※三橋夢小説「鳴かぬ蛍 第3章」の続編です※
※注意:夢主は三橋に片思いしてるので一応三橋夢扱いです。が、今回三橋とは全然絡みません※
※原作沿いのシリーズ小説になる予定です。なるべく原作改変したくないので夢小説だけど甘い展開は正直期待できません※

三橋夢小説「鳴かぬ蛍 第4章」


 夏合宿1日目の朝、今回合宿の手伝いをしてくれる父母会の方々が集まった。
「おはようございます。改めましてマネジの篠岡です。合宿ではお世話になります。」
集まった父母会メンバーに挨拶をする篠岡。
「あら、篠岡さん、おはよう。こちらこそよろしくねー!」
「おはよう」
「よろしく」
父母会メンバーの母親たちが口々に篠岡に挨拶を返す。
「お母さんたち、こちら、西野夏波さん。新しいマネジです。」
篠岡は父母会の母親たちに夏波のことを紹介してくれた。
「え!新しくマネジ入ったの!?」
「キャー可愛い!」
「よかったね、篠岡さん!」
母親たちから黄色い悲鳴が上がる。一方で夏波はめちゃくちゃ緊張していた。
「はじめまして!1年9組の西野夏波です!今はまだ試用期間という形になりますがマネジ志望で、篠岡さんから色々学ばせてもらってるところです。今回の合宿ではお母さま方も手助けしてくださると伺いました。私はまだ色々不慣れでご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、一生懸命がんばるのでよろしくお願いします!」
夏波はバッと頭を下げた。
「や~ん、いい子ねえ!私は花井の母ですぅ。」
「巣山の母です。よろしくね!」
「どうも、水谷の母です」
母親たちが次々と自己紹介をしていく。父母会の方々への挨拶が無事に終わって夏波は一安心した。

「じゃー、みんな!父母会のみなさんが用意してくれた食料、ちゃっちゃと合宿所に運んじゃおう!」
百枝監督が野球部員に声を掛ける。部員全員が「はい!」と返事をし、車が停めてある場所までぞろぞろと歩いていった。車から食料を降ろしてみんなで運んでいると、そこに別の車が到着した。そこから降りてくる黒髪の男の子。その姿を見た選手たちが「阿部だ!」と言いながら駆け寄っていった。
『あ、阿部君だ』
阿部はよく三橋に会いに9組にやってくるので、夏波は阿部のことは認識していた。けれど阿部の方は、阿部が練習を休んでいる間にマネジになった夏波のことは知らないだろう。
『阿部君にも挨拶しなきゃ』
夏波は阿部に挨拶するタイミングを伺った。今は監督と話をしているので邪魔しない方が良さそうだ。
「阿部君が監督と話し終わったらちゃんと紹介するよ!あと阿部君のお母さんにもあとで挨拶しよう。」
阿部に話しかけるタイミングを伺っている夏波に気付いた篠岡はそう言った。
「千代ちゃんってホント頼りになる~!!」
夏波は篠岡に抱きついた。

 阿部と三橋が通院兼ロードに出ようとしたところで篠岡は阿部を呼び止めた。
「阿部君、久しぶり。膝の調子はどう?」
篠岡が阿部に体調を尋ねる。
「おう、腫れはもう引いたぜ!」
「それはよかった。病院行こうとしてたところだよね。ゴメンね。ちょっと時間いい?」
「ああ、何?」
篠岡の後ろで阿部と篠岡の会話を聞いていた夏波は『阿部君って全然笑わなくて不愛想でちょっと怖いな』と思った。
「紹介します。こちら、西野夏波ちゃん。阿部君が休んでる間に入った新しいマネジの子です。」
「あー、そういやさっき栄口がそんなこといってたな。」
阿部はチラリと夏波を見た。不愛想な阿部の態度に夏波は緊張で体が硬くなった。
「はじめまして!1年9組の西野夏波です。マネジ志望です。今は試用期間で、千代ちゃんから色々学ばせてもらってます。野球ド素人ですが、一生懸命がんばるのでよろしくお願いします。」
夏波は頭を下げた。篠岡は「夏波ちゃん、タメなんだからそんなかしこまらなくて大丈夫だよ~」と夏波に声を掛ける。
「9組?じゃあ、お前同じクラス?」
阿部は三橋にそう質問した。三橋は頭を縦にブンブンッと振って頷いた。
「阿部君は私のこと知らないと思うけど、私は阿部君が9組によく来てるの見てたから阿部君のこと知ってたよ。夏大も休日にやった3つの試合は全部応援に行ったし。」
夏波は篠岡にかしこまらなくていいといわれたのでタメ口で話してみた。
「へー、そうなんだ。」
そう答えた阿部は夏波に全く興味が無さそうだ。夏波は『やっぱりちょっと怖いかも』と思った。
「引き止めてごめんね。これから関わり合いになる機会も増えるだろうから早めに挨拶しておきたくて。」
「おお」
「じゃー、病院行ってらっしゃい。気を付けてね。」
「はい、じゃ、行ってくるわ」
バイバイと手を振って阿部と三橋を見送る篠岡と夏波

