※注意:田島相手の夢小説です。※
※田島夢小説「頼もしい背中」「新しい友達」の続編です※

田島夢小説「頼もしい背中&新しい友達 ~田島視点ver~」


 あれはたしか2月半ばの入試休暇に入る直前のことだった。西浦高校野球部に所属する田島悠一郎は、全国制覇を目指して日々部活に明け暮れていた。その日も当然部活があってノックやらキャッチボールやらバッティング練習やら様々な練習をこなした。そんな折、裏グラのフェンスの外側にポケーッと突っ立っている人影を見つけた。 『何だ?誰だ?』
不審に思ってその人の方を凝視した田島はそれが同じクラスの藤堂だということに気が付いた。田島と藤堂は同じクラスとはいえほどんど話したことはなかったが、人見知りなど全くしない田島にとっては"同じクラスの顔見知りのヤツ"というだけで話しかけるには十分な理由だった。だから何も考えずに声を掛けた。
「あれっ藤堂じゃん」
その人物はハッと顔をあげた。田島は「よ!」と右手を挙げて挨拶してから藤堂が立っているフェンスの方に駆け寄った。そして帰宅部であるはずの藤堂がこんな時間に裏グラにいることを疑問に思って率直に質問した。最初に違和感を覚えたのはその時だ。フェンス越しに見える藤堂の顔は何か…強張っているような、後ろめたさがあるかのような、そんな表情に見えた。
「なんもしてないよ。ちょっと散歩したい気分だっただけ。」
そう言って藤堂はニコリと笑った。でもやっぱり表情が固い。
「……散歩?」
「うん、散歩。」
田島は藤堂の言葉を聞いて何か妙だと思った。田島は藤堂をジッと見つめてその違和感の正体を探った。
『――なんか引っかかる。』
田島はそう思った。確かにぶらぶら何も考えずに歩くのが気分転換になって楽しい時もあるけど、今の藤堂が散歩を楽しんでるようには見えなかった。散歩と言うよりは何かを持て余して困っているんじゃないのかと思った。
「………、藤堂、どうかした?」
田島は藤堂に率直に聞いてみた。
「えー、なんもしないよー?」
奈々はそういって再びニコリと笑った。けれどやっぱり表情は強張っているように見える。
『言いたくねえんかな』
もし田島の勘が当たってて藤堂が何かに悩んでるんだとしても、同じクラスってだけでたいして話したこともない男子(オレ)には言いたくないかと田島は思った。
「田島君は部活…だよね!大変そうだね!」
藤堂はそう話しかけてきた。田島は話を逸らしたいんだなと察した。
「いや、これが案外楽しいんだよー!」
話したくねーっていうならこれ以上首を突っ込むのはやめとこうと思い、田島はそのまま話に乗っかった。
「えーすごいね!頑張ってね!また試合応援行くよ。」
「おう!サンキュー!」
田島は練習に戻るために藤堂に別れを告げてフェンスから離れた。

 バッティング練習に戻った田島。今ピッチングマシンを使っているのは花井と泉だ。自分の番を待っている人たちはバッターのネットの後ろ側で素振りをしながら球とバットのタイミングを合わせる練習をする。田島も素振りを始めた。だが、やはり藤堂のことが少し気がかりで先程藤堂と会話したフェンスの方をチラリと見た。藤堂は既にフェンスから離れて校舎の方へ向かって歩き始めていた。
『家に帰る気になったんかな』
と田島は思った。しかし歩いていた藤堂は急に立ち止まって俯く。
『なんだ?』
田島が疑問に思ったのも束の間、藤堂が両手で顔を覆ったのが見えた。それを見た瞬間、田島は衝動的に動き出した。
「ちょっと抜ける!」
一緒に素振りをやっていたメンツに一言声を掛けてから、持っていたバットを放り投げて藤堂をダッシュで追いかけた。田島は足が速い。すぐに藤堂に追いついた。藤堂の肩を掴んで引っ張る。華奢な藤堂は田島の腕の力に引っ張られて簡単にこちら側に振り向いた。藤堂の大きな瞳から涙が零れ落ちているのを田島は見た。
「ホントにどーかした!?」
涙を流している女の子を放っておけるはずがなくてそう声を掛けたら、藤堂はこれまで我慢していたのが抑えきれなくなったのかわんわん泣き出した。若干動揺した田島だが、ここにいたら他の野球部員に見られるかもしれない。泣いている姿を不特定多数に見られるのは藤堂も嫌だろうと思って藤堂の手を引いて物陰の方に連れて行った。藤堂はボロボロと涙を零しつづけていた。田島は藤堂の背中を擦って慰めた。
「何があったかわからないけど、とりあえず泣きたい時は思いっきり泣いちまった方がいいと思うぞ。我慢すんな。」
田島がそう声を掛けると藤堂はコクンッと頷いてそのまましばらく泣き続けた。

