※注意:田島相手の夢小説です。※
※田島夢小説「新しい友達」の続編です※

「幸せな春の日」


 2月14日、バレンタインデー。その日、私、藤堂奈々と田島悠一郎は友達になった。

 奈々と田島はともに1年9組で同じクラスのクラスメイトだった。しかし、例のバレンタインデーの日を迎えるまでの間はほとんど関わりがなかった。奈々は友人に誘われて夏大2回戦(対桐青高校戦)の試合の応援に行ったがあくまで友人に付き合っただけで、野球のルールはほとんど知らないし、応援団長の浜田の指示に従って声出しをしただけで田島や野球部に対しての特別な想い入れはなかった。むしろ、奈々は教室で大声で下ネタを言ったりする田島に対してちょっと苦手意識を持っていたくらいだ。

 でも自分は何にもわかっていなかったことを、あのバレンタインデーの日、奈々は思い知った。田島君はとても気配りのできる人で、優しくて、頼もしくて、明るくて、とても素敵な人だった。

『田島君ともっと仲良くなりたい!』
そう思った奈々だが無情なことに奈々と田島が友達になったバレンタインデーはもう間もなく春休みに入るという時期で、春休みが空けたら奈々と田島は2年生になる。当然クラス替えがあるのだった。1~9組までクラスがある中でまた同じクラスになれる確率がいかに低いかは言わずもがな。そして同じクラスじゃなかったら当然絡む機会も少なくなる。
『せっかく友達になれたのに。せっかく田島君のいいところ沢山知れたのに。もっと知りたいって思ったところだったのに。』
奈々はすごく残念に思った。

 4月初旬、藤堂奈々は新学期を迎えて2年生になった。クラス発表はクラコミというスマホアプリで発表される。朝起きてドキドキでクラス発表を確認する奈々。2年2組の欄に自分の名前を発見した。続けて同じクラスの女子の名前を確認する。美紀をはじめとした仲良かった女子達とはクラスが離れてしまったみたいだ。まあ、仕方ない、彼女たちとは離れてしまうだろうと前々から覚悟していた。なぜなら彼女達は文系を選択していたからだ。奈々は理系を選んでいた。西浦高校では2年生からは文理でクラスが分かれるのだ。ちなみに女子生徒は文系を選ぶ人が多いらしい。逆に男子は理系が多いみたいだ。奈々は筆記試験がある科目の中には不得意科目はないから文理どっちにするかかなり迷ったが、化学が好きだったことと芸術系科目(音楽・美術・書道)が苦手であるために理系にした。というのも西浦高校では理系の2年生は芸術系科目を専攻しなくていいのだ。ちなみに3年生では芸術系科目か情報のいずれかを選択することになる。情報を選択すればやはり芸術系科目は専攻しなくていいし、奈々は情報の授業には興味があった。
『やっぱ理系クラスだからか男子の割合が多いな』
今度は奈々は同じクラスの男子の名前を確認した。
『あ!田島君がいる!あと浜田君もだ!』
なんと幸運なことに2年2組の男子の中に田島悠一郎と浜田良郎の名前があった。
『え!また同じクラスになれたっ!』
奈々は嬉しくて思わずガッツポーズをした。

 朝2年2組の教室の前にたどり着いた奈々。現状このクラスには奈々にとって仲がいいといえる知り合いは田島と浜田くらいしかいない。しかも田島や浜田ともこの間友達になったばかりだ。
『とりあえず同じクラス内に女子の友達が欲しいな』
奈々は友達作るぞと意気込んで教室の扉を開けた。
藤堂ー!」
教室に入ると同時に自分の名前を呼ぶ明るい声がした。
「はよー!なー、オレらまた同じクラスだ!」
田島がこちらに向かって笑顔で手を振っていた。その隣には浜田が立っている。
「田島君!」
奈々は久しぶりに田島と浜田に会えたのが嬉しくて2人の方に駆け寄った。
「おはよう!また同じクラスだねー!知ってる人いて一安心だよっ。また1年間よろしくね!」
「おう!よろしくな!」
田島はニカッと笑った。浜田も横で「よろしくな~」と笑顔を見せている。
「でも泉君と三橋君とは離れちゃったんだね。残念だね。」
「そー、あいつらまた同じクラスなんだよなー」
「泉と三橋は何組だったの?」
浜田が田島に訊ねる。
「4組だって。あとタカヤも一緒らしい。」
奈々は話を聞いていて『タカヤっていう人も野球部なのかな』と思った。
「そういや藤堂は女子の友達とはどうなった?」
「違うクラスになっちゃったー。あの子らは文系だからさ。」
「そういや藤堂って理系なんだな。女子ではちょっと珍しくない?」
「そーかも。あ、てかクラスに女子の友達作らなきゃいけないんだった!ちょっと友達作りしてくる!」
「おー行ってこい!がんばれよ!」
田島はサムズアップした右手をこちらに掲げて見せた。