 2人が去った後、夏波は篠岡の方を向いた。
「阿部君ってあれが普通?なんかちょっと怖かったんだけど…」
篠岡に訊ねる夏波
「うん、あれが普通。ああいう人なの。特別嫌われてるとかじゃないから安心して。」
「マジか。なんかちょっとこれまでのイメージと違ったかも…」
「これまでのイメージはどんなだったの?」
篠岡はキョトンとした顔で訊ねた。
「9組で見る阿部君はいつも三橋君のことを気にかけてて、世話焼きなお兄さん的なイメージだった」
「あー、世話焼きっていうのは間違ってないよ。三橋君に対してのみね。でもお兄さんって感じじゃないなー。…あれだね、よく"捕手は投手の女房役"って言われるんだけど、かかあ天下の女房って感じかな。」
「へー、女房か」
「阿部君は興味がないことにはとことん興味がない人なんだよ。だからあの態度も悪気はないんだ。夏波ちゃんも気にしなくていいからね。」
「わかった、そういう人なんだって覚えておく」
夏波はそう返事しながら内心では『あんな阿部君相手に三橋君ってうまくやれてるのかな?』と心配を募らせた。

午前中の練習は、いつものように蚊取り線香を焚いたり、ベンチにジャグを設置したり、ノックのボール渡し等の練習の手伝いをしたりして過ごした。そしてお昼前には志賀先生から栄養素に関する講義があった。阿部と三橋は志賀先生の講義が始まる直前に帰ってきた。志賀先生が言っていたが、どうやら合宿中の朝ごはんは阿部と三橋の2人で作るらしい。
『へーあの2人って料理できるんだ!意外だ!すごいなー!』
夏波は家の手伝いは全然やらないので料理なんて家庭科の調理実習でしかやったことがない。阿部と三橋が料理すると聞いて尊敬の念を抱いた。

 しかし、午後になって練習が始まると三橋と篠岡と夏波は百枝監督に呼び出された。どうやら阿部君と三橋君は別に料理ができるから朝食係に選ばれたわけじゃないらしい。"三橋と2人だけでは無理だ"と阿部は監督に頭を下げたそうだ。そこで最初の3日間は篠岡が阿部と三橋に色々教えてあげるということになった。
「監督、私も料理なんて家庭科の調理実習でしかやったことがないのでお役に立てないと思うのですが、私は三橋君と阿部君と一緒に勉強させてもらう立場だと思っていていいのでしょうか?」
夏波はなぜ料理ができない自分が今呼ばれたのか意図が知りたくて百枝監督に質問した。
「そうね。でも今回メインは阿部君と三橋君だから、夏波ちゃんはあくまで後学のための見学に徹してちょうだい。」
「わかりました」
夏波はその後献立を決める篠岡・阿部・三橋の様子を後ろから静かに見学した。
『へーそういう風に献立って決めていくんだな。千代ちゃんは色んな事が出来てスゴイな。』
と思ったり
『三橋君は食いしん坊でかわいいな』
と思ったり
『阿部君って三橋君相手だと色んな表情をしてみせるんだな』
とか思ったりして、3人の様子を眺めながら色んなことを夏波は考えていた。そして献立が決まると三橋君はブルペンでの投球練習にダッシュで戻っていった。
『三橋君て本当に野球が好きなんだな』
夏波はブルペンに戻る三橋の背中を目で追った。その間、篠岡は阿部と何か会話しているようだったが、夏波は三橋の投球練習の姿を見つめていて聞いていなかった。「買うものあれば頼んどくね」という篠岡の言葉にハッと我に返った夏波が振り返ると篠岡はフェンスをくぐって裏グラから出ていくところだった。
『見学に徹しろって監督から言われたけど、朝食用の食材をチェックしたりするのも手伝わない方がいいんだろうか?』
夏波は朝食作りの"見学"と"マネジの役割"の線引きで迷った。
『うーん、でも千代ちゃんが私を呼ばずに出ていったってことは、私は今回は手伝わない方がいいって考えたんだろうな。じゃなかったら千代ちゃんは私に声かけるだろうし』
そう考えた夏波はいつも通りジャグに入っているドリンクの残量を確認したり、備品の在庫チェックしたり、選手たちのやっている練習の手伝いに入ったりして過ごした。ちなみにボール磨きは今日は阿部がやってくれているので夏波がやる必要がない。

