ソフのたまねぎ ※本サイトは各作品のネタバレを含みます

おおきく振りかぶって 創作 <ある日の7組の会話>


※注意:コミックス19〜21巻のネタがあります※

※注意:若干BL要素あり?阿部→三橋っぽいかも※

※注意:下ネタあり※


ある日の7組の会話


 ある日の7組の昼休み、水谷の机の周りに集まる阿部と花井。各々のお弁当を机に広げて当たり前に一緒にお昼を食べ始める。夏大の美丞大狭山戦で膝を怪我した阿部はモリモリ食ってよく寝てるおかげで怪我の経過はかなりいいらしく、一応大事をとって新人戦は休んでいたが、次の秋大からはもう試合に出られるらしい。水谷は確かに最近の阿部は昼に食ってる弁当の箱も前よりデカくなったし、それに比例して身体もなんだかデカくなったようだと思った。
 捕手として試合に出れない間もチームのブレイン的存在である阿部は試合相手の分析をしたり、代理捕手の田島に配給について指導したりとベンチにいても大活躍だった。オレなんか西広にレギュラー取られるかもしれなくてヒヤヒヤしてるのに、阿部は膝さえ戻ればレギュラー復帰確実だ。水谷は自分のレベルの低さがちょっと恥ずかしくなる。
 もうすぐ秋大地区予選の抽選会だ。果たして次の試合相手はどこになるかな?どこと当たりたい?そんな話を阿部は花井と話している。阿部隆也という男は口を開けば野球の話ばかりだ。
 そういえば学校行事としてはもうすぐ文化祭が開催される。7組はグリーンティーカフェを開くことになっている。要するに和風カフェで、お茶とお団子を出す予定だ。教室を見渡せば昼休みにも文化祭の準備をしているクラスメイトがいる。女子は浴衣にエプロンを着ることになっていて、衣装やカチューシャ等を作っている。といってもイチから作るのではなく、買ってきたものに手を加えてアレンジするだけなのだが、それでも楽しそうにしている女子たちを水谷は可愛らしいなと思いながら眺める。
 これだけクラス中が文化祭に向けて動いている中、オレら野球部は全く文化祭の手伝いをしていない。皆、日々の練習が最優先だし、特に阿部は野球以外の分野はまるで興味を持たない情緒のない男だ。ふと思い出したが8月の甲子園観戦旅行中に聞いた話だと阿部は初恋もまだらしい。こんだけ野球のことしか頭にない阿部が誰か女子をスキになるところは想像できないが阿部は小学校も中学校も共学だったはずだし、高1にもなって現実の女の子を一度もスキになったことがないって…水谷からすると考えられないことだ。ここでふと素朴な疑問が湧き上がる水谷。

水谷「阿部ってさ女に興味あんの?」
突然振られた脈絡のない話題に驚いた表情の阿部。
阿部「は?いきなり何の話?」
水谷「いやいや、そのまんまの意味でしょ。女に興味あるのって?」
怪訝な顔で黙って水谷を見る阿部。花井はメシを食いながら黙って二人の会話を聞いてる。
水谷「いやだって初恋すらもまだなんでしょ?それって生身の女の子をスキになったことないってことじゃん?小中高と共学で好きな女子の一人もできないって、ちょっと不思議だなってオレは思っちゃうわけよ。なァ花井?花井はもう初恋経験済みだもんな?」
花井「…おう」
初恋の記憶を思い出したのか、ちょっと恥ずかしそうな表情の花井。
阿部「恋愛したことないからなに。それが何か悪いわけ?」
不愛想で仏頂面の阿部。いや。この男はこの顔が標準なのだ。
水谷「いや別に悪くはないけどさ…阿部ってクラスの女の子とかをかわいいと思ったりもしないの?」
阿部「………」
考え込む阿部。無言を貫いて答えない。思わないって意味なのか、思うけど口にしたくないってことなのか…おそらく前者かなと水谷は考える。

ここで水谷が小声になる。
水谷「じゃあさ、阿部ってオナニーのネタは女なの?」
直接的な表現にちょっとバツが悪そうな顔をする阿部。
阿部「ったりめーだろ。そーじゃなかったら何をネタにすると思ってんだよ」
水谷「へ―そっか。じゃあ一応女に興味はあるんだ…。何をネタにするわけ?クラスの女子で妄想とか…あ、阿部は妄想はしないんだっけ。じゃあ何でヌくの?」
阿部「別に、ふつーにさ、例えば雑誌についてきたグラドルの水着写真とかだよ。」
水谷「へー!なんていうグラドルがスキなの?」
阿部「別に特別誰がスキとかはねーよ」
水谷「じゃあどういう感じの見た目がスキなの?」
阿部「えー…見た目?肌が白い方がスキだけど、他に特にどういうっていうのはねーかな」
水谷「うっわ、やっぱあんま女に興味なさそーだな。ヌけりゃなんでもいいわけw」
わっはっはと笑う水谷。ちょっとイラっとしたのか阿部は「つか水谷ウッゼー!」と文句を言う。花井は、一応小声とはいえ女子のいるクラス内でこんな具体的な猥談をしている2人にヒヤヒヤしている。

