※注意:田島相手の夢小説です。※
※田島夢小説「泡沫」の続編です※

田島夢小説「片思いの結論」


 藤堂奈々は昨日田島から野球部に恋愛禁止のルールがあることを知らされた。その発言を聞いてショックを受けて胸が痛くなった奈々は自分が田島に片思いしているということをそこで自覚したのだった。けれど、田島は野球部の一員で、恋愛禁止のルールに従って恋愛はしないのだと宣言していた。それはすなわち奈々の片思いは決して実らないということ。奈々は自分の恋心に気付くと同時に失恋をしたのだった。
 でも奈々は甲子園優勝を目指す田島たち野球部を応援したかった。目標は全国制覇だという野球部員に恋愛している時間がないというのはよくよく考えてみれば至極当然のことだと思えた。
『だから、私は今まで通り"友達"として田島君と仲良くするんだ』
奈々はそう決意して、気持ちを切り替えた。

 翌朝、登校した奈々はいつものように朝練を終えて教室に入ってきた田島に「おはよう、田島君」と挨拶をした。田島もいつものように「藤堂、はよーっす!」と返す。そして、ここ最近は毎朝の恒例となった2人でのお勉強タイムに入った。
『私、大丈夫だ。いつも通りに振る舞えてる。』
奈々は自分がちゃんと"友達"をやれていることに安心した。
『友達としてでいい。これからもこうして一緒に居たい。』
叶わない恋だと知っていても、それでも奈々は構わなかった。恋人にはなれなくても、ただ田島の傍に居られればいいというのが奈々の出した結論だった。

 田島は昨日奈々が依頼した野球の戦略・戦術に関する本を数冊持ってきてくれた。
「ありがとう!しばらく借りるね!」
「おー。全然急がなくていいからな。満足いくまで何度でも読んでいいぞ。」
「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかな」
奈々はニコッと笑った。
「逆にこっちは返すよ。ありがとね!」
奈々は依然借りた初心者向けの野球のルールブックを田島に返却した。
「おー、もういいの?」
「うん。これすごい良かったから、同じの買うことにしたんだ。」
田島は「マジか。お前ホントやる気あるな。」と感心している。
「わかんないところとかあった?」
「うん、そーだね。まだ完璧に覚えきれたわけじゃないよ。…例えば、インフィールドフライってやつはなんかイマイチわかんないかも。」
「あー。あれが適用される場面は限られてるからな。でも簡単だぜ。インフィールドフライっていうのは、内野フライの球をわざと落としてダブルプレーをするのを防ぐためにあるんだ。だからダブルプレーが意味をなす無死か一死の場面でしか適用されない。」
「はー、なるほど!すごい、田島君、わかりやすいよ!」
「んで、ダブルプレーができるのはフォースプレーができる時だからランナーに進塁義務があるような場面だけが対象なんだ。具体的にはランナー一・二塁か満塁の時だな。」
「えーっと、ランナー一塁の時と一・三塁の時に適用されないのはなんで?内野ゴロをわざと落とせば一塁ランナーは二塁に進塁する義務が発生するよね?」
「おっ、それはいい質問だな!実は初めてインフィールドフライって規則ができた時はランナー一塁の時と一・三塁の時もインフィールドフライの対象だったんだよ。だけどその後改正された。」
「へー、なんで?」
奈々は頭に疑問符を浮かべた。
「ランナー一塁の時と一・三塁の時にフライを落としてダブルプレーをするのって実質無理なんだ。フライが落ちてキャッチして一塁ランナーを二塁で刺すことができたとしてもその後、打者までアウトにするのは難しい。」
「へー、そうなんだ。よくわかった、覚えたよ。田島君教えるの上手だね!ルール改正の経緯とかよく知ってるよね。」
「うちの兄アマチュアの審判だし、もう一人の兄も父親も野球好きだから食卓でいーっつも野球の話してんだ。」
田島はヘヘッと笑った。
「そうだ、藤堂って来週の月曜の夜って暇か?」
「へ?うん、特に予定はないけど…」
「じゃあさ!レンと一緒にウチで晩メシ食べていけよ!」
「えっ、なんでっ?」
唐突なお誘いに驚く奈々
「ウチでみんなで一緒に野球の話しようぜ。野球のことで知りたいことあったら、その場でみんなが教えてくれるぜ!」
「えっと、田島君の家ってどの辺なの?」
「学校からチャリ1分」
「近っ!夕食ご馳走になっていいの?」
「全然いいよ!レンも毎週月曜日はほぼウチでメシ食うんだ。もともと大家族だからな、1~2人増えても負担変わんねーから気にしなくていいぞ。」
「えー、じゃあ、お言葉に甘えて私も参加させてもらおうかな」
「よし、約束な!」
田島はニカッと笑った。
「親に言っとくわ」
「じゃあ私は来週までに戦略の本読み切って質問事項まとめておく!」
藤堂はホントに真面目だな~」
田島は目をキラキラさせて奈々に尊敬のまなざしを向けた。

「そういえば今週の土曜日だよね。春大の県大会1回戦。」
野球部は先日平日に開催された春大2戦目(シード取ってるので実は3回戦)も勝って無事に県大会へと進出したのだった。次の県大会の試合は土曜日に開催されるので奈々もいよいよ観戦に行ける!浜田に観戦行くことは伝えてあって、父母会の皆さんのこともその際に紹介してもらえることになっている。
藤堂、観戦素人だろ。熱中症対策しっかりしろよ。帽子被って、水分定期的にとって、塩分とかもちゃんと確保するんだぞ。」
「その辺はネットでバッチリ調べてあるよ!首に巻くネックリングとか冷感タオルも買ったし、ポータブル扇風機も持っていく。あと塩あめも買ったし、スポドリは凍らせたのと普通に冷やしたの2つ持っていくつもり。あとは保冷バッグに保冷剤と氷つめて氷嚢も持っていくよ。」
田島は「さすが藤堂はしっかりしてんな」と笑った。
「田島君の活躍、楽しみにしてるから。打ってよ!」
「まかせろ」
田島はウインクをして見せた。そんな田島がかっこよくて思わずぽーっと見惚れてしまった奈々
『いかん、いかん!私たちは"友達"なんだから!』
奈々は気を引き締めなおした。

 昼食の時間になると「藤堂」と聞きなれない声が奈々を呼んだ。振り返ると阿部が立っていた。
「これ昨日言ってた配給基礎についての本」
阿部が奈々に本を差し出す。
「うわあ~早速持ってきてくれたんだ!ありがとう!今週末の県大会の試合までに読んでおくよ。応援行くからがんばってね。」
「おう、サンキュー。その本、返すのいつでもいいから。オレはもう暗記しちまってるから最近は読むことないんだ。」
「これ全部頭に入ってるの!?さすが!じゃあ、ゆっくりじっくり読ませてもらいますよー。」
「あとこれ美丞大狭山の配給を表にした資料なんだけど、見方わかる?」
「え、いや、初めてみる…さっぱりわからない」
「だよな。こっちが配給表の付け方とか読み方の解説本。これも貸すから読んでみな。」
阿部は「じゃ、わかんないことあったら聞きに来て」と言ってこちらに背中を向けて去っていった。
「阿部君!ありがとー!」
奈々は去っていく阿部の背中に向かってお礼を言った。
『阿部君は、愛想は悪いけど、根は悪い人じゃないんだな』
奈々はそう思った。

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一方、田島はそんな2人のやりとりを見て再び胸がもやもやするのを感じた。
「タカヤ!恋愛禁止忘れてんなよ!」
4組に帰ろうとする阿部を引き留めて田島がそう言った。
「は?オレがいつ恋愛したんだよ」
藤堂に対してなんか他の女子と態度違うじゃん」
「あ?だってあの人はやる気があるし、それに飲み込みが早いっつーか……そもそもオメーがあいつに優しくしろっつったんだろーが!」
阿部が目に角を立ててそういった。
「だいたいオメーの方があいつと仲いいだろ!?恋に落ちんじゃねーぞ!」
「え?恋?オレが?」
田島はしばしの間考え込んだ。
『この胸のモヤモヤは、…もしかして嫉妬ってやつか?え、それってオレ…』
「恋は落ちるもんだってコースケ言ってたろ」
阿部が言う。田島は頭に浮かんだ疑惑を取っ払おうと頭を左右に振った。
「オレ毎日オナニーしてっから大丈夫!」
「オイ!声がでけえ!」
田島は阿部にポカッと頭を殴られた。

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 その日の放課後、奈々はいつものように家の近くの市営図書館の学習室にいた。今日はまず田島から借りた野球戦略・戦術の本をひたすら読み漁った。
『なかなか難しいなー。田島君たちはこういうことをやって試合に勝ってきたんだ。』
田島は勉強はできない方だけど、たぶん地頭はいいと思う。小さいのころから野球一家に囲まれて野球の英才教育を受けてきたっていうのももちろん田島が野球が上手い理由の一つではあるだろうけれど、対美丞大狭山戦で見せた怪我をした阿部に対するスマートな対応やその後の他メンバーへの気配りは頭の回転の良さがないとできない。
『スポーツやってる人って集中力もメンタルの強さもあるし、引退ギリギリまで部活ばっかやってたのにたった半年の勉強でそこそこいい大学行けちゃったりするんだよね』
奈々は運動全般が苦手だ。実はスポーツができる人に対して憧れとコンプレックスを抱いていた。
『でもスポーツができない私でも野球の試合の応援ならできる!』
ここ数日野球について沢山の本を読んで学習しているおかげで自信もついたし、こうしているとなんだか自分も野球部たちと一緒にがんばれてるみたいな気分になれる。今週土曜日には春大県大会1回戦がある!いよいよこの学習の成果を発揮するときだ!奈々はメラメラをやる気に燃えたのだった

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