 ジャグのドリンクが無くなったので数学準備室に向かった夏波は道の途中で篠岡に会った。
夏波ちゃん!1人で放っておいてゴメン!朝食作りの件に夢中になっちゃって失念してた…食材チェックとか誘えばよかったね!」
夏波の顔を見た篠岡はハッとした表情を浮かべて夏波にそう声を掛けてきた。
「あ、私も食材チェックやってよかった感じ?監督が私には見学に徹しろって言ったから千代ちゃんはそれで私を誘わなかったんだと思ってた。こっちこそ1人でやらせてゴメンね。」
「や、見学はあくまで献立決めと実際の調理の話だと思うから、食材チェックとか父母会への依頼とかはマネジの仕事としてやっていいと思う。だからこれは誘わなかった私のミス!ゴメンね!」
篠岡は顔の前で両手を合わせて謝った。
「いいえー。じゃあ、明日からは一緒にやるね!」
裏グラに戻る途中だった篠岡と数学準備室へ向かっている途中の夏波は一旦ここで別れた。
『千代ちゃんがミスするなんて珍しいなぁ…てか初じゃないか?』
夏波は自転車を漕ぎながらとぼんやりとそんなことを考えた。

 合宿中の昼食と夕食は父母会の母親たちが作ってくれる。夕食が18時なので昨日まで用意していた17時のおにぎりは合宿中は作らない。17時半には午後練が終わりみんなで合宿所がある格技場に戻った。18時からは選手たちと一緒に夕食の時間だ。夕食が終わると選手たちは食休みで仮眠を取る。その間、マネジの篠岡と夏波は父母会の母親たちと一緒に食べ終わった食器を洗ったり、テーブルを拭いたり、色々片づけをした。19時からの一時間は恒例のお勉強タイムだ。父母会の母親たちはこの時間に選手たちの夜食用のおにぎりを作ってくれて、それが終わると帰っていく。20時には選手たちは夜練がある。一方、マネジの篠岡と夏波はこの時間にお風呂を済ませる。21時には選手たちは夜練を終えてお腹を空かせて帰ってくるため、マネジの篠岡と夏波は父母会の母親たちが作ってくれた夜食のおにぎりをみんなに配った。配り終わったらおにぎりを乗せていたトレーを洗い、21時半からミーティングと日誌記入だ。
「私、日誌って初めて書くよ。これって何書けばいいの?」
夏波は千代に相談した。
「うーんと、その日にやったこととか、何か気付いたこととか、一日の感想とかだよ。そんなかしこまらなくていいよ。思うがままにサラーッと書いちゃえばいいよ。明日は朝早くから朝食作りがあるから、さっさと書いて寝よ~!」
「わかった、すぐ書いちゃうね!」


夏合宿2日目の朝、5時半に篠岡と夏波は目を覚ました。そして顔を洗ったり、髪を整えたりといった身支度を済ませてキッチンへと向かった。エプロンをつけ始める篠岡。
「私、見学だけどエプロンした方がいいのかな?」
夏波は篠岡の意見を求めた。
「とりあえず今日だけはあの2人が来る前にあらかじめ食材出しておこうと思うんだよね。夏波ちゃんも一緒にやってほしいからエプロンつけよう。野菜、土ついてるから服汚れちゃうよ。」
「わかった」
篠岡と夏波は今日の献立を見ながら食材をキッチンの上に並べた。そうしているうちに6時になり阿部と三橋がやってくる。2人とも今起きたばっかりという顔だ。
『三橋君の寝惚け眼の顔、かわいいなぁ』
夏波は胸がホカッとした。
阿部はエプロンをつけてる2人をみて「やる気マンマンじゃん」と言った。篠岡は笑顔で「2人の分もあるよ」と言ったが2人ともつける気がないらしい。
『へー、これから料理するのにエプロンしないんだ。なんかその無頓着さがすごい"男子"って感じだなー。』
夏波はここからは見学に徹するので静かに3人の様子を窺う。まず篠岡は三橋に炊飯を教えた。次に阿部に野菜を洗うように指示を出す。…と、そこで阿部から予想外の言葉が発せられた。
「三橋は包丁持つなよ。火もだめだな。洗いもんして食器並べておけ。」
『…はい?』
見学していた夏波はもちろん、篠岡も阿部の発言に違和感を抱いたようだ。
「朝ゴハンは2人で作るんだよね?洗ったり並べたりだけじゃ…」
…2人で作ったとは言えないと篠岡は言おうとした。しかし、その言葉を阿部が遮った。
「こいつにはノートの端にも気ィつけさしてんだよ。何もやんなっつってねーだろーが。」
そのキツい口調に篠岡も夏波も凍り付いた。夏波が篠岡の方を見ると篠岡は目頭が熱くなっているのか、涙を堪えようとしているのか、顔を赤くして俯いている。夏波は篠岡にキツい言葉を浴びせてこんな顔をさせた阿部に腹が立った。
『監督は2人で朝食を作れって言った。2人で作ることが重要なんだってこと、聞いてりゃわかる。それを三橋君に包丁も持たせない、火加減も見させないって言う阿部君の方が間違ってる!千代ちゃんは正しい指摘をした!なのにそんな言い方して千代ちゃんを傷付けて……、この野郎!』
「ちょっと、阿部君さ…」
黙っていられなくなった夏波が口を開きかけた時だった。
「オ、オ、オレ、気を付けて、切れる、よっ」
三橋がぱっと動き出してにんじんと包丁を持ってそう言った。それをきっかけに、なんだかんだあったものの、結局阿部は三橋がにんじんの皮を剥いたり切ったりするのを許した。篠岡にも笑顔が戻って凍り付いていた空気は元に戻った。
『三橋君がいてくれてよかった。三橋君が動き出してくれてなかったら、私、阿部君と喧嘩してたかもしれない…。』
夏波は心底三橋に感謝した。朝からキッチンで部員同士が喧嘩なんてしたらもう朝食作りとかできる状況じゃなくなってた可能性が高い。
『やっぱり三橋君は素敵な人だ』
夏波は三橋に惚れ直した。

