ナマエは逗子萬翠高校を見学することで野球と勉強を両立させる方法について学ばせてもらおうとメラメラと闘志を燃やしていた。
 ナマエたちは京浜急行逗子線神武寺駅に16時に待ち合わせをした。そこから徒歩15分ほどで逗子萬翠高校に到着した。今日は16時15分に校門のところで野球部のマネージャーを務める大塚という女性と待ち合わせをしてある。ナマエたちが到着してまもなく黒髪ミディアムヘアの女性が校舎から出てきた。
「西浦高校の方ですか?」
「あ、はい!」
声を掛けられたナマエたちはピシッと背筋を伸ばした。
「はじめまして。私は逗子萬翠の野球部でマネージャーをやっています、大塚です。」
大塚はそう言ってお辞儀をした。栄口・水谷・篠岡・ナマエの4人も順番に自己紹介をしてから頭を下げた。ナマエたちはまずは学校の事務室に案内された。学校への来訪者はここで来訪者一覧に名前と来訪目的を記入し、受付を済ませる必要がある。その後、大塚はナマエたちをグラウンドへと案内してくれた。ナマエたちがグラウンドに到着するとちょうど部活が始まったところだった。主将と思わしき人物が「はじめ!」と大きな声を出すと一列に並んだ選手たちが下を見ながらゆっくりグラウンドを進行し始めた。そして時々しゃがみこんでは何かを拾っている。
「何をやっているんですか?」
栄口が大塚に訊ねた。
「グラウンドの石を拾っています。授業でも使うし、一応点検で。でもそんなに落ちてないんですけどね。あと、気持ちを整えるために拾うんだと思います。」
大塚が答えた。
「でも今16時半過ぎで19時半には完全下校の決まりですよね?すると片付けとか着替えとか考えると19時には上がるとして、実質練習時間は2時間半ですよね?」
水谷がそう言うと大塚は「あっ、やっぱり短いです!?」と逆に訊ねてきた。水谷はコクッと頷いた。西浦高校では春~夏の日が長い時期には16時には練習を開始して20時半まで4時間半は練習するし、日の短くなった冬場の今でも19時半までは筋トレルームなどを活用して日々訓練に励んでいる。それと比べるとやはり練習時間は少ないと言える。そんな中で野球強豪校がひしめく神奈川県内でベスト8に残ったという実績はデカい。
「じゃあ、石拾いは短い時間だからこそ必要なのかもです。ガッと集中してやるんで切り替えの儀式みたいな感じです。」
大塚がそう言った。篠岡とナマエはその言葉を聞き漏らさないようにノートにメモを取った。選手たちは石拾いが終わるとダッと駆け出した。ここから本格的に練習が始まる。キビキビと動く選手たちを見て、栄口と水谷は「おお、速いっ」と感心していた。
「やることは決まっているんですか?」
篠岡が大塚に訊ねた。
「はい、ペッパーとキャッチボールを1時間やってその後はその日のメニューに移ります。」
「1時間スか。練習時間の半分近いスよね。」
水谷がそう言うと後ろからヌッと男性が現れた。
「うん、時間配分には苦労するけど基礎練は欠かせない!」
突如現れた男性は大塚から「あ、岩村先生」と呼ばれていた。どうやらこの人が逗子萬翠野球部の顧問先生のようだ。ここからは大塚の代わりに岩村先生が案内をしてくれるらしい。
「話の続きだけど、うちは頭がいい子が集まってるから複雑な作戦でもすぐ覚えられる。でもいくら高度な野球をやっても送球ミスしたら負けるでしょ。基礎を疎かにしないことがやっぱり近道なんだ。」
岩村先生はそう説明した。
「頭がいい子たちが集まってると基礎練が大事になってくるんですね。うちもそこそこの進学校ですけど、複雑な作戦はやっぱり練習して身体に染み込ませないと無理だと思います……。」
ナマエがそう言うと岩村先生は「その時間が取れる環境にあるんだからそりゃやった方がいいよ」と笑った。
「ちなみにウエイトはやりますか?」
篠岡が岩村先生に訊ねた。
「うちはウエイトはやらない。監督さんの方針で身体がまだ成長している時期は自重トレでいこうってことなんだ。ま、時間が短いから取捨選択の結果ってとこもあると思うけどね。」
岩村先生はそう説明すると「じゃ、監督を紹介するね」と言って柔軟を始めた選手たちの方へを歩き出した。
「監督!埼玉の西浦高校から見学に来た子たちです。」