奈々はまず黒板に張り付けてあるプリントを見て自分の座席を確認した。それから近くの席の女子の名前もチェックした。
『やっぱ女子少ないなー』
とりあえず自席に着いて荷物を置いた。そして近くに3人で自己紹介し合っている女子グループがいたので話しかけてみた。
「あの、こんにちは」
おずおずと挨拶をする奈々
「あ、はじめまして」
「あー貴重な理系女子の1人だ?」
「リケジョ少ないよねえ」
3人とも気さくに返事をしてくれた。
「少ないよね。私前のクラスの女子の友達みんな文系でクラス離れちゃってさ。友達になりたいんだけどいいかな?」
奈々は勇気を出してそう申し出た。
「もちろんいいよー!」
「私もこのクラスに女子の友達1人も居なくてさ、今話に混ぜてもらったとこなの。」
「少ない女子同士みんな仲良くしよー。名前聞いてもいい?」
「私、藤堂奈々です。元9組。」
「9組の藤堂さん!?待って、名前知ってるよ!いつも定期試験の成績上位入りしてるよね!」
「え、そうなの?」
「すごーい!勉強教えてほしい!」
3人が目をキラキラさせてこちらを見ている。
「い、や、はは…名前知られてるのか…ちょっと、照れるね」
奈々はまさか自分の名前が知られてるとは思わなくて3人の熱い眼差しが恥ずかしかった。

 新しくできたクラスの女友達とワイワイ話していると予鈴が鳴って新しい担任の先生が入ってきた。ホームルームの時間だ。今日は新しいクラスが始動開始ということで、自己紹介の時間が設けられた。出席番号1番から順番に自己紹介をしていく。一人一人の自己紹介に傾聴していると、田島の自己紹介のターンになった。
「はい!元9組の田島悠一郎です!野球部所属です!野球部の目標は全国制はなんで、夏の大会の試合よかったら応援来てください!絶対来て損はさせない自信があります!よろしくおねがいしゃす!」
田島の自己紹介をじっくりと聞いた奈々
『おお~。来て損はさせない、か。言うねえ~!』
田島のその強気さとポジティブな姿勢を好ましく思った。

そうしているうちに今度は奈々に自己紹介のターンが回ってきた。
「元9組の藤堂奈々です。部活には所属していません。その代わりに勉学は頑張ろうと思ってます。目標は定期試験で学年トップになることです。大学はまだ具体的には決めていませんが、国公立を狙っています。よろしくお願いします。」
無事に自己紹介を終えて一安心した奈々が席に着こうとしたら田島の声がした。
藤堂って学年トップ目指してんだー!?すげー!カッケーな!」
「いや、結局去年の1年間は達成できなかったんだけどネ」
奈々は「ハハ…」と乾いた笑いをした。
「目指してるってだけでもスゲーよ!」
「それを言ったら野球部だって全国1位目指してんじゃん?」
「そー!だからオレらもスゲー!」
田島は誇らしげに言った。
「うわー自画自賛だー!」
そう言って奈々はアハハッと笑った。他の生徒たちも田島の自画自賛っぷりにどわっと笑い出す。初日で緊張していたクラスの空気が田島のおかげでなごやかになった。
奈々は『さすが田島君だ』と思った。