夏波ちゃん、さっきありがとうね」
朝食を食べ終わって食器を片付けたり、ごみを分別していると篠岡が夏波に声を掛けてきた。
「え?なにが?」
お礼を言われる理由に見当がつかない夏波
「さっき、私のために怒ってくれたでしょ」
篠岡が言いたいのは今朝のキッチンでの出来事だと夏波は理解した。
「え、や、ちが、むしろゴメンって感じ」
「なんで謝るの?」
「いや、三橋君のおかげで口に出さなくて済んだけど、私あの時カッとなって阿部君にすごい文句言いそうだった」
「それは私のことを考えて怒ってくれたんでしょ」
「でも、もしあの時文句言っちゃってたら阿部君と喧嘩になってたかもしれない。…そしたらもっと悪い状況になってたでしょ?だから私は反省をしています…。」
シュンッと頭を垂れる夏波
「んー、たしかに空気は悪くなったかもしれないけど、時にはそういう衝突が必要な時だってあるよ。それに夏波ちゃんが私のために怒ってくれた事実が嬉しかったから、もし言った結果がどうなってたかなんて関係ないの。だから、ありがとう!」
夏波は篠岡の言葉に感動して胸がじーんとなった。
「千代ちゃん…!!アイラブユー!!」
夏波は千代に抱きついた。
「おおお!?アハッ、私も夏波ちゃん大好きだよー!」
篠岡は千代の頭をポンポンッと撫でた。

 午前中はベンチにジャグを設置した後は管理室で篠岡からスコア表の見方と付け方を教わった。口頭で説明を受けただけだとイマイチピンとこなかったので篠岡は実際にTV中継されている夏大6回戦の武蔵野第一vs春日部市立の試合を見ながらスコアを付けてみせてくれた。夏波は横で『この試合の動きはスコア上だとそういう風に表記するのか』ととても勉強になった。スコア表の見方・付け方は、1回で覚えきるのは難しそうだが、こうやって実際の試合を見ながら書き起こす作業を数回こなせばできるような気がしてきた。武蔵野第一vs春日部市立の試合は今日は7回表からしかつけていないが録画はしてあるので明日か遅くとも明後日までには書き起こすことになっている。1回表~6回裏の分は篠岡に観てもらいながら、夏波がつけようということになった。他にもこの後はARCvs飯能北の試合もTV中継されるので録画を取るし、明日以降は準決勝と決勝の試合もある。スコア表の書き方を学ぶ機会はおそらくそれで十分だろう。
「意外と覚えられそうでよかったよ。やっぱり実際に試合見ながらスコア書いてるところを見てるとわかりやすい。」
「ホントに!?夏波ちゃんがスコア表付けられるようになったら、今まで一人でやっていた分が分担できるようになる!それはもう本当にめちゃくちゃ助かる!」
篠岡は目をキラキラとさせている。とても嬉しそうだ。
「私もスコア表書けるようになったら野球部のマネジとしての自信をだいぶ持てるようになると思う。もちろん、野球のルールとか勉強しなきゃいけないことはまだまだたくさんあるけどね」
「野球のルールは複雑だからマネジやりながら覚えていく、でいいと思うんだ。試合観戦していくうちに自然に覚えるから。特にスコア表付けるようになったら集中して試合を見る必要が出てくるし、結果的にルールの理解・習得も早まると思う。」
「なるほど、全てはスコア表から始まるわけだ!」
夏波は左の手の平にグーにした右手をポンと合わせて"納得!"というジェスチャーをしてみせた。
「あのね、本当は試合中に打者が打った時の姿勢とか構えの足の位置とかランナーの動きとかそういった細かい諸々もチェックしたいんだけど今は人手が足りなくて諦めてるの。でも夏波ちゃんがスコア表付けてくれるようになったら、私はその間にそっちの記録をできるようになる。」
「おお!スコア表の付け方覚えたらいいことづくしだ!よし、合宿中に習得するぞー!」
「がんばろー!」
篠岡と夏波はハイタッチをした。

