※注意:田島相手の夢小説です。※
※田島夢小説「頼もしい背中」の続編です※

田島夢小説「新しい友達」


 入試休み明け、一週間ぶりに登校する藤堂奈々は少し緊張していた。その原因は入試休暇前日のバレンタインデーまで遡る。

 その日、現国の教科書を家に忘れてしまった奈々は隣の席の大塚にお願いして教科書を見せてもらった。そして、そのお礼にと何の気なしにバレンタインデーの配布用に作ってきたクッキーを大塚にあげたのだが、これが友人の美紀の気分を害してしまった。美紀は大塚に片思いしていたからだ。そして放課後の教室で自分の悪口を言い合う友人たちを奈々はたまたま目撃してしまった。ブルーな気分のまま学校の敷地内を彷徨っていた奈々は部活中の田島に出くわす。そして田島からの助言を受けて、次に美紀に会ったら謝ることに決めたのだった。

 そして、今日がその日だ。

 もしかしたらあれがきっかけで嫌われてハブられるかもしれないという恐怖もある。謝っても許してくれないかもしれないし、そもそも無視されて謝る機会すらもらえないかもしれない。
『でも、大丈夫。大丈夫。最悪のシナリオになっても田島君がいるもん。友達になったんだから。1人にしないって言ってくれたんだから。』
奈々は1年9組のクラスの扉をゆっくりと開いた。一週間前、私の悪口を言っていた友人たちが美紀の席の周りに集まっている。教室に入っていく私に友人の1人が気が付いた。若干気まずそうな顔をしたように見える。むこうもこれから私とどう接していくべきか迷っているのかもしれない。そんな友人の様子を見て、また別の友人が奈々に気が付く。それにつられて美紀もこちらを振り向いた。そこに今まで朝にくれていたような明るい笑顔はない。一瞬、気まずい沈黙が流れる。謝ると決めたのにいざ友人たちを目の前にすると奈々は足がすくんでしまった。せっかく一週間前に田島からもらったポジティブは一瞬で吹き飛んだ。

『やっぱり無理だっ!』
奈々は弱気になって教室から逃げ出そうとした。…が、その瞬間、あの頼もしい人の声がした。
「あー!藤堂!!はよーっす!」
声のした方向に顔を向けると田島がいた。ニッと溢れんばかりの笑顔をこちらに向けている。
「あ…、田島君、おはよ」
「なー、この間言っただろ。オレ、藤堂と友達になったんだ!だからお前らも藤堂と友達になれよ!」
田島は三橋・泉・浜田の3人の方を向きながらそう声を掛ける。泉は「あー、そういやそんなこと言ってたな」とクリッとした大きな瞳をパチクリさせている。浜田は「オッケー、了解!藤堂、おはよー!」と声を掛けてくれた。三橋も「お、お、おは…よう、藤堂…さん…」と小さな声で奈々に話しかけてくる。浜田と三橋に続いて泉も奈々の方を向いて「よっす」と言う。
「おはよう、浜田君、三橋君、泉君」
「おっし、これでお前らも友達だな!」
田島が満足気に言う。そして田島はダッと奈々の方に近づいてきて、両手で奈々の両肩をガシッと掴んだ。
藤堂、だいじょーぶだからな。がんばれよ!」
田島の力強い手と力強い目線。弱気になっていた奈々は再び勇気が湧いてくるのを感じた。
「うん!」
奈々も田島に力強く返事をして頷いてみせる。

意を決して、奈々美紀たちの方向に向かって歩き出した。
「みんな、おはよう」
奈々はまず友人に挨拶をした。顔を見合わせる友人たち。「お、おはよ…」と弱弱しく返してくれる子もいれば、無言で顔を見合わせている子たちもいる。美紀はどうしようか迷ってるみたいに見える。奈々はそのまま話を続けた。
「あのね、実は私バレンタインデーの日の放課後、皆が教室で話してるの、聞いちゃった。」
サッと皆の顔色が変わった。美紀はあからさまに青ざめている。まさか自分たちが奈々の悪口を言っているところを奈々本人に聞かれたとは思ってもいなかったんだろう。再び気まずい沈黙の時間が流れた。奈々は恐怖と緊張でバクバクしてる心臓を落ち着けようと深呼吸をした。そして再び口を開く。
美紀、ごめん!私が軽率だった!」
奈々はバッと頭を下げた。
「あのね、私、そんなつもりなかったんだよ。私は美紀のこと応援してるの!本当だから!なのに、私、考えなしに行動して美紀に誤解させて傷付けることしちゃった。本当にごめんなさい!」
友人たちは再度顔を見合わせている。奈々はいまだに胸がバクバクしていた。でも、言うべきことは言った。この謝罪をどう受け取るかは、あとはもう美紀たちの判断に任せるしかない。

「……私の方こそごめん」
美紀が口を開いた。
「私、嫉妬しちゃって、冷静じゃなかった。奈々のこと疑ってごめん。」
奈々は顔を上げた。美紀は目に涙を浮かべながらこちらを見つめていた。
「それから陰口叩いてごめん。奈々の方こそ傷付いたよね。」
「ううん、それは私が悪かったから。言われて仕方ないことしたから。」
「そんなことないよ」
そうして私と美紀はお互いを許し合った。そんな私たちを見て、他の友人たちも「奈々、私も悪口言ってごめん」「私もごめん」と口々に言う。私たちは無事に仲直りをしたのだった。