 藤堂の涙がおおかた収まった後、田島は藤堂に「なんかつらいことがあったのか?」と訊ねてみた。何があったのか言いたくないなら無理に言わなくていいけど、言った方がスッキリすることもあるし、なんか解決策を一緒に考えてやれるかもしれないと思った。
「話したくないか?」
藤堂が何も話さないのでこれ以上首を突っ込むべきではないのだろうかと思いながら試しに訊ねてみた。すると藤堂は一瞬口ごもったが、その後おずおずと口を開いた。
「友達に…嫌われたの、たぶん」
「へー、そりゃまたなんで?」
「…私が悪いの。軽率なことしたの。」
『ケーソツ…ケーソツ…』
田島は軽率の意味が思い出せなかった。
「ケーソツってなんだっけ?」
素直に質問したら藤堂がフフッと笑った。田島はさっきまでボロボロに泣いてた藤堂が今自然に笑ったのが嬉しくなって自分も釣られてニッと笑った。
「軽率は、モノをよく考えないで良くないことしちゃったってこと、だよ」
藤堂の分かりやすい説明に思わず感心した。『つまり藤堂は友達に対して悪気はなかったけど良くないことをしちゃって嫌われたかもしれなくて悲しんでるってことか』と田島は理解した。
「じゃーさ、謝ったらいいじゃん」
田島は単純にそう思ったから言ってみた。
『良くないことしちゃったけど悪気なかったんだし謝って仲直りしたらよくね?』
というのが単純な田島の思考だった。しかし、藤堂は「…うーん、謝ってすむかな?」と不安げな表情を浮かべていた。
「すまないの?」
「どうだろう」
田島は
『謝っても許してもらえないってことがあるのか。それじゃ、どうすっかな~』
と考えてみた。
「じゃあさ、もしすまなかったらどうなるんだ?」
「……ハブられて、…友達がいなくなるかもしれない」
藤堂はそういうとまた目に涙を浮かべた。今にも零れ落ちそうだ。でも、そういうことなら、田島の頭の中にはもう解決策が思い付いていた。田島は藤堂の頭をポンッと叩いて励ました。
「だいじょーぶ!もしハブられたらオレらと一緒にいればいいよ!オレらっていうのは、オレと泉と三橋と浜田のことな。オレら藤堂を1人ぼっちにはしないから、何も心配しなくていいぞ!」
藤堂はポカンとした表情をした。そして
「………ホントに?」
と言いながら涙で潤んだ大きな瞳を田島の方に向けた。田島の背後から射している夕陽のせいか藤堂の瞳はキラキラ光って見えた。
「おう、ゲンミツにな!」
田島は藤堂に向かってニッと笑ってみせた。
「オレら今日から友達な!はい、握手!」
差し出した田島の右手を藤堂はおずおずと握り返してきた。藤堂はヘヘッと笑った。
『お、笑顔かわいーじゃん』
藤堂の笑顔を見て田島は内心そう思った。なんだか胸がポカポカした。
「今度篠岡も紹介してやるよ!女子の友達も欲しいだろ?」
「篠岡さんってマネジの子?クラス違うじゃんよー。」
「違くたっていいじゃん。選択制の授業で一緒になることだってあるかもだし。それから篠岡経由でまた友達紹介してもらおーぜ!」
友達がいなくなることが心配なら他に友達を作ればいいんだ。幸いなことに西浦高校は生徒の数はそこそこ多い。田島は親指をグッと立ててサムズアップしてみせた。
「田島君てすごいポジティブだね」
藤堂はクスクスと笑い出した。
田島は『お、また笑った。この案はイケたみたいだ。』とホッと胸をなでおろした。藤堂はもし失敗しても他に友達を沢山作ればいいという代替案ができたことで勇気が出たのか、「まずはその友達に謝ってみる」と言った。
「おう!当たって砕けてこい!」
「いや、できることなら砕けたくないんですケド…。」
「あ、そっか!」
田島と藤堂は顔を見合わせて笑い合った。