 時刻はまもなく12時になりそうだ。
「そろそろ阿部君と三橋君が帰ってきたかな。ちょっと迎えに行こう!」
篠岡はそう言って椅子から立ち上がる。管理室を出て階段を下りているとそこは座っている阿部の姿があった。
『あれ、三橋君がいないぞ?』
「「みは…」」
阿部と篠岡が同時に口を開いた。どうやら三橋はアンダーを替えに宿泊部屋まで戻っているらしい。
「あら、ホント?私たち管理室にいたけど気付かなかったね」
篠岡が夏波の方を振り向いてそう言った
「うん」
夏波は頷いた。阿部は篠岡に6回戦のスコアが見たいという。篠岡がそれを手渡すと、スコア表を眺めながら阿部の顔は眉間に皺がよっていって渋い表情になった。篠岡と夏波はそんな阿部の様子を見て顔を見合わせる。阿部があまりに渋い顔になっていくので見てるこっちはなんだがヒヤヒヤする。するとそこにアンダーを替え終わった三橋が階段を降りてくるのが見えた。
「三橋君、おかえりー」
篠岡はそう声を掛けながら三橋の方に駆け寄った。夏波もその後をついていく。篠岡は三橋に「夏大第6回戦のスコアを阿部君に見せたのはまずかったかな?」と小声で聞いていた。
『? なんでマズイんだろ?』
夏波にはよく事情が分からなかった。三橋は「ま、まずくない……?」と答えた。
『それは"まずくない"と答えてるのか"まずいんじゃないの"と答えてるのかどっちなんだろ?』
夏波は三橋の回答がどっちなのかわからなかったが、篠岡は前者だと捉えたらしく「そっか」と笑顔になった。
『千代ちゃん、三橋君の言ってることよくわかるんだな。仲良くて羨ましいな』
夏波はマネジになってからも三橋とはまだ全然話せていなかった。ここでふと篠岡が明日の朝ごはんのメニュー決めようと言い出した。
「じゃー私本持ってくるねー。あ、夏波ちゃんはここで待ってていいよ。すぐ戻るから。」
篠岡は料理本を取りに管理室に戻っていった。
『え、この2人と一緒に待ってるの気まずいんだけどな…』
夏波は苦笑した。とりあえず静かに阿部と三橋の様子を窺うことにした。阿部はスコアを読み終わると身長を計ろうと立ち上がった。三橋はたった今阿部が読み終わったスコア表を手に取って読み始めた。
『三橋君もスコア表読めるんだ。そりゃそうか。長いこと野球やってるんだもんね。』
夏波は『じゃあやっぱりスコア表を作るのはマネジの大事な仕事なんだな』と俄然やる気を出した。スコア表を読んでた三橋は阿部に呼ばれて阿部の身長計測のお手伝いをしていた。
『お、この2人、なんか意外と仲良さげかも…』
身長が伸びて喜んでる2人を眺めながら夏波はそんなことを考えた。ちなみに夏波は中学2年でもう身長は止まってしまったので測る気はない。そうこうしている内に2人は武蔵野第一の話を始めた。先程の6回戦で勝ったチームだ。
「もしかしたらあいつ明日なげねーかもしんねーぞ」
阿部はそう言った。
『あいつって武蔵野第一の投手のことかな?たしか…榛名元希さんだっけな。阿部君と三橋君は知り合いなのか?』
夏波は疑問に思った。
「……、…もし、阿部君が、いたら、通用…」
「はあ!?」
阿部が急に大声で怒鳴った。近くで話を聞いていた夏波はあまりの迫力に驚いて凍り付いてしまう。三橋も顔が真っ青になっている。
「きもちわりい仮定をすんじゃねェよ」
阿部の声はなおもデカく三橋に向かって毛を逆立てて怒っていた。
「え、ちょ…阿部く…」
夏波は明らかに怯えた顔をしている三橋が心配で阿部を制止しようとした。
「お、おまたせー」
そこに明るい声色で篠岡が登場した。
「さー決めちゃお。ホントにそろそろお昼になっちゃう。何食べたい?混ぜご飯はどうかな?」
篠岡は場の空気を変えようと努めて明るく振る舞っていることが夏波にはわかった。それから篠岡は膝を怪我してる阿部にアイシング用の氷を持ってきていた。篠岡のおかげで場の悪い雰囲気は幾分か落ち着いた。でも明日の朝食の献立を決めている間も阿部はイライラしているように見えたし、三橋君は先ほど怒鳴られた影響かビクビク怯えてるように見えた。
『このバッテリーって、ホントに大丈夫なのかぁ!?』
気の弱い三橋君と割と乱暴な阿部君の組み合わせ…どうも合ってる気がしなくて夏波は2人の関係性が心配になった。