ホームルームが終わったら今日はこれから入学式だ。クラス全員でゾロゾロと体育館へ移動する。奈々は先程できたばかりの女友達と一緒に体育館へと向かって廊下を歩き出した。
「ね、奈々ちゃんって田島君と仲良いの?」
「あ、うん、まあいいかも。元9組で同じクラスだったし。」
「私、去年の夏、野球部の試合の応援に行ったんだよ!私、元7組なんだけど同じクラスの花井君がキャプテンやってるからさ。」
「あ、そうなの?桐青高校との試合だったら私も行ったよ。」
「それ私も行った!あの日、田島君、決勝打打ったよね!カッコよかったよね!」
「あー、私野球詳しくなくて…。しかもその頃はまだ田島君とは仲良くなくて、あんまわかってなかったんだよねぇ。」
「えっ、そうなんだ。田島君って野球すっごい上手いんだよ!」
奈々はあの時マジメに試合観戦してなかったことを後悔した。
『そっか、田島君って野球上手いんだ。あの日活躍してたんだ…。』
奈々は今度休日に試合がある時には絶対観に行こうと思った。
『だって私も田島君の活躍っぷりを見てみたい!』

その時だった。後ろから頭をコツンと叩かれた。振り返ると田島が立っていた。
藤堂、オレの桐青戦の勇姿見てなかったのかぁ~!」
田島は奈々の肩に腕を回してきて、至近距離でジロッと奈々を見た。
「わー聞かれた!ごめんって!だってあの時まだ友達じゃなかったじゃん~!私、野球あんまわかんないだよ~!」
田島は瞬き一つせずに奈々の目をジーッと見つめた。田島のまっすぐな目線になんだか責められてる気分になって奈々は「うう…っ」とうめき声をだした。
藤堂、今後の試合は来れるやつは全部来るんだろ?いーか、今度はちゃんとオレの活躍を目に焼き付けておけよー!」
「言われなくてもそーしますよ!次、休日にやる試合っていつ頃になりそう?」
「んーっと、もうすぐ春大があるんだけど、地区予選の試合は平日なんだよ。藤堂が来れる試合は県大からだから4月中旬以降だな。」
「おっけー。じゃあ予定空けとくからちゃんと勝ち進んでよね!」
「ったりめぇよ!」
田島は奈々の背中をパンッと叩いた。
「いったー!ちょっと、やめてよね!」
田島はニシシッといたずらっぽく笑った。そして、どうやら前方に野球部の仲間を見つけたらしく「おっ、フミキとショージだ!おーい!」と言いながら駆けていった。

田島がいなくなった途端、奈々と田島の会話を静かに聞いていた女友達が奈々を取り囲む。
奈々ちゃんってめっちゃ田島君と仲良いじゃん!」
「ね、すっごい親しげ!」
「え、ねえ、もしかして2人って付き合ってたりする?」
"付き合う"という言葉を聞いて奈々はギョッとした。
「え!違う違う!そんなんじゃないよ!」
奈々は両手をブンブンと振って否定した。
「田島君は誰に対してもああいう感じなの。人見知り全くしなくって、無邪気っていうか天真爛漫っていうか…。だから私たちはそんな特別な関係じゃなくて、普通にただのお友達!」
「えー誰に対しても?」
「ホントかなァ?」
友人たちはニヤニヤしている。
「ホントだってばー!やめてよ、からかわないでよっ!」
奈々は今まで恋愛経験がほとんどない。幼稚園生の頃に仲良い男の子を好きだったことがあるくらいで、年頃になってからのまともな恋愛というものをしたことがないのだ。なのでこういう女子の恋愛トークの中心になるのは慣れていなかった。冷や汗をかく奈々
「えーでもさ、奈々ちゃんの方は田島君好きだったりしないの?」
友人が耳元でこそっと訊ねてきた。カァァと顔を赤らめる奈々
「しないよっ!ただの友達だから!友達になったのも2月半ばからだし、その後受験休みとか春休みがあったせいでほとんど顔も合わせてないし、…だから話すようになってからまだ日も浅いんだよ。」
「へー。でも日が浅いのに、あんなに仲良いのすごくない?」
「いや、だから、それは田島君の人柄のなせる業だからさ…!」
「ふーん。奈々ちゃんって、田島君への評価すごい高いんだねぇ?」
「やー、まー、それはねぇ…。」
『そりゃそうでしょう。』と心の中で奈々は答えた。
『明るくて、天真爛漫で、でも野球に関しては真剣で、周りの様子もよく見て臨機応変に対応できて、まだ友達なって日の浅い奈々にも分け隔てなく接してくれる。田島君はスゴイ人だ。』

 入学式が終わって、クラスに帰ってきた。今日は初日なので授業はなくて、入学式が終わったら帰りのホームルームの時間だ。その後、掃除の時間があって、それで今日の学校は終わり。部活のあるメンバーはこの後各自部活に向かう。
「ごめん、田島君、ちょっとだけいい?」
ルンルンしながら部活に向かおうとしている田島を奈々は呼び止めた。
「今後は試合応援に行くって言ったじゃない?やっぱ野球のルール分からないと観てても楽しさ半減だと思うんだよね。だから野球のルール学びたいんだけど、何かオススメの本とかない?できれば初心者向けのヤツがいいな。」
「おお!うちに野球の本沢山あるぜ!オレの兄ちゃんアマチュアの審判やってんだけど、公認野球規則の本を毎日持ち歩いてんだ。これは初心者向けって感じじゃないけど、他にも色々あるはずだから、兄ちゃんに初心者向けの本ないか聞いてみるよ。なんか良さげなヤツあったら貸してやる!」
「おおお!いいの!?」
奈々は目をキラキラと輝かせた。
「全然いーよ!あとさ、平日にやる試合以外は基本全部来るんだろ?じゃあ浜田に頼んで父母会の人たち紹介してもらえよ。花井とかタカヤのかーちゃんが野球すっげえ詳しいから隣に座らせてもらえば試合中も色々解説してくれるんじゃねーかな。」
「へー!花井君てキャプテンの人だったよね?"タカヤ"くんは何やってる人?」
「タカヤはキャッチャー。阿部隆也。9組の時によくレンに会いにクラスに来てたんだけどわかんねーかな?」
「ああ!あの他人のクラスに遠慮なくズカズカ入ってくる、声がでかい人?」
田島は「そう!」と返事した後、「タカヤのことそんな風に思ってたのかよ~」とケラケラ笑った。
「あとは試合観戦していけば自然に覚えることもあるだろうし、わかんないことあったらもちろんオレに聞いてくれてもいいぜ!」
「うんっ、ありがとー!」
「応援来てくれるってんだから、オレらの方がありがとだよ。しかも野球のことちゃんと覚えようとしてくれて、すっげーやる気あるんだな。」
田島はニヒッと嬉しそうに笑った。
「田島君、野球すごい上手だって聞いたよ。せっかく見てるのに何がすごかったかわからなかったらもったいないじゃない。次は田島君の勇姿をしっかり目に焼き付けるんだから!絶対活躍してよね!」
「おう、任せろ!」
ガッツポーズをしてみせる田島。
「じゃ、部活頑張って!また明日!」
「おー、また明日なー!」
田島は奈々に大きく手を振ってからダッシュで廊下を駆けていった。

 奈々はケータイを取り出してさっそく浜田宛にメールを作った。内容はもちろん父母会の人たちを紹介してもらいたいというものだ。
『田島君が活躍するところ、今度は絶対見逃さないんだから!』
奈々は次の試合観戦の日が来るのが待ち遠しい。春大地区予選を勝ち進んでくれたらあと数週間後には試合があるはず。それまでに野球のこと学習しなくちゃ!
 奈々は今日は図書館で野球の本を読み漁ることにした。
『野球部が無事に春大地区予選を突破しますように!』
奈々はそう願った。平日に行われるのでその試合は応援には行けないのだ。こうして願うことしかできない。

――でも…

『田島君が試合で公休を取る日の授業は私が代わりにしっかり聞いてあとでノートをコピーさせてあげよう。それから公休の影響で田島君が授業でわからないところが出てきたら教えてあげられるはずだ。試合の応援はできなくても、役に立てることは他にある。だって…また同じクラスになったんだから!』

奈々はウキウキしながら図書館へと向かった。

<END>