そこまで話をしたところで練習を抜け出した田島を探す花井の怒号が聞こえてきて、田島は「やっべ」と口にした。藤堂はもう泣き止んでいて、大丈夫そうだ。田島は藤堂に自分はもう練習に戻らなければいけないと伝えた。
「大事な練習中だったのに邪魔してごめん…。もしかして私のせいで田島君怒られる?」
藤堂は田島に謝った。とても申し訳なさそうな顔をしている。
「怒られるかもだけど、オレが勝手にやったことだから藤堂は気に病む必要ないぞ。それに練習も大事だけど、友達の方が大事だからいんだよ!」
田島は藤堂がこのことを気にしないように声を掛けた。
『実際、ホントにオレが勝手にやったことだし。花井に叱られるのは慣れてるし!』
と田島は思った。藤堂は「うん!ありがとう!田島君は部活頑張ってね!」と明るい顔が戻った。
「おー!じゃーな!」
藤堂の顔が明るくなったのを見て田島は一安心して練習に戻った。もちろん花井には「どこ行ってたんだテメ!」と叱られたけど、テキトーに誤魔化した。
藤堂、友達と無事仲直りできるといいな』
花井に叱られている最中なのに田島は上の空でそんなことを考えていた。

その日の練習が終わって帰り支度中、田島は泉と三橋に声を掛けた。
「オレ、さっき藤堂と友達になった!」
藤堂…って同じクラスの藤堂奈々のこと?」
泉が訊ねる。
「そう、藤堂奈々!」
「そりゃまたなんで?いつの間に?」
泉は唐突な話に驚いている。
「さっき藤堂がグラウンドの側を散歩してるの見つけたから話しかけた。んでちょっと会話したら仲良くなれたから。」
「あーそれでお前さっきいなかったんだ。」
泉は呆れた顔をしている。
「だからお前らも藤堂と友達になれよ!」
「は?」
田島の脈絡のなさについていけない泉。
「レン、お前もだぞ!」
「!!…はいっ!」
ボケッとしてろくに話を聞いてなかった三橋はビクッとなって慌てて返事をした。
藤堂、友達作りたいんだって。」
「友達…?藤堂って別に普通に女子の友達いるだろ?」
「友達は何人いてもいいじゃん。」
田島がニッと笑う。
「そりゃ、まあ、そうか。別に藤堂と友達になるのは全然いいけど。」
「レンもいいよな?」
三橋はブンブンッと首を縦に振る。
「じゃー今度紹介するからよろしくっ!」
三橋と泉の背中をバンッと叩く。
「いって!わかったから叩くなっ!」


受験休み明けの朝、1年9組の教室に藤堂は登校してきた。クラスのある女子グループと顔を合わせた藤堂は固まっていて表情が強張っているのがわかった。あれが例の喧嘩しちゃった友達なのだと田島は察した。そして藤堂が恐怖に支配されてしまっていることもわかった。今にも逃げ出しそうな藤堂の様子を見て田島は声を掛けた。
「あー!藤堂!!はよーっす!」
藤堂は一瞬驚いた顔をしたが「あ…、田島君、おはよ」と挨拶を返してきた。田島は三橋・泉・浜田の3人に向かって藤堂を友達だと紹介した。田島の言葉を聞いた3人が藤堂に挨拶をし、藤堂も挨拶を返す。
「おっし、これでお前らも友達だな!」
田島は無事に藤堂をこの3人に紹介できて満足である。そして田島は怖気づいている藤堂を励ますためダッと藤堂の方へ駆け寄った。田島は両手で藤堂の両肩をガシッと掴む。
藤堂、だいじょーぶだからな。がんばれよ!」
田島は藤堂が無事に友人たちと仲直りできるようにと心から祈っていた。この思いが伝わるようにと目と手に力を込めた。藤堂は恐怖で青ざめていた表情が次第にしっかりとした顔付きに変わっていった。
「うん!」
藤堂も田島に力強く返事をして頷いてみせた。