予鈴がなって担任の先生が教室に入ってくる。朝礼の時間だ。自分の席に着いた奈々は田島に事が上手くいったことを伝えたくて田島の席に目をやった。すると田島の方もこちらをじっと見つめていた。ニッと笑ってサムズアップした右手をこちらに掲げる田島。奈々も笑顔でサムズアップで返した。


2限目が終わった後で奈々は自席で早弁をしている田島に近づいた。奈々に気付いた田島が「おう」と反応する。
「田島君、仲直りできたよ」
「おー、よかったな!」
「あの…、本当にありがとうね。田島君がいなかったら、私、勇気出なかったよ。」
「いーんだよ、オレら友達なんだから、な!」
もし、あの日、田島君に会えてなかったらはたして今頃どうなっていただろうか。もしかしたらハブられてたかもしれないし、ハブられなかったとしてもわだかまりを抱えながら過ごすことになっていただろう。どちらにせよつらい日々を過ごすことになっただろうことは想像に難くない。奈々は田島への感謝の気持ちで胸がいっぱいだった。
「あのさ、田島君、何かお礼させてほしいんだけど、何したらいいかな?」
「お礼!マジ!?なんかくれんの?どーしよ!何にしよ!焼きそばパンとか!?」
ここで近くの席で2人の話を聞いていた泉が口を挟む。
「悠、オレたちが一番うれしいお礼は"夏大の応援"だろ。」
「おお!そーだった!藤堂、お礼だったら今年の夏大の試合、応援に来てくれよ!オレら全国制はするからさ!」
「全国制覇!?え、すご!野球部ってめっちゃ高い目標掲げてるんだね!…わかった、絶対応援行くよ!ってか夏以外にも試合ってあるんでしょ?私、行けるやつは全部応援行くよ!」
奈々は冗談じゃなく、本気でそのくらいしても構わないくらい田島に感謝していた。
「全部来るの!?スゲーな」
田島がガハハッと笑う。そこに浜田がやってきて奈々に話しかける。
藤堂、応援全部来る気なの?そこまでやるならさ、もうチアガールになっちゃえば?」
田島はそれを聞いて「いいねえ~!浜田、ナイスアイディアだ!」とノリノリだ。
「ええーっ、それはムリムリ!私、運動神経悪いからダンスとかできないって!」
奈々は腕をブンブン振って拒否する。
「そーなの?じゃー藤堂って何が得意?」
「えー?身体動かすよりかは頭使う方が得意かなー」
「悠、しらねーの?藤堂は定期試験の総合順位毎回トップ10入りするレベルで頭いいぞ?」
泉が田島に言う。
「え!?マジ!スッゲー!藤堂って頭いーんだ!」
「え、や、まあ…、てか泉君よく知ってるね。」
「成績上位の人は掲示板に名前張り出されるだろ?いつも名前載ってるなーって見てたんだよ」
ここで浜田が「いいこと思い付いた!」と言い出す。
「せっかく藤堂と友達になったんだからさ、田島とミハシは今度から藤堂に勉強教えてもらえばいいじゃん!」
「え、それはオレも教わりたい!」
泉が手を挙げながら言う。三橋は自席で仮眠をとってたところに急に自分の名前を呼ばれて目を覚ましたようで、寝惚け眼でこちらをみている。『なにか今オレのこと呼びましたかね?』と言いたげな表情だ。
「えっと、私、人に教えたことないからうまくできるかわからないよ?」
「できるよ!藤堂なら!」
「なーんで田島君がそんな自信満々なのさ。まあ、それでお礼になるなら全然いいよ。」
「やったぜー!交渉成立!」
泉と田島が顔を見合わせて「やりィ」と笑う。
「あ、もちろん応援も行くから試合の日教えてよ」
奈々がそう言うと田島は浜田の方を向く。
「浜田、試合の日、藤堂に連携してやって!だってチアガールやるもんな~?」
「チアガールはやらないっつの!」
からかってくる田島に「もーっ!」と怒る奈々
「お前らもうかなり仲良さげじゃん。この短期間で一体何があったのさ?何きっかけ?」
浜田が訊ねる。奈々は自分が泣いたことは言いたくないので何と答えるべきか困惑する。
「それはオレと藤堂だけの秘密だよなー?」
藤堂にウインクしてみせる田島。奈々は思わず胸がキュンとした。
「うん、そう、秘密!田島君、絶対に言っちゃだめだからね!」
奈々は田島に念押しした。田島は「言わない、言わない」とカラッと笑う。

『田島君って、天然で何も考えてない系の人かと思ってたけど、結構空気読めるんだなァ…』
奈々は、実はこれまでは田島のことを少し遠巻きに見ていた。教室で大声で下ネタを言ったりする田島に対してちょっと苦手意識を持っていたのだ。
『田島君のこと、ちょっと誤解してたな。』
田島と話をしているとなんだか自然と気持ちがポジティブになれる。なんだか胸がポカポカしてくる。

――もっとこの人と話をしてみたい。もっとこの人のことを知りたい。もっと…仲良くなりたい!
今新しく始まったばかりのこの関係。これからはきっともっと楽しい毎日になるだろう、と奈々は期待に胸を膨らませた。

<END>