岩村が声を掛けると選手たちに交じって柔軟をしている若い男性が「おう、ご苦労さん!」と返事をした。どうやらその人が逗子萬翠野球部の監督らしい。監督は「どうも、宮武です。好きに見ていってな!」と明るい笑顔を見せてくれた。ナマエたちは監督が選手と一緒にアップしていることに驚いた。
「あの、監督さんも一緒にアップするんですか?」
水谷が訊ねた。
「うん、キミたちのところはしない?」
「そすね。一緒にはしないです。」
栄口が答えた。
「うちの監督は練習中は座らないし、ロードにも併走する。それからロード中に人とすれ違えばあいさつをするし、ゴミが落ちてれば拾っていく。」
「あの、それは野球のためですか?人間形成とかそういうことですか?」
水谷が訊ねると宮武監督が「それは両方だな!」と言いながらナマエたちの方へ寄ってきた。宮武監督はナマエたちのために今日はランニングはサボって説明をしてくれるそうだ。ナマエたちは声を揃えて「スンマセン、ありがとうございます!」とお礼を言った。それから宮武監督はどうしてゴミ拾いをするのかその哲学を説明してくれた。宮武監督は社会人になってからボール1個にもお金がかかってるし、グラウンドを使ったりユニフォームを手に入れるのだって色んな人が手続きをしてくれているし、寮での食事にしたって誰かがお皿を洗ってくれて誰かが料理をしてくれてると気付けるようになったそうだ。そして、自分が当たり前だと思っていた日常を送るのには実は色んな人の支えが必要なんだということを知ったら、そういう人たちへの気遣いができるようになった。それができるようになったら今度は倉庫の汚れやグラウンドの汚れが気になるようになり、倉庫やグラウンドを掃除した。そしたら今度はグラウンドの外のゴミも目に付くようになった。そうしてグランド周りを掃除して、次は寮の周りを掃除して、その次は会社の周りを掃除して、そうして野球部全体で掃除をするのが自然に日課になった。その頃から野球部の成績が自然に上がり始めたという。
「チームで町の掃除をしていると21世紀選抜の理由になったりしますよね。だからやるんだと思ってたんですけど、野球そのものが上手くなるんすか?」
水谷が率直な疑問をぶつけた。ナマエも同じことを疑問に思っていたので内心『文貴ナイス!』と思った。
「そう、野球だけじゃなくてスポーツは何でも、それに勉強でも、仕事でも、上へ行ける人とそうでない人の違いは何かに気付けるかどうかなんだ」
宮武監督がそう断言した。ナマエは『たしかにそうかも』と思った。ナマエはこの世界に来る前の世界で社会人をやっていた経験がある。実は社会人としてバリバリに働いていた頃はチームリーダーを任されていた時期もあった。その頃のナマエが会社から評価されていたのは勤勉さはもちろんだが何よりも"思考力"だったと思う。何か仕事を任された時にのんべんだらりと言われたことをただこなすのではなく、"なぜこの作業が必要なのか?"、"何のためにやっているのか?"という業務の経緯・背景や目的をしっかりと理解していたからこそナマエは「ここっておかしくないでしょうか?」と資料の間違いに気付くことができた。ナマエのそういう色んな事に気付いて自発的に行動できるところを会社の上層部の人間は評価してくれていたのだ。
「見えていなかったものがどんどん見えてくる感覚を体験できるのがゴミ拾いなんだ。それに加えてもう1点。野球でも社会でも大事なことは他人のミスのカバーだ。チームプレイってことだけどゴミ拾いはその根底になる自己犠牲も体験できる。ゴミって言うのは誰かのミスなんだ。油断と言ってもいい。それを自分が嫌な気持ちに打ち勝ってカバーする。周りの人間がそれによって助かる。うちのやつらは頭がいい。それも武器だけどそれだけじゃなくて自己犠牲のできる気付ける人間に育てたい。そういう人間は野球をやっても強いんだよ!」
宮武監督の言葉を聞いたナマエは感激で胸がジーンとなった。
「すごいです!ゴミ拾いにそこまで深い意味合いがあったなんて、ここに来なかったら気付けませんでした!」
ナマエはそう言うと宮武監督はニッと笑った。