 そしていよいよランチの時間。今日は塩焼きソバにシュウマイだ。花井の「うまそう!」の掛け声と同時にみんなで食事をとる。昨日千代ちゃんからこの毎食前にやる「うまそう!」という習慣もメントレの一環なのだと教わった。選手たちはもりもり、がつがつ食って食べ終わったら食休みで仮眠を取る。マネジの篠岡と夏波は選手たちと同じスピードでは食べられないし仮眠も必要ないのでゆっくり食事をとった。
「ねえ、阿部君と三橋君のバッテリーってさ、あれでうまくいってるの?」
夏波は食事しながら千代に訊いてみた。
「うーん…うまくいってるかっていうと…微妙なのかな?だから監督も2人に朝食作らせてるんだと思う。」
「そーいうことだよね、監督は"2人で"作れって強調してたもんね」
「決して仲が悪いわけじゃないと思うんだよ。阿部君は三橋君のこと色々気遣ってるし。」
「うん、それはわかるよ。…だけど方向性が若干間違ってる気がする。」
夏波は今朝のキッチンでの阿部の過保護っぷりを思い出しながらそう言った。
「うーん、お互いに大事に思ってるっぽいのは伝わってくるんだけど、なんか通じ合ってないところあるよねぇ…」
篠岡はそう言って苦笑した。

 午後はプールの使用許可が取れたので選手たちは水泳だ。AチームとBチームに分かれてタイムを競う。マネジはスタートの合図を出したり、タイムを声に出してよみあげる役割だ。篠岡はAチーム、夏波はBチームの分を担当した。三橋は意外にもタイムが速い。田島に次いで2位だ。
『へー、意外!でも投手として1試合すべてを1人で投げ切ってたんだからそらスタミナはあるか。』
そんなことを考えながら三橋の方を見てたら田島が三橋の海パンをズルッと下した。反射的に目を背ける夏波。幸い"ブツ"は見えなかったが、心臓に悪い!
『田島君~!何やってんの~!?』
夏波は心の中で悲鳴を上げた。篠岡はどうやら気付いていないようだ。
「ここは男子校じゃねっつってんだろっっ」
「あついあつい、マジであついから~っ」
泉が田島を叱っている声が聞こえてくる。
『泉君ありがとう~~~!!』
夏波は心の中で泉に感謝の気持ちを述べた。田島には金輪際ああいうことはやめていただきたい。泉は田島を叱り終わった後、チラッとこちらを見たのを夏波は感じた。ギクっとなる夏波に泉が近づいてくる。
西野マジでゴメン!今後は絶対あーゆーことのないようにオレがちゃんと田島見張っておくから!」
泉がそう話しかけてきた。
「いや、私見てないです!ちゃんと目逸らしました!!」
ブンブンと両手を左右に振って見てないことをアピールする夏波
「見えなかったにしても危なかっただろ?イヤだろ、こーゆーの。」
「う…、うん…、心臓に悪い…な」
「マジでゴメンな!!」
泉が頭を下げる。
「いやいや、泉君が謝ることじゃないよ。でもありがとう。泉君が田島君を叱ってるの聞こえた。助かるよ。」
「あいつホントこういうことに無頓着だからな。オレは見張り役なんだ。」
「なんだか泉君は田島君と三橋君のお兄ちゃんって感じだね」
フフッと夏波は笑った。
「ま、そんなんに近いかもな」
泉もハハッと笑った。