阿部「まったく、お前、オレをなんだと思ってるわけ!?」
イラついてきたのか少し声がデカくなる阿部。
水谷「いや、ワリ―。なんかさ、あまりに阿部が女子に興味なさそうだから実はそっち系なんじゃないかとふと疑問に思ってね」
阿部「そっち系?ってなに?」
水谷「だーかーらー、恋愛対象が異性じゃなくて同性なんじゃないかって思ったんだよ。平たく言うとホモってことね。」
阿部「はああ!?」
デカい声で怒鳴る阿部の表情は青ざめている。怒鳴るといっても驚いて声がデカくなってしまっただけで阿部はは怒鳴ったつもりはない。阿部隆也とはそういう奴だ。水谷も、出会ったばかりの頃は阿部の声のデカさにちょっとビビったりしていたが、さすがにもう慣れてきた。
水谷「いやだってさー、女子には微塵も興味なさそうだし、口を開けば野球の話ばかりじゃん。…んで阿部が口にするのって三橋のことばっかだろ。お前いつも三橋のことばっか気にしてんじゃん?練習中とか移動中もよく三橋を見つめるし常に三橋の後ろをキープしてるし、さっきも三橋に話があるつって9組に行ってたし。三橋に夢中〜って感じだよね。」
阿部「捕手が投手を気にかけるのは当たり前だろ!!それがなんでホモってことになんだよ!!」
水谷「いや…そりゃそうなんだけど、さ、バッテリーだからということを考慮にいれても阿部はだいぶ三橋に…、なんつーの、ゾッコンすぎる?ような気がしなくもないぞ。オレ中学も野球やってたけど中学時代のチームのバッテリーここまでベタベタじゃなかったぞ」
阿部「………え、そうか?」
阿部は花井の方を向いて意見を求める。
花井「いやー別にホモだとは思わねぇけど。ただ、確かに"単にバッテリーだから投手を気にかけてる"にしてはだいぶ過保護な感じはあるかもなァ。でもそりゃ相手が三橋だからだろ。あいつポケーッとしてるからなァ、なんか色んな事ちゃんとやれてなさそうで近くに居たらつい世話焼きたくなるよなァ。」
阿部「そーなんだよ!あいつ投手のクセに自覚が足りねえっていうか、オレら10人しかいないチームで公式戦でまともに投手やれんのはあいつしかいないのに一塁にスライディングしたり、コケて派手に転がったり、デッドボールくらったり、打席で覆いかぶさったり…イロイロ危ねえプレイするからヒヤヒヤすんだよ。」
その時のことを思い出しているのか青ざめながらワナワナと震える阿部。
水谷「あーまーそれは確かにあるかもねェ。三橋が怪我した時点でオレたち負けたも同然だもんな」
阿部「そーいうこった!だからオレは別にホモじゃねえ!」
水谷「はいはい、わかりましたよ。」
水谷はフニャァとした緩い表情。

花井「でもよォ実際のところ阿部は三橋のことかなり気に入ってるよな。単にチームに投手が三橋しかいないからとか三橋がポケーッとしてるからっていうのが、過保護の理由じゃねえだろ。ホモだと言う気はねえけど、"三橋にゾッコン"って表現は割と間違ってないよな」
水谷「だろォ!?そう思うよな」
阿部「………」
阿部は若干頬を赤くしている。
水谷「オレさ、三星との練習試合でモモカンに"三橋が欲しいか?"って聞かれた時、阿部が間髪入れずに"欲しい!"って答えたのちょっとビックリした」
花井「あーオレも!『阿部はいつの間に三橋のことそんなに気に入ったんだ?』って思った。」
阿部「………」
あの時のことを思い出したのかまだ頬が赤く、照れた表情の阿部。
阿部「…いや、まあ、そりゃ三橋のことは気に入ってるよ。9分割のコントロールなんてプロでもできないし、そこにあの変化球の多さとクセ球の"まっすぐ"。捕手やってる身としては色んな配給ができて面白いんだよ。」
水谷「ふーん。そうなのかァ」
花井「阿部は配給ヲタクだからな…。オレも控えの捕手やったけど正直オレには向いてねーと思ったぞ。9分割のストライムゾーンに、球種は3種類の変化球とまっすぐって事は9×4=36通りだぞ。その上2分割の速いまっすぐもあるから。全部で38通りだろ?お前も田島もよく使いこなせるよなァ。オレは正直三橋の配給考えるのはややこしくてメンドクサイって感じちまったぞ」
阿部「花井は捕手をわかってねえな」
阿部がニヤリと笑って言う。花井は「なんだよそれ…」と苦笑している。
少し間をおいてから阿部は真剣な表情で語り始める。
阿部「……三橋ってさ、スゲーがんばってんだよ。今更オレが言わなくてもお前らもわかってるとは思うけど、9分割のコントロールと3種類の変化球を身に着けるのはそう簡単にできることじゃねェ。あいつが血のにじむような努力をして手に入れたものなんだよ。その努力をちゃんと活かしてやりてェって思うんだ。あんだけがんばってる三橋を勝たせてやりてぇんだよ。」
阿部が三橋への思いの丈を語る。花井と水谷も真剣な表情で阿部の言葉に耳を傾ける。
花井「そうだな、」
水谷「うん、そうだ、三橋がんばってるもんな。エースがあんだけ努力してんだから、オレらだってがんばらないとな。」
花井「阿部、お前もう怪我治ったんだろ?秋大からは全員正規のポジションで試合できるかんな!新人戦は全勝した!この調子で秋大も全部勝つぞ!」
阿部&水谷「おおお!!」

数日後には秋大地区予選の抽選会だ。さて次はどこと当たるのか。どこと当たってもオレたちが勝つぞ。


<END>