「うちから学ぶとしたら練習よりもまずはゴミ拾いからだな!キミたちもまず部室、それから倉庫、次にグラウンドや学校周り、駅から学校までの道を掃除してごらん。それだけやれば自分も周りも変わるよ!」
「これが"Be the change you want to see in the world.(あなたが見たいと願う世界の変化にあなた自身がなりなさい)"ってやつの真髄ですか!」
「ああ、マハトマ・ガンジーの名言か。たしかにそれと近いものがあるかもな。自分が変われば世界が変わる。自分で気付いて自分から動けるやつはどこでも活躍できる。それに掃除して自分の身の回りがキレイになると単純に気持ちいいしな。」
宮武監督はそう言うと「じゃ、やってみて!」と言いながら選手たちのもとへと戻っていった。
「うちは宮武監督になってから8年間、部員が1人も辞めてないんだ」
岩村先生がそう言った。それを聞いた水谷と栄口は「1人もですか!?」「え、すごいすねっ」と驚いていた。
「いや、でも、わかります!私、この短時間で宮武監督にがっちり胸を奪われてしまいました!野球部の監督としてはもちろんですけど、人生の監督としてこの人についていきたいって思わせる魅力のある方ですよね。」
ナマエがそう言うと岩村先生は「うん、すごくいい監督なんだ」と微笑んだ。ナマエたち4人は「うんうん」と頷いた。
「でもキミたちの監督もいい監督なんだろうなって思うよ。指導者が見学に来ることはよくあるけど、生徒だけできた学校は今までないよ。自主的に来てるの?監督に言われて?」
「いえ、入試期間中は学校に入れないので部活も休みになりまして、監督からは休みの期間の過ごし方は報告しなくていいから自分たちで決めろと言われました。」
水谷がそう説明した。
「で、1人の部員の提案で神奈川のチームを見学しようということになり、今日は手分けして4校を見学させてもらってます。」
水谷に継いで栄口が説明を付け加えた。
「……いや、それいいと思う!創部して1年経ってないんでしょ?西浦高校、今後に注目してるよ。キミたちが埼玉の野球を変えるかもしれないよ。」
「……変えます!私たちの目標は甲子園優勝なんで!」
ナマエはそう言ってニッと笑った。岩村先生は目を真ん丸にして「甲子園優勝!?」と驚いていた。
「でもキミたちなら本当にやってくれそうだな。うちももちろん甲子園に出ることを目標にしているから、甲子園で会えるのを楽しみにしておくよ。」
岩村先生はそう言って優しく笑った。

 その後もナマエたちは岩村先生の案内のもとで逗子萬翠の選手たちの練習を見学させてもらった。それから選手たち何人かにインタビューする時間も用意してもらえたのでナマエは選手たちがどのようにして野球と勉学を両立させているのか知るために平日のスケジュールの組み方や土日の過ごし方を訊いたり、集中力を高めるための工夫なんかも教えてもらった。逗子萬翠は19時で練習終わりなのでナマエたち4人もそこで見学を終えた。ナマエたちは今日お世話になった岩村先生や宮武監督やマネージャーの大塚にあいさつをしてから逗子萬翠高校をあとにした。

 神武寺駅に着いたところで西浦高校野球部のグループLINEに他3校を回っているメンバーから続々とメッセージが届いた。どうやら逗子萬翠高校以外の3校はまだ上がれそうにないらしい。
「どうする?オレらだけでコスモワールド行く?」
水谷はそう言ったが栄口が「それはないな」と返事をした。篠岡も指でバッテンマークを作っている。コスモワールドに行くのを楽しみにしていたナマエは内心ガッカリした。でも野球部のみんなで行くからイベントとしての意味があるのだ。4人だけで行くのも申し訳ない。
「明日、みんな集まって報告会でしょ?ゴミ拾いやりたいからみんながやる気になるようなプレゼンの仕方を考えたいな。」
篠岡がそう言った。
「そうだね。ここから埼玉に帰るまでに2時間くらいかかるし、電車の中でみんなで考えよう。」
ナマエは篠岡に賛同した。水谷と栄口も異論はないらしい。ナマエたち4人は電車に乗りながらゴミ拾いをどうやって西浦の練習に取り入れるか、どうやったら他の部員もやる気になってくれるか、あれこれと議論を交わしながら家に帰った。

<END>