 午後の練習が終わった後は昨日と同じスケジュールだ。夕食を食べて、食器やテーブルを片づけて、勉強会を一時間。20時にはマネジはお風呂に入って、21時には夜練を終えた選手たちにおにぎりを配った。トレーを洗い終わって、21時半のミーティングまで時間が少し時間が余った。女子の宿泊部屋で篠岡と夏波はしばしの休憩だ。百枝監督は志賀先生に用があって管理室へ行ったので今女子宿泊部屋にいるのは篠岡と夏波だけ。そのタイミングを見計らったのか、篠岡が夏波に向かっておずおずと話を切りだした。
夏波ちゃんってさ、その…好きな人とかいる?」
夏波はギクリと動きを止めた。
『三橋君を好きなんて言ったら、三橋君目当ての不純な動機でマネジになったって思われるんじゃ…。そしたら、マネジ、クビになるんじゃないのか…?』
そんな最悪のシナリオが頭に浮かんでしまい、夏波の顔はサァァと青ざめていく。
「……それは…い、いたら、マネジ…失格、だったり?」
動揺したせいで、まるで三橋みたいな話し方になってしまった夏波
「いやいや!そういうんじゃないよ!そんな規則はないよ!」
篠岡の回答に夏波はちょっと安心した。
『じゃあ、単純にお泊り会でよくある"好きな子だーれ?"っていう雑談かな』
「千代ちゃんは、いるの?」
夏波は自分からいると答える勇気が出なくて篠岡の出方を窺うことにした。篠岡は少し考えるそぶりを見せたが、
「うん、いるよ」
と答えた。
「………」
夏波は思わず無言になった。
『それって、やっぱり、野球部の人かな…?三橋君だったらどうしよう…!せっかく千代ちゃんとここまで友情を深められたのに好きな人が被ってたりしたら、最悪だ…!』
夏波は自分の顔が青ざめていくのを感じたがどうにも隠せなかった。夏波は勇気を出して訊いてみることにした。
「ち、千代ちゃんの好きな人って…さ、やっぱ、野球部、なの…かな?」
夏波はまた三橋みたいなぎこちない喋り方になった。夏波の心臓はもうバクバクしていた。
「……夏波ちゃんとは違う人だと思うから安心して?」
「え」
夏波は篠岡の回答に心底驚いて固まった。
『どうして私に好きな人がいるってわかった?っていうか"違う人だと思う"ってことは私が三橋君を好きってところまでもうバレてるってこと!?』
「え、え、え、私って…そんなバレバレ…?」
「や、さすがに誰かまでは特定できてないよ?候補は3人くらいに絞れてるけど」
「なんでえええ」
夏波は顔を両手で覆った。
『まだ特定されていないとはいえ、3人にまで候補が絞られちゃってるってどーいうことォ!?』
何がどうしてそこまでバレてるのか夏波には皆目見当がつかない。
「いや、今さっきの反応からして好きな人が被ってないか心配してんだろーなって思って。ってことは野球部だなって。んで、夏波ちゃんがマネジ初日の時点で名前知ってる言ってた野球部員って5人だけだったからさ。で、あの時の話し方からして花井君と阿部君はないよなって思って。」
篠岡は推理を語った。つまり、夏波の好きな人が三橋・田島・泉の3人のどれかだと言っているのだ。
「千代ちゃんって名探偵!?」
千代の名推理っぷりに感心して夏波は思わずそんな言葉が出た。
「あはは、なれるかなー?」
「なれるよ!」
篠岡と夏波は笑った。
「でも、じゃあ、逆に言うと千代ちゃんの好きな人はその3人じゃないってことか」
「うん、ちがう」
「よかったーーーーっ!」
西野は安心しして思わず床に顔を突っ伏した。
『これでせっかく仲良くなれた千代ちゃんと好きな人が被って仲違いとかいう最悪のシナリオは回避できた。』
夏波は胸を撫でおろした。
「私もよかった。実は夏波ちゃんが今後私の好きな人を好きになっちゃったりしたらどーしよって思ってて…。」
篠岡はおずおずとそう言った。
「あ、なるほど。私に既に好きな人がいたらその心配はなくなるもんね。だから訊いてきたのか。」
「そう、好きな人いないって言われたらまだ悶々とするところだったよ。」
篠岡はハハッと笑った。
「じゃあ不本意だったけどバレてよかったのかも」
夏波は笑い返した。
「え、ねえ、誰か訊いてもいい?」
篠岡はまたおずおずと訊ねてきた。
「う…千代ちゃんも教えてよ?」
「うん、いいよ。…ね!まずはお互いに予想しあってみない?」
「おー、いいね、ゲームみたいでドキドキする!」
夏波はそれは楽しそうだなと思って身を乗り出した。
「どっちから予想する!?」
篠岡が尋ねる。
「千代ちゃんから当ててよ。3人にまで絞れてるんでしょ。私なんて7人も候補がいるんだよ。」
「オッケー。私はねー…」
篠岡は顎に右手の人差し指を当てながら「うーん」と考える。
「…迷うけど、泉君かな。夏大の成績いいし、かなり活躍してたよね。」
「ほう?4番の田島君とかピッチャーの三橋君とかも活躍してたと思うけど、そっちの可能性は?」
「田島君は野球センスはすごいけど性格が天真爛漫すぎて夏波ちゃんは苦手そうかなって。三橋君は、まず会話するのが難しいしね?」
「ふむ」
『そっか、私、三橋君のこと一方的に見てるだけで実際そんな喋ったことないし、三橋君だとは思わないか』
夏波は自分の態度で三橋が好きだと周囲にバレバレだったらどうしようと心配していたので、そうじゃなさそうで一安心した。
夏波ちゃんは誰だと思う?」
夏波は考える。
『マネジって野球部員の一人とはいえ、正直部活中はそこまで選手たちとの絡みは少ない。となるとやっぱり同じクラスの人かな。千代ちゃんと同じクラスなのは花井君・水谷君・阿部君だ。その3人の中でモテそうなのは…』
「水谷君かな。やっぱ同じクラスの人の方が接点多くて好きになりやすいんじゃないかなって思った。水谷君っていつも千代ちゃんに優しい感じするし、お顔も整ってるし、気さくな性格で話しやすいよね。」
「私に優しいかな?みんなにああなんじゃないかな?」
「そうなのかな?」
夏波は「うーん」と考え込んだ。これはただの勘だけどなんとなく水谷君は篠岡を特別気にかけているような気がしていた。
「答えはどっちから言う?」
「答えを紙に書いて交換してお互いに同時に見ようよ」
「あ、それいいね」
篠岡と夏波はメモ帳を切り取って、ペンで好きな人の名前を書いた。そして2人は紙を交換する。
「せーのっで開けよう!」
「おけ」
「「せーのっ!」」

 篠岡の紙:阿部君
 夏波の紙:三橋君

『え、阿部君!?あの不愛想で怖くて今朝千代ちゃんを傷付けた阿部君!?』
夏波は意外すぎて仰天した。

「え!へー!そうなんだ!予想外れた~。」
篠岡がそう口に出した
「私も外れた!」
夏波はそう返事した。
「え、あの、なんで阿部君?気を悪くしないでほしいんだけど、あの人、愛想悪いし怖くない?」
夏波は率直に疑問を投げかけた。
「アハハッ!うん、最初はそう思うよね!でも投手の三橋君のことすごく大事に思ってて、陰ながら三橋君のためにがんばってるんだよ。そこがいいの。阿部君はわかりにくいけど本当はすごく優しいんだ。不器用なせいでその優しさが報われないこともあって、あのバッテリーはたまにすれ違ってたりするけど、そういうところも含めて応援したくなる。」
「そーなんだぁ。たしかに9組に来てる時、三橋君にすごい世話焼いてるよ。"ノートの端で指切るなよ"とか三橋君が日直当番の日なのに"印刷したてのプリントは持つな"とか言ってるの聞こえてきた。」
「アハハ!言いそう~!」
篠岡はお腹を抱えて笑った。
夏波ちゃんはなんで三橋君なの?」
「えー、試合観に行ってさ、カッコイイなって思ったんだよ。伝わるかなぁ?例えば、対桐青戦の終盤、体力の限界を迎えても投げ切った根性のあるところとか、美丞大狭山戦9回でHR打たれてチーム全体が崩れかけた時"ワンナウトー!"って大声出してチームを鼓舞してみせたところとか。普段弱々しくても三橋君はいざという時に強さを発揮してみせるじゃない?そういう芯の強さがカッコイイなって思ったんだ。三橋君は毎日がんばってて、毎日一歩ずつ成長してる。そんな姿に感銘を受けた。そんで私もどうにかこの人の力になれないかなと思ったし、三橋君の側にいたら私も何かを掴めるんじゃないかなって思ったの。私も三橋君みたいに強くなりたいんだ。」
「すごい、好きなんだね。想いの強さが伝わってくるよ。」
篠岡は夏波の熱弁に感心したようだった。
「試合中の三橋君のスゴさなら私もわかるよ。それに練習大好きだし、すごく努力家だよね。」
「そう思うよね!」
夏波は篠岡が理解を示してくれたことが嬉しかった。
「…でも、たぶん三橋君はいずれすごいモテると思うよ。やっぱりピッチャーは一番注目されるし、TVにも沢山映るし、夏大2回戦の後も"三橋君は彼女いるのか"って訊ねてきた女子がいたよ。」
篠岡が言ったのを聞いて夏波はガーンと白目をむいた。
「あ、まあ、三橋君は野球しか頭に無さそうだし、告られても付き合ったりしないとは思うけど…。あ、それはそれで夏波ちゃんもショックか。」
「や!待って、誤解しないで!私三橋君と付き合うためにマネジ志願したんじゃないよ!そりゃきっかけは三橋君だったし、今でも三橋君の力になりたいと思ってるのも事実だけど、それ以前にこのチームが素敵だなって思ったの。試合中、守備が終わる度に三橋君がチームメイトたちに声かけてもらって大事にされてるのを見て素敵な仲間に囲まれてるんだなって嬉しく思ったし、三橋君の"ワンナウトー!"ってシャウトにみんなが続いて声出しして持ち直したのをみて、三橋君もみんなを支えてるんだって思って、このチームがすごくいいチームだと思ったの。三橋君を含めたみんなが野球をがんばってるのを応援したいし、恋愛にうつつを抜かして野球のこと中途半端にする三橋君なんて全然見たくない!だから私はこの気持ちは叶わなくていいんだ。側で見ていられたらそれだけでいいの。」
夏波が語り終わると篠岡は夏波の右手をガシッと両手で掴んだ。その目はキラキラと輝いている。
夏波ちゃん、わかるよ!!私も全く同じ気持ち!!この気持ちは叶わなくていいって思ってる。だって私も野球のことしか頭になくて野球に一生懸命な阿部君が好きだから。」
「…っ!千代ちゃん!完全に一緒だっ!千代ちゃんは私のソウルメイトだっ!」
篠岡と夏波は感極まってわっとハグをした。
夏波ちゃん、マネジがんばろーね!みんなの支えになろう!夏波ちゃんなら絶対できるよ!」
「うん、私、がんばるよ!」

そうして篠岡と夏波の友情はまた一歩深まったのだった。

<END>