 その後は、藤堂は勇気を出して友人たちに謝罪をして無事仲直りができたみたいだった。田島は藤堂が無事友達と仲直りできたことを自分のことのように嬉しく思った。それから、友達にちゃんと頭を下げて謝ることができた藤堂のことをえらいと思ったし、カッチョイイとも思った。藤堂はその後"田島君のおかげだ"というような言い方をしたが、そんなことはない。勇気を出したのは藤堂本人だ。あの見てるこっちにまで伝わってくるほどの張り詰めた空気の中でちゃんと自分から友人たちに向かっていったというのはスゴイことだ。あの女子たちが藤堂を許したのだって藤堂の誠実な態度があったからだと田島は思う。
藤堂ってなかなか根性があって、カッチョイイやつだ。』
田島の中の藤堂の評価は上々だった。

「あのさ、田島君、何かお礼させてほしいんだけど、何したらいいかな?」
田島は別にあれが自分のおかげだとは微塵も思っていないが、くれるっつーなら貰えるもんは貰っておく派だ。
「お礼!マジ!?なんかくれんの?どーしよ!何にしよ!焼きそばパンとか!?」
何を貰おうか悩む田島。すると近くの席に座っている泉が口を挟んだ。
「悠、オレたちが一番うれしいお礼は"夏大の応援"だろ。」
ハッとした田島は「おお!そーだった!」と思い出し、藤堂に夏大の試合は応援に来てほしいと頼んだ。すると藤堂は二つ返事で頷いた。
「ってか夏以外にも試合ってあるんでしょ?私、行けるやつは全部応援行くよ!」
藤堂は夏大以外の試合も全部応援に来てくれるらしい。
「全部来るの!?スゲーな」
田島がガハハッと笑った。そんだけ毎回応援に来てくれる女子がいたらそらやっぱ嬉しいもんだ。ここで浜田が登場してチアガールやらないかと誘う。田島は『そりゃいいや!』と思った。今西浦のチアガールは2人しかいないし、やっぱチアは多ければ多いほどいい。それに…藤堂は結構かわいい容姿をしてる。チアの衣装はよく似合うだろうと思った。
「ええーっ、それはムリムリ!私、運動神経悪いからダンスとかできないって!」
しかし、藤堂は腕をブンブン振って拒否した。内心残念に思う田島。
「そーなの?じゃー藤堂って何が得意?」
「えー?身体動かすよりかは頭使う方が得意かなー」
「悠、しらねーの?藤堂は定期試験の総合順位毎回トップ10入りするレベルで頭いいぞ?」
泉がそう言った。田島は驚いた。西浦高校はそこそこの進学校な上に学生数も多い。その中でトップ10はかなりスゴイことだ!そこで浜田が今後は藤堂に勉強を教えてもらったらどうかと提案してきた。
「えっと、私、人に教えたことないからうまくできるかわからないよ?」
自信がなさそうな藤堂
「できるよ!藤堂なら!」
田島はニカッと笑ってみせた。
「なーんで田島君がそんな自信満々なのさ。まあ、それでお礼になるなら全然いいよ。」
「やったぜー!交渉成立!」
学年トップ10の成績を誇る藤堂に勉強を教えてもらえるなんて超ラッキーだ。これで赤点の心配もなくなりそうだ。

「あ、もちろん応援も行くから試合の日教えてよ」
藤堂はそう言った。勉強も教えてくれる上に試合の応援も来てくれる気らしい。
『これが一石二鳥っていうやつ!?』と田島は思った。
「浜田、試合の日、藤堂に連携してやって!だってチアガールやるもんな~?」
藤堂のチアガールが諦めきれなくてひやかしてみる。
「チアガールはやらないっつの!」
藤堂は「もーっ!」と怒った。『お、怒ってる顔、初めて見た。これはこれでかわいらしいじゃん!』と田島は思った。
「お前らもうかなり仲良さげじゃん。この短期間で一体何があったのさ?何きっかけ?」
浜田が訊ねてきた。戸惑う藤堂
『そりゃ泣いてたこととかはあんま人に言いたくないよな』と田島は考えた。
「それはオレと藤堂だけの秘密だよなー?」
田島は藤堂にウインクしてみせる。
「うん、そう、秘密!田島君、絶対に言っちゃだめだからね!」
藤堂は田島に念押しする。田島は「言わない、言わない」とカラッと笑った。

藤堂と話すの、結構楽しいかも、だ』
友達と仲違いをしたことは藤堂にとってはツラいことだっただろうけれど、田島は藤堂と友達になれたことをとても嬉しく思